サイコー君のくま父さん

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『売るが屋』 その10

  4 くま父さんの日

 しばらく全員がくま父さんの体毛の中で泣いたあと、くま父さんはすっかり前のテンションに戻る。
「――さ、仲直りが済んだらあとはお楽しみの時間やで。ワシ、こういうことになる可能性が半分ぐらいあると思ってな。予め、サプライズ準備しとった」
 なんだよ、こうなることわかっていたのかよ。それを言っちゃあ、なんか感動が台無しだよ。
 他の女の子たちもそうだ。くま父さんに一杯食わされた感じである。
「なに、サプライズって?」
「うん。今日はワシの日やろ。だからそれも兼ねて、普通やとなかなか体験できへんことをやろうと思う」
 ワシの日ってなんだよ。鷲の日じゃないよな。なんでくま父さんの日なんてあるんだよ。そんなのないって。
 ……あ、父の日のことか。普通に父の日って言ったらいいのに。
「ちょっと待ってな。さっそく準備に取りかかるから」
 なにをする気だろう。また変なことを考えていなければいいんだけど。
「――あ、もしもし? ワシ。うん。えっ? まだガラケーかって? ほっとけ。ワシ、ガラケー好きやから使ってんねんぞ。クマの趣味にいちいち文句言うな。……え、そんなこと言うんやったら手伝わへんって? ……ごめん。ワシ、調子乗ったらつい言い過ぎる傾向あるから。うん、ごめん。じゃあ打ち合わせ通り。はい、失礼しました」
 最後らへん、取引先の会社の人間に謝るような感じになっていた。打ち合わせ通りってなんだよ。
「今からクマのタクシー来るからちょっと待っててな」
 なに、クマのタクシーって? さっきからホントに意味不明なんだけど。
「トイレ済ましとき、トイレ。向こうはトイレないから。垂れ流しとか嫌やろ? ワシは慣れてるからどうってことないけど」
 ワケのわからないまま、ぼくたちは順番にトイレに行った。そして、外が少し騒がしくなってきた。
「くま父さん、なにか聞こえない?」
「あ、来たようやな。さあ、皆。外出るでー、クマタクシー来たぁ」
 外を出るとたくさんのクマたちがいた。……ここ、けっこう細い路地になっているんだけど。そこら中、クマでいっぱいだった。
「おい、ちょっと狭いって……」
「いくらなんでも集まりすぎじゃね?」
「呼びすぎなんだよ。あんな軽そうな嬢ちゃんたちだったら、こんなにいらねぇだろ」
 クマがしゃべってるよ……。くま父さんやヨシオとサトシだけじゃない? 世の中にはこんなに話すクマがたくさんいるの?
「はは、ビックリしたやろ。ワシがこっそり人間語、レクチャーしとってん。皆、頭のいい奴らばっかりや。ついでに人間の文化とか習性みたいなんも教えたから。ちょっとした人間通やで」
「そんなこと言われてもな。クマ……さんたちがなぜこんなにいるの? もしかしてクマタクシーって?」
「そや、人力車のクマ版。クマ力車や!」
 もうオリジナル語が多すぎてワケわかんない。とりあえず、ぼくはこのクマに運ばれるってことか。
「――失礼。よっと!」
 ぼくは一頭のクマに軽く背負われてしまった。
「な、なにするの? クマさん!」
「へい。俺らの住む森まで案内するんでさぁ!」
 森に行くの? 森なんか、ここらへんにあったっけ?
「きゃあっ!」
「わっ!」
 日向三姉妹も屈強なクマたちに背負われる。
「よっしゃあ、じゃあ夢の世界へとご案内するで。行くで、お前らっ!」
「「おぉっ!! ……えっほ、えっほ!」」
 クマさんたちはやたらと乗り気だ。なんか祭りみたいになってるし。後ろを向くと、くま父さんがだいぶ遅れている。「ま、待ってくれぇ~……」とフラフラしながら……あ。倒れた。
「ちょっと、くま父さん倒れたって。ねえ!」
「――ん? あぁ、大丈夫でさぁ。くま父さんだったら若いもんがついているんで」
 なんでこのクマ、こんな変なしゃべり方なの? わかるのはヒグマってことぐらいで、他のクマとほとんど見分けがつかない。ヒグマ率九十パーセント、ツキノワグマ率が九パーセント、残り一パーセントがシロクマだった。
 シロクマって日本に生息するクマじゃないじゃん。ヨシオもそうなんだけど、海を渡ってきたのかな。まさかぁ……。
「えっほ、えっほ、えっほ……」
 クマたちに運ばれること三十分以上。というのも、途中で酔って気分が悪くなってしまい、気を失ってしまった。くま父さんも他のクマに運ばれていた。これ、周りはどういう感じに見えたんだろうな。
 クマが人間をさらっているようにしか思えないんじゃ……。
「えっほ、えっほ……ふぅ。やっと着いたぜ、旦那」
 なんだよ、ぼくは旦那なんて呼ばれる設定になっているのか、よくわからんが……ん?
 ぼくたちがいる場所は森のど真ん中だった。ここにはたくさんのクマがぼくたちを囲んでいる。
「「ハッピー! ハッピー! くま父さんの日ー!」」
 父の日ってこういうふうに祝うんだったっけ? どうもクマたちが勘違いしているように思える。
 一頭のリーダーらしきクマがぼくのほうに近づいてくる。なんとなく他のクマと違ってガタイもよく、凛々しい顔つきをしていた。
「お前さんが水科弁慶君だな。くま父さんから聞いてるよ。ガラケーで」
 やっぱりガラケーなんだ。ってことはこのクマはスマホ持ってるのかなぁ。ガラケーでもスマホでもぶっちゃけどっちでもいいんだけど。
「はい……」
「そうか。ここの森出身のクマが世話になっている。彼の屁は臭いだろう? 昔から屁の臭いクマだったよ、くま父さんは」
 え、屁? なんでいきなり屁の話になるんだよ。
「こらー、二代目。そんな昔のことバラすなや」
 くま父さんだ。日向も千佳ちゃんも由美子ちゃんもいる。
「屁の臭さは皆、お互い様やろ?」
「いや、初代の臭さには敵わないって。ははは」
 初代? ……くま父さんはさっき、このクマのことを二代目なんて言っていたな。ってことは初代ってまさか?
「そや、この森の初代の大将はワシや。くま父さんや」
 今まで見る一番のドヤ顔。……そうだったのか、くま父さんが昔この森を仕切っていたんだね。
「ワシはなー、自由気ままに生きるんが好きなんや。だから皆の反対を押し切って、人間社会に勝手に入っていったで。そらもう見るものすべてが新鮮やった。新しいことばっかりやった。これはクマが人間に勝てんわー……いや、パワーだけやったら勝てると思うで。でもな、知識とか教育とか福祉とか、そういうのをクマは人間から学んでいかないといかん。FXやり始めてお前らの両親に出会ったのも運命やと思ってる。家族の大切さや思いやりの大切さ。優しさ、愛。ホンマ、いろんなこと教えてもらったで。それでな、これからもワシは森から離れて、お前らと一緒にいたい。一緒におらしてくれ! 今日はワシの祝い日や。いいもん食ってくれ。森の幸を堪能してくれや」
 だから父の日ってそういうノリなんじゃないってば。祝うというか、感謝する日だと思うんだけど……この際、細かいことはいいか。
「祭りや、祭り! 今日は年に一回のワシの日やで!」
 クマたちは鮭をごちそうしてくれた。生かと思えば、バーベキューセットで焼いてくれている。器用にトングも使っていた。
「なんでこんなのできるの?」
 ぼくは鮭を焼く一頭のクマに言った。
「くま父さんがな、こういうセットを送ってくれるんだよ。着払いで」
 着払いというせこさが、くま父さんっぽかった。でも……。
「ま、その前にお金も送金してくれるんだけどな。なんかモフりでこっそり貯めた金とか、ワケのわからんことを言っていたが……おっ、そろそろ焼けたぜ」
 あんなにモフらせることを嫌がっていたのに。やっぱり自分の生まれ故郷が大事なんだな。
「そら、食べなよ。熱々でおいしいぜ」
 クマが小皿に鮭を盛ってくれた。おいしそうだ。でも、クマの腕から火が出ているんだけど。
「クマさん、火! 火、出てるよ!」
「火? ウソぉ? ……あ、ありゃっ、燃えてる?」
 どうやら体毛に火が飛び移ったらしい。クマは慌てて近くの川へ飛び込んだ。
「あはははっ」
 ぼくたちは多くのクマから鮭やハチミツ、新鮮なお水をもらった。こんなに楽しいの、生まれて初めてかもしれない。
 くま父さん、素敵なプレゼント、ありがとう……。