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サイコー君のくま父さん

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『くま父さん』 その10

第三章 くま母さん

  1 五十一度の秘密

 ……あかん。
 この暑さ、異常や。
「これはもしかするとあれか……くま母さんか?」
 温度計をチェック。
 ……あ、やっぱりや。
 五十一度。つまり……来い(51)ってことやな。
「クーラー当たりに来たぞぉー!」
「なのォー!」
 ドオンッと、ドアが豪快に開けられる音。
 さつきは体当たり(肩の部分)で、すけちゃんは飛び蹴りか……二人とも元気なもんやで。
「よっ、来たったぞ! ……うわ、何してんねん? 全身キモい感じに震えてるやん? 風邪か?」
「風邪? ……へへ、ははははは。そんな生易しいもんちゃう。風邪やったらどんなによかったことか。まだ四十度出して、部屋で寝込んでるほうがマシやわ……」
「……くま、父さん?」
 すけちゃんが心配そうに見つめた。ま、もったいぶってもしゃーないな。
「あのな……くま母さんが、来るねん」
「――くま母さん?」
「なのォ?」
 ワシは温度計を取って、二人に見せた。
「ほら、これ見てみ。五十一度やろ?」
「そういや暑いな。クーラーつけろや。ケチってんのか、おっさんが。客来たときぐらいつけろ」
「ちゃうねん、ちゃうねん。すでにつけてるよ。でも五十一度から変わらんねん」
「……そんなバカな話あるか。こら! ちょっとリモコン貸せ!」
 さつきがベッドの上に置いてあるクーラーのリモコンをひったくった。……まあ、やれるもんやったらやってみいや。
 ピッ……ピッ。
「あ、あれ? これ、まさか壊れてる?」
「いや、クーラーは壊れてへんよ。二十度に設定したら二十度になる。でもな、一度でも変えようとするもんならすぐに五十一度に戻されてしまうねん。これ、くま母さんの能力やねん」
「マジでか……でもなんで五十一度?」
「これはな、待ち合わせ場所に来い(51)ってことや」
「回りくどいなっ!!」
 くま母さんってそういう人やからな……。
 ま、今更言ってもしゃあないことやねんけど。
「っていうわけで今から行かなあかんねん、外。お前ら、どうする?」
「意味はほとんどわからんけど、行くんやったら行けや。わたしら留守番しといたる」
「あ……そう? じゃあ行くで」
 バタンッ……。
 さつきをワシのマンションに置いとくのもちょっと怖い気もするが、すけちゃんと一緒やったら大丈夫やろ。
 でもこの部屋、ほとんどサウナ状態やで。
「「……暑ーい! やっぱりわたし(ボク)らも行く!!」」
 さすがに五十一度の部屋にはおられへんかったか。ま、普通なら無理や。外のほうがはるかに涼しいぐらいやからな。

 ……というわけで結局三人で待ち合わせ場所に向かった。その先は三津屋公園。
「……なあ、どこで待ち合わせなん?」
「いつもここに来んねん、公園……」
 ――このとき、あるおっさんがとんでもないことを口走った。……ワシはそれを聞いてしまったで。ちょうど、すれ違ったおっさんやった。
「くそ暑いなー。こんなに日を照らすなんて、太陽ってバカじゃねーの?」
 独り言やった。ただ、呟いただけやった。
 ここがくま母さんとの待ち合わせ場所やったらまだ助かったかもしれへん。この男は運が悪かった。
 やばい……。
 そう思った瞬間、男は溶けるように姿を消した。
 男がさっきいた場所にはわずかな衣服の破片が残っていた。……骨も何も残らない。圧倒的な火力!
「えっ、今の何?」
 さつきとすけちゃんがちょっと遅れてこの異変に気づいた。
 そや、二人にも言っておくべきやった。特にさつきなんかようグチるからな。間一髪セーフといったとこか……。
「さつき……すけちゃん、よう聞いてな。ここでくま母さんの悪口は絶対言ったらあかんねん。もし言ってしまうと、この消えた男のように、一瞬にして蒸発させられてしまうから」
「悪口……言ってないでしょ? 溶けた人が言ったの? くま母さんがどうのこうのって……そんなの言ってないって!」
「言った……太陽、バカって言った……はぐっ! しまった! 殺され……?」
 ワシ、人生最大のミス。自ら死の呪文を唱えてしまった。
 死ぬ、わ……ワシ。
 あ~、まだ生きていたかったな。死因は蒸発死か。こんな骨も残らん死に方してしまうとは……バイバイ、すけちゃん。
 静かに両手を合わせて、この世から消え去る覚悟やった。でも……、
「あ、あれ? 大、丈夫……やった?」
「おい、くま父。お前、ホンマええ加減にせえよ。さっきからなんやねん。くま母さんって何者やねん? どっから来るねん? ……なんで、そんなに怯える必要がある? そんなにけったいな奴なんか? ……まあ、お前の奥さんやから、たいがいやと思うけど」
「……くま母さんはな、太陽やねん。太陽はくま母さん……」
 …………。
 ……。
「は?」
 ここにいるワシらだけ時が止まったようやった。
 数秒の金縛りが解け、さつきは次第に険しい表情になる。
「……しんのすけ、帰ろ。くま父の奴、わたしらバカにしてるわ。……死ね」
「違うって! そうやない!」
 さつきがキレるのも無理はない。太陽の存在なんて誰しも深く考えたことはないんや。
 今までの科学者とかも太陽のこと調べたりするけど、まさかそれがクマやと誰がわかったか? ……いや、誰もわかってへん。
 知ってるのはごくわずか。おそらく地球に十人もいるかいないか……その一人にワシがおる。
 くま母さんは紛れもなく太陽なんや。信じてくれ! そして、言葉を慎んでくれ。
 くま母さんの力は疑いようもなく全宇宙の中でもナンバーワン。
 例えば、火山の噴火や地震よりもパワーがあんねん。ぶっちゃけ地球ですら、素手で投げ飛ばせるぐらい常識はずれなんや。
 ……ああ、こんなこと言ってもまたウソと思われてしまう。
『……待て、そこの女』
 どこから……?
 この声、空から聞こえてくる。
 ただ、距離感はわからへん。……声が、空全体に響いていた。
 あ……太陽や。くま母さん。
 眩しいけど、ワシは太陽を見た。手で頭の下に影を作った。それでも眩しい。
 確か、太陽を見つめると失明するって話を聞いたことがある。……恐ろしい。くま母さんは見ることさえその行為にリスクが生じる。
 勝てるわけがないんや。くま母さんに逆らって勝てるとか……そんなん考えてる奴おったらアホや。
「な、なんや。どっかから変な声したな……くま父、あれって何?」
「変な声とか言うたらあかん! ……さっきの声こそ、くま母さんの声や。ええか、これ以上太陽がどうのこうの言うなよ。いくらお前でも死ぬぞ」
「死ぬ? ……そんなオーバーな」
「さっき溶けた男のこと忘れたんか? ええか、悪いことは言わん。絶対逆らうな。あと……眩しいと思うけど、太陽のほう見とけ。そろそろ……来るぞ」
「来る? くま母さん……太陽が?」
 白く光っていた太陽が、だんだん茶色になっていく様子がわかる。
 茶色――くま母さんは元はヒグマやからな。ワシもそうやけど……。
「光が……少し弱まった?」
「ああ、こっからやと茶色い丸にしか見えへんけど、おそらくなってる……クマの姿に」

 ――そのとき、巨大なハンバーグなようなものが空から飛んできた。
 でかい……なんというでかさ!!
 くま母さんは太陽……でも、そんな大きさでワシらがおるとこまで接近すんのは無理な話や。
 くま母さんは地球に遊びに来るサイズまで小さくなっている。しかし、それでも十分でかい!
 恐竜のようや。三十メートルはある。……そんな大きさのもんが空からすごい勢いで降ってくるんや。こら、めっちゃ怖いし、あせるで。
「キター! ぶつかるー!!!」
「ギャアアァァ――――!!!!」
 ……ピタ。
 寸前で止まった。宙に浮いてるし、くま母さん……。
 体はでかいけど、頭はそんなに大きくない。ワシの体よりちょっと小さいぐらいやった。
 それでも普通のクマと比べたら十分でかいんやけど。
 目は基本、糸目。よっぽどのことがないと目を開けへん。
 しかめっ面しているのも基本。よっぽどのことがないと笑顔にならへん。
 分厚い唇はくま母さんのトレードマーク。
 太りすぎて足は見えない。ワシとけっこう体型は似てるかもしれん。サイズは……全然ちゃうけどな。
 この大きさでもパワーは太陽そのもの。ああ、殺されんように言葉に気をつけな。
 でもその前に……、
「ぐわぁぁー、暑いぃー! 体温下げてくれぇぇ――!! 枯れるぅー」
 たぶんワシの周りは六十度超えてんで。茹でるっちゅーねん。
「……チッ、わかった。ちょっと下げたるわ」
 ふう、まだ暑いけどちょっとマシなったかな。でも、まだ四十度はあるやろ。暑い。
「あの……くま母さんですか、なの。太陽なんですか……なの」
 すけちゃん。勇気あるな、くま母さんに話しかけるなんて。
「あぁーん。 なんや、こいつ。変わってんのぉ。クマか? 人間……?」
 すけちゃんの体型は子グマと大して変わりない。みかんのTシャツが可愛らしく、とても似合っていた。
「この子は人間や。すけちゃんっていうねん。あ、本名は天野しんのすけな」
「人間だけど……でも、ボク! クマになりたいんです!」
 まさかのカミングアウト。
 でもそんなんくま母さんに言っても意味ないで。くま母さんの力はあくまで破壊の力。もしくは温度・天候を自在に操る。天災なんかもそうや。
 しかし神様のように物事を叶える力はないで。だから、すけちゃんをクマにすることはできへんのや。
「……ほう、それはなかなか見所がある奴。じゃ、こっちも自己紹介といっとこか。俺が太陽や。よろしく」
 ……一人称、『俺』やけど、一応女な。
「――お前が暑さの原因か?」
「ん?」
「温度下げろや、もっと! 暑っついねん!」
 バキッ!
「はぁあぁあ~!!! くま母さんになんてことを???」
 ……さつき、お前はもう終わりや。まさかくま母さんに蹴り、かますとはな。
 ホンマ、信じられへん……。
 かわいそうやけど、すぐに瞬殺されてしまう。そう思ってた。
「気に入った。俺を見て、少しも動じず、まさか蹴り入れてくるとはな。あっぱれや。俺は子どもにはまだ優しいほうやで。しかも同性やしな。もしかしたらええ仲になれるかも……小娘、名は?」
「さつきや……温度下げろ」
「ふふっ、それは無理や。今の時期、俺のテンションは高い。……おい、くま父。例のやつ買ってこいや」
「え? ……ああ、あの本やんな。あの本……買うんちょっと恥ずいな」
 くま母さんが地球に来ては、いつも買いに行かされるものがあった。
 それはちょっと変わった本屋にしか売っていない代物。
 ワシが買うにはちょっぴり、いや、かなり恥ずかしいもんやった。

 ――三十分後。
「買ってきたでぇ~」
 公園に戻った。そしてすぐ異変に気づく。
「くま母さん……小さくなってるやん」
「おう。地球におるときの適したサイズになってみた」
 体の大きさを変えられるんはくま母さんの能力やからな。今では高さが五メートルぐらいまで縮んだか。
「何の本買ってきてん? エロ本か?」と、さつき。
「あ~、いや、そんな生温いもんちゃうから……やおい本や。ホモのやつ。くま母さん好きやから」
 ワシが言うと、くま母さんはちょっと機嫌を悪くして、
「バラすなや。殺すぞ。チビッコたちおるやんけ」
「あ、ごめん……」
 乱暴にくま母さんはワシからやおい本を取り上げた。そしてパラパラと読みだした。
「今、俺、発情期やねん。毎年一回これ見るんが楽しみやねん。だから今、気温が高いんや。太陽から地球まで一定の距離感があるやろ。人間はその気温差を夏とか冬とか言ってるらしいな」

 ――つまりはこうなる。
 夏。やおい本を取りに来る。テンションは高い。
 秋。やおい本を読んでいる。テンションは普通。
 冬。やおい本を読み終わる。寝る。
 春。やおい本をまた読みたくなってくる。テンションは普通。

「じゃあ、もう本を取りに来ないで下さい」
「なのー」
 と、さつきとすけちゃん。
 すると、くま母さんは大きく溜息をついて、静かに語り出した。
「お前ら、太陽のすごさわかってないな。俺がおらな一日中、空は真っ暗やで。野菜も育たんし、最近では太陽電池とかでも活躍してんねんで」
 そう、太陽は地球になければならない存在。地球上にいる生物・植物が皆、それぞれ太陽の恩恵を受けている。
「そや。太陽あっての地球や。はっきり言って、くま母さんは地球とか速攻で壊す力持ってるからな。ワシらはくま母さんに生かされてんねや」
 ワシのフォローもあって、くま母さんはちょっと機嫌を取り戻した。そして、またやおい本に目をやった。
「そーゆーこと。でも、今から本読んでちょっとテンション下げたるわな。普段は持って帰って読むんやけど……ん?」
「あ……やばい」
 くま母さんはすぐに表情に出るからわかるねん。今、くま母さんは一瞬で不機嫌になった。
 その理由はワシの買ってきたやおい本がおもんなかったから。
 ……どうやらハズレ本やったらしい。とはいえ、ワシもその業界に詳しくないからな。どの本がオススメとかそんなんわからんし、店員に聞くんも恥ずいわ。
 ちょっとでも節約しようと一番安いやつ買ってきたんが仇となった。こんなことやったら、もう二、三冊買ってきとったほうがよかったな。
「くま母さん、テンション下げてー」
「ん……まあ待てや」
 すけちゃんがかわいく言っても、くま母さんはほとんど聞いていない感じ。
 さつきもその光景に違和感を覚えたのか、ワシに視線を送ってきた。
「……何かあった?」
 ワシにしか聞こえへんぐらいの小声。ワシらはくま母さんと少し距離を取って、三人で話を続けた。
「くま母さんの顔が明らかに不機嫌や。……たぶん、本の内容がおもんないんやろ。そうなると、逆にテンションが高くなって今年は最悪の夏になる」
「えっ! それってホントに嫌!!」
「でも……どうすることもできん。まあ、今からまたやおい本買ってくるわ。それまでにくま母さんがキレんようになだめとってくれ」
「でも、もしそれでもくま母さんが納得できる内容の本がなかったら?」
「そんときは諦めるしかないわな……腹くくらなあかん」
「待って、やおい本が好きってことは美少年好きってことでしょ? わたしに考えがある」
「考え……それって、もしかして!」
 さつきは走って公園を出た。
 ……あの子か。あの子を呼ぶ気なんやな。
 ワシも一度か二度しか見たことがない。
 でも……いける! ワシとしたことがうっかりしてた。そりゃ、雑誌より実物のほうがええわ。さつきはあの美少年すぎる……加藤隼人を呼ぶ気や。