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サイコー君のくま父さん

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『大泥棒』 その8

  4 ルーシーの逆襲

 わたしは数時間をかけて権力者のリストを作った。
 さて、どいつに取り入ってやろうか。
 気弱そうな奴がいいかな? 金持ちでもケチではダメだ。それに周りから信頼されていることも必要になる。
 だが、しっかりしすぎているのもダメだ。あまりにもその力が強大なら、わたしの計画がスムーズに進まないことも出てくるだろう。難しいところだな。
わたしは家の中でそんなことを考えていると、誰かが家の扉を叩く音がした。
ドンドン、ドンドン!
……誰だ、こんな時間に。もう時刻はほとんど夜だぞ?
 いや、時間というよりも注目する点は、訪問者が来たということ。このわたしの家にだ。それは何のため?
 わたしの家を訪問する人間など想像もつかない。わたしには友人の一人もいなかったからだ。
不審に思い、窓から覗いてみると、そこには憲兵二人がいた。
 ……それにあの珍品屋、ルーシーも一緒にいる。
 なぜ……?
 そうだ、奴は確か格闘の天才だったな。警察とのパイプも持っているという……厄介な存在だ。
 わたしは必死に頭を回転させる。
 何だ、わたしは何かミスをしたか? なぜ、奴にわたしのこの家が知られる?
 いつ? ……ここ最近だ。
 でないと、急にこいつが訪問するなんてことはない。思い出せ……
 女。そう、女だ!
 そうだ、昼間にぶつかった女!
 あのときの女がルーシーにチクリやがったな。
 あの女はルーシーの知り合いか?
 また、よけいなタイミングでぶつかってしまったものだ。
 ……なるほど、それでわたしのことを調べ、家まで突き止めたというところか。
 ここで奴に会わないことは、ますます奴を不審に思わせるだけだ。いや、その前に早いところ玄関に行かなければ。
 部屋には明かりをつけているのだ。居留守などは使えない。
 変装をしなくては……得意の変装だ。だが、誰に化ける? いっそのこと、素のまま出るか?
 ……そうするしかなさそうだ。
 何しろ、扉を叩かれてからもう十秒ほどたっている。残念ながら時間切れだ。
 
「……何ですか?」
 わたしはゆっくり、少しだけ扉を開けた。
 すると一人の憲兵がこう言った。
「こちらで複数の人間が出入りしているとの情報が入ったのですが、あなたの知り合いですか?」
 そんな情報が入ってくるのか?
 見ている人間は見ているものだ。ええい、うっとうしい!
「まあ、そんなところですよ。それが何か?」
「皆、ご友人だと?」
「はい。友人は多い方ですから」
「ご家族ではないんですか?」
「わたしは一人暮らしです。身内は皆、戦争で死にましたから。ああ、この潰れている鼻もそのときに負ったものです」
「そうですか。ルーシーさん……」
 憲兵はルーシーの顔を見て、そう言った。
 そして、次はルーシーがわたしに話しかけてた。……嫌な汗をかきやがる。
「モンキさんって言ったかな。あんた、何か悪いことやっているだろ? 例えば、誰かになりすますとかね。ん?」
 ストレートに聞きやがるな。このガキは。……まあ、合っているんだがな。
「そんなこと、誰が言ったんですか?」
「俺の情報網を見くびるなよ。お前さん、何かあやしいんだよ。……で、どうなんだ?」
「わたしは善良な市民です。人様に迷惑をかけるようなことは一切しておりません」
「はぁー、善良な市民ね。……ちょっと入らせてもらっていいかい?」
 それは困る……が、こいつ強引にでも入る気か。もう入るぞと言っているようなもんじゃないか。
 わたしの変装アイテムが見られたらまずい。
 あ! ……それよりセント・ストーンだ。
 あれが決定的な証拠になる。変装アイテムだけでも十分まずいが。
 どうする? たぶん何を言っても、こいつがこのまま帰ることなどあり得ないぞ。
「……今ですか?」
「今だ」
「わかりました。十分ほどお待ち下さい」
「ダメだ。今すぐにだ」
 このガキ……殺してやりたい!
「ルーシーさん? それはちょっと……」
 一人の憲兵が強引な態度のルーシーに止めにかかった。
 よし、いいぞ。まともな憲兵なら当然だ。
「……ああ、いいんだ。こいつはあやしい。何、問題があれば全部俺のせいにすればいい」
 何と強引な!
 元々こいつは警官や憲兵ではないからな。だからこういった違法捜査のようなことができる。
「強引なお方だ。最近の警察は皆、こうなのですか?」
「中にやましいものがなければ、俺たちが家に入ることぐらい何の問題もないだろ? それとも何か隠しているから、中に入れたくないのか?」
 こいつを止めることはもう無理だ。何が何でも入る気だな……仕方ない。ここは覚悟を決めるか。
「ではご勝手に入りなさい。わたしは二階で寝ている……体調が悪いのでね!」
「構いませんよ。……お前ら、モンキを見ていろ。俺は一階を調べる」

 わたしは二階に上がった。
 後ろからは憲兵が二人ついてきた。
 ……やはりついてきたか。だが、あのルーシーとやらが来るよりマシだ。
 最悪な場合は全員で一階、二階へと順に調べられることだからな。こうなれば逃げる隙もありゃしない。
 少し迂闊だったんじゃないか。え? ルーシー?
 
 わたしは二階の部屋に入った。
 二人の憲兵も当然のように入ってくる。
「全く、あの若い者は本当に警察官かね?」とわたしは二人の憲兵に言った。
「ええ、一応……。突然、今回のように突拍子もないことを言うので、我々も困っていますよ」
「だろうな。わたしが何をしたって言うんだ?」
「全く申し訳ない……」
 こいつら憲兵たちはまるでわたしのことを疑っていない。こういう奴らばかりだと、わたしもいろいろとやりやすいのだがな。
「じゃあ、わたしは寝るぞ。帰るときになったら起こしてくれ。戸締りはしっかりせんといかんからね」
「はっ」
 確か、ベッドの中にナイフがあったはずだ。……あった。こういうときのために家には至るところに武器を隠している。
 楽勝だろう。この二人を殺すことぐらいは。
 しかし、一階に残ったルーシーが厄介だ。たぶん、まともに勝負しても勝てないだろう。となると、ここはわたしの変装を使い、油断させるしかないな。
 くく、奴の慌てふためく顔を見るのが楽しみだ。
 わたしは引き出しに入れているセント・ストーンをズボンのポケットにねじ込んだ。
「ところで、あなたたち……」
 わたしは後ろ向きの憲兵に声をかけた。
 このとき、わたしの右手にはナイフが握られている。
「はい、何か」
 ザクッ……!
 
 わたしは一人の憲兵の喉笛をかっ切った。
 憲兵は一言も声を上げることはできない。血しぶきが飛び散る。
 憲兵はもう一人いたな。どこにいる……。
 もう一人の憲兵は部屋の扉付近にいた。
 何が起きたのかわからない感じで、腰を抜かして部屋から出て行った。
「ヒッ、アアアァー、ルーシィー……さ! 助けっ……」
 ちっ、面倒な。こう騒がれるとは思わなかった。
 しかし、憲兵ともあろうものがピストルならともかく、ナイフ一本持った殺人鬼に逃亡するとはいかがなものか。
 わたしはそいつを追いかけてナイフで一刺しした。急所を刺したので、これで絶命したはずだ。
 そして、叫び声を聞いたであろうルーシーはすぐにでも二階に上がってくるはずだ。
 ……ああ、忙しい。
 わたしが二階に上がったのは、戦力を分散させるため、もう一つは変装するためだ。
 ここには女ものの衣装がたくさんある。ま、一階にもあるがな。
 ルーシーはわたしが声まで変えられることは知るまい。
 
 静かだが、階段を駆け上がる音が聞こえた。
 わたしの変装にかける時間は十秒もあれば完璧にできる。
 慌てることさえしなければ、まず変装に失敗することはない。……いつも通りだ。あせるな……。
 ……よし、あとは演技だけだ。わたしのこの演技にルーシーが見破られるか、見ものだぞ。
「た、助けてっ! 男が、憲兵二人が……」
 わたし女の姿に化けてから、部屋の外へと転がり出た。
 数メートル先にはルーシーがいた。
「きゃっ! だ、誰ですか? あなたは……」
「警察官に近い人間だ。君こそ誰?」
「わたしは昨日、男にここへ連れて行かれたんです。町を歩いていたら無理やり……! それで、さっき憲兵の方が二人部屋に入ってきて、わたしを捕まえた男が二人を……」
「くそっ! あの野郎……。モンキは今、どこにいる?」
「あ、あの部屋の窓から……」
「……窓から逃げた?」
「ええ!」
「君は無事なのか?」
「はい!」
「……ところで、モンキってのは誰だ?」
「誰って、この家の主のことですわ」
「彼がそう言ったのか?」
「はい」
「……実のところ、お前がモンキ本人なんじゃないのか?」
 くそっ! 思いっきりばれているじゃねえか?
 しかし、何でだ?
 ……ここはしらばっくれるしかない。隙あらばナイフで一刺しだ。
 
「何を……、何を仰っているのですか? あなたは」
「お前の話が本当なら、俺の質問にこんな正確に受け答えする女は珍しいってことだ。……いや、俺は今まで一度もそんな女に会ったことはないね。こういうときはたいていの場合、恐怖で声も上げられないぐらいだ。お前、両手を上げてこっちに来い……どうした。なぜ来ない? 何を黙っている? ……お前は被害者じゃないのか? なら、こっちに来いよ。俺がそのモンキって奴から助けてやるからさ」
「……あなた、誰なの?」
「だから警察官に近い人間だと言っているだろう。警察官の制服は着てはいないがな」
「……信じられない」
「ああ、どっちでも構わんよ。お前がどう思おうがな。とりあえず、両手を上げてこっちに来い。そうしなければ攻撃するぞ」
 無理やりじゃねえか、こいつ。こんなにイカれた奴だったとはな。
 こうなったらもう俺の正体がばれていると思った方がいい。ここは潔く、逃げの一手だ。
 
 パリンッ……!
 わたしは急いで部屋に戻り、一着の衣装を持って、窓を破って逃走する。
「待て! ……やっぱり奴がモンキだったのか。しかし、見事な変装術! ジェダが騙されたというのは奴に違いない」
 そしてルーシーが窓から下を見て、こうつぶやいた。
「……落ちて死んじまっている。あのモンキが? まさかそんな……打ちどころが悪かったのか?」

 ルーシーがわたしの家から外に出てきた。……その時間およそ数十秒。
 ルーシーが家を出たとき、外には血だらけの死体が横たわっていた。
「死んでいる……? この大量の血では助からないな」
「ルーシーさん!」
 ルーシーの元に一人の憲兵が走ってきた。
 その憲兵はほとんど無表情だった。
「応援か? 早かったな」
「そんなことより……こいつがモンキですか?」
「ああ、こいつがモンキだ。血だらけで顔がよくわからんがな。奴は憲兵殺しだ。やられたよ。急いで二階に行ってくれ。もしかしたらまだ息があるかもしれん」
「わかりました!」

 ……ザク……
 
「……何……?」
 憲兵がルーシーの背後から腰をナイフで刺した。
「……死んでくれ。お前は優秀すぎた」
「貴様、モンキか? 一体、どうやって……」
 そう、この憲兵憲兵に姿を変えたわたしだ。
 さすがのこいつも緊迫した連続の中では判断力も鈍る。
 ルーシーの顔は青ざめていた。いつもの余裕の素振りはもうどこにもない。こいつのこんな表情、見るのは初めてだった。悪くないな……。
「まだ話すことができるのか? タフな男だな。最後に教えておいてやろうか? 簡単なことだ。お前が階段を下りて外に出る。そして、わたしが落ちたところに到着する。……この時間が三十秒だとするぞ」
「三十……秒?」
「うつ伏せになっていたわたしは側にいた通行人の喉を切り裂いて、わたしが着ていた服に着替えさせる。……これが十五秒。そして、わたしは部屋から持ってきた警官の衣装を着る。これが十秒」
「何が……言いたい?」
「簡単な算数だってことだ。計二十五秒。もちろんこんなこと、わたしにしかできないがな」
「くそっ! ……一体、お前は何のためにこんなことを?」
「一度、天下を取ってみたくてね。あんたみたいな優秀な奴は邪魔なんだよ。わたしにはこれといって力もない。だから人を欺くことでしか、のし上がれないんだ」
「まずい、意識が……」
「それが死ぬってことだ。もう眠ってくれ、珍品屋ルーシーよ。どのみち、この傷じゃあ助からん」
 ――突然、ルーシーがこちらを向き、わたしの顔を目がけてものすごいスピードで手刀を繰り出した。
「あっ、危ねえっ!」
 わたしは何とかそれを間一髪で回避する。
「まだ、そんな力が……」
「はぁ……はぁ……、よけられたか。やはり体の動きが……鈍くなってやがる……」
「そうだ。腰を刺されているんだからな。今はかろうじて動くことができても、もうすぐ死ぬ。……それとも病院に駆け込んで奇跡を願うか? もっともこの状態では病院に行く前に死ぬがな」
「……ちっ、棒を二階に忘れたか。最後の最後で……こんなつまらないミスを……」
「ああ? 棒だと? ……そういやそれがお前の武器だったな。噂によるとジェダより強いんだって? なら、わたしなんかより、よっぽど強かったんだろうな。手段がどうであろうと、わたしがお前に致命傷を与えた。もはやお前は動けない。わたしの勝ちだ!」
「……なめやがって……来いよ! 卑怯者が……!」
 ルーシーがゆっくりと構えた。
 ……こいつ、棒なしでもいけるのか?
 いや、それ以前にルーシーの体はもうぼろぼろの状態だ。生きているのが不思議なくらいだ。今でもふらついて、立っているのがやっとだろう。
「どうしてもとどめを刺してほしいようだな……」
「最後ぐらい、面と面を向かい合わせて戦え……卑怯者め」
 ……大丈夫だろう。こんな奴にわたしが負けるはずがない。
 それより、わたしがさっき言った奇跡が叶ってしまい、いずれこいつが全快する方が心配じゃねえか。
 なら、今、ここで確かな死をくれてやるのが正しい。
 何より、こんな死に損ないの奴に何度も卑怯者呼ばわりされることが気に食わん。
 ……ようし、いいだろう。勝負してやる。
 わたしはルーシーの元へと走った。
 
 こいつ! やはり、ふらふらしてやがる!
 もう限界なんだろう。こいつの突きを屈んでよけて、腹にナイフでもう一刺しすればわたしの勝ちだ。
 わたしは身を屈めようとした。ルーシーの手がわずかに動く。
 ……これだ。棒術と同じモーション。
 だが、今のルーシーは棒を持っていない!
 ルーシーの攻撃。それは手技ではなく、蹴りだった。
 わたしの首を狙った蹴りが放たれる。
 それは速いなんてものではない。これは店の乱闘であったときのノーモーションでの攻撃だった。
 ……何で瀕死状態のこいつがそんなことできるんだ?
 わたしはルーシーの渾身の蹴りをかわす結果となった。
 わたしは蹴りを見てかわしたわけでもなく、動きを読んでかわしたのでもなかった。
 ただ、ルーシーの攻撃は手技によるものと思いこんで、あらかじめ身を屈めただけだ。
 その判断がたまたま功を奏し、タイミングもドンピシャだったのだ。
 しかし、それでもルーシーの蹴りはわたしの肩をかすめた。それだけでわたしは後ろに吹っ飛ぶ。
「があっっっっっ!」
 肩? 肩が外れたのか? それとも砕けた? ……激痛が肩に走る。
 吹っ飛んだときにナイフを落としてしまった。
 まずい! このままでは負ける。
 今、ルーシーはどこにいるんだ?
 追撃して来ない? なぜだ? 追撃には絶好のタイミングではないか。
 いや、もしかして追撃しないのではなく、できないのでは?
 ルーシーが膝をついて、こう言った。
「……最後の蹴り……かわしやがったな。渾身の蹴り……。何が格闘の天才だ。こんなふざけた野郎によけられるなんてな。もう……力が……出ねえよ」
 ルーシーがその場で倒れた。
 やっと……か。こんなしぶとい奴、初めてだ。全く、こんな……計算外だ。何度、ヒヤッとさせられたことか。
 だが、それも終わりだ。永遠に眠れ。珍品屋ルーシーよ。
 
 ――周りに人が集まって来た。
 ……ふん、野次馬どもめ。暇な奴らだ。だが、今回はわたしのために役立ってもらうぞ。お前たちはわたしが逃げるカモフラージュとなるのだ。
 こいつらが騒げば騒ぐほど、わたしにとっては好都合だった。
「皆、気をつけろ! 通り魔だ。すぐ近くにいるぞ!」
 憲兵の姿をしたわたしがそう叫ぶと、連中は悲鳴を上げて逃げ回った。
「きゃああー!」
「ひっ……逃げろ!」
 一般人が次々にそう叫んだ。
 この辺りはパニック状態だ。誰一人、冷静な者はいない。狙い通りだな。
 くく、肝心の通り魔はわたしなのにな。
 あとはわたしもこの流れに紛れて、どこかに逃走するだけだ。
 わたしは家に戻って変装用の衣装も持って行きたかったが、それから足がつく可能性があったので置いて行くことにした。
 もしかしたら家に憲兵が駆けつけているかもしれない。
 もう家に戻ることはないだろう。というより、戻れなかった。
 セント・ストーン一つだけあれば事足りる。
 これさえあれば、わたしは天下を……。
 
 いきなり、走っているわたしの服を乱暴に掴む者がいた。
 ……体が動かない? そいつはかなりの力でわたしの服を掴んでいた。
「くっ……誰だ、貴様!」
「すまねえ、ちょっと聞きてえんだが、あんたこれは一体何の騒ぎだ?」
 わたしはすぐ、声をかけてきた男の顔を見た。
 ……とても信じられない。この男、忘れようにも忘れるはずない。なぜ、この男がこんなところにいるのか。
 男はジェダだった。