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サイコー君のくま父さん

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『神の子』 その10

  2 雑賀茜

 マーラにとって茜さんは自分の母親だ。
 だがマーラは過ちで生まれたような存在。望まれてこの世に生まれたのではない。茜さんは我が子を武器として生んだのだ。
 これで三対一。茜さんの姿がはっきり見え始めた。
 マーラは幽体の千依を召喚できる。死者なら誰でも召喚できるわけではない。彼女との相性が必要だった。
 何十回、何百回と試した。だが召喚できる幽体は千依だけだった。
神の召喚するサラマンダーなどは召喚できない。
 そもそもサラマンダーとは四大元素の火を司る精霊である。燃える炎の中や溶岩の中に住んでいるという、昔からの言い伝えがあった。
 マーラは見たこともないのだ。できなくて当然。
 千依だけでは少し戦力不足かもしれない。あと一人誰かいないのか……。
 そして俺は思いついた、茜さんを召喚することを。幽体とはいえ、マーラと茜さんが初めて顔を合わせるのだ。
 そのとき茜さんは千依と同様、虚ろな感じだった。なにを言っても返事がない。マーラは母の姿を見て泣いた。……そして微笑んだ。
 茜さんを初めて召喚させたのはほんの数日前だ。会議の結果、最後の戦力アップとしてこの方法を取った。つけ焼き刃かもしれない。だが、やれるだけのことはやっておきたい。
 マーラはたったの数日で茜さんを操作することに成功する。茜さんの意識も少しずつはっきりしてきた。術者としてのレベルが上がったのだ。マーラの優れたセンスの結果である。また母と子。二人の相性も抜群によかった。
 神との闘いにおいて、茜さんが貴重な戦力になることがわかった。感動の対面もろくに時間をかけていない。すぐに訓練に入った。短い間の三人によるフォーメーション。それが今、機能的に働こうとしている。
 
「こいつぁ、ぶったまげた。あの……オネエちゃんじゃねぇか。ますますワケがわからん。こうなったらお前らを全員ぶっ殺して、さっさと天界に帰りたいもんだ。勝負、つけんだろ? お前らは俺のことが憎い。人間のくせに生意気な奴らだ。マーラっていったか、そっちの嬢ちゃん!」
「……なに?」
「お前は俺の娘でもあるんだよな。だったら特別にお前を天界に連れてってやるよ。母親も天国に行けるよう閻魔の野郎に言っといてやる。いや、そんなことしなくても天国だったか? そうならもっと待遇をよくしてやろう。な? それならいいだろ? だからこっちに来いよ。マーラ……」
 マーラ……?
 まさか大丈夫とは思うが神のその提案、乗る気じゃないだろうな。
「どうした? 悩んでいるのか? 悩んでいるならこっちに来い! お前は天界の人間だ。もうこんな人間界にいる必要なんてないんだ。向こうは楽しいぞ。しょせんここにいる人間どもは家畜に過ぎないんだからな。お前は最高についている、マーラ!」
「――バカにしないでよ」
「……あ?」
「人を、バカにするなって言ってんのよ!!」
 マーラ、挑発に乗るな……!
「暗雲に迷える光よ、我に集い……その力解き放て!」
「ぎぃやあぁぁーッッ!!」
 マーラは冷静だった。俺は彼女がそのまま神に突進するのではないかと思ってしまった。無用な心配だったな。
 神は電撃を受け、大きなダメージを負う。
 マーラのこの術は小さな雷をその場で発生させるものだ。
 落雷の電圧はおよそ二百万~十億ボルト。電流は千~二十万、ときには五十万アンペアにも達する。この大電圧と大電流が人を死傷させる。
「あ、あぁ~! こいつっ! やりやがったな! まさか雷を……くそっ、いろいろ研究してやがる! んんっ、もうお前を娘とは思わん。敵とみなす! 殺す、殺してやる。母親も一緒にな!」
「母さんを二度も殺させない! わたしこそあなたを父だなんて思わない。あなたはどうしようもない腐った悪魔よ!」
 神が詠唱を始めた? ……来るぞ。ここが正念場だ!
「んん~、……炎の精霊よ、今一瞬のすべての炎を。その手に委ね……」
「――甘いっ!」
 千依が宙を舞い、槍で神の頭部に向かって突く。移動速度も攻撃に移るタイミングも見事だった。
「おっ、危ねぇっ!」
 神の召喚術は不発に終わった。彼の使う召喚術は規模の大きいものがほとんどだ。そのため詠唱時間は長い。また、詠唱時間の短い術ではお互いに致命傷を与えることができなかった。
 茜さんが神に向かって飛ぶ。
「今度はこいつかよ? まったく、面倒くせぇなぁ!」
 茜さんは神の近くまで来ていた。だから神に詠唱する時間もない。
 神の動きはピーク時のときと比べれば決して速くはなかった。疲労か? それともダメージを受けすぎたか?
 茜さんは神のパンチをスピードアップすることにより寸前で回避。神の裏に回った。
「げええぇぇぇッッッ~!! てめぇっ! やめ、やめやがれ!」
「うるさい、このクズがっ!」
 茜さんは背後から両手で神の首を締める。この体勢なら神からの反撃は受けない。神は爪を立てるが茜さんは動じない。
 そんなことで退くような人ではない。神の息の根を止める勢いだ。
「マーラっ! 千依っ! 今よ! わたしごとこいつを殺しなさい!」
 例え相打ちになっても本望。千依は茜さんの気持ちに気づいていた。千依はためらうことなく神の腹を槍で刺した。
「ぐっ! ……ああぁぁ~……く、くそ……!」
 もう少しだ、がんばれ。もう少しで決着がつく……!
「天賦の才、雲の如く自由に生を送る無頼者。我流にして無形、変幻自在、その姿を隠せ……!」
 詠唱が終わると神の姿は霧状になった。
「……仕方ない。ここはひとまず退散だ。だが忘れるな。この恨みは必ず……」
 この状態では千依の槍も、茜さんの攻撃もすべてが無意味と化す。
 この術、茜さんには思い出したくもないはずだ。本来はこうして使う逃避用の術だったのか。
 あのとき俺はなにもできなかったが今回は違う。マーラ、お前の力を見せてやれ。
 マーラが詠唱を始める。それが終わると霧と化した神の周りに炎が現れた。
「……くっ、がっ……しょ、消滅する……?」
 急いで霧から再び人間の姿に戻ろうとする神。
 術の使いどころを知っているマーラ。どんどん神が追い込まれる。
「逃げられん……こうなったらあれを」
 神が動く。千依と茜さんから大きく距離を取ろうとした。
「逃がすもんかっ!」
 千依は神を追いかけた。
 神は詠唱を始める。しかし今度は千依が近づいても詠唱をやめようとしなかった。
「んんん~……!!!!」
 右腕を曲げて拳を自分の頭より高くした。視線は常に千依と他の二人に向けている。
 千依が近づくと神はさらに距離を取った。今回はなんと長い詠唱だ。完全に千依の攻撃をかわすことができなかった神は少しずつ負傷する。訓練室の床には神の血が点々とした。
「はぁっ……はぁっ……、んんんん~……ッッ!!」
 それでもまだタメる神。
 ……マジで何をする気だ? よほど大きな影響力を持ったことをするに違いない。俺はマイクを掴んだ。
『マーラ、千依、茜さん……神はなにか企んでるぞ!』
「大丈夫です、プロフェッサー。術が発動する直前に必ず隙ができます。ましてや、こんな大きな術。わたしたちはその瞬間を狙っているのです」
 狙っているのは千依の槍による攻撃。マーラもすでに攻撃系の術の詠唱を終えていた。
 あとは神が見せる隙を待つだけ。だが、そんなこと神も承知のはず。
「ふ、ふふ……いくぜ。長ぇタメだったが仕方ねぇ。二人の戦力を剥ぐ。生命を司る精霊よ、失われゆく魂に……」
 ……なにか来る。しかしこの隙だ。今まで俺たちが待っていた隙。速く攻撃を。
「はああああぁぁッッ!!」
 千依が神の真上を飛んだ。そのまま上空から槍の突き刺しで決まりだ!
「――待って!!」
 なに? 耳を疑った。待てだと? ……なぜ?
 こんなチャンスはめったにない。……いや、もうない。何を待つ必要があった?
 千依の攻撃を止めるように言ったのは茜さんだった。
「お願い、ちょっと待って。マーラも千依ちゃんも……」
 なにを考えているんだ、茜さんは? このままもし全員死んだらどうする?
「わたしは聞いた。あいつは生命を司る精霊と言ったのよ。だったら……」
 そうか。俺も考えてはいた。だが現実的に可能性は極めて低いと思った。
 茜さんが千依を止めたこともわからなくもない。だがこれは一種の賭けだ。皆が助かるか、皆が死ぬかの……。
 今、千依が攻撃を止めなければ確実に神を殺すことはできた。このわずかな選択の差がどう出るのか。
「ふふ、攻撃してこないのか? ま、仮に何かしてきても返り討ちにしてやったがな。そろそろ諦めるがいい。もう十分だろう。お前らはよくやった。……今一度、生命をっ! 与えたまえぇぇッッ!!」
 術が発動される。……生命を与える?
『マーラっ! あの術だ! 決めるぞッ!!』
「え……はいっ!」
 今、詠唱するのは攻撃系の術ではない。狙いはあの術だ。マーラは急いで詠唱を始める。
「――これは?」
 千依が声を上げる。
「この感覚……来てる! もしかしてわたしたち!」
 二人の身になにが起きているんだろう。俺が願うのは一つだ。
「おい、もしかしてあの子たち……」
 父もようやく気づいたようだ。
「そうだ。彼女たちはやったんだ。成功した。これで勝てば……相当な儲けものだ!」
 だがこれで戦力は三分の一になる。いけるだろうか? このときのためにマーラが詠唱している。なるべく神に見つからないように。
 千依が空中から床に落ちた。
「痛いっ!」
 茜さんの体は光を失い、普通の人間の姿となった。
「……返った……生き返った」
 二人はもう霊体ではない。人間だ。生身の……生き返ったんだ。
 
「信じられない。奇跡だ……」
「これが、神……」
「二人を生き返らせた……。まさか、信じられるか?」

 研究員たちはそれぞれ今の正直な感想を口に出す。
 死んだ人間を生き返らせた神。それだけなら聞こえはいいが、もちろん単に二人を助けようとしたわけではない。神の狙いは戦力の低下。
 これで千依も茜さんも、神へ攻撃することができなくなった。千依の持っていた槍も消えている。
「これであと厄介なのはお前だけだな。お前一人なら俺のな……敵じゃあねぇんだよぉっ!!」
 恐ろしいまでに速い! これが神の本気!  神は一直線にマーラを狙った。その時間ほんの一秒。
 神と接触する寸前にマーラは唱える。完全に神を神でなくさせる最後の切り札
 この術は射程範囲が狭いのがネックだった。だが、これだけ二人が接近していたら可能だ。……頼むぞ!
「ミ~ド~リ~ガ~メ~の~ き~も~ち~! タートル!」
「……あ? 今なんて言った?」
 神はマーラを攻撃することなく、その場で立ち止まった。
「おい、嬢ちゃん……今なんて言った?」
 その声はとても落ち着いていた。逆に俺の心臓の鼓動は激しく高鳴っている。
 マーラは詠唱を終わらせた。術は発動されたのだ。だが神は外見上、なにも変わった様子はない。
 おかしい……効いていないのか? この術は多少のタイムラグが存在した。訓練では犬、猫、猿といった動物をミドリガメに変えた。
 爬虫綱カメ目ヌマガメ科アカミミガメ属に分類される亀。アカミミガメ属の模式種。別名、ミドリガメだ……。
 流れの緩やかな河川、湖、池沼などに生息する。底質が柔らかく水生植物が繁茂し水深のある流れの緩やかな流水域や止水域を好む亀である。
 ある意味、究極の術。相手を強制的に亀に変化させる術だ。
 以前、神は自分の姿を雲に変えた。ならば動物にだって変えられるかもしれない。決まれば回避は非常に困難。しかも利点はそれだけではない。
 神の話によると奴の知り合いには閻魔がいる。だったら神が死んでも閻魔が神を生き返らせるといった可能性も出てくる。そうなってしまえば今までの苦労がすべて水の泡だ。
 俺たちは神を殺さないで、そのまま生かしておく方法を考えた。それがこの亀化の術である。
 亀には声帯がない。だから一度亀になるとあらゆる術の詠唱ができない。
 神は千依たち二人を生き返らせた。マーラを殺したあとは、改めて千依たちを殺すつもりだったはずだ。
 マーラには人を生き返らせることはできなかった。
 だから千依と茜さんを生き返らそうとしたら、神を利用して生き返らせるしかないと思っていた。
 でもまさか本当にそれが叶うとは……いや、まだだ。まだわからない。神はなぜ黙っているんだ。術は成功したのか? 否か?
「その術、誰に習った? 自分で見つけたのか?」
「いえ。プロフェッサーと……それに指揮官と研究員の人たちも」
「つまりお前ら人間たちが知恵を絞って編み出したってわけか。……やるねぇ」
「あなたは術にかかっているの? それともかかっていないの?」
「どっち? はははっ、面白いことを言う女だ。やっぱりお前は俺の娘だよ。こんな才能……あぁ、もったいない。こんなことならもっと早く人間界に寄ってみるもんだったな。まさかこんな……俺はもう体は動かねぇ。たぶん……こうして……しゃべっていられ……るも、あと……わず……だ。ふ……ふふ、娘にな、……倒されるのも……悪くは……ねぇか……マーラ……俺の、子……」
 神は小さなミドリガメになった。
 術が効きにくい耐性を持っていたのだろう。だから術が発動してこれだけ遅れて効果が現れた。術は成功したんだ。もう神はこの世にいない。いるのは踏みつければ簡単に潰れてしまいそうな亀一匹だけだった。
 
「……父さん、さよなら」
 神が娘と呼んだからか、マーラは神のことをはっきり父と呼んだ。
「千依さん、行きましょう。あなたのお兄様がお待ちですよ」
「うん……マーラちゃん。行こう」
 千依は生き返ってまだ間もない。生身の体で歩くには慣れが必要だった。
 マーラは千依の腕を自分の肩に回した。二人で茜さんがいるところに向かう。
「あの……お母さん。わたしたち、勝ったんです。あの悪魔に、勝ったんです!」
「さすがは我が娘ね……おめでとう」
 マーラは泣いた。それは喜びの涙。二人は抱き合った。
 千依、生身のお前にすぐ会いたいよ。千依はいくつもある監視カメラに向かって、泣きながら笑顔で手を振っていた。
 
 神はもういない。俺たちの長い闘いはこれで終わった。彼女たちが無事に生き返って、心からよかったと思う。