サイコー君のくま父さん

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『大泥棒』 その7

  3 騙すこと

 わたしは走ってから二十分足らずで森から出た。
 するとすぐそこには例の男がふらふらと立っていた。
「……男! さっきの男!」
 わたしがそう言うと、男は気づいてこちらの方を振り返った。
「お、お坊ちゃん。お帰りなさい」
「じゃあ、わたしはもう帰る。……わかっているな、ジェダのこと。例え、走ってここから移動しようとしても引き止めておくんだぞ」
「へい!」
「使いの者はもう三十分もしたらここに着くはずだ。あと十ゴルダー追加だ。その代わり、ちゃんと頼むぞ」
「さっ、十ゴルダーも? お坊ちゃん! お坊ちゃんはまるで神様のようだ。こんな俺なんかにこんな大金を……」
「いいか、しっかりやれよ。これは仕事だ。その報酬はきっちり仕事をしたら手に入るのだ。これは仕事の前払いだ」
 俺は馬車に乗って、ここから見えないところまで移動した。
 そしてジェダが森から出てくるのを待った。今とは別の変装も急いで行った。
 ――三十分ほどでジェダが森から出てくるのが確認できた。
 金で雇った男がすかさずジェダの元へ走って、わたしの伝言を言った。
 よし……!
 このとき、わたしは四十代後半の少し小太りな男に変装していた。
「お待たせしました!」
「俺……?」
「はい! 珍品屋ルーシー様からの依頼で参りました」
「すまない。乗る、すぐ乗るぞ! 料金は?」
「もうルーシー様からいただいております!」
「わかった。じゃあ、ノースデンまでだ。頼む」
「はい。わかりました」
 ルーシーの名前を出して警戒心を解いたな。まあ、単に疲労していたというのもある。
 このままチャンスを狙って……。
「また来てくだせえね~。旦那のお二人方~」
 金で雇った男がよけいなことを言う。
 何のためにもう二十ゴルダー払ったと思っているんだ?
 よく考えれば、こいつにジェダの足止めを頼む必要もなかったのかもしれない。
 万が一、ジェダがわたしより早く森を出たときのことを考えての予防対策だったが。
 わたしはつい、金で雇った男を睨んでしまったが、その様子をジェダに見られていることに気づいた。
 ……こいつ、警戒心を解くどころか、ますます強固なものになっているな。
 無理もないか、奴の鞄の中には三十万! 三十万ゴルダーの石があるんだからな。
「……ジェダ様はお疲れでしょう。ゆっくりお休みになっていて下さい」
「御者、悪いが事情があって、眠るわけにはいかない。ノースデンまでよろしく頼むよ」
 ちっ、眠っている間に奪ってやろうと思ったのに!
 だが、こいつが眠ったところで警戒心がゼロになるわけではない。
 眠ったこいつの鞄から石をあさろうとしても、奴の自慢のナイフに切り裂かれかねん。
 ……やはり正攻法、騙し取るしかないか。

 わたしは馬車を走らせ、二時間ほどでノースデンに着いた。
 馬の休憩のためと言って、ジェダを馬車から下させる。
 あせる気持ちを抑えて、わたしは昨日宿泊した宿屋に戻り、また別の変装をした。
 次は貴族だ。それもとびっきり宝石が好きな貴族。
 わたしのような者でもその名は知っている……わたしはフェヴァリットに変装した。
 本当は死体の皮を剥ぎとって変装するんだが、あいにくフェヴァリットはまだ死んではいない。そういう場合はいくつかの死体のパーツを組み合わせて作った、オリジナルのマスクを用意している。今回はこれを使おう。
 それに十万程度の金は必要だな。その分の葉っぱを……はっ!
 ……ふふ、我ながら最高の腕をしているな。葉っぱはあっという間に十万ゴルダーに変わった。ただし、時間制限つきだがな。
 わたしはジェダが気づくように、奴の前をさりげなく歩いた。
 ……気づくか? こいつなら気づくだろう。さあ、わたしに声をかけろ。貴族のフェヴァリットがお前の前を通っているんだ。
「ちょ……ちょっと待って下さい」
 ぱっくり食いついてきやがった。バカめ!
「……はて、わたしのことかな?」
「セント・ストーンについてはご存知ですよね?」
 いきなりきたか? まあそっちの方が話は早い。
 しかし、ジェダの奴。相当、ジャックに痛い目に遭わせられたな。びびっているのがばればれだ。
 そりゃあ、早く物証は処分したいよな……ここは少し大げさに驚いてやるか。
「セント・ストーン? あの……幻の宝石のことか? もちろん知っているぞ! まさか、君はそれを持っているのかね?」
「はい。ただ、少し値が張ります。ものがものですので……。そうですね四十……いや、五十万ゴルダー」
 五十だと? 三十万じゃないのか?
 こいつ、相手が金持ちだとわかるととんでもない値段をふっかけやがるな。
 ……まあいい。元は葉っぱだ。こういうことも考えて、百万ゴルダー相当の偽札を作るぐらいの葉っぱは用意している。
 だが、ここで奴のいい値で買うのは、少し不自然だ。
 ならば少し値切ってやる。そう、これが自然だ。それとも貴族が値切るのはおかしいかな?
「四十三万……四十三万ゴルダーならどうだ? それなら今すぐ払ってやる!」
「四十三万を今? 四十三万ですよ?」
「ああ、そういうときのために持ち歩いて来ているんだ。このトランクの中を見てくれ!」
 わかるか? お前に……。
 わからねえだろ? 本物の札にしか見えねえよなぁ~?
「仕方ないですね。四十三万で手を打ちましょう。で、このトランクの中身……せいぜい十万ゴルダーしか入っていませんよね? 残りはどこへ?」
 ……勝った。あともう少しだ。
 あせるな、にやける顔を抑えろ、最後まで気を緩めるな。奴は大泥棒なんだからな。
「ああ、宿屋に置いてある。来てくれ」
 宿屋に四十三万ゴルダーあるというのはウソくさかったか?
 しかも、わたしが住んでいるところは高い宿屋ではない。。
 ……ここは自然に振る舞うしかないな。
 
 わたしたちは宿屋に着いた。
 やはりぼろはぼろだ。何度見てもそれは変わらない。
「この宿に、本当に……あなたが?」
 ちっ、やっぱり疑うか。当然か……奴にとってもここが正念場だ。
「たまにはいいだろ。こういう庶民的な宿屋も。さあ、来てくれ。部屋に案内する」
 わたしはジェダを連れて二階の部屋に上がった。
「この一番大きな箱に金が?」
「いや、違う。それは衣装だよ」
 ……いちいち気づくな!
 どれだけ警戒しているんだ、このクソガキが。
「あったあった。これだ。残り三十三万ゴルダー。数えるかい?」
「いえ、そんな疑うような真似は……あ、やっぱりちょっと見せて下さい」
 ……ま、当然調べるわな。それが普通だ、こんな高額な取引だからな。
 わたしはジェダに渡すトランクを軽く撫でた。
 ……これで終いだ。たったこれだけの動作でこのトランクに入っている葉っぱは全て金に変わった。
 でも……わかんねえだろ?
 当たり前だ。わたしはこの術しかできない。だが、その代わり絶対に見破られない自信がある。
 こいつはわたしの変装にも気づいていない。
 お前も贋作作りをしているのだろう。偽札作りの経験はあるか?
 ジェダの奴、札を何度も指でこすってやがる。
 あーあー、匂いを嗅いでも無駄だ。この点についてもぬかりない。
「では、このお金とセント・ストーンを交換します。よろしいですか?」
「ああ、もちろんだ。いい買い物をした! ありがとうございました。ジェダ様!」
「え?」
 しまった……!
 こいつの名前を知っているのは前の御者の設定だ。
 こいつは確か、フェヴァリットの前では名前すら言っていなかったな。
だが、もう名前は言ってしまったものだし……。
しかも様を付けて呼んだのははいかん! つい、気が緩んでしまった。
……まずいな、言い直そう。これで何とか乗り切れるか?
こっちも正念場だ! 今更、引くわけにいかん!
「ジェダさん!」
「……はい。いいお買い物をしましたね。わたしも大変満足です。では、道中お気をつけ下さい。では、わたしはこれで……」
 やった、やったぜー!
 この野郎まんまと騙されやがったー!
 ジェダが見えなくなるところまで行くと、わたしは一人でこう言った。
「ずっとつけていたんだぜ……ずっとな。ふ……ははは、はははははーっ!」
 今、わたしの手元には目も開けていられないほどの輝きをする石がある。
 眩しい……!
 わたしはこの輝く石をじっと見た。
 偽物ではない。それは確実だ。貴族に宝石を売ったんだ。
 これがもし偽物だったら、まずジェダの命はないだろう。国中の警官が首を揃えて、奴を追いかけ回す。もちろん、ジェダもそんなことは望んでいないはず。だからこの石は本物なのだ。
 あのジェダが大金を受け取った、それが石が本物だという証拠だった。
 これが、セント・ストーンか。素晴らしいぞ、この輝き!
 あとのことはどうでもいい。今更、ジェダの奴をノースデンまで運んでやる必要などなかった。
 わたしは遠距離乗合馬車の前方に窓ガラスがはまっている車室に入った。そこは一番料金が高く、乗り心地が最高だった。
 ここの支払も葉っぱだ。いやはや、何と便利な力をわたしは持っているのだろうか。
 わたしはこの事実に感謝したい。でも、誰に?
 ……考えても誰に感謝するのがいいのかわからなかったので、考えることはやめて目をつむることにした。最高の気分だ。
 ジェダはジャックに勝ち、わたしはジェダに勝ったのだ。
 わたしは嬉々として、自分の家がある町に戻った。

 さて、セント・ストーンを単に売るというのは、いささかもったいない気がする。
 この国一番の権力者になることがわたしの目的だ。
 なら、献上しようじゃないか。今、この国一番の権力者に。
 その前にジェダはそろそろ金が偽物だということに気づいたか?
 万が一、報復される可能性もある。それが一番厄介だ。
 今、奴はどんな状態だ?
 知っておく必要があった。情報はどんなに世の中が変わっても、たいていは有効に進ませる大事なファクターになる。
 
 すぐにそれを確かめるのもリスクがあったので、しばらく日にちがたってから、わたしはルーシーの店を訪れることにした。
 ジェダとルーシーは友人だった。例え、ジェダがいなくてもルーシーからジェダの情報を聞き出せばよい。
 ようし、今度の変装は少女にでもしておくか。
 わたしは変装術に加え、変声術も身につけている。どんな声色でも出してやるぞ。
 わたしの住む家からノースデンまで多少、距離があった。
 二輪の小型乗合馬車に乗って、数時間かけてノースデンに向かう。
 
 ……馬車の御者がこちらをチラチラ見てくる。
 何だ、うっとうしいな。
 御者は中背で、少し猫背の男だった。鼻が大きく、笑うと歯がむき出しになった。
 印象としては真面目のとは真逆。つまり、不真面目な仕事ぶりだった。
「何を見ている?」
 男がずっとこちらを見ているものだから、わたしはつっけんどんに言い放ってやった。
「いえっ! 何でも……見ていませんよ」
 見ていただろうが。いやらしい目つきで。
 こいつ、今のわたしの姿に欲情しているのか。死んだ女の顔の皮を被って、女物の衣装を着た男に。
 どうしようもない奴だ。何で世の中、こんなバカばっかりなのだろうか。
 しかし、こういうバカが多い方がわたしの仕事はやりやすくなる。こんなに騙しやすい人種はいないからな。
 ちなみに美人のマスクは手に入りにくい。
 そもそも若い女性のマスクはほとんど持っていなかった。中年の男のマスクはかなり豊富にあるんだが……。
 なにぶん、マスクのほとんどがジャックに挑んで殺された人間のものばかりだ。
 今のマスクは確か、登山のときに足を踏み外して死んだ女のものだ。
 それにどれも十年はたっている。定期的にメンテナンスしているとはいえ、保存期間に不安があった。臭いや腐敗も緩やかではあるが、進行していた。
 新たなマスクを手に入れるために殺しをするか?
 それともまたジャックが住む森の中で数年間過ごしてやろうか。あそこは死体の山だからな。
 
 ……御者が馬車を止めた。
 しかし、そこはノースデンではない。一つ手前の町だ。それも人けのないところ。
 ノースデンに行くまではまだ一時間以上、馬車を走らせる必要があった。
「おい、何勝手に止まっている? 馬に何か変化でもあったのか?」
「へへ、かわいい顔して口が悪い姉ちゃんだな」
「客に向かって何だと……」
「ああん? いいことしようぜ。なっ! いいだろ? いくらだ? 二十ゴルダー出してやる。それならいいだろ?」
 御者がわたしの腕を掴み、体の上に乗ろうとした。
「怖いか、オネエちゃん? いいよな? ……黙っているってことはいいんだよな?」
 男がズボンを慌てて脱ぎだした。
 ……わたしは呆気に取られて、しばらく何も言えなかった。
「たっぷりとかわいがってやるからなぁ。ぐししし、このかわいいお顔をぐちゃぐちゃに汚してやるせぇ~」
「ぐちゃぐちゃに?」
「そうだ。お前も楽しめよ」
「なるほど……楽しむ。その通りだ。楽しんでやろう」
「その男みたいな言葉遣いもたまんねえ。いつまでそんなに冷静でいられるかな?」
 男の手がわたしのない胸に手を伸ばした。
 ……これは偽物だ、バカが。
 すぐに殺してやってもよかったが、少しムカついたので、こいつの言う通り、わたしは楽しもうとした。
 女のマスクを取ってやったのだ。
「ぎやあああああああああ――――――――――――!」
 若い女だと思って襲いかかった相手が、実は鼻のつぶれた男だったとはな。当然の反応だ。
 わたしは地声で言った。
 その声はとても低く、女の姿からでは想像できまい。相手にとっては大変な恐怖だったろう。
「これでもわたしの体に二十ゴルダーを払うつもりはあるのかね?」
「あひっ! ……ご、ごめんなさいっ」
「死ねよ、クズが」
 わたしは持っていたナイフで御者の首を切り裂いた。
 派手に血しぶきが飛んだ。
 ……しまった。そこまでは考えていなかった。顔や服に大量の血を浴びてしまった。
「ふん。血しぶきでせっかくの衣装が汚れてしまったじゃねえか。……ま、黒の衣装だ。それほどは目立たないか」
 さて、御者を殺してしまった。ノースデンまではまだ道のりがあった。
「仕方ねえな。この馬車はもらっていくか」
 わたしは馬車に乗って、再びノースデンを目指した。

 約一時間後、わたしはようやく目的地に着いた。
 このまま珍品屋ルーシーのところにまで行くとするか。
 おそらくジェダは気づいただろう。フェヴァリットが偽者だったということに。
 そして、過去にさかのぼって疑うはずだ。
 ……少々危険だが仕方ない。今後の安心のためだ。今、わたしは危険を冒す。
 
 カランッ……ギイィィィ……。
「いらっしゃい」
 店の中はルーシーだけか。客もいない。珍しいな。
「何をお探しで? お譲さん」
「いえ、ちょっと人を……ジェダさんという人はこちらに?」
「ジェダの知り合いか? へえ、珍しいな。あいつに女の友達なんかいたんだ?」
「ええ、ちょっと」
「こんなかわいい娘さんがねー。奴も隅に置けないな」
「いえ、そんなんじゃ……」
「ん? 顔が……」
「え?」
 ……こいつ、もしかしてわたしの変装に気づいたのか?
 そう言えば、ここに来るとき一回マスクを剥がしてしまったな。少しずれたか?
「あの、何か?」
「いや、何でもない。ちょっとな、いや、俺の勘違いだった。すまない。忘れてくれ」
「それでジェダさんはどこに?」
「わざわざ来てくれて悪いが、最近はジェダとは会っていないんだ」
「え……それはなぜですか? わたし、ジェダさんがここの店主さんと、とても仲がいいと聞いてきたので。だから今日もここにいるかと思ったのですが……あの、せめて何か知っているなら、何でもいいので教えていただけませんか?」
「うーん、あいつのことはあんまり人には言いたくないんだけどね。ついこないだ、ひどく騙されたらしくてね、それ以来ショックでずっと寝込んでいるよ。だからそれ以来会っていない。たぶんまだ引きずっているんじゃないかな……」
「そうですか……」
「ごめんねー。何ならあいつの家、教えてやろうか? どういった関係なの?」
「いえ、もういいんです。そうか、ショックでずっと寝込んでいるのかぁ」
「もう、いい?」
 用事は済んだ。もうここにいる意味はない。わたしは店から出た。
 くく、笑いを耐えるのがこんなに大変だったとはな。
 ずっと寝込んでいるだって? そりゃあ、四十三万ゴルダーが葉っぱになっちまったんだからな、仕方ない。
 ジェダがわたしを探すのに必死になっている。そういうことなら何とか策を考えて、とどめをくれてやろうと思ったが、そうする必要もない。
 奴はセント・ストーンをわたしから騙し取られたことで全てが終わったんだ。奴自身、人生も。
 騙された側の気分はどうだ?
 それはお前のチンケなプライドをズタズタにしてやったようなものよ。もうお前に用はない。
 この調子だ……このまま上りつめてやる!
 
 そんなことを思いながら歩いていると、前方からこちらに向かってくる女にぶつかってしまった。
「痛え! くそ、何やってんだ?」
「え?」
 おっと。つい、地声を出してしまった。
 浮かれていて変装していたことを完全に忘れていたな。
 ん……、喉の調子を整えてと……。
「ごめんなさい。つい、よそ見をしていましたわ。お怪我はございませんか?」
「いえ……ありません。こちらこそ……ごめんなさい」
「本当にごめんなさいね。では……」
 ふう、まあこれで大丈夫だろう。見たところ、とろそうな女だ。豆粒みたいに、小さくて踏んでしまいそうだった。
 何も疑うことなんて……何だ、あの女。ずっとこっちを見てやがる。
 ……あの女、どこに向かっていたんだ?