サイコー君のくま父さん

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『玉碁高校 アイラブ・シンブン』 その6

  2 ゴールデンウィーク

 この調子で俺たち新聞拡張部は、それぞれ割り振られた仕事を着々とこなした。
 四月が終わりそうになると、俺は三時間ほど回れば安定して一件の契約をとってこられるようになった。自分でも大した進歩だと思う。春香の場合は初めからもう仕上がっている状態だったので、毎日三件から十件の契約数は変わらない。
 これでだいぶ報道部の発行部数に近づいたんじゃないかな。
 ゴールデンウィークに入ると学校が休みになるので、もちろん授業はない。でも新聞拡張部にとっては休みなどないのだ。
 ゴールデンウィークは新聞拡張の絶好のチャンス。部長たちも早めに新聞の編集を終え、新聞拡張に精を出す。部長、椎名さん、ナッツ……この三人が合わさって一日の契約数は一! ……俺一人とあまり変わらないわけね。
 でも彼女たちも進歩だ。一件でもすごいと言ったらすごいかもしれない。
 こういう祝日の日は一般人だけではなく、学生に売り込むことも比較的容易にできる。同じ家でも三日続けて行けば、いつかは会うことができるはずだ。
 俺はクラス名簿を持って、まずは友人たちに当たっていった。
 ――まず一軒目。同じクラスの森という男だ。パソコンが好きでパソコン部の副部長をしている。体型はちょっとぽっちゃり気味。
 彼ならきっと新聞に興味を持ってくれるはずだ。訪問するのは初めてだった。たぶん驚くだろうな。俺は家の前に自転車を止め、インターホンを押した。
 ピンポーン……。
 のっそりと玄関のドアを開ける森。
「――おす!」
「あ……笹宮? 高校の笹宮?」
「おう、そうだ。いきなりでビックリしたろ?」
「うん……で、どうしたの?」
「いやぁ、今日はゴールデンウィークで休みだろ。だからちょっと遊びに来た、なんてな!」
「……言ってる意味がわかんないんだけど」
「パソコン部は休みの日、特に部活動はないみたいだな」
「まあ、そうだけど」
「最近はどうだ。その……パソコンの具合は? っていうか、俺は今タイピングゲームにはまっているんだけど、オススメのゲームとかあるか?」
「笹宮ってゲームするんだ。ふーん、それは知らなかったな」
 いや、しないんだけどね。ゲームの知識はほぼないと言っていい。なんとか新聞の話題に持っていきたいんだが、なにを話せばいい? 考えろ、俺。
「そうそう、ゲームって言えば最近の円安がけっこう効いているんだって? ゲーム業界も輸出で潤ってんじゃないの? これからの新作が楽しみだなぁ」
「へー、なんか詳しそうだね、業界の人みたい」
「そうか? いや実はな、新聞読んでんだ、俺」
「新聞? こんな時代に?」
「俺も初めは読む必要なんてないって思ってたんだけど、いざ読んでみるとこれが面白くてな。なんだったら森も……」
「ぼくは新聞が嫌い。ゴミになるし、情報だってネットのほうが早い」
 まるでちょっと前の俺を相手にしているようだ。……しまったな。こういうとき春香でも横についてくれていたら新聞に対する興味も沸いただろうに。そう、俺のように……。
「まあ言いたいことはわかる。確かにゴミになるし、情報だってネットに比べるとちょっと遅い。でも、それがいいって人もいるんだ。新聞を編集している人がどんな思いで記事にしたのかを考えるのも面白いぞ」
「いい……新聞はとらない」
 ダメか。まるっきり脈なしだな。まるで新聞を恨んでいるようなぐらい毛嫌いしている。こういう場合は引くのが一番だ。押し売りは一番してはいけない行為。次を当たろう。
「そうか……わかった。すまなかったな、じゃあ俺はこれで」
「ちょ、ちょっと待て。お前の言いたいことってそれだけか?」
「ん? いいよ。よかったら何か話そうか?」
 学校の話でもするのかなーなんて思っていた。しかし、こいつがこんなこと言うなんてな。えっと……。
「実はな、お前に聞きたいことがあったんだ」
「なんだよ? 言ってみな」
「俺さ、お前が何日か前にクラスの神高と歩いているところ見たんだよ」
「神高ぁ……? あぁ、春香のことか。そりゃあ同じ部活だからな」
「ウッソ? だって彼女って新聞部じゃねぇの? お前、あんなとこ入ったのかよ?」
「なにか勘違いしてねぇか? 春香は今、新聞部じゃねぇし、あんなとこって……どういう意味なんだよ?」
「知らないのかよ? 新聞部の部長、東条文香! あいつさえいなければ、ぼくも新聞部に入っていたかもしれないのに! お前はよく東条と同じ部活なんてやってられるな」
「違う。春香は新聞拡張部だ。さらに言えば、お前の言う新聞部は報道部になっているよ。……でも、どっちも新聞を扱う部だもんな。はたから見たら一緒に思われても仕方ない。それよりそんなこと言うなんて、お前って春香のことが好きなのか?」
「え……どっちかっつーと、そうかな」
 身をよじるな、気持ち悪い。……こいつもゆくゆくは新聞拡張部に入るのかな? もろに春香目当てだから部長とナッツのチェックが厳しいぞ。
「なあ、新聞拡張員部ってどんなことしてるんだ? そんなマイナーな部、聞いたことがないぞ」
「認識不足だねぇ。まあ、できたのは最近だし、部員も少なかったからな。知らなくても無理ないか」
「そ、それで? 一体、どんなことしてんの?」
「俺が今、お前にしていることとかまさにそうだ。けっこう辛いぜ。一緒にやるか?」
「でも……恥ずかしいだろ。新聞勧誘って。それに誰も読まねぇよ、新聞なんか……」
 恥ずかしい? お前はなにも知らないんだ。どれだけ彼女たちが必死にやっているかを。森の言動に俺はイラッときてしまった。
「だったら入ってもらわなくても結構だ。彼女はお前の言う『新聞なんか』のために毎日頑張っている。春香のことが好きだったらまず新聞を好きにならないと何も始まらないと思うぜ。それだけあいつは新聞に懸けてんだ」
 俺は踵を返そうとしたが、一瞬立ち止まって顔だけ振り向いた。……待てよ。ちょっと卑怯かもしれないが、今は一つでも契約が欲しい。ちょっとした取引をするか。
「春香の写メ。欲しくないか?」
「えっ、マジで? いるっ! いるいる! 欲しい!」
「なら契約だ。一枚で一か月。三枚で三か月だ」
「ええぇ~、金取んのかよ?」
「あくまで新聞代だ。よく考えてみろぉ、お前は憧れの春香の写メがもらえる。さらに彼女の趣味である新聞を読むこともできる。いいこと尽くしだろうが」
「……で、一部いくらよ?」
「五十円。一か月で千五百円だ」
「けっこう高いな……」
「なぁに、雑誌を毎月二冊買っていると思えば安いもんだ」
「わかった。じゃあ一か月! その代わり、ちゃんと写メくれよなぁ!」
「おぉ、がんばってみるわ。まいど!」
 森から千五百円を受け取り、俺は他の家へと向かう。
 春香のファンがいるとはな。あんなにかわいかったら当たり前か。しかし、パソコン以外何も興味を持っていないと思っていたあいつがねぇ……。
 わからないもんだな。でも勢いで言ってしまったとはいえ、彼女の写メ……。
 別に問題ないだろう。手や足の一部でも春香だったらいい。顔の映っている写真とまでは言っていない。
 やはり同級生なら新聞も売り込みやすく、順調に契約数が伸びていくな。
 そして一日に五件もの契約をとるという快挙を成し遂げた。

 さらに俺たちの快進撃は続く。
 なんとこのゴールデンウィークの間に、ついに報道部の発行部数である二百六十三部を超したのだ。
 これで新聞拡張部の存続はかなり決定的なものになった。
 あとは人員が整うまで、俺たちが総出になって新聞の編集をすればいいとのこと。勝負の期間は五月末まであったがそんなに時間はいらない。目標達成だ。
「――なぁ、部長?」
 ゴールデンウィークの明け。今日は五月七日だ。普通なら祝杯モードのはずだったが部長の顔色があまりよくない。
「どうしたんだ? 普通だったらもっと喜ばねぇの?」
「おかしいんだ……なにもかもがうまくいきすぎている。東条がこんなに容易くやられるわけはない。言いたくはないがあいつはけっこうキレ者でな、切り札をいくつも持っているタイプだ。必要に応じてカードを切り、相手を見事に打ち倒す。しかし、それがどうした? わたしたちはあっさり奴ら報道部の発行部数に達してしまったぞ」
「俺たちがすごすぎるだけだろ。特に春香。契約数で言うとダントツだ。それに編集のほうは部長たちがずっとがんばってくれたんだ。努力の結果じゃないか」
「そう信じたいのだが、まだ何か忘れているような気がする。重大な見落とし。……勝負の期間は五月の最終日だ。そのとき六月の購読数を競う。笹宮っ、最後まで侮るな。報道部のほうも拡張行為を行っているかもしれんが、向こうには春香のようなカリスマ拡張員はいないはず。拡張スキルさえ持っているのか疑問だ」
「俺たちはなにをすればいいんだ?」
「お前たちは今やっていることを継続。……わたしは明日、偵察に行ってくる。確実に勝つためには今の報道部をもっと詳しく知る必要がある」
「そんなことして大丈夫かよ。敵対関係なんだろ? 本当の情報なんか話してもらえないと思うぜ」
「大丈夫。ヘマはしないから」
 椎名さんたちも口元を真一文字にしている。まだ油断はできない? 未知なる恐怖に俺は待って臨むしかなかった。敵は思ったより強大だ。