読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

サイコー君のくま父さん

くま父さんがアニメ化されるまでアピールするぞ! オリジナル漫画・ラノベ作品を大量に公開中!

にほんブログ村 小説ブログ ライトノベル(小説)へ ゲーム・古本・DVD・CD・トレカ・フィギュア 通販ショップの駿河屋

『玉碁高校 アイラブ・シンブン』 その10

  6 椎名さんと不思議なデート

「――ん?」
「あら?」
 今日は日曜日。俺はこの周辺で一番大きい靴屋に行った帰りだった。バス停に私服姿の椎名さんがいた。偶然だな、もしかして椎名さんも靴を買いに来たのか?
「こんなとこで会うとはね。なにしてたの?」
「ちょっと祖母と付き添いで病院に行っていたんです」
 椎名さんの前にはお婆さんがいた。こちらの人が椎名さんのお婆さんなのか。なにせ椎名さんが新聞好きになったきっかけはこのお婆さんにあるんだよな。挨拶、挨拶っと。
「こんにちは、みゆきさんと同じ高校で、同じ部に所属している笹宮と申します」
 俺はそう言って、ぺこりとお辞儀をした。しっかりした足腰だな。背筋も伸びている。見た目は健康そのものだった。
「これはご丁寧に……わたしはこの子のお婆ちゃんです。いつも仲良くしていただいて、ありがとうございます」
「いえ、みゆきさんにはいろいろ教えてもらっているので」
「いろいろ? 教えてもらってる?」
 あれ? 俺、ちょっとミスったこと言った?
「いや、違いますよ! 部活動のことです。新聞についてですよ」
「そう思っておったが……他になにか?」
 お年寄りに「他になにか?」なんて言われるとは思わなかった。なかなか曲者だな、このお婆ちゃん。椎名さんはなにもわかっていないみたいで、ただニコニコとしていた。
「笹宮さんはお買い物ですか? えぇっと靴?」
「そうなんだ。たまには気分転換と思ってね。家に閉じこもっているだけだと、いいアイディアも思い浮かばないよ」
 そんなことを話していると、椎名さんのお婆ちゃんが自分のバッグから紙の束を取り出した。
「これ、みゆき。これで彼氏とご飯でも食べておいで」
 まさか。紙はお札? ……違う。なんかカラフルだ。食事券?
「彼氏じゃないってばぁ、お婆ちゃん。そんなこと言うと笹宮さん怒っちゃうわよ」
 いえ、別に怒りませんが……。
「いいから。わたしは一人で帰れるよ。せっかく彼氏さんに会えたんじゃ。思いきり楽しんでこい」
 ちょうどそのときバスがやってきた。
 バスを待つ列に並ぼうとするとお婆ちゃんが、
「笹宮君? この子と一緒に食事してやってくれんのかの? お願いだから」
 優しい眼差しでお婆ちゃんは言う。……断れそうな雰囲気じゃない。元々断る理由なんてないのだが。
「すみせん、じゃあ行ってきます」
「お婆ちゃん、本当に一人で帰れる? 笹宮さんとお食事だったら別にここでじゃなくても……」
 お婆ちゃんは椎名さんが持っている紙を指さして言った。
「それが使える店はここだけなの。よかった、持っておいて」
 食事券だから店は限定されているか。おっと、そんなこと言ってる間にバスが行っちまう。ちゃっかりお婆ちゃんは先に乗ってるし。
 椎名さんのお婆ちゃんは元気そうに手を振って俺たちと別れた。椎名さんと食事……二人きりか。
「じゃあ行きましょうか、笹宮さん」
「そうだな。椎名さんのお婆ちゃん、どの店のこと言ってたんだろう。ちょっと買い物券見せてくれる?」
 買い物券を見ると、そこには『しゃぶしゃぶOH! 野菜』と大きく書かれていた。五百円の食券だ。それが十枚。……ってことは五千円分のしゃぶしゃぶが食べられるのか。いいな。
「俺、ちょっと出そうか? 全部ごちそうだったらなんだか悪い気がして」
「せっかく食券をもらったんですから遠慮せずに使いましょうよ。それにほら、有効期限もそろそろ近いですし」
「あ、ホントだ……」
 有効期限は今年の六月までだ。あと一か月ちょっとしかない。また、ちょっと気になることもあった。椎名さんのお婆ちゃんがしゃぶしゃぶなんか食べるだろうか? これはきっと椎名さんにあげようとしていたんだ。……ありがたく使わせてもらうよ。ありがとう、椎名さんのお婆ちゃん。
「笹宮さん、よく見るとこれ、食券には違いないんですけど株主優待券ですね」
株主優待? あぁ、株を保有していたらもらえるってあれか。なんかそれ、東条の範囲だな」
 お婆ちゃんが株を所有していたのか、それともネットオークションか金券ショップで買ったのか。謎だ。
 二人はさっそく『しゃぶしゃぶOH! 野菜』に行くことにした。地下街にあるのか。確かにここからならそんなに遠くない。
「じゃ、行くとしましょうか」
「はい!」
 二人っきりで歩くなんて、なんだかデートでもしてるみたいだな。意識すると緊張してしまう。こんなことならもっとマシな服装で来とけばよかった。綿パンに黒のTシャツ一枚だもんな。華奢でなまっちろい腕があらわになって非常に残念だ。
 椎名さんは俺の横にピッタリついてきた。う、心拍数が上がる。
 ――店の前に着くと、看板には大きく店名が書かれてあった。店の規模は大きい。百人ぐらい軽く入れそうだ。
「ここで間違いないな。入ろう」
 受付の人がテーブルまで案内してくれた。で、初めにダシを決めるらしい。途中でダシの変更はできない。
 昆布味、旨辛火鍋ダシ、豆乳ダシ、完熟トマトダシ、ゆず塩ダシなど、けっこう種類がある。しゃぶしゃぶ屋に入るのは初めてなので悩んでしまうな。
「椎名さん、どうする? 試したいダシでもあった?」
「そうですねぇ……笹宮さんが決めてくれませんか? わたし、こういうお店に入るのは初めてで」
 俺も初めてだよ。……そうだなぁ、無難に昆布ダシにしておくのもいいが、せっかくだからここは期間限定の蒙古火鍋ダシにでもするか。
「椎名さん、辛いの大丈夫かな?」
「はい、大丈夫ですよ」
「そっか。じゃあ、すみません。蒙古火鍋ダシでお願いします」
「はい、少々お待ち下さい」
 へへっ、どんな鍋が出てくるんだろうな。家でやるやつなんか比べ物にならないんじゃないか。ここはしゃぶしゃぶ本場の店だぞ。
 テーブルにメニュー表が置かれている。食べ放題で一人千九百八十円だった。食後にデザートを頼めば大体五千円か。ピッタリじゃないか。
 そして、たった数分で店員さんがこちらに来た。
 早いな。さすがチェーン店だ。段取りが早い。……と思ったが、やってきた店員は手ぶら。しかもこんなことを言ってくる。
「あの、モウコヒナベダッシってなんなん?」
 は? ……なにこいつ?
 男は店のエプロンを着けていた。ということは従業員だ。……言っている意味がわからない。
「あの、蒙古火鍋ダシです。ほら、メニューにもあるじゃないですか」
 男は顔をしかめてメニュー表を見る。すると、思い出したかのように声を弾ませた。
「あっ! なるほど! 蒙古火鍋ダシな。僕、てっきり魔法か呪文かと思ったわ。そっかー、期間限定で最近登場したメニューやったからわからんかったわ」
 この能天気なしゃべり方には少し覚えがあった。……一体どこでだろう? 顔を上げて男の顔を見たらすぐに思い出した。俺が拡張をして初めて新聞をとってくれた人だ。名前は確か、リー・芦花。
「芦花さんですか?」
 思わず大きな声を上げてしまった。芦花さんはまた顔をしかめて、俺のことを不審な目で見る。
「……なんで僕の名前知ってるん?」
「ほら、俺ですよ。笹宮です。玉碁高校の新聞拡張部の……」
「新聞? 新聞……新聞」
 難しい顔をしてその場で思い出そうとする芦花さん。……いや、長いって。
「あ! 思い出したわ。自分やったんか。そっか、つい忘れてたで」
「あのときはどうも。新聞は毎日ちゃんと届いていますか?」
「うん、届いてるよ。毎日読んでるわ。亀の甲羅干しなんかしてるとき暇やからな」
 そうだ、この人確か自分で店をもってペットショップを経営していなかったっけ? なんでしゃぶしゃぶ屋なんかにいるんだよ。
「芦花さん、ペットショップのほうは……?」
「ん? 亀ショップは夕方までしか営業してないねん。七時になったらここでバイトや。深夜の二時までな。そうせな生活費足りんようなる」
 大変なんだな。体を休める暇もなさそうだ。でも彼はとても亀を愛しているんだろう。だからこうやってバイトも続けることができる。
「亀、本当に大好きなんですね。羨ましいです、そんなに夢中になれるものがあって」
「へへっ、まあね。でも亀ショップもお金になるから。将来はもっと大きな店を構えたいと思ってねん。そのときはぜひ来てや」
「亀は買いませんが……はい、そのときは喜んで」
「じゃ、僕お鍋持ってくるから。今日はホールのバイトが一人休んでるから、僕が厨房と両方回らなあかんねん。忙しいわ。ついでに追加注文言っといてや」
「そうですか……じゃあ注文いいですか?」
「ええよ。なんでも言って」
 ダシを頼むと基本セットというものがついてくる。あとはお好みでって感じか。せっかくだから普段食べないようなものでも頼んでみるか。どれがいいだろう……。
「じゃあトッポギを」
「トッ……え?」
「トッポギです」
「トッポ……ト……なにそれ?」
 え? この人トッポギ知らないのか? ……いや、知らない人はけっこういると思うよ。俺も食べるの初めてだし。でも、提供してる従業員が知らないのはまずいだろう。えぇ~……。
「あの、これですよ、これ。ほら」
 俺はメニューを指さして芦花に言った。
「あぁ、これね。りょーかい。他は?」
 りょーかい、か。まるで悪びれてない。ある意味潔いな。ここでもし彼が謝ったら彼が悪いと認めることになる。だが開き直れば? そのままスルーすれば? ……誰も悪くない。やるなぁ、この人。
「えっと、じゃあピーナッツもやしを」
「はいはい、ピーナッツともやしね」
「いえ……ピーナッツもやしです。一つの商品です」
「うそぉん? なに言ってるん自分。ピーナッツともやしやろ? なにややこしいこと言ってんねや」
 だからメニューにあるんだよ。ピーナッツもやしが。俺は再び芦花さんにメニュー表を見せた。すると、また「あぁ~、これね。ついうっかり」だって。
 芦花さん、ここに勤めて短いのかな。それとも今日たまたまホールに入ったから知らないだけか。自分のためにももっと自分とこの商品に興味持ったほうがいいよ、芦花さん。
「あとはこれとこれとこれ。あと、これとこれも……そう、全部二人前でお願いします」
「はいはい、了解です。じゃあちょこっとお待ちください。すぐ持ってきますんで」
 微妙な敬語だった。変な人だなぁ……。
 五分もたたないうちに、まずは基本セットがテーブルに運ばれた。皿が十枚ぐらい重なっている。上から豚肉、牛肉、野菜といった感じだ。
 味はなかなかのものだ。数多くのチェーン店があるのも頷ける。
「……おいしかった。ありがとうね、椎名さん」
「ホントおいしかったですね。一人だとたぶん来れませんでした。わたしのほうこそありがとうございます」
 うぅ、なんていい子なんだ、椎名さんは。拡張部の大抵の人は我が強いからな。こういうおしとやかなタイプがホント新鮮。
 俺たちはお会計を済まそうとレジへ移動した。――で、あの男……リー・芦花さんがレジの前で立っていた。
「芦花さん。えっと、ホールだったんじゃあ……?」
「あぁ、君か。いやな、上司にお前全然メニュー覚えてないやないかって文句つけられてん。結局レジ担当のバイトがホール行くことになったわ。で、僕がレジ係になった」
 たらい回しにされているな。バイトとしてあまり優秀じゃないんだろう。まあ、この人は本業があるからそれでも別にいいのかもしれない。でも、レジできるの? 芦花さん。
「ほなお会計やな。レシートっぽいやつ出して。ほら、あのテーブルの筒に入れてるあの紙」
 会計伝票。もしくはオーダー伝票だろ。覚えててよ。
「――え~、お二人さん合計で四千八百六十円ですね」
 デザートも食ったからな。ほぼ五千円だ。食券はお釣りが出るのかわからないから、五千円をちょっと出るまで食べたほうが得だったかもしれない。
 椎名さんが芦花さんに株主優待券を渡した。すると芦花さんの表情がみるみるうちに変わっていく。
「……なにこれ?」
株主優待券ですよ。ここで使えますよね?」
「優待券かぁ……言ってみればタダ券やんな」
「えっ?」
「タダ券とかやめてぇや。ちゃんと現金で払って」
「いや、ちょっと待って……株主優待券知らないんですか? これ、この店の会社の株を所有している特典でもらえるやつです。こちらの女性の祖母は株主なんですよ?」
「株主……? なんやようわからんけど、簡単に言ったらタダ券ってことやろ? あかんて、こんなん五千円も。通用するはずがない!」
 俺はこの人が本当のアホなんだと今わかった。株主優待券が使えないなんてあり得ない。株保有者はなにも椎名さんのお婆ちゃんだけじゃない。全株主を否定することになる。しかも一介のアルバイトが。
「ちょっと店長に言ってくるわ。タダ券で飲み食いしようとしてる人らがおるってな。僕、不正は見逃されへんタチやねん」
 あぁ、やめとけって。怒られるのはあんたなんだから。やめろー……ダメだ。本当に相談しにいってる。

「……そうなんです。タダ券です。ダメでしょ、こんなの? 警察に連絡入れますか?」
「俺が連絡したいぐらいだよ。店の営業を妨害してるバイトがいるってな。お前、もう帰っていいぞ」
 店長がすぐこちらにやってきて、何度も俺たちに頭を下げる。
「すみません、すみません! ウチのバカがとんだ失礼なことを……」
「いえ、いいんです。彼、本当は厨房担当の人でしょ? いきなりレジに入ったら誰だって戸惑いますよ。それにまだこちらで働いてまだ日が浅いんでしょ?」
 俺はフォローするつもりで言った。が……。
「……いえ、もう四年目になります」
「「えっ?」」
 俺と椎名さんは揃えて声を上げた。……ウソだろ。三年でこれかよ。っていうか、よく今までクビにならなかったな。この店長すげぇ心が広いよ。
「俺……芦花さんとちょっとした知り合いなんです。別に全然怒ってませんから。寛大な措置をお願いします」
「申し訳ありません。お恥ずしい限りです」
 芦花さんは少し離れたところでじっと俺のことを睨んでいた。まるで俺のせいで自分が怒られた、と言っているようだった。
 俺たちは詫びとして、店長から千円分のクオカードを一枚ずつもらった。なんだかこっちが申し訳ないや。
「椎名さん、ありがとう。楽しかったよ。これからどこか行く?」
 もう日が暮れかけていた。今から夜のデートが始まるのだろうか。
「いえ、帰ります。明日の新聞の記事もまとめておきたいので」
 俺たちはバスに乗って帰った。一つ、気づいたことがある。俺と椎名さんの家がかなり近いことがわかったんだ。もしかしたら小さい頃、どこかで会っていたかもしれないな。今日は楽しい一日だった。

 それから数日後。家で新聞を読んでいると、あることに気がついた。
 あれ? ちょっと……これ、あいつだよ!
 新聞の後ろから一枚めくったところに載っている。それほど大きな記事ではないが、顔写真がバッチリ載ってあった。
『亀の違法販売で逮捕。リー・芦花。三十二歳。』
 ……なんだこりゃ?
ワシントン条約タイマイは輸出できないことになっている。だが、リー・芦花はそれを無視して養殖、通信販売をしていた。それにより逮捕。』
 逮捕ぉ? こいつ、逮捕されたのかよ? 亀の甲羅を売って逮捕か……。あーあー、顔も名前も全部出てるぞ。なんか悲惨だな。……でも亀なんてそんなに高く売れるのか?
 俺は学校に着くと椎名さんのいる教室に行くことにした。法律関係だと彼女が詳しいと思ったからだ。それに彼女も芦花と面識がある。
「――あら、笹宮さん。どうしたんですか?」
 そういや、椎名さんの教室に入るなんて初めてだな。教室にいるときの彼女はまたどこか違った魅力があった。
「あのさ、今日の新聞読んだ? 一般のやつの」
「えぇ、読みましたけど」
「リー・芦花って覚えてる? あいつが捕まって記事になっていたんだけど」
「それならわたしも読みましたわ。怖いですよね。そんな犯罪者がウチの学校の近くにいたなんて」
「ウチが作ってる新聞、とってるんだよなぁ。複雑な感じ」
「それってなんかすごいですよね。……変な意味でですけど」
 だよなぁ、自慢できることじゃねぇ。新聞を契約してもらった人が犯罪をして、新聞に載る側になったってことだ。
 椎名さんは俯いてからゆっくりと顔を上げた。
「ん? 椎名さん、どうしたの?」
「それ、面白いですよ、笹宮さん!」
「まあね。相変わらず変な顔してるし、面白いと言っちゃあ面白いよ」
「ぜひこのことを皆に知らせましょう」
「いいって、そんなこと。俺までアホみたいな扱いされるじゃねーか」
「こういう話題は珍しいですよ。ウチの部員さんがそんなこと経験できるなんて、すごいじゃないですか。きっと部長も喜びます!」
 部長ね……確かにあの人にはウケそうなネタだ。
「でもなんで亀の輸出入ってダメなの? なにか問題でもあるのかな?」
「わたしも記事を読んで少し調べてみたのですが……笹宮さんはべっ甲をご存知ですか?」
「べっ甲。高級なクシなんかに使われるやつだろ。黄色に黒の模様がついているあれ」
「そう。それがべっ甲です。タイマイの甲羅なんですよ」
「え? マジ? 亀の甲羅なんかで髪をとかしてんの?」
 生まれてからずっと短髪な俺にはわからないことだ。なんで女の人は亀の甲羅なんかで髪をとくんだろう。プラスチック製のほうがずっと衛生的じゃないか。
「べっ甲の良さとして手触りがよく、柔らかみがあるんです。夏は熱をもたず、冬は冷たくないため、肌に馴染みやすいって感じですかね。天然素材なので、お肌に優しいです。
それに加工性が高いので、日本人の細やかな感性が発揮されて、優れた工芸品として発達してきました」
 なんと……目の付け所はよかったのか、あのおっさん。だとしたら亀を一匹一匹丁寧に甲羅干ししていたのも全部金のためだったんだ。彼は輸出禁止のことも知っていただろう。最低野郎だな。
「ひでぇ野郎だ。リー・芦花は」
「まあ、人はそれぞれといいますからね……」
 昼休み。
 さっそく部長がこのことで放送を流す。……だから校内放送を私用で使うなっての。
 俺はその放送を自分の教室で弁当を食いながら聴いていた。
『えー、今日はちょっぴり面白おかしいニュースがあるぞ。ウチの部員が前に新聞の契約をとったんだが、その客がなんと新聞に載ることになった。それも犯罪者として!』
「「おぉー!」」
 これが素晴らしい記事だったら俺も鼻が高いんだけどな。ワシントン条約なんたらで捕まったおっさんの話なんかそう盛り上がらないだろ。
『捕まった理由は亀だ。亀の甲羅を売ったのだ。ワシントン条約に引っかかってな、本来べっ甲の材料となる甲羅を持っているタイマイ……それを通販で売ったらしい。ちなみにタイマイからべっ甲を取り出すには亀を殺さんといかん。甲羅は亀にとって生命線だからな。採集した亀を殺し、肉を取り去った甲羅と腹甲が材料として使われる。肉は食用となった例もあるが、亀が食べているものの関係から毒性を帯びることもあり、あるところでは中毒死になったこともあったみたいだ』
 やめろ部長! 飯を食っているときにそんな話なんてするな。飯がまずくなる!
『わたしがその男をもっと詳しく調べた結果、ある恐ろしいことがわかった。男は笑顔で甲羅をトンカチで叩き割っていたのだ。信じられるか? 金のためとはいえ、自分が飼っていた亀だぞ? よくそんな非道なことができる。今まで殺した亀は百匹を超えるという。男の店には亀の死骸の腐臭が漂い、その臭いにはどんな者でも鼻を曲げるという、まるで地獄のような光景を……』
 やめろ、マジでやめてくれ。想像してしまう。なんか吐きそうだ。
『とまあ、亀の話はこれぐらいにしておこう。明日の新聞拡張部が作る校内新聞はこのリー・芦花特集でいこうと思う。興味のある者は買ってくれ。ついでに月契約をしてくれるという奇特な者がいるならば、特別に五パーセント引きを適用しよう。締め切りは本日PM六時まで。詳しくはお近くの新聞拡張部員か、部室にまで来てくれ。以上、新聞拡張部部長、北大路恋』
 やっと終わったか……こんなに気持ち悪くてむちゃくちゃな放送は初めてだ。残った飯は残そう。とても食う気にはなれない。
 このあと、新聞の契約が十件もとれてしまった。嬉しいことなのだが、たぶんグロ系好きのメンツだろう。かなりレアな層だ。部長はご機嫌だったが他の部員はまだ気持ち悪がっていた。
 俺もクラスメートにリー・芦花のことを聞かれたが、思い出したくもない。変なおっさんだとしか言えなかった。……そういや俺、あいつが経営する店に入ったんだよな。
 そのときもたくさん亀の死体があったのだろう。確かに臭かった。……う、やっぱり思い出したくねぇ。