サイコー君のくま父さん

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『神の子』 その12

  4 天使たちが来る

 この日、俺は研究所に泊まった。千依も研究所に泊まる。茜さんも。
 亀になった神は俺が管理していた。今はアクリル製の飼育ケースに入れている。
「……マーラの奴、ちょっとおかしかったな」
 もう神の恐怖から脅かされることはなくなった。復讐も果たした。唯一引っかかるのはあのマーラの態度。もしかして俺のことを好いていたのか?
 俺はあいつを一度もそういう目で見たことはなかった。だからマーラも俺のことをひどくスパルタな上司としか見ていないと思っていた。でも本当は……。
 いや、考えすぎだろう。年齢も倍近く離れている。
 寝よう。明日になれば彼女も元に戻っているだろう。一度にいろいろなことがあったから情緒が少し不安定になっているだけだ。
 久しぶりによく眠れそうだった。明日からは千依と家族四人で暮らそうか。母さんはどれほど喜ぶだろう。
 茜さんとはまだ始まったばかりだ。過ぎてしまった時間をゆっくりと埋めていけばいい。
 やっと俺の人生の針も進む。ずっと止まっていた時間の針。それが十六年もの歳月がたってようやく進み始めるのだ。

 翌日。朝八時になる前にケータイが鳴った。起きる時間といえば確かにそうなのだが、今日ぐらいはもう少し寝ておきたかった。
 電話は誰からだろう? 着信先を見ると父からだった。
「……おはよう。早いね。なんだい?」
「早く応接間に来い! とんでもないことが起こっている。とにかく早く来るんだっ!」
「父さん? ……あぁ、わかった。すぐに行く」
 どうしたんだろう? とんでもないこと? すぐに来い? まったく想像がつかない。でも緊急だ。
 素早く白衣を着て応接間に向かう。……おっと、神をこのまま部屋に置いていたらまずい。俺は飼育ケースを脇に抱えた。しかし飼育ケースに入っている亀を神と呼ぶのもバカみたいだな。
 応接間に俺を呼んだということはたぶん誰か訪問者が来たんだろう。研究内容だったら研究室に行けばいいことだ。
 応接間の入り口正面に着いた。部屋に入ると父、千依、茜さん、マーラ……それと見知らぬ女性が六人いた。それぞれが真っ白な服を着ている。
 ドレスか? 見慣れない服だ。頭の上には輪っからしきものが見える。……これってまさか。俺の中になんとも言えぬ不安が生まれた。
 皆は一つのテーブルを囲んでソファに腰掛けていた。
「広造っ、待っていたぞ」
 父は落ち着きがないように見えた。
「初めまして、宮崎広造様。突然の来訪、誠に申し訳ありません」
 代表者らしき者が言った。西洋人? 彼女たちは見事な金髪に青い目をしていた。見た目とは裏腹に流暢な日本語だった。
「いえ、別に……どのようなご用件で?」
「まずは先に非礼をお詫びいたします。神があなた方に大変ご無礼なことをしました」
 神。天界の……だとするとやはり。
「あなた方は? どちらから来たのです?」
「はい、お察しの通り……わたしたちは天使です。神の助手をするような存在、と思っていただければけっこうです」
 ここにいる全員が天使か。……どうする? まずは情報収集だ。こいつらがなぜここにやってきたのか。神の復讐? そうなれば当然、どこかのタイミングで攻撃を仕掛けてくるはず。だが待てよ。もしそうだとしたらなぜこうして俺たちにこんな形で現れる? 復讐なら不意打ちがもっとも成功率が高い。わざわざ名乗る必要なんてないいんだ。
「昨日、神が突然天界からいなくなりました。そこで調べてみると人間界に行ったことがわかったのです。さらに疑問に思った者が詳しく調べてみました。すると、とんでもないことがわかったのです。あなた方にはもう説明する必要もないでしょう。十六年前のこと。あれは神、単独の行為。わたしどもはそのことを昨日まで一切知りませんでした。本当に申し訳ありませんでした」
 六人の天使たちは立ち上がり、俺たちに頭を下げた。
 天使……か。まさかこんな形で会うなんてな。急すぎる。しかし考えられなくもない。神が天界からいなくなったのだ。問題はこの天使たちが俺たちを恨んでいないかということ。
 身内がいなくなった。その原因が俺たちであることは明白だった。
 普通なら俺たちを殺そうとしにきたのではないかと疑うのが当然。だが、彼女たちは謝罪をしに来たのだ。
 これをどう捉えればいい? 素直に喜べばいいのか?
 神の十六年前の行動。それによって俺たち周りの人間が皆不幸になった。死んだ者もいる。
 まだわからないことが多すぎた。もっと話を聞いて質問もしなければほとんどなにもわからない。
「……頭を上げて下さい。別にあなたたちが神をそそのかしたわけでもないのでしょう? だったらあなたたちに責任はありません。皆、神が悪いのですから」
 本当にただ謝罪に来ただけなのか? ……違うな。これからたぶん本題に入るのだろう。狙いはなんだ?
 一応、警戒はしておいたほうがいい。そのことに気づいたマーラは俺をチラチラと見ていた。彼女も感じたのだろう、この天使と名乗る者たちの異様さに。
 俺は簡単なジェスチャーでマーラに臨戦態勢に入っておくように合図をした。
 天界にいる者とまともに闘えるのはマーラだけだ。もはや霊体でなくなった千依も茜さんも戦力にならない。当然、俺や父も……。
「実は二、三お聞きしたいことがあるのですが」
 ――きたか。なにを言うつもりだ?
「神は今、どちらへ?」
「マーラっ!!」
 俺がそう叫ぶとマーラはソファから立ち上がり、後ろへ距離を取った。そして詠唱を始める。
「待って下さい! なにか勘違いされていませんか?」
「勘違いだと?」
 天使たちはざわざわと慌てる。……白々しい。神をそう簡単に渡せるかよ。
「神がどこにいるのか聞いたな? 神を助けに来たのだろう? こうやって下手に出ていれば俺たちに警戒されずに済むからな。あんたたちは神と違って格好やマナーもまともだ。うっかり信用してしまいそうだったぜ」
「警戒されるのは当たり前です。それなりのことを神はあなたたちにしたのですから。ですがわたしたちが神を助けに来たなど、そんなことは絶対にありません! それだけは信じていただきたい。……いえ、実のところあなた方が知っているアレは、もう神ではないのです」
「なに? どういうことだ?」
 話には続きがあるようだ。俺の持っているこいつがもう神ではない? 一応聞いておく価値はあるかもしれないな。
 俺は念のため、マーラに詠唱を完了するように伝える。こいつらが少しでも怪しい行動を取ったらすぐにでもそいつを発動するようにも伝えた。もう誰も失いたくはないからな。
「それにしてもこの席になんで千依や茜さんが……?」
「彼女たちにも非常にご迷惑をおかけしました。ですからここに来ていただいてもらったのです」
「彼女たちはもうあんたたちとは関わりたくないと思っている。このままそっとしておいてもらえないか?」
「ですから話には続きが……」
 相手は六人。天使一人一人の力量まではわからないが、いざとなったらマーラ一人でどうこうできるものじゃない。マーラ以外は足手まとい。人質みたいなもんだ。
 この状況、とても危険だ! できればすぐにでもこの場から離れたい。
 しかもこの場所は狭い。訓練室と違って間合いの調節が難しい。もし闘うことになれば行動がかなり制限されてしまう。状況が不利すぎてパニックを起こしそうだ。
「あんたたちの話は聞く。だが聞く場所はここではない」
「……どういう意味か、わかりかねますが」
「ここでは危険が多すぎる。もっと広いところがいい。いっそのこと部屋は別々にしよう。ケータイは持っているか? なければ各部屋には固定電話が設置されている。電話で話そう。そっちのほうがはるかに安心で安全だ」
「やはりわたしたちのことをお疑いなのですね?」
「当たり前だ! ふざけるなよ。天使だ? そう言えばなんでも許されると思っているのかよ? 俺は一生忘れない。お前ら天界の者が俺たちにした仕打ち。忘れるものか。……動くなよ。動いたらこの亀、元は神だ。こいつを殺す」
 ここで天使たちの様子を観察する。俺の取った行動でこいつらはどう反応するか? 化けの皮が剥がれて戦闘に持ち込むか? それともなにか別な反応を見せるだろうか。
 こんな小さい亀の頭など、少し指に力を入れるだけで潰すことができる。
「……なるほど。その亀が神なのですね。わかりました、いいでしょう。では殺しなさい」
 意外な反応。本当に殺してもいいのか?
「強がりか? 本当に殺すぞ?」
「けっこうですよ。それに対してわたしどもはなにもしません。ただ、じっと見ているだけです」
「……いいだろう、続きを話せ」
 とりあえず話だけは最後まで聞いてやるか。判断するのはそれからだ。
「現在、天界には神がいません。このような状態が長く続くことは好ましくないのです。すると次の神は誰になるか? ……わたしたちはマーラ様を次期、神として推薦したいのです」
「マーラが? バカな!」
「マーラ様は神の子です。次の神の候補としては妥当かと」
「待て、マーラはまだ十六歳だ。そんな彼女が神になる? バカな話はよせ」
「あなたのほうこそ、もっと真剣に話を聞いて下さい。マーラ様が次の神になるのはご不満ですか? それはなぜ? 年齢? だとすると、どれだけ歳を重ねれば神に相応しいと思われるのですか? わたしたちはその日が来るまで待てません。できることなら今日にでもマーラ様に神になってもらいたいのです」
「……それ、本当に言っているのか?」
「こんな大事なことを冗談で言えると思いますか?」
 話が変な方向に進んでしまった。マーラが神だと? ふざけるな、だ。そんなこと言われてすぐに、「はい、そうですか」といくわけがないだろう。マーラを天界には行かせない。
「断る。マーラは人間界で普通の人間として生きるべきだ」
「そうなるとマーラ様は今後、人間界でお暮らしになる。そう仰りたいのですね?」
「当たり前だ。あんたたちのところには連れて行かせない」
「では質問を変えましょう。茜様はマーラ様と仲良くお暮らしになることが本当にできるとお思いですか?」
 そこで茜さんに振るのか?
 茜さん、今日は一言も言葉を口にしていない。彼女には休息が必要なんだ。今はマーラが神になるかどうかなんて考えるときじゃない。
「わたし、大丈夫ですよ。マーラとは仲良く暮らしていけます。わたしはマーラの母親ですから」
「ですが、あなたと神の間には愛がなかった。それでもマーラ様と仲良くできると? それは本当ですか? いつの日か思い出しませんか? マーラ様の父親にあなたが乱暴されたことを」
「いい加減にしろっ!」
 ――ダンッ!!
 俺はテーブルを思いきり叩いた。
 ……こいつ、なんでそんなことを言うんだ。茜さんが忘れようとしているのに。
「いつかは思い出すのです。そのとき、茜様。あなたは本当にマーラ様が自分の娘だと言えますか? マーラ様を愛する自信はありますか?」
「……あります。ありますとも」
 マーラは俺に言われたことを守り、ずっと警戒態勢を取っているが、その目からは涙がこぼれる。
「なるほど。母親である茜様は反対。そして育ての親である広造様も反対……そうですね?」
「確認するまでもないだろう。皆、反対だ」
「そうですか。では最後に、マーラ様本人にも確認を取ってもらいましょう。あなたは天界に行って神になる気はありませんか?」
 本人に直接?
 バカな。これだけ俺と茜さんが反対しているんだ。マーラが天界に行くなどなんのメリットがある? 当然、答えはノーだ。
「…………」
「マーラ様? 黙っていてはわかりませんよ?」
「マーラはお前らと口を交わしたくもないのだろう。とっとと引き払ったほうがよさそうだな」
「――わたしは」
「マーラ様。ちょっとよろしいでしょうか……」
 一人の天使が立ち上がる。俺はマーラがそのことに気づいてすらいないように見えた。警戒を解くなとあれほど言ったのに!
「マーラっ! 警戒っ!!」
 俺がそう言うとマーラは素早く構えた。……完全に油断してやがる。
 次もまたこんな調子だと、ぶん殴ってやろう。平和ボケするにはまだ早すぎだ。
「あら、怖いお人」
「天使よ……もう答えはわかっただろう。早々に去れ」
「わかりました。では最後にもう一言だけ発言してもよろしいですか? 広造様」
「それさえ言えば帰るのか? じゃあさっさと言って帰れ」
「マーラ様。わたしたちについて来て下さると、あなたにはたくさんのメリットがあるんですよ。例えば広造様を……」
「えっ、どういうこと?」
 俺を……どういうことだ? しかしなんかヤバイ。俺はマーラのことを信じているが、こいつら天使たちはなにをしてくるかわからない。精神を乗っ取ったり、頭を混乱させたりすることだって可能かもしれない。長居は禁物。会話することさえリスキーだ。
「もういいだろ? 終わったぞ。お前は一言、言ったんだ。約束を守れ。天使なんだろ」
 そのとき、話している天使とは別の天使の目が大きく見開いた。……なにかした。そのなにかはわからないが。
 ふと横を見るとマーラの様子が明らかにおかしかった。マーラは瞬きすらしていない。目の焦点があっていない。目を開けたまま気絶しているようだった。
「マーラっ! ……貴様ッッ??」
 どう見ても戦闘ができる状態ではない。ここで天使たちが俺たちを襲ったら一巻の終わりだ。
「さあ、マーラ様。ご返事は?」
 意外にも天使は俺のことなど気にもせず、薄っすら笑みを浮かべて囁いた。
「えっ……? あっ……」
 マーラに意識が戻った。
 ……まさか。ここで俺たちを攻撃するには絶好のチャンスだったじゃないか。それを……なぜ? 天使が何を考えているのか俺にはさっぱりわからない。
「その話、お受けします」
 え……ウソだろ? そんなの、ウソだと言ってくれよ!
「マー……ラ?」
「プロフェッサー……ごめんなさい。お母さん、ごめんなさい!」
 マーラが俺たちに頭を下げる。俺たちは目を丸くし、自分たちが聞いた言葉を疑った。
 ……なぜ、なんだ? なんでこんな道を選択する? 俺たちではなく、なぜそいつらを選ぶ?
「――ではそういうわけで。わたしたちはマーラ様を天界へお連れします」
 天使たちが立ち上がる。ウソだろ、本当に連れていくつもりか? なんでマーラもそいつらと一緒に行く素振りを見せている?
 ……そうか。そうやって天使たちを油断させ、一気に召喚術で仕留めるつもりか。ということは今までのことはすべてマーラの芝居。
 ……やるじゃないか。成長したな、マーラ。欺くにはまずを味方からということか。
 しかしいくらなんでも長すぎる。天使たちは隙だらけだ。狙うなら今だ! 
「……マーラ」
「はい? プロフェッサー」
「もういいだろ?」
「……は?」
「そろそろいいだろと言っている。相手は油断しているぞ、さぁ」
 もう芝居はしなくていい。さっさとこいつらを蹴散らせてくれ。くっく、天使たちはまだ騙されていることに気づいていない。どんな顔をするだろう? マーラは策士だ。俺の指示など受けずに自ら作戦を立てる。終わりだ、天使たち。マーラにやられるか、それともさっさと天界とやらに戻るか選べ。それぐらいの情けはあるぞ。さあ、マーラ。なにをしている。今だ、行くんだ。マーラ!
「あらあら、かわいそうな広造様。少し頭がおかしくなったのではありませんか?」
「なに? 本当にそう思っているのか? なら、お笑いだ。マーラは今、芝居をしているんだ。なんのためか? それはお前らを倒すためだ。俺が育てたマーラを甘く見るなよ。お前らを油断させて……油断……ゆだん?」
 マーラが悲しそうに俺を見つめる。
 ……なんだ、その目は。その哀れむような目。もしかして本当に天界に行くのか。
「皆様、今までありがとうございました。わたしは天界に行き、神になります」
 マーラの口から信じられないような言葉が出た。俺も、俺以外の人も……皆が驚いている。信じられる状況ではなかった。あの笑顔、あの喜び! お前はこれから人間界で暮らすんじゃなかったのかよ。高校生になる。恋人もできるかもしれない。楽しいことなんてたくさんある! 闘うことしか知らなかったお前には想像することもできないだろう。
 せっかく仲良く暮らしていけると思ったのに。やっとこれからの人生だというのに。マーラはその希望をすべて捨てる気なのか? なぜ俺たちの気持ちが伝わらない!
「マーラ……どうしても行くのか? 芝居や演技なんかじゃなく……本気で?」
「はい。すみません、プロフェッサー」
「わかったよ……じゃあな、最後に答えていけ。お前はなにが不満でここから出ていく? 言えっ、最後の命令だ!」
「それは……わたしが望む道だからです。ここに残っていてはわたしの本当の願いは叶いません」
「お前の本当の願いとはなんだ? 母親と一緒に暮らすことじゃないのか? ふざけるなるよ。茜さん……お前のお母さんを捨てるのか?」
「それ以上は……お願いですから言わないで下さい」
「なんだって?」
「――さあ、もういいでしょう。別れるのは寂しいかと思いますが、いい加減にマーラ様を離してあげて下さい。いつまでもあなたの言うことを聞く人形だと思わないで下さいね」 
 天使が俺たちの会話を遮る。……元はと言えば、こいつらが現れなければこんなことにはならなかった。
「行きましょう、マーラ様。では皆様、さようなら」
 天使たちとマーラが光る! 点滅している。眩しくて目が開けらない。
 本当に行ってしまうのか? 俺たちを残して……。

 ――次に目を開けたとき、天使たちとマーラは部屋にいなかった。
「本当に行ってしまったんだな」
「広造君……あっ!」
 茜さんが声を上げる。
 どうした? マーラはもう天界に行ったんだ。神になるんだ。……もう手遅れなんだよ。なにを見たっていうんだ。
「広造君……。手……」
「え?」
 義手の左手と義足の右足に、ないはずの感覚があった。懐かしい生身の感覚。これ、動くの……か?
 俺は恐る恐る左手を上にあげようとした。……上がる。上がった。自分の意志で。続けて右足も上げようとした……これも上がる。
 しかしこれは一体……もしかして。
「きっとこれはマーラが天界に行く代わりに、広造君の手と足を治してもらえるように天使に頼んだのよ」
 そんな……マーラがそんなこと。俺のため? 俺のためにマーラが?
 ……なんだよ、それ。そんなことして俺が喜ぶとでも思っていたのか? ふざけるなよ! そんなの俺が一回でも頼んだか? そんな勝手なことするなよ!
「うっ……俺は……俺のせいだ。俺のせいっ!」
 千依が俺の傍に寄ってくる。
「お兄ちゃん……歩いて。その足で歩いてみて」
 俺は歩こうとした。歩けるのか?
 一生、義手と義足だと思っていた。それが……まさか……。
「あっ……歩けた」
 一歩一歩、俺はしっかりと床に足の裏をつけて歩いた。横には俺が倒れないように千依が支えてくれている。
「千依、歩ける……夢のようだ」
「その夢がマーラちゃんの本当の願いだったんだよ」
「マーラの……あいつの夢?」
 あのバカは最後までバカだった。
 あいつに楽しい思い出なんて、なに一つ残せてやれなかった。毎日、起きたら戦闘の訓練。そればっかりだ。学校に行ったこともない。友達と遊んだこともない。こんなひどい人生を俺は彼女に背負わせてしまった。
 これからだというのに。お前はこんな俺のために……。
「マーラちゃんが神様ならきっと大丈夫だよ。だからもう、泣かないで……」

 この事実、受け入れよう。マーラがくれた手と足。大事に使わせてもらう。心から礼を言おう。お前のおかげで失ったものをすべて取り戻すことができた。感謝してもしきれないほどだ。俺はこの恩にどうやって報いればいい?
 お前は俺の小さい頃に思い描いていた本物の神様のような奴だったな。千依の言う通り、お前ならきっとできるよ。ありがとう……マーラ。
 
 気づけば、さっきまで手に持っていた飼育ケースがなくなっていた。あれには神が入っていたのに。
 天使たちが持って行ったのだろうか。神の復活? まさか、な……。