サイコー君のくま父さん

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『大泥棒』 その9

  5 再会

 何で奴がここに?
 奴は病人のように、ずっと家で養生しているのではなかったのか?
 それが……この希望に満ち溢れた目。
 どういうことが説明がつかん。ルーシーの言ったことはウソだったのか? だが、何のために?
「おい、聞いてんのか? あんた、憲兵だろ。騒ぎのところに行かなくていいのか? この経路は騒ぎがあるところとは逆方向だぜ」
 くそ……、こいつ!!!
 いや、そんなことよりわたしは今、憲兵の姿だったな。
 確かにこいつの言う通り、憲兵のわたしが騒ぎの中心地に行かないのは筋が通らん。
 大泥棒め、今度はお前がわたしから石を奪う番ということか?
 騙し合いだ。お前の泥棒と、俺の変化の力。これを駆使する。どちらが勝つか勝負だ!
 わたしは落ち着きを取り戻し、襟を正しながらこう言った。
「……通り魔だ。そこらへんにうろついているらしい。君も気をつけろ」
「通り魔か。そりゃ、怖えぇな」
「わたしは仲間のところへ応援を呼びに行ってくる。……さっさと服を離さんか!」
「ああ、すまねえ。で、あんたの名前は?」
「……何だと?」
「あんた、偽者だろ? その制服、少しデザインが古いものだぜ。俺は仕事上、よく憲兵に出くわすからわかるんだ。それに今のお前は応援を呼びに行くって顔じゃねえ。詐欺師の顔だ。早く現場から逃げたいという……お前、マジで誰なんだ?」
 くそっ!
 わたしは持っていたナイフでジェダを切りつけた。
 だが、ジェダはそれを軽やかにかわした。
 速い! わたしの動きなんかとは比べ物にならない。こいつは負けたとはいえ、あのジャックと数十分やりあったほどだ。ジャックに傷も負わせている。
 
「へえ、今時、サーベルも持っていない憲兵なんて初めて見たぜ。しかし、ナイフか……いい武器だよな。俺も好きだぜ。音は鳴らねえし、かさばることもねえ。暗殺向きだ。……お前、もう言い逃れはできないな」
「……お前はずっと寝込んでいるのではなかったのか?」
「まあな。でも、サラの言ってくれた一言で急に目が覚めちまったよ。俺はな、石を奪った奴を探してんだ。そいつ、きっと変装の名手だ。そう、お前のようにな」
「…………」
「なぜ俺がずっと寝込んでいたことを知っている? 不思議だよなぁ。俺、あんたと会うのは今日が初めてだぜ。あんた、どういうわけか以前から俺のことを知っていた。……お前がモンキだな。ルーシーが追っていたはずだ。俺がお前のことを話したからな。ルーシーはどうした? それにセント・ストーンはどこにある?」

 ……言い逃れできない。
 わたしの格闘で勝つほど、こいつは弱くない。不意を突くこともこの状況からでは無理だ。
 と、なるとあとは逃げるしかない。
 わたしはその場から逃げ出した。
「おっと、俺の足と勝負する気か? ……やめといた方がいいと思うけどな」

 ジェダがすぐわたしに追いついた。
 わたしは足払いをされ、地面に強く叩きつけられた。
「戦闘は苦手なようだな。だが、お前のことだ。変装で欺いて、隙を突いてルーシーに深手を負わせた。そして今、逃走している。……違うか?」
 くそ……くそぅ!
 せっかくセント・ストーンを手に入れ、ルーシーという厄介な男を倒したというのに。
 こんな奴に、こんな奴にわたしの野望が……。
 わたしはさらに逃げた。……ジェダは当然のように追って来る。
「おいおい、無駄だって。お前なんか変装を見抜かれたら、ただの人間だ。俺に敵うわけがない」
 何かないか? この絶対的に不利な状況から一発逆転できる……そんな方法が!
 考えろ……考えろ、考えろ、考えろ、考えろ、考えろ、考えろ、考えろ!!!!
 ドンッ!
 ……痛い! また誰かにぶつかってしまった。
 今日はよく人にぶつかる。誰だ、こんな一秒も時間が惜しいというときに!
 わたしの目の前には大きな男が立っていた。
 その男は実に堂々としていた。わたしはこの男に見覚えがあった。
「あ……あ、あ……」
「……久しぶりだな。お前は……モンキだろ?」

 この男、まさかこんなところで?
「近くで見たらわかる。いくら外見を変えようとお前の目は昔のままだな。なぜそんな警官の格好をしている?」
「ジャック……」
 そう、わたしの目の前にいる男はジャックだった。
 ジェダに続いてジャックまで? こんなことが同時に起きるなんて!
 これは幸か不幸か……どっちだ?
 ジャックは視線をわたしからはずし、もっと先の方を見た。それをたどるとその先にはジェダがいた。
 追いかけてきたのだろう。
 ジャックのパワーは本物だ。見つかってさえしまえば、誰であろうとジャックには勝てなかった。
 そして、次に発するジャックの声には明らかな怒気が込められていた。
「それと……、これまたしばらくだな。ジェダ」
「てめえ、ジャック!」
 一瞬にしてジェダの顔色が悪くなる。
 ……頭をフル回転させろ。これはチャンスだ。まさに起死回生の……。
 ジャックを利用すれば俺は助かる。
 今、ジャックはセント・ストーンをジェダに奪われて、怒りに満ちているはずだ。
「ジャック! セント・ストーンだ。お前のために取り返した。お前のセント・ストーンが盗まれたと噂を聞いたんだ。それでわたしがこいつからセント・ストーンを奪い返した!」
 ……この手しかない。
 セント・ストーンを手離すのは惜しいが、今、ジェダに殺されてはどうしようもない。
 ここはジャックに助けてもらい、ジェダに闘いで勝ってもらうしかない。
「……そうか。そいつは助かった。お前が取り返してくれたんだな」
「ウソをつくな、モンキ! お前は自分のために石が必要だったんだろ?」
 ……よけいなことを。
 邪魔だ、ジェダ! 黙っていろ!
「ジェダを殺してくれ! こいつはわたしを殺すつもりだ! わたしがお前の石を取り返したから、仕返しをしているんだ!」

 さあ、どう出るジャック?
 ジャックは静かに何かを考えているようだった。
 ジェダもジャックがどう動くか気にしている。
 小さく見えるぜ、ジェダ。その表情、幽霊か化け物でも見たような顔だ。ま、化け物には違いない。
 そして実のところ、わたしもだいぶあせっている。
 ジャックがわたしに味方してくれる保証はない。ジャックは過去にわたしを見放したんだ。山を下りるように言ったのはジャックだった。今更、わたしを助けてくれるなんてそんなことあるのか?
 あまり期待はしない方がいい。考えをやめたら負けだ。わたしは考えること、策略で天下を取る。
 力のない者は考えることが武器であり、防具だった。
 多少だが、わたしはジェダよりジャックからは良い意味で目をつけられているはずだ。この鼻がないのも、元はと言えばジャックのせいでもあった。借りがあったのだ。
 わたしはジャックとは昔からの知り合いだからな。だからジャックはわたしのことを信じるはずだ。
「……醜い」
「え?」
「モンキ、お前の性格は俺がよく知っている。お前は自分のためにこの男からセント・ストーンを奪ったのだな?」
「そんな! わたしはジャックのために……!」
「だから、俺は嫌なんだ。この石が出回ることが。この石は確実に争いを生む。美しいが悪魔のような石なのだ。人間では誰も扱うことはできん。そして、ジェダ……お前はモンキに言われるまでもなく、この手で始末する。あのとき、殺さずに生かしておいたことが悔やむよ。そこは俺の反省するところだ。泥棒に容赦などしてはいけない。そのためにわざわざこんなところにまで来たのだからな。探したぞ」
 は、ははっ……。やった、やったぞ!
 ジャックがジェダを倒す。
 少なくとも、わたしがここでジェダにやられることはなくなった。
 いいぞ、いい展開になってきた!
「……俺に勝てるっていうのか?」
「バカな! ……以前の闘いでどれほど実力差があったか、お前はまだわかっていないのか?」
 そう、これはジェダのハッタリだ。
 わたしはジェダとジャックの闘いを一度見ている。そのことから、ジャックがジェダに負けるなど、万に一にもないと思った。
「……今度は本気でやってやる……行くぞ!」
「冷静だったお前が……恐怖のあまり狂ったな」

 ――ジェダとジャックの闘いは三分もたたずに決着が着いた。
 もちろんジャックの圧勝である。
 ジェダはぴくりとも動かない。
 ……死んだ……よな?
 こんな勝算もない闘いに挑むなど、ジェダらしくなかったが……まあいい。
 ジャックの言うようにおそらく狂ったのだろう。
 確認するまでもない。おそらく死んでいるだろう。
「さて、モンキ……」
 ジャックがわたしに視線を移す。
 ……次はわたしの番だ。ジェダを簡単に倒す圧倒的な力。逆らえば殺される!
 優先するべきはセント・ストーンではなく命だ。
 生きていさえすれば何度でもチャンスはやってくる。ここは素直に降参……だ。
「か、返すって。セント・ストーン……こんな石、もういらねえっ!」
「お前は天下を取ると言っていたな。お前の天下とは一体どんなものだ? 何を理想とする?」
「わたしの理想……?」
 そんなのを聞いて、どうする気だ。返答次第でわたしも殺す気か?
 ……よくわからんが、ここは正直に答えた方がいいだろう。
「わたしは小さい頃から親がいない。わたしはそんな世の中を否定している。例え、天下を取るための手段が人道的でなかったとしても、わたしはそういう国を作るのだ……。それが悪いことか? そのためには金が必要なんだよ。だからセント・ストーンを手に入れたかった。……だが、もういい。石はお前のものだ。わたしは別な方法で自分の理想を叶えるよ。だから頼む。まだ殺さないでくれ」
 しばしの沈黙。ジャックは何か考えているようだ。
 わたしの感じはジャックに怒りの感情はもうない。そうさ、直接石を奪ったのはジェダだからな。わたしが奪ったわけではない。
「金か……。お前はこの石の本当の価値を知らないんだな? それはジェダにも同じことが言えるが……」
「本当の価値? ……石は高値で売れる。それだけの存在ではないのか?」
「お前は卑怯な奴だ。だが、今回の件は目的を達成するための策略だったと考えよう。俺もジェダも利用されたというわけか。見事だ。……わかった、いいだろう。この石、セント・ストーンをお前に預ける。期間はそうだな……五十年後だ。五十年後、セント・ストーンは俺の元に返してもらうぞ。お前ならその五十年間に石を利用し、天下を取り、また自分の手元に残すことはできるだろう」
 ウソだろ? わたしの聞き間違いじゃないだろうな。……信じられない。
 石を貸してくれる? それもジャックの公認付きでか?
 石を売り、金を作って権力を得る。すると、金が得られ、石を買い戻せる。
 できる! わたしなら可能だ。のし上がれる!
「いいのか?」
「別に感謝されることはない。人間は醜いものだな。お前が本当に天下を取って、世の中を変えてみせると言うのなら、変えてみせろ。……五十年後、石を取りに来る。それまでお前に預けておくぞ」
「ジャック……すまないな」
 ジャックの表情は清々しかった。さっきまで鬼の形相をした彼だったが、今では仏の顔だ。
 器が違う。住む世界が違う。彼と比べるとわたしは何と惨めな存在だ。……小さい。蟻のよう小さい。虫けらだ。
 だが、ジャックよ。もしかしてお前はわたしに期待しているのか。世の中を変えろと……。
 ジャックは何も言わず真上に飛んだ。
 豆粒ぐらいの大きさに見えるまで高く飛び、どこかへ行ってしまった。まるで雲や風のように……。きっと自分の住む山に帰ったのだろう。
 これで晴れてセント・ストーンはわたしの物となった。
 もう邪魔する者は誰もいない。ジェダもルーシーも、もうこの世にはいないのだから。
 作れるのだ。わたしの天下を。理想を!