サイコー君のくま父さん

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『神の子』 その8

  4 卒業試験

「――ファラデーが発見した電磁誘導の法則は任意のグループに沿り、一回り積分した電磁とループをくぐる磁束の変化という、一見すると直接関係なさそうな二つの物理量を符合で結ぶ不思議な法則だ。どんな場合でもちゃんとした数学を用いればファラデーの電磁波誘導の法則が正しいことは証明できる。……これで講義は終わりだ」
 今日は俺が大学の教授として最後の日だ。それなりに大学関係者とパイプを持つことができたがそれほどの価値は見出せない。
 優秀な生徒も期待したがどれも並だ。ここに俺の求める人材はいなかったな。
 特に未練もなく、大学をあとにする。向かう先は研究所だ。やはり俺はこっちのほうが向いている。
 達人同士の殺し合いをさせてから四年がたった。俺は百々山に呼び出されていた。
 新たに訓練室を設けた。二階にはデータが採りやすいようにモニター室があり、そこから訓練室が見下ろすことができる。
 必要に応じてそこから指示を出すこともあった。訓練室とモニター室を挟む窓には、大砲の弾が直撃しても割れない防弾ガラスがはめ込んでいる。
 部屋の広さは少し狭くなったが、その分高さがある。建物の高さとほぼ同じだった。
 マーラの跳躍力から考えると、以前の畳の部屋では限界があった。できるだけ彼女の力を伸ばしたい。
 ――ウィィーン。
 扉が開く。中には百々山とマーラがいた。
「なんの用だ?」
「とうとう完成したぞ。神に対抗できる術を」
 その瞬間、ゾクリと来た。……これを待っていた。四年かかってついに成功か。このときだけは俺も子どもようにはしゃいでしまった。
「そうか、やったか! ではさっそく見せてくれ。どうなった?」
「まあ、そんなに慌てんでくれ。儂とマーラが開発したのは召喚術だ。つまり、神のいる世界からなにかを召喚する。神の世界のものだからな、当然神にダメージを与えることはできるはずだ」
 召喚術……そんなものが本当に可能なのか。早く見たい。その効果を知りたい。
「火、氷、雷撃など、見た感じではこの世の世界となんら変わりない。だが、確かに向こうの世界から召喚しているのだ」
「その証拠は?」
「儂ら二人はこの世界では到底あり得ない現象を引き起こすことに成功した。まずはそれを見てもらいたい」
「それを見ればわかるのだな? 神の世界……そこから召喚したということが」
「そうだ。お前もさぞ驚くだろう。……マーラ、こっちに来い」
 百々山に呼ばれ、マーラが一歩前へ出る。
 マーラは十四歳になっていた。もし神の騒動がなければ中学二年生になるのか。俺の家に神が来たときと同じ年齢だ。早いものだ、十四年……。
「人間の生命や精神の源よ。肉体および精神活動をつかさどる人格的な実在……。五感的感覚による認識を超えた永遠不滅の存在……宮崎、千依!」
「え……?」
 思わず声に出してしまった。こいつ……今なんて言った?
 宮崎千依? 妹の名前だ。もしかして……。
 目の前に現れたのは光り輝く千依。俺の妹だ。生き返ったのか?
「広造。あの子はお前の妹だが生き返ったわけじゃない。……あの世から呼び出したのだ」
「彼女はこれでも死んでいるというのか?」
「そうだ。動いてるだろ? だが死んでいるんだ。今見えるのは魂というやつだ。実体はない。これを頭に入れておいてくれ。これは神の体質に非常に似ていると思われる。この世界のものはお前の妹になんら影響を与えない。逆に妹のすべきことはこの世界にいるすべてに影響を与える。この意味がわかるか?」
 まさにそれは神のあの体質と同じだった。
「こいつで攻めれば神を倒せるはずだ。むろんそれを試すような実験台はないがな」
「彼女と話をすることは……できるのか?」
「やってみろ。聞くより自分で試したほうが納得がいくだろう」
 俺は千依の前に近づいた。恐ろしいまでの無表情。俺のことが見えているのかどうかもわからない。
「俺がわかるか? お兄ちゃんだ」
「…………」
 千依はなにも言わない。どういうことだ? 俺を忘れたのか? 俺はお前のことを一瞬たりとも忘れたことがないのに。
「無理だろ? いくら話しかけても……。お前の妹はまだ不安定だ。たぶんこのまま開発を重ねていけば動くこともできるだろう。鍵はマーラがどれだけレベルアップできるかだな」
「マーラの術力が上がれば千依は動くし、言葉も話すようになる……そういうことか?」
「そんな感じだ。より人間らしくなるだろう。今は犬みたいなもんだ。簡単な命令なら従う。訓練は必要だがな。おっと、犬とは不適切だったな。気を悪くしたのなら謝る」
「いや、その表現で正しいかもな……。簡単な命令というのをしてくれ。今の状況をより把握しておきたい」
 百々山がマーラに目をやると彼女は頷き、千依に命令を下す。
「前に……進めっ!」
 千依はボーっとしたまま前へ足を出す。一歩一歩ゆっくりと歩いた。
 この千依は神の対抗策になり得るのだろうか。どう見ても戦闘向きではない。生きていたときから千依は闘いを望むような子ではなかった。
「……百々山、悪いがこれが本当に神殺しに役立つのか?」
 百々山は答えた。
「確かにこの程度では無意味。だが、ここから一流の戦士に育てることも可能だ。実際に試してみるしかないな」
「試すだと? マーラがこれほどまで力をつけるのに何年かかったと思っているんだ? 神殺しの計画はあと二年後だ。引き延ばせというのか?」
「お前らしくもない。珍しくカッカきているな。それは久しぶりに妹の顔を見たからか?」
 図星だった。今の俺は冷静さに欠けていた。
「マーラにかなりの自信を持っているようだな。期待もしている。考えてくれ、この状態の妹……千依といったか? 千依は霊魂の状態だ。霊魂の千依が勝手に強くなるわけじゃない。強くなるのはマーラだ。彼女がレベルアップすれば千依も自ずとレベルアップする。……賭けてみないか? 儂はこの賭け、大いに賭ける価値があると思う。これ以外、神に勝つ方法などはない」
 俺とマーラだけでは霊魂の召喚術に辿り着くことはなかっただろう。最強の術師、百々山源内が言うのだ。この言葉、信じるべきだ。
「わかった。その方向で進めていきたい。今度もマーラのことを頼む」
「ふふっ、それがの……もう無理なんじゃ」
「無理? どういうことだ?」
「寿命だ。前に言っただろう? 儂の命はもう短いとな。おそらくもう数日も生きていけん。体がそう訴えている。……広造、ここの生活はそう悪いものではなかった。マーラは教え子であり後継者。そして孫のような存在でもあった。お前も同じだ。勝てよ、神に……」
「それなら尚更、マーラが神に勝つところ自分の目で見ないとな。……しばらく休暇をやろう。体を休めるがいい。そして調子を戻してからは――」
「もう無理だ。人間には老いという命の限界がある。こればっかりは儂でも防ぐことはできん。休暇はありがたくいただくとするよ。実は歩くだけでも精一杯なんだ」
 百々山はふらふらとした足取りで訓練室を出ていった。……老いか。確かにそれも人類最大の敵ではあるな。
「プロフェッサー……」
 俺が大学の教授になって、マーラは俺をこう呼ぶようになった。だが、教授も今日で終わりだ。俺の呼び方なんてどうでもいい。マーラがそう言いたいなら言わせておこう。
「百々山の指導は終わりだ。続きはお前と俺たち研究スタッフが引き継ぐ。より多くの優秀な人員を配置し、細かなデータを取ろう。これできっと神に勝てる」
 霊魂状態の千依を闘いに参加させることは少々乗り気ではなかった。だが、それで勝算があるのなら試さないわけがない。
「……待てよ。別になにも千依でなくてもよいのではないか? 四年前の催し。あのとき数十人の死者が出た。その者を召喚してはどうだ?」
「できないんです……わたしに深い関わりがなければ術は成功しません。相性の問題です。これまで千依さんしか術の発動は成功しませんでした」
「そう、か……お前には前から妹の話を聞かしていたからな。仕方ない。では妹を使え。そして必ず勝ってくれ」
「はいっ!」

 ――それから五日がたった。
 百々山はこの日に亡くなった。死因は老衰。自分で予言した通りになったな。簡素だが葬式の手配を行った。彼に親族はいない。というよりも連絡のしようがない。彼は随分前から一人で暮らす道を選んだ。自分と対等な人間に今まで出会えなかったことが寂しかったのだろうか。
 死に顔は安らかなものだった。きっと彼は最後にマーラとともに試行錯誤し、召喚術の成功まで辿り着いたことに満足したのだろう。
 俺が思うに彼はとんでもない男だったが、最後に地球を救ったと言っていいのかもしれない。神に勝てる術の発見。彼の功績は非常に大きい。
 俺もマーラも涙することはなかった。悲しいという感情よりは貴重な戦力が削がれて残念な思いだ。彼の代わりになる者はいない。
「ちょうどいい機会だ。残りの期間は二年。もうそろそろいいだろう。竹上と羽賀からまだ学ぶことがあるか? 百々山同様、二人の師匠ともお別れするときではないか?」
「そうですね。わたしは彼らを超えました」
「なるほど。ではそれを証明してもらうか」
 俺は竹上と羽賀を呼び出した。マーラを強化したという功績で彼らは研究所内で贅沢な暮らしをしていた。牢獄などではない。一流ホテル並みのおもてなしだ。だが、それも最後。
「――い、いきなりだ? そんなの横暴すぎるっ!」
 声を荒げるのは羽賀だ。……言いたいことはわかる。彼もこうなることを少しながら予想しただろう。
 竹上はじっと黙っていた。それはどこか諦めのように見えた。
「マーラはもうお前らを超えた。これ以上お前たちにどんな存在価値がある? 反論があるなら言ってみろ」
「確かにマーラは俺たちを超えたかもしれねぇ。でもな、これじゃあ約束が違うぜ。マーラに殺人の知識やテクを教える代わりに、一生遊んで暮らせる環境が手に入るんじゃなかったのかよ?」
「マーラに勝ったらな。認めよう」
「バカな……勝てるわけがない」
「自分の教え子だぞ。なにをそんなに恐れる必要がある。なにもお前に素手で闘えなどとは言っていない。望む武器はすべて用意してやろう。遠慮なく言ってくれ」
「おっ♪」
「二人がかりでかかってきてもいい。もちろん相手はマーラ一人だ。これだけハンデをつけたら少しはマシな勝負ができるだろう」
「……わかった。っていうか、あんたは俺たちがなにか言って意見を変える人間じゃないだろ。じゃあやってやるよ。でもよ、もし俺たちと闘ってマーラが死んだらどうする? あんた、これまでの苦労が水の泡だぜ」
「マーラ……お前はこの二人と闘って死ぬ可能性が少しでもあるのか?」
 マーラは答える。
「いえ」
 わずか二文字。足元にも及ばないと言っている。竹上たちにとってこれ以上の侮辱はなかった。だが二人はなにも言えない。まんざらでもないみたいだ。
「竹上。お前はどうだ? なにか必要な道具があれば言え。すぐに用意してやる。……そうだな、これを彼女の卒業試験としよう。決行日は今から二十四時間後、明日の午後四時とする。解散だ」
 俺とマーラが訓練室を出ようとするとなにかがものすごいスピードで向かってきた。
竹上だ。
 ――キィィンッ!
 竹上が俺を刀で斬ろうとした。だがマーラが間に入り、それを持っていた小刀で防ぐ。
「……なんの真似だ。竹上」
「なるほど、大した反応だ。俺たちを超えたというのは本当かもしれないな。しかし俺たちとて、かつては世間を恐怖に陥れた殺人鬼二人。そう簡単には負けない」
「俺に刀を向けたこと、今回だけは許そう。だが次はない。そのときは後悔するほど凄まじい死をくれてやる」
 マーラは竹上の不意打ちを難なく防いだ。最強のボディガードの誕生だな。しかし、俺ももはや狙われる身だ。一人で行動するときは気をつけなければ。
「マーラ、自分の部屋で待機だ。集合は明日の四時に訓練室。それまでは自由に過ごせ」
「了解しました」
 マーラにも部屋を一室与えている。といっても殺風景な部屋だ。必要最低限なものしか置いていない。精神修養するなら一人集中できる場所がいい。マーラは一人になっても手を抜くことはない。勝ちへのこだわり。それが彼女を最強の戦士にした。

 翌日。時刻は午後四時だ。マーラの卒業試験が始まる。
「――要求通りの武器は揃えた。使え」
「へっへ、どうも」
 武器の要求をしたのは羽賀だけだった。竹上は自分の刀一本で勝負する気だな。潔い。
 羽賀が用意させたのは大砲の弾。そして筒。
 筒は小さなものだが、それでも反動は大きい。この男はそんなものを両肩に二つも背負うのだから恐ろしい。背は低いが、恐るべき背筋と足腰の強さだ。あとは突撃銃。手榴弾銃火器類ばかりだ。
「これだけあると勝敗もわかんねぇな。勝てば一生食うことには困らん。俺の天下だ!」
 同じ殺人鬼でもこうも性格が分かれるとはな。だから人間は面白い。
 マーラの武器は昨日使っていた小刀だ。他にも体のどこかにいくつか隠しているのだろう。それをわざわざ俺に伝える必要はない。やはりスピードを重視したスタイルか。しかも今では百々山直伝の術がある。派手な闘いになりそうだ。
「お互い準備はいいか? ……この試験では死者が出るかもしれない。そうなるともう話すこともできなくなる。なにか言いたいことがあれば言っておけ」
 初めに羽賀が言った。
「マーラ。お前ほどセンスのある人間はいない。俺たち二人を相手して、見事勝つことができれば間違いなく地球上で最強だ。思いっきりこい。こっちも死ぬ覚悟でやってやる。そうじゃないととても勝てそうにねぇからな」
 次に竹上が言う。
「恐ろしい女だよ、お前は。もし我々に勝つことができれば、そのときは勢いに乗って神にも勝て。負けるなよ……」
 さすが師匠といったところか。それぞれがマーラを称賛する。認めているわけだ。一人の戦士として。これに対し、マーラは彼らにどんな最後の言葉を送る?
「全力で来て下さい。もはやわたしの相手になるのはあなたたちしかいない」
 いい言葉だ。さらに緊張感が増してくる。
「では……殺し合いの開始だ」
 ダダダダダダッダダダダダダ……ッッ!!!
 ――しょっぱなからこれか。狂ったように突撃銃を撃つ羽賀。単発の銃弾とは違い、人間がこれに反応するのは不可能に近い。
 キィンッ! キィンッ!
 弾いた? ……なにが起きている? 銃の弾はマーラに向かって飛んでいるが直前で軌道を変えられていた。
「くっ……! やっぱかよ。とんでもねぇ女だ!」
 マーラは防御系の術を使ったのか。羽賀の今のセリフは一度見たことがある言い方だった。
 マーラには銃弾が効かない。だが自動でガードしているわけでもない。羽賀にも勝ち目があった。いかにしてマーラのガードを揺さぶるかだ。戦略を練らないと彼女には勝てない。
「くっそ……どうなってんだよぉ、これはぁぁっ!!」
 どれだけ撃っても無駄だ。それでも続けるとマーラから接近してくるぞ。銃の弾とて無限ではない。攻め方を変えるしかないな。
 次に羽賀は手榴弾を投げだした。
「これでどうだぁ!」
 ふわりと投げたものだから、マーラはゆっくりと後ろに跳ぶだけでいい。回避は簡単だ。
 ――ボムッ!! ボムッ!!
 訓練室に煙が充満する。……モニター室にいておくべきだったか。
「は、ははは。どうだっ!」
 確認しなくてもわかる。煙の向こうから何事もなかったかのように立っているマーラが見えた。
「なんでだよ? もうこんなの人間じゃねぇだろ。どうやったら勝てるってんだよ!!」
 今度は手榴弾をバウンドさせた。通常、ピンを抜いて手榴弾が爆発するまでの時間はおよそ三秒。マーラは一気に近づき手榴弾を小刀で打ち返した。まるでボールをバットで打つかのように。
「うぇぇぇっっ!!!」
 ……バカ。この距離、俺や竹上も巻き添え――
 ――ボウンッ!!
 ギリギリ影響はない。もろに煙の中に入ってしまったが。
 羽賀にダメージはなかったが、ビビって腰が抜けていた。マーラはわざとこの距離を狙ったのだろうか。……ま、俺も近くにいたからな。爆死を避けたのは正しい。
「羽賀、座ったままでマーラの攻撃を受け止められると思うのか? 立て」
「へ、へへ……こうなったら最後のあがきってやつだ。耐えられるか、このすべての武器を使った総攻撃をッッ!!」
 羽賀は俺の前まで移動した。……こいつ、俺の前だと手榴弾は返されないとわかっているな。使える手ならなんでも使うのが戦闘の鉄則。だが、俺が利用されるとなれば不愉快だ。それに恥ずかしくないのか? 仮にもマーラの師匠だぞ。マーラの圧倒的な実力と比較すると、こいつの存在などクズでしかない。
 羽賀は手榴弾を投げ、爆破する前に銃を構える。そして連射。辺りは爆音が鳴り響く。
「ヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒッッ!!!!」
 お前はまだ気づかないのか? こんなのただのめくらましにしからない。
「こいつでトドメだ。くらえぇぇーッッ!!」
 羽賀が背を丸めた。背中の大砲がマーラに向けられる。羽賀の持つ中で一番攻撃力の高い武器だ。さすがにマーラもこれを受けきるのは難しいか?
 煙でマーラが見えない。彼女は自分に大砲が向けられていることに気づいているのか?
 ――ドン、ドン!! ……ボッコォォォォォォォッッッッ!!!!!!
 くっ……訓練室が揺れる。なんというパワー! 大砲は壁に直撃した。問題はその途中でマーラが当たっていないかどうかだ。
 爆音と同時に発射された大砲。スピードは申し分ない。
「死んだ……死んだぞっ! マーラは出てこない! 死んだんだ! 俺が殺した。これで俺は無罪放免だ。金も手に入る!」
 さて、そう簡単にいくかな……。
「は、はは。やっぱり人間だよ。大砲をくらってまともに生きてるなんて……」
「――誰がまともにくらったの?」
 平然とマーラが煙の中から出てきた。……いい化け物具合になったじゃないか。
「切り札をなくしたあなたを殺すことは簡単。でもわかっている勝負にけりをつけるのは……正直面倒くさい。自害なさい」
「じっ、じがっ、自害? よく言えたもんだな。あらゆる武器の使い方や知識、それに兵法だって……それらをお前に教えてやったのは誰だ? この俺だろう? その俺に向かってこの口の利き方は……」
 もはや羽賀など殺す価値もない。殺人鬼といってもただ武器を使って人を殺めたにすぎない。本人自身に特別な力が持っているわけでもない。
「マーラ、こいつに自害する覚悟などない。お前が殺してやれ。楽にな」
「了解しました。プロフェッサー」
 次は竹上だな。この調子ではこいつもマーラの敵ではないだろうが。
「待て……近づくな、マーラ! 近づくなってんだよぉ!!」
 羽賀の怒鳴り声に思わずマーラが足を止める。……ただの時間稼ぎ? それとも奥の手があるのか?
「正直よぉ、おめぇには勝てねぇよ。広造がこう言うのもわかっていた。俺に生き残る道はないってな。それも闘う前からだ。……読みは間違っていねぇ。だったらなぁ、最後の手段を使うぜぇっ!!」
 ――ダダッ、ダダッダッダダッダダダダッ!!
 こいつ、俺に撃ってきた!!
「広造を殺す! これしかねぇ――ッッ!!」
「プロフェッサーッ!!」
 マーラがこんな声を上げるとはな。初めて聞いた気がする。
 一秒間に十発程度する仕込み銃。それが約五秒の間発射された。ということは五十発以上の弾が俺を襲ったわけだ。俺に当たらず通過した弾が四十発。盾代わりにして構えた義手に当たったのが六発。残り四発が腹と左足に当たってしまった。
「こいつ……よくもプロフェッサーを!」
「――待て。そこを動くな、マーラ。こいつらには一度注意してある。二度と俺に攻撃するな、と。だが羽賀はそれを破った。これは万死に値する」
 羽賀は言った。
「それがどうした? お前になにができるんだよ? お前は金持ちでちょっと頭がいい、女に守られるだけの情けない野郎だ。お前を殺してここを抜けだしてやる。ついでに金も奪ってなぁ!!」
 気が狂ったか……例え俺を殺しても、お前はマーラには勝てないだろう。俺に銃を撃ったことでマーラはキレている。しかし、いいデータが取れた。闘いは常に冷静にだ。こんなことでマーラの感情が揺さぶられるとはな。感情をコントロールする訓練が必要だ。それに気づいただけ、最後に羽賀は価値のある行動をした。
 だが……まだマイナスだな。プラマイゼロぐらいになれば奇跡的にこいつを助けてやってもいいのだが。
「おい、もうなにもないか? まだなにか新しい発見があれば俺の考えが変わるかもしれない」
「はぁ? ……意味わかんねぇよ。お前は俺に殺されるんだ。発見だって? そんなにマーラを完璧な殺人マシーンにしたいんだったら、お前を殺してやる! 最愛の人間が目の前で殺されるんだ。こんなにショックなことは他にないぜ。冷徹になれるだろうよぉ」
「マーラに足りないのはやはり精神的な部分か。しかし俺が死んだところでなんの意味もない。俺は彼女にとって悪魔のような存在だ。最愛だと? お前は今までなにを見てきたんだ?」
「うるせぇっ!!」
 ――ドンッ!!
 倒れたのは羽賀。撃ったのは俺だ。
「この義手に温かみはないが、高性能な武器をいくつも搭載している。お前の持っている銃なんかでは命中精度が違う。お前は俺に負けた。大好きな銃で死ねるだろ? お前にとってはいい最期じゃないか。マーラを育てたせめてもの感謝だ。安らかに眠れ」
「ちく……しょう。お前ら、イカれてやがる。俺以上に……この……」
「そんなこと、とっくの昔から知っている」

 羽賀は死んだ。だが、これといって損失もない。なんら俺たちに影響はない。
 ゆっくりと視線を竹上に移す。彼もそれに気づいているはずだ。
「お前はどうする? 闘うか? 選ばせてやる。どうやって死にたい?」
「……どうしても俺を殺したいわけだな」
「まあな。一応お前たちは囚人だ。父の力で一時的に刑務所から出てきているだけにすぎない。そして国はこのことを公表しない。だったら死んでくれたほうが都合がいいんだよ。わかるな?」
「初めからそのつもりで……」
「いや、それは違う。マーラは思った以上に強くなった。だから不要な人間が出てきたのだ。それがお前だ。……いい加減諦めろ。それほど苦しまずに死ねる毒薬も用意できるが?」
「では……師匠として最後のあがきをするかな」
 お前がそう言う時点でもう負けは決まっている。勝負ではなくあがきと自分で認めているのだ。それでは勝てる道理がない。
「マーラ、やってやれ。なぶり殺しはしてやるな。慈悲をもって、早く、圧倒的に、苦しむ間さえ感じることなく殺してやれ」
「はい」
 見るまでもない。俺はこれからマーラの強化メニューでも考えるか。
 ちょうど訓練室を出ると、後ろから音が聞こえた。それは少しの迷いもない、たった一振りの人の肉を斬った音。