サイコー君のくま父さん

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『玉碁高校 アイラブ・シンブン』 その9

  5 犬の救出大作戦

 ――この日の夜のこと。
 プルルルル、プルルルル……。
 電話か。誰からだろう。ケータイを手に取るとディスプレイには見慣れない名前が表示される。……伊波奈津美。その名を見てすぐに顔が浮かばない。五秒ほど着信音が鳴り続け、ようやくその正体がわかった。ナッツだ。
 あいつが俺に電話をかけてくるなんて珍しい。とりあえず俺はケータイに出ることにした。
「――おう、ナッツか。なんだ、珍しいな」
「そ、宗太郎? ちょっとお願いがあるんだけど……」
 ナッツの声はひどく怯えているようだった。鼻をすする音もわずかに聞こえる。もしかして泣いてる? 頭の中でいろいろなことが浮かんだ。どれも現実であってほしくない。そう願いながらナッツに聞いた。
「お前、どうしたんだよ……なにがあった? 言ってみろ!」
「助けてほしいの……」
 もしかして誘拐? ナッツは監禁されている。そう思った。が……。
「犬のことなんだけど」
 犬かよ。今までシリアスにしていたのが無駄すぎた。ナッツは犬が好き。それは俺もよく知っていた。
「昨日ね、歯医者の歯科検診に行ったのよ。でね、そこを通るときに一軒のペットショップがあるの。そこで大きな犬が小さいショーケースに入れられていたのよ!」
 だんだんテンションが上がるように話すナッツ。最後のほう、俺はケータイを耳から遠ざけた。
「それのどこが問題なんだ?」
「問題よぉ! だってワンちゃん、狭そうにずっとその場でクルクル回っていたんだよ。ホントに小さいケースなんだから!」
 つまり狭いところに閉じ込められていてかわいそうだってことか。確かにナッツらしい悩みだけどな。それを俺にどうしろと?
「一緒に来てよぉ。それでペットショップのオーナーにガツンと言ってぇ。あれじゃあワンちゃんがあまりにもかわいそうだよ」
「それ、俺以外に誰かに言ったのか?」
「うん、部長にも言ったよぉ。ハルちゃんにも、みっちゃんにも。でも新聞の編集が大変だからってほとんどまともに聞いてくれない……」
 で、暇そうな俺のところに来たってのか。まあ、閉じこもっているとアイディアが出るわけじゃない。明日にもでもそのペットショップに行ってみるか。
「わかったよ。明日、俺も行ってやる。部活は休むか?」
「うん……部長、怒るかなぁ?」
「大丈夫だよ。なんなら俺がメールでもしとくよ。本当は部長だってお前の力になりたいんだと思うぜ。でも、今は時間がな」
「そう? じゃあ、お願い。あの、ありがと、ね……」
 今日はやけに女の子っぽいな。こういうのもかわいいけど、やっぱりこいつは笑ってるほうが似合ってる。
「じゃ、明日、放課後に校門の前でな」
 今の俺は優しい先輩ってとこかな。いつもなめられてる感じがするから、ここで一つ男を上げておくか。
 部長の明日の件についてメールすると、ほんの十秒程度で返事が届いた。それにはこう書かれている。
『すまん。力になってやってくれ。で、終わったら戻るように言ってくれ。今も自宅で記事を書いている。たまらん。忙しい、忙しい……』

 時間が全然足らないことはわかった。でも、たまらんってなんだよ。そんなに忙しいならメールで三点リーダーなんか使うな。
 というわけで部長の許可が下りた。なら堂々、犬の救出作戦といくか!

 ――翌日。放課後、校門まで行くとそこには人だかりができていた。……どうした?
 ナッツはいるのかな。俺は辺りを見回すと、なんと人だかりの中心にナッツがいる。
「よぉ、待ったか? ……これ、なんの集まりだよ?」
「知らないよ、もぉ! 宗太郎が早く来てくれないから、何人も知らない人から声かけられたんだよ。なんか怖かったし」
 んー、そういうわけね。こいつも黙っていれば確かにかわいい。そんなところで突っ立っていると男でも女でも見てしまうわな。
「さ、行こうぜ。案内してくれよ」
「うん!」
 自転車で向かうこと約十五分。例のペットショップだ。
 初めて見ると、俺もぎょっとしたよ。店自体がめちゃくちゃ狭い。店内は三人ぐらいしか入れないだろう。店の中には犬が二匹、ショーケースの中に入れられている。一匹は小さな犬だ。衰弱しているのか、もう諦めているのか元気がない。ガラス越しに近づいても俺たちを見ようともしなかった。
 その下のショーケースにいる犬が、おそらく昨日ナッツの言っていた犬だ。
 確かにせわしなくその場をグルグルと回っている。まるで危ない病気のようだ。
「これ、確かに見ていてかわいそうだよな……」
 小さい犬はまだマシだ。だが、こいつは中型犬だ。ぎりぎりのスペースじゃねぇか。こんなもんストレスが溜まってホントに病気になるぞ。一歩も歩くことができないぐらいスペースには余裕がない。
「この下にいる犬、なんていうんだ?」
「ワイアー・フォックス・テリアよ。活発に動く元気いっぱいな犬で、飼い主や一緒に暮らす家族にはとても従順な犬なの。こんな狭いところに閉じ込められて……かわいそうで見ていられないわ」
「じゃあ上にいる犬は?」
ミニチュア・シュナウザー。ドイツ産。遊び好きだけど勇敢で、物怖じしない性格をしてるの。本当はもっともっと元気なのよ。広いところで思いっきり遊びたいのに……」
 まるで犬博士だな。犬好きなことだけはある。で、確かにワイアー・フォックス・テリアの様子がおかしい。素人の俺にでもそれはわかった。
「ねぇ、宗太郎。どうにかして?」
「わかった。ちょっと行ってきてやる」
 しかしこの店、どうやって経営してるんだよ。犬は二匹しかいない。ペットフードや玩具も数点程度だ。趣味の店か? いや、趣味だって店は店だ。家賃や光熱費なんかもかかるだろう。謎だ……。
 入り口はボタンを押すと開く自動ドア。入った時点で奥行きが一メートルと少ししかない。客にとってもかなりのストレスだ。
 俺たちに気づいた店員が商品の影から出てきた。……でかい。おっさんだ。けっこう怖い系の。
「いらっしゃい、なにをお探しで?」
「いえ、買い物に来たんではありません。その……犬! 犬、いますよね? ちょっとかわいそうじゃないですか? ぎりぎりのスペースでずっとグルグル回っているじゃないですか」
「あぁーん……」
 てめぇ、客じゃねぇのかよ? って感じの顔だな。うっ、下がろうと思っても俺の後ろにはすぐナッツが。
「買う気がないならとっとと帰ってくんなッ!」
 俺たちは店を出た。……あー、怖かった。店も狭いし、商品も少ないし、店の主人の態度も悪い。なんの意味があって店を出してんだ?
「すまん、ナッツ。正直ビビっちまってダメだ。警察にでも行くか?」
「うん……でも、顔見られちゃったし」
 そうか。警察にこのことを報告して店の主人に指導をしたとしよう。店の主人は報復で俺たちを見つけようとするかもしれない。……世の中物騒だからな。夜道を狙われたらたまらん。しかもこの道中にはナッツ行きつけの歯科医院があるんだ。部活の帰りなんか特に危険すぎる。
「宗太郎、ここのお店さぁ、実はけっこう問題起こしてるんだよね」
「問題? 例えばどんなんだ?」
「何年か前にここでカブトムシを売ってたのよ。それを小学生の男の子が買ったんだけど、家の人に反対されてさ。店に戻って返品してくれって言うと、『もう二度と来るな!』だって。その子、かわいそうに泣きながら帰ったそうよ。トラウマになっていなきゃいいんだけど」
「最悪じゃねーか。よく店が潰れないな。親が資産家かなにかか?」
「どうしよ……このままだとワンちゃんがかわいそうだよ」
 俺は思った。こんなときこそ新聞じゃないか。しかも記事作りと拡張行為も一緒にできる。ナイスアイディアだ。
「ナッツ、その話、記事にしょう。きっとお前の意見に賛同してくれる人がたくさんいるはずだ」
「新聞……あぁ、そうかぁ!」
 ナッツの顔が明るくなる。そうさ、新聞は力のない者でも武器にすることができるんだ。過去の人たちはそれを知っている。
 俺たちはさっそく店の写真、それにショーケースに入った犬の写真を撮った。グルグル回っているところも動画で撮っておこう。なにもウソ偽りない。本当のことだ。世間を味方につけるんだ。
 俺たちはそれぞれ自分の家に帰った。ナッツはこの店と犬の記事を。俺はペットに関する過去の事例と法律などをわかりやすく記事にした。で、明日の朝に部長に見てもらおう。

 翌日、記事を部長に見せたところ、軽く校正が入ったがほぼ一発OK。次の新聞の記事はこれでいくとのこと。
「――こういう思いあがりの男は懲らしめてやらんとな。しかし、新聞で記事にするとは。お前も新聞に携わる者として、少しはらしくなってきたじゃないか」
 部長が珍しく褒めてくれた。……なんかちょっと、こそばいな。
 さて、玉碁新聞によってペットショップのずさんな管理は瞬く間に広がった。警察も動き出す。ナッツが撮った写真と動画が決め手だった。
 店の主人はショーケースを大きいものに代えるものの、住民の怒りは治まらない。
 店はほんの数日の間に閉店した。……これが新聞の力だ。こんなにうまくいくとは正直思っていなかった。できすぎだ。
 さて、俺は帰ってアイディアでも出すか。今日は部員のことが気になって放課後、ちょっとだけ寄ってみた。……しかし、部長には部室に来るなと言われていたが、ちょくちょく来てしまうな。いつの間にかここが居心地よくなってるんだよ。
「笹宮、なにかアイディアは出たのか?」
 出てねぇ。出てたら真っ先に報告してるよ。それにここにずっといることもできる。
「……その顔だとまだのようだな。ペットショップの件についてだが、あとはわたしに任せておけ。もし取材なんか来たら対応しておいてやる。お前にはお前の仕事があるだろう?」
「わかってるよ。じゃあな……」
 まずはアイディア! 難しいけど逃げ出すわけにはいかない。――廊下を出たところで、ナッツにばったり会う。
「よう、今からか? 遅いな」
「うん、ちょっとね。ワンちゃんのことクラスで話してたら長引いちゃった!」
 ちなみにグルグル回っていた犬はなんとかボランティアっていう団体が引き取ったんだって。そっちのほうが犬にとっては幸せだろうな。少なくてもあのショーケースよりかは広いところで暮らせるだろう。
「んじゃ、俺は帰るから。……見てろよ、きっといいアイディア出してやるからな」
「うん! 宗太郎なら大丈夫だよ。たぶん!」
 まったくなんの根拠もないことを……でもこいつの機嫌が戻ってよかった。新聞の部数も地味に十部ほど増えたしな。棚ぼたで拡張したぜっ! ってか。しかし十部じゃあ足りないんだよな。もっと今までにない画期的なこと……。
「今回の件はありがとうね。でね、お礼がしたいんだ!」
「お礼? 俺に?」
「うん。ちょっとだけ目、つむっててよ」
 なんだよ、それ。菓子パンの一つでもくれるんじゃないのか。なにをお礼してくれるっていうんだ。
 俺はナッツの言われた通りに目をつむる。
「こ、これでいいか?」
「うん。じゃあね、もうちょっと屈んで。そうじゃないと届かない」
「あぁ……わかった」
 ん? なに? ……届かない? こら、ナッツ! お前、なにする気だ?
 なんかいろんなこと想像しちゃうし。目をつむって少し屈んでって……あ、あ、あれのこと?
 目は開けない。だが、体が震えていた。ここでするの? 学校で? しかも部室の前だし。ってことは部長もいるんだ。春香や椎名さんだっていつここに来るかわからない。いや、見てる。誰か見てるって。おい、ナッツ! まずい――――――ッッ!!!!
 ――ぷにゅっ。
 ……ウソ? マジキス? しかも唇かよ。
「もぉ、いいよー。くく……」
 あん? 唇を重ねているわりには声が遠いな。これ、口に当たってるのナッツの唇じゃねぇのかよ。
 目を開けるとそこにはグミを持ったナッツが。
「へへー! 騙された! でもちょっとドキドキしたでしょ? かわいいかわいいナッツちゃんから、ドキドキをプレゼントぉっ!」
 あの、これ……お礼とかじゃなくて、どっちかっつーと罰ゲーム。
 ナッツはそのまま俺を横切って部室に入った。で、元気に部長に挨拶する。……なぁ~つぅ~!!!!
「――ん? 顔が赤いぞ、ナッツ。風邪か?」
「え、ウソ? ……なんでもないよ、部長」
「風邪だったら早く治すことだな。いきなり倒れられたら、こちらとしてもかなわん。今日は早めに帰って休め」
「だから違うって。もぉ~」
 ……案外、そうだったり、そうでなかったり……。あいつの考えていることはよくわからん。でも、マジでちょっとドキッとしたぜ。グミはありがたくいただくよ。
「グレープ味か。うまい……」