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サイコー君のくま父さん

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『大泥棒』 その11

  7 再会

 ――大きな屋敷。
 市長を辞めてからは、わたしはこの広大な土地で暮らすことになった。
 建物はもちろん、庭もとてつもなく広い。土地も景色も全てわたしのものだ。
 ここらは大貴族や富裕なブルジョワが建てた、広壮な邸宅が建ち並ぶ界隈だ。
 朝になると、木立ちの中では雀が可愛い鳴き声を立てている。わたしは毎朝、その声で起きるのだ。すると素晴らしい目覚めになる。最高の一日になるのだ。
 誰もいない静かな庭。全てが落ち着いている。ここはまるで天国のようだった。
 天下を治めたものだけが味わえる充実感と達成感。もう、あせりも不安も心配も何もない。あとは死ぬだけだった。
 気がつくと、わたしは七十七歳になっていた。体も歳相応に衰弱している。
 ……もう満足だ。やりたいことは全てした。
 社会にも幾分は貢献したつもりだ。今では町に仕事が溢れている。やる気さえあれば誰でも働くことができる町になった。国全体が良い方向に傾き始めた。
 飢えや搾取、貧苦のための売春や、失業による悲惨も、やがてはなくなるだろう。
 さて、そろそろ死ぬ準備をしよう。
 ある日、わたしは雇っている一人のメイドにこう言った。
「おい……遺書を書く。紙とペンを持ってくれ」
「はい」
「わたしの財産についてだが……かわいそうな孤児のために全て寄付することにするよ。君らメイドや使用人にはわずかばかりだが、分け前は渡すつもりだ。それでいいかね?」
「……よろしいかと」
「じゃあ、そうするよ。わたしも疲れた。言ってみればわたしが手に入れた金は国が市民から巻きあげた金だ。……それを元に返すだけだ。わたしも捨て子だった。幼い頃から親がいないというのは辛いものだろう」
 遺書を書き終えて、しばらくして訪問客がやって来た。
 訪問客には心当たりがあった。わたしが先日、ここに来てもらうように頼んでおいた人物だ。
「モンキ様、お客様がお見えになりましたが」
「……その者はジャックと名乗っていたか?」
「はい、そう申されております」
「通してくれ」
 ジャックか、会うのは久しぶりだ。
 最後に会ってもう五十年か。……歳月が過ぎるのは早いものだ。
 
 ――背の高い男が部屋に入ってきた。
 ふふ、変わらないな、この男は。仙人……ジャック。
 顔も服装も雰囲気も何も変わっていない。
 若々しい肉体。体力がベストな状態だ。仙人はそれを維持できる。全く、羨ましい。
 ……見事だよ、ジャック。力がみなぎっているのがよくわかる。強靭でしなやかな肉体は美しくも感じるものだ。
「……久しぶりだな、モンキ。なかなか立派なところに住んでいるじゃないか?」
「ジャック……君は老けないな。前に会ったときと同じ顔をしている。今でも生命力に満ち溢れている」
「そうか? お前は老けたようだな」
「ふふっ、当たり前だ。わたしは君と違って、ただの人間だからな。歳を重ねたら自然に老ける。それが自然のルールだ。……ほら、返すよ。君のセント・ストーンだ」
 わたしは杖をついて部屋の金庫があるところまで歩いた。
 ずっと大切に保管していたセント・ストーン。それをようやく持ち主に返すことができる。
 この世のものとは思えないような、力強い輝き。何十年たってもそれは変わらない。
 世話になったものだ。この石一つでわたしの人生は大きく変わった。ありがとう、セント・ストーン……

「……確かに受け取った。約束だったからな。どうだった? これを持って……お前の言う天下は取れたのか」
「ああ、君には礼を言わないとな。この石のおかげでわたしはこの町の市長になることができたし、金もこのように余るほどある。わたしは金を運用することには長けていたからな。たくさんの工場を作り、労働者を増やした。これで金に困る市民は大幅に減っただろう。労働者に有利な法律もたくさん作った。もう、わたしのような孤児はこれから少なくなるはずだ。世界は変わったよ。それも元はといえば君のおかげだ、ジャック」
「お前は前からズル賢かったからな。上手いこと石を利用できたようじゃないか」
「まあ、そう言うな。わたしも必死に生きようとしたんだ。……だが、もう思い残すことはない。君にこの石を渡したことで、もうわたしの生きる意味はなくなった。おそらくもうすぐ死ぬだろう」
「何だ、病気か?」
「いや、病気ではない。わたしももう歳だ。これ以上生きたいとも思わん。気力のなくなった老人は死ぬ。そう相場は決まっているものだ」
「なるほど。ではもう会うこともないだろう。安らかに眠れ、変化のモンキよ」
「先に死んであの世で待っている。また、そのときゆっくり話そう」
「俺の寿命は俺にもわからない。何年、何百年待たせるか……まあ、気長に待っていろ」

 ……さて、返すものも返した。これで本当にわたしの役目は終わったな。
 うっ、痛む……足が、それに腰も。
 ちょっと歩いただけでこの疲労だ。体中どこも相当ガタがきている。
 やれやれ、すっかり老いぼれじいさんだ。さっさと引退してよかったよ。
 わたしはベッドで横になろうと思った。
 しかし、そのとき!
 突然、ものすごい衝撃がわたしの頭にぶつかった。
 例えるなら、姿の見えない何者かが全力で殴りかかってきたようだった。
「がっ……!」
 ……いかん。首が……
 わたしは大きく後ろに吹っ飛んでしまった。
 ……動けない。首も手も足もだ。やられてしまった。動くのはまぶただけだ。
 それにしても誰だ? 年老いたわたしなんぞ、ほうっておけばもうじき死んだというのに。
 なんという最期! やはりセント・ストーンという非人道的なものなどを使った罰なのか。
 死んでゆく前に、誰がわたしにこんなことをしたのか顔を見てやろうと思った。
 そしてわたしがそこで見た光景があまりにもあり得ない……何度も何度も自分の目を疑った。
 死んだ人間がそこに立っているのだから。
 その人間はわたしが一度この手で殺した人物だった。

「……ははっ。面白いように吹っ飛んだな、変化のモンキ♪ ……よう、お前らいつからそんなに仲良しになったんだ? ジャック、お前に友達なんて一人もいないと思っていたがな。いいコンビじゃないか。こいつの変化の能力、厄介だったぜ。まさかお前の息がかかっていたとはな」

 う……、くそ。なぜだ?
 なぜ奴は生きている?
 いや、それよりももっと注目すべきところは奴の顔だ。
 なぜ老けていない? なぜ五十年前の顔をしているのだ?
 これじゃあ、まるでジャックと同じじゃないか。
 ジャックのような仙人でもない限り……仙人?
 仙人か……待てよ。まさか……
「……静かになったな。じゃあ、死んだか。……衰えたねぇ。昔は一度お前と手合わせしたが、そのときはまんまと騙し討ちに遭ってしまった。変化の力を戦闘に応用するとは考えたもんだ。おかげで数十分、気を失ったよ」

 こいつ……仙人だったのか。
 まさか……そんな……。
 ということは、おそらくジェダもそのことに気づいていなかっただろう。灯台下暗しとはまさにこのことだ。
 貴様は友人であるジェダをも欺いたのだな。
 ……信じられん。全然気がつかなかった。
 ああ、もう……意識……が……。
 わたしはこれで、終わりなのか?

 珍品屋、ルーシー……。