サイコー君のくま父さん

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『大泥棒』 その6

  2 企み

 わたしは山から下りると、いろいろなところを旅した。
 家賃が安い上に二階建ての家があったので借りた。
 多少、ぼろかったが、そのぼろさが家の存在を目立たなくしていた。詐欺師にとって目立つことは危険なことだった。
 わたしにとってはこの家は条件に合う家だった。
 この家には今まで貯めておいた金と、変装用の衣装、マスクを保管している。
 わたしはたった一つの力と技術があった。
 力の方は、葉っぱを金に変えるという力だ。ただし、これは四、五時間で解けてしまう。そうなると葉っぱに逆戻りだ。
 技術の方は変装だ。わたしは老若男女、誰にでもそっくりに変装できる。
 その精度は自分で言うものなんだが、超一級品と言ってもよいだろう。
 わたしはこの力と技術によって、天下を取ろうと思った。だが、わたしには腕力や知識も持っていない。
 そこで、わたしは人を騙して金を稼ごうとした。
 まずは金がなければどうしようもないからな。食うにも、泊まるにも、移動するにも金がかかる。
 葉っぱを金にすることはできたが、数時間しかもたない。
 わたしは葉っぱを変化させた金で高額なものを買おうと思った。これなら葉っぱに戻ることはない。換金することによって本物の金を得ることも可能だ。
 
 さて、どの店がいいだろう……。
 わたしはいろんな町を歩き回ったが、一件、何となくだが特に気になった店があった。
 珍品屋ルーシー?
 小さな看板にそう書いてある。しかもかなり乱暴な殴り書きだった。読むことすら少し難しい。
「入りたければ入れよ」とでも言いそうな、あまり客のことを考えている感じではなかった。見た目は何屋なのか想像がつかない。住宅でも店でもない。そこに異様な雰囲気だけはあった。
 珍品屋……珍品屋だと? 何が商品として並べられている?
 ふふ、この謎めいた看板がわたしの興味をそそった。
 行ってみよう。もしかしたらかなり希少性のあるものが置いているかもしれない。わたしは扉のノブを回して、ぐっと前に押した。
 
 カランッ……ギイィィィ……。
「……いらっしゃい」
 変な音のする扉だ。
 ……ん、こいつが店主か?
 奥のカウンターに愛想のない店の店主らしき人物がいる。
 かなり若いな……年齢はおそらく二十歳前後。もしかしたら十代かもしれない。
 女みたいな顔してやがる。服装もチャラチャラした感じだ。本当にここの店主なのか?
 ま、せっかく中に入ったんだ。わたしは店の中をぶらぶら見ることにした。
 いい身なりをした客がちらほらいる。常連客だろうか。妙に店主や店の雰囲気に慣れているといった感じだ。へぇ、こんな店でも固定客がいるようだな。
 店の中には変わったものや高級そうなものが、たくさん商品として並べられてあった。
 ……あやしいものもたくさんあったがな。ユニコーンの角に、人魚の髪の毛だと? ああやしすぎる! こんな商品、どう証明する気だ。こんなもん同等と売りやがって。詐欺をするつもりでこの店に入ったが、こっちが詐欺にあった気分だよ。
 だが……まあ、確かに店には価値のあるものがたくさんあった。絵画や壷などの芸術品だと換金もしやすいだろう。宝石や時計なんかより、よっぽどいい値段で捌くこともできるかもしれん。
 もっと情報が欲しい。この店の特性、店主の行動パターン、客数の出入り、店の歴史……全てが詐欺をするときに必要となるパーツだった。
 そのため俺は数日に分けて、いろいろな姿に変え、この店に出入りした。
 
 ――そんな日がしばらく続き、そろそろ店主の男を騙して、商品を騙し盗ってやろうと思った。
 情報はほとんど整った。店主が決まって昼の一時三十分と六時にトイレに行くことや、店主目当てに来る若い女の客が十人以上いること。ユニコーンの角は売れない美術家が自作したまがい物だということ。人魚の髪の毛が実はただのどこかの門番の婆さんの髪の毛だということなど、いろいろわかったことがある。
 よし、そろそろ行くか。
 ……おっと、素の顔で行っちゃあいかんな。素の顔で行くと目をつけられてしまう。こういうときはどうでもいい顔に変えるべきだ。
 何がいい……決めた。老婆に変装してやろう。
 カランッ……ギイィィィ……。
 店にはあやしいもの以外に骨董品や美術品、武器や有名作家の初版本などが置いてある。無難にいくならこういうものがいいだろう。
 何が換金しやすくて、いい金になるだろうか。
 店主がこちらをたまに見ている。何か気になる点でもあったか?
 わたしの変装には気づいていないだろうがな。
 どれ、一つ少し聞いてやろうとするか。
「お兄さん!」
「…………」
 聞こえなかったのか? 声を張って出したつもりだったがな。仕方ない。もう一度、声をかけるか。今度はもう少し大きな声で……
「お兄さんっ!」
「…………」
 ふざけるな。早く来やがれって言ってんだ。
 よく見ると、店主の視線の先には若い女性の尻があった。そんなもん、あとにしろ。お前は仕事中だろう。
 それに、接客中に煙草を吸うな。カウンターには店主用の灰皿が用意差されている。だが、灰は灰皿の中には落ちることなく、ポトポトとカウンターの上に落ちていた。……客をなめてんのか、こいつ。
「お兄さんってば! 店主のあんただよ」
「おっと、すまねえ。……婆さんがかわいらしくてつい見とれていたよ」
 何、言ってやがんだ、こいつは? 単にぼけーっとしていましたって言えよ。何、ごまかしてんだ。
 ようやく店主がこちらにやって来る。……それもだるそうに。
「あんた、本当に店主さん? ルーシーってあんたのことかい?」
「そうだよ、ルーシーは俺の名前だ。婆さん、何を探してんだい?」
「わたしのね、おじいさんが今年でちょうど九十歳を迎えるんだよ。その記念に高いものでも贈ってやろうと思っているんだが、何がいいと思う?」
「この店は変わったもんしか置いてねーぞ。じいさんの趣味は?」
「そうね……骨董とか絵画とか、美術品なんかを集めているよ」
「おっ! 俺と趣味の合いそうなじいさんだな。さっき高いものって言っていたよね? 二百五十ゴルダーで少々値は張るが、ラフラン・ピサロの絵なんてどうだい? もちろん本物の鑑定書付きだ」
「二百五十……!」
「ああ、これ以上高いものなら千ゴルダーを超えるけど……」
「ちなみにそれは何ていうものだい?」
「彫刻だ。ただ、かなりでかいぞ。それに今、この店にはない。委託品だ。ある貴族の家に飾っている」
「……やっぱり絵の方でいいわ。それをもらえるかしら?」
「金持ちの婆さんだな。こんな高額のもんをふらっと店にやって来て、その日のうちにポンって買う客なんか久しぶりに見たぜ。土地でも持ってんのかい?」
「ははは。わたしもね、若い頃はいろんな事業に手を出して、それなりに成功を収めてきたの。でも、もう先も長くない。それなら、じいさんとパーッと使おうって二人で決めたのよ」
「そうかよ。ま、俺はそんなのどーでもいいけどね。店だから金を払ってもらえたら、それ以外は何も関係ないよ。で、支払いの方はいつ? どんな形で?」
「今、現金で」
「……ちょっと待って。現金で? 婆さん、あんた一人で二百五十ゴルダーも持ってきたのかい? よく襲われなかったね」
「大丈夫だ。こう見えてもそこらへんの奴らには負けないよ」
「ラフランの絵、ボディガードでもつけようか? こう見えても俺、警官みたいなもんだから」
「警官?」
「ああ、これでも腕が立つんでね。警察で格闘の先生をやっているよ。週に三回ぐらいだけど。でもあんまり儲からないし面倒だから、ここで店をやっている方が気は楽なんだけど」
「……いや、びっくりした。ボディガード? いらない、いらない。一人で持って帰る」
「わかった。じゃあ、せめて中が外から見えないようにして、万が一落としても傷つかない、そんな包装をしよう。ちょっと待っていてくれ」
 ルーシーは包装に使う布やクッションを奥の方から持ってきた。
 ……それにしても、こいつが警官?
 ますますこいつがわからねえ。金の臭いはプンプンするんだが、危険な人物ということには間違いないな。
「ほら、これで大丈夫だ。気をつけて持って帰りなよ」
 絵は黒い布に包まれた。
 なるほど、これが二百五十ゴルダーだと考えると確かに慎重になる。
 落としたり、強盗にでも遭ったらそれが一瞬にしてなくなるからな。
 考えりゃあ、婆さん一人でこれを持ち運びするのは不自然だ。
 だが、ボディガードなんかつけられ、わたしの家を知られることは絶対に避けなければならない。次はもうちょっと若い男にでも変装しようか。
「じゃあ、これ……二百五十ゴルダー」
 わたしは大きな鞄から札束をどさりとカウンターの上に置いた。
 枚数を数えるルーシー。
 ……ここでわたしはおどおどしてはいけない。不自然さは疑いを生む。
 ここは堂々としておけば何も問題はない。……あんたのとこに置いているまがい物のようにな。
 あの札が本当は葉っぱだなんて、ばれることはない。
 例え、一流の銀行員でも気づかないはずだ。できたら化け物だ、わたし以上の。
 珍品屋は本当の珍品には気がつかないものさ。
 それだけわたしは自分のこの力に自信を持っている。これにわたしは命を懸けていた。
「――二百四十九、二百五十と。……確かに二百五十ゴルダーだ。ありがとよ、金持ちの婆さん」
「うふふ、また来るからね」
 わたしは二百五十ゴルダーの絵も持って店を出た。
 葉っぱが二百五十ゴルダーになった瞬間である。
 
「ほほ、ほほほぉー!」
 珍品屋から一キロほど離れた安レストランで、喜びの雄叫びを上げていた。
 嬉しい、嬉しすぎる!
 簡単に手に入った。二百五十ゴルダーの絵が!
 この、葉っぱを金に変える力のいいところは数時間、効果があることだ。そのため、逃げる時間はあるし、換金する時間もある。
 早いところ、この絵を美術商にでも売りつけてやろう。
 わたしはさっそく一つ離れた町に行き、絵を二百ゴルダーで売った。
 ボロい商売だ。たった数時間で二百ゴルダーの稼ぎ!
 これを繰り返せばわたしは大金持ちになるな。
 だが、もっと欲しい。金を! 財力というものを!
 十万……十万ゴルダー以上あればいろいろできるな。
 金は人を操ることができ、強力な武器や組織自体も買える。町を治める権力者にもなれるのだ。
 しかし十万ゴルダー以上の金。どうして稼ぐことができるだろうか。
 さっきの二百ゴルダーを何回繰り返せばいい……五百回か。
 五百回。さすがにばれるだろう。
 わたしの変装は完璧だが、これはマスクを作る技術と演技力があるだけだ。マスクをはがされたらすぐにわたしだとばれてしまう。
 五百回! その数字が果てしなく遠く感じる。
 無理だ。なら、もっと高額なものを狙うか? 宝石店にでも行って、何万もする宝石でも買うか?
 やるならリスクが少なく、なるべく短期間で目標が達成できる方法がいい。
 ……考えろ。
 とりあえず、わたしは自分の家に戻る。
 家には変装のための衣装がたくさんある。どれもこれも必要なものだが、この家を誰かに見られることは最大の危機を意味していた。
 今までやってきた騙しが変装によるものだと分かれば、まず無事ではいられないだろう。小さな詐欺から大きな詐欺までしたからな。わたしは犯罪者だった。
 金儲け……金儲けはないか? わたしはそのことをずっと考えた。
 
 ――夜が過ぎ、そして朝になった。
 わたしは腹が減ってきたので、料理屋に行くことにした。
 三十代半ばの男に変装し、料理屋に入った。
 そして安いパンとチーズ、それにスープを頼んだ。
 金は持っているので何を食べてもよかったのだが、わたしはこういう簡単な食事が好きだった。
 ふと外を見ると、若い男がものすごいスピードで走って来るのを見えた。
 かなり速い……誰だ、あの男は。
 一瞬の出来事だったが、彼が気になった。何をそんなに急いでいるのだ?
 金の匂い……。
 わたしのない鼻がヒクヒクと動く。これは百や千どころじゃない。わたしの直感がそう伝えた。
 食事代をテーブルに置き、わたしはすぐに店を出る。
 わずかに男の後ろ姿が見えた。すぐに追いかける。
 ……だが、やはりかなり速い。全力で走っても圧倒的にこちらの方が遅かった。
 これ以上、差を広げられたら、後をつけることもできない。
 まずいな……もう見失ってしまった。
 速すぎる。わたしもそう遅い方ではない。ということは、男が速すぎたのだ。
 素人ではない。走りを必要とするプロだ。もしかして泥棒か?
 辺りを見回す。
 だが、やはり男の姿はない。完全に見失ってしまった。
 わたしはそれでも諦めきれなかったので、小さな手がかりでもと、この付近を注意深く観察することにした。そしてわずかに動く扉に気がついた。
 もしや、男はこの店に入ったのでは?
 そこは昨日、わたしが騙したあの店、珍品屋ルーシーだった。
 
 ここか……まあ、大丈夫だろう。
 ここの店主は昨日の金が葉っぱだともう気づいているだろうが、わたしの正体には気づいていないはずだ。今、わたしの姿は婆さんではなく、三十代半ばの男だった。
 わたしは店の中に入った。
 カランッ……ギイィィィ……。
 この店にはテーブルと椅子があった。客が自由に座っていい椅子だ。
 わたしはその椅子に座った。
 店主、ルーシーが若い男と話している。
 そうだ! この若い男がさっき走っていた男だ。……何だ、店主の知り合いか。
 声が大きいので普通に聞こえるが、わたしはその話を集中して聞いた。
 ……指輪がどうのこうの言っている。
 八百ゴルダー! ……いや、八百ゴルダーか。たかが知れている。やれやれ、俺の直感もあてにならないな。
 ……ん、セント・ストーン? あのセント・ストーンのことか?
 それにジャックだと? あのジャックか?
 あの野郎、確か昔にセント・ストーンを持っているとか言っていたな。
 小さかったわたしには、それがどんなに価値のある石なのか気にも留めていなかった。
 まさかジャックの野郎が、そんな価値のあるものを持っていたなんて。
 ……なるほど、だから毎日のように森の中でジャックに挑み、死んでいった奴が多かったんだな。
 しかし、あの堅物に頼んでも、どうせわたしにくれるなんてことはないだろう。ジャックとはそういう男だ。
 三十万ゴルダー? なるほど、それが市場価値か。
 はは、ははは……。そんな高いものをジャックが。
 セント・ストーンならたった一つ手に入れるだけで、俺の野望が達成できる。権力者になれるのだ!
 だが、問題は手に入れる方法だな。
 おっと、まずい! 男がわたしに気づき始めている。
 奴め、やはり普通ではない。まるで野生の動物並の警戒心だ。
 店主の方は全く気づいていないようだがな。
 この三十代半ばの男の姿はここでは常連の客として通っている。以前に三日、いや四日はこの顔で店に来たからな。
 しかし、この男……まさか、わたしの正体までは気づいていないよな?
 万が一、正体がばれるのではないかと、息が詰まった。
 そんなとき、突然大きな音を立てて扉が開かれた。
 
 ズドオォォ――――――――――――――――――――――ン!
 
 ……何だ、強盗か。
 しかも、こいつかなりの素人だ。体が震えているぜ。
 おっと、ここではわたしは素人を演じなければいけない。
 わたしは屈んで体を小さくした。
 あの店主、警官だと言っていたな。なら、こんな小物、すぐに蹴散らして……何? 見えなかった。
 手に持っているのは棒? 棒術使いか? ……これは想像以上だ。
 わたしはこんな男からラフラン・ピサロの絵を騙し取ったのか。恐ろしい……。
 
 わたしがようやく立ち上がったとき、若い男が店主から八百ゴルダーを受け取って帰るところだった。
 しかし、何だこのやり取りは?
 ……な! 贋作? あれが贋作だと言うのか?
 わたしのような変化の力を持っているわけではなさそうだ。なら、全て奴の手作りか?
 何という腕。そんな腕を贋作作りに使うとはな。
 奴はやはり泥棒だろうか。一方、わたしは詐欺師といったところ。
 泥棒と詐欺師、似たようなものだがだいぶ違う。
 奴の力と俺の力を合わせれば、あの堅物からセント・ストーンを奪い取ることも可能かもしれない。……力を合わせると言うより、一方的に利用する感じだがな。
 くくく、やっぱりわたしはついているな。
 ジャックの住むところはここからグリーンディを越えて、さらに奥へ進んだ森の中だ。
 店主の情報、それに示された地図はここからではほとんど見えなかったが、おそらく合っているだろう。
 眉唾だって? 確かにセント・ストーンの存在はわたしも実際には見ていないが、仙人はいる。ジャックもな。それは確実だ。
 さて、わたしは若い男……ジェダと言ったな。
 出発の際に、わたしの商売道具と変装用の衣装を持って行かなければ。
 ……少し、急ぐか。
 わたしは店を出た。そして、すぐに自分の家に戻った。
 
 ――そして、そのまま馬車に乗って数時間後、グリーンディに着いた。
 ……覚えているぞ、この匂い。町にはその町の匂いというものがある。わたしはグリーンディに着いて、ここを懐かしく感じた。なんせジャックと別れ、山から下りたとき、最初に来たのがこの町だったからだ。わたしの故郷と言っても、それは言い過ぎではない。しかし、だからといっていい思い出など何もない。
 ジェダの先回りをするつもりだったのだ。
 しかし、ここにジェダがいる様子はなかった。この日はずっとグリーンディにいたが、来る気配もなかった。
 何だ、奴は明日に出発する予定か。それなら急いでくる必要もなかったな。まあ、わたしも今日は寝よう。
 かなりぼろの宿屋。
 ……仕方ない。馬が通りそうな道に面した宿屋はここしかなかったのだ。本当ならもっとマシな宿屋の方がよかったのだが、仕方ない話なのだ。
 わたしは宿屋の宿主に、二日分の宿代を払った。そして家から持ってきた大量の荷物の大半をここに置いた。そのほとんどが、変装用の衣装とマスク。それにたっぷり葉っぱの入ったトランクだった。
 わたしが触れさえすれば、ここにある全ての葉っぱが札束になる。しかし、まだ金にはしない。今、金に変えても明日には葉っぱに戻っているからだ。
 
 ――翌朝、わたしは早めに起きて、ジェダが来るのを待った。
 ジャックのところへ行くのなら、ジェダはここを通らなくてはならない。
 もし、万が一予定を変更して、ジェダがジャックの元へ行かなければ、わたしがここにいる意味はないからな。だからここで奴の動きを知っておく必要があった。
 ……そして数時間後、ジェダはグリーンディに来た。
 くく、やはり来たか。まあ、これで予定通りということだ。馬を休ませる必要もあるからな、ここが絶好の休憩場所だ。
 さて、当然、ジェダも休憩しに店に入るだろう。ちょっと様子でも見に行くか。
 相変わらず警戒心の強い奴だ。ちょっと近づくだけでこの感じ……。
 今、わたしは若い男に変装しているが、この男を騙すには変装は必須だった。同じ顔だとすぐ気づかれそうだ。
 簡単に近づけそうにないな。……大した男だ。だが、それぐらいでなければジャックを欺くことはできないからな。いい傾向だ。
 わたしは店を出る。
 そして貸馬車屋に向かった。
「貸馬車屋の主人!」
「……何でしょう?」
「馬を貸してくれ。一日だ」
「一日だと、八十ゴルになりますが」
「構わん。なるべく上等なのがいい」
 それから一時間ほどたち、ジェダたちが出発する。
 よし、ならわたしも出発するとしよう。念のために十分ほど開けて出発する。何、目的地はわかっているのだ。

 二時間近く馬を走らせていると、一台の馬車がこちらにやってくるのが見えた。
 ……これはさっきまでジェダを乗せていた馬車だ。
 何だ、ジェダの奴。帰りに馬車は使わない気か?
 ジャックのいる森の近くで、男が立っているのを発見した。
 わたしはこの男に話しかけた。
「おい、男よ。さっき背が高くて若い男が通らなかったか?」
「何だ、このクソガキ。お前には関係ないだろ」
 この野郎、わたしが若い男の姿をしているからといって、なめてかかってきているな。……仕方ない。
「五ゴルダーだ。どうだ、何か話す気にはなったか?」
「これは……! いやぁ、金持ちのお坊ちゃんでしたか! これはご無礼を……えっと、何の御用でしたっけ?」
「男だ。少し前に男が来たはずだ。何か言っていなかったか?」
「へえ……あ、あの男のことですかい? いやぁ、仙人ジャックのことを話しただけでさぁ!」
「それ以外は?」
「いえ、別に。ちょうど今、向かいましたぜ。ジャックの目撃証言はけっこうあるもんでさ、そこを教えましたが……」
 なるほど。これでジェダがジャックを見つけることは容易なはずだ。
 で、仮にセント・ストーンを手に入れたとしてどう奪ってやるか……。
「どうしたんだい? お坊ちゃん……」
「うるさいな。そう言えば、若い男……ジェダという名の男だが、奴は帰りの馬車について何か言っていたか?」
「いえ、特には……」
「ここに馬車が来る予定は?」
「ええ、郵便馬車が明朝に来ます。あとは、お坊ちゃんのような観光客がたまに来る程度で……」
「じゃあ、奴は帰りの馬車については郵便馬車を利用するつもりか。しかも明朝だ。まあ、セント・ストーンを手に入れたのならば、帰りがどうのこうのという問題ではないからな。少し詰めが甘いとも思うが。しかしそうなると……」
「お坊ちゃん?」
「お前、頼まれてくれるか? これから何分後か何時間後かはわからないが、ある馬車が今日中にここに来る。ジェダが山を下りるときにそう伝えてほしい。引き止めてほしいのだ。それだけでお前にはもう五ゴルダー渡そう。どうだ、ボロイ話だろ?」
「へ、へへ。それぐらいのことあっしにお任せ下せえ!」
「……なるほど。お前はこうやってジャックをネタにして小金を稼いでいるというわけだな」
「あ……ばれちゃいましたか。さすが……いやあ、さっきの旦那もそうですが、今日は鋭い御方が多い」
「別に構わん。それより、いいか? 馬車が来るまで絶対、ジェダを待たせておけよ!」
「へい! お坊ちゃんはどちらまで?」
「わたしも森の中へ入る。わたしのことはジェダに一切話すな」
「わかりました!」

 ……少し時間を食ったな。
 ジェダの奴はどうだ? セント・ストーンを入れたか?
 いや、いくら何でも早すぎるな。
 ジャックの住むところか……しまった。念のために、さっきの男に聞いておけばよかったな。
 確か、前に行ったときは高い崖の下に住んでいたな。住む場所を変えてなければいいのだが。
 わたしは馬を森の中に隠し、一時間ほど歩いた。
 
 ん? 何だ、今の声は?
 ……ジャックだ。
 ジャックが叫んでいるのか。それにこの森の中で走るような音は……。
 あ! いた! 奴だ。ジェダだ。
 こいつが逃げているってことはセント・ストーンを手に入れたってことか。
 さすがだ。しかもこの短時間の間に。
 大泥棒のジェダと言われるだけのことはある。
 移動スピードはかなり速い。わたしでは撒かれてしまう可能性があった。
 だが、ジャックが術を使うともはや逃げるなんてこともできなくなるだろう。
 ジャックの術は捕縛系、探索系、それに泥棒を捕まえるには最適な術をたくさん身につけている。
 そしてジャックに捕まったらもう終わりだ。彼のパワーとスピード。これはもう人間離れしていた。
 ジェダがどれだけ強いのかは知らないが、戦闘になればジェダの勝ち目はまずないだろう。それが人間と仙人の差というものだった。
 む……、ジャックが立ち止まって何かをしている。
 まさかわたしの存在に気づいたのか?
 ……いや、違う。何かを作っているのか?
 ……はは、ははは。そうくるか? そうくるのかジェダ。
 なるほど、それは賢明だ。こういうずる賢さが泥棒には必要だ。やはり泥棒というものは詐欺師と紙一重だな。
 贋作作りの名手だな、ジェダ。
 で、それを隠す?
 ……それがいい。やはり、ジェダもジャックから簡単に逃げられるとは思っていなかったようだな。
 ……おや! 森がざわついている。
 なるほど、ジャックの奴め。さっそくあれを使うようだな。
 さっさと隠せよ、ジェダ。本物の方をな。
 ジェダが移動する。かなり速い。……ちっ、こんな肝心なときに。
 これほど自分の脚が人より遅いことを恨んだことはない。あとほんの少し速く走れるかどうかで人生が大きく変わったからだ。
 ……痛恨だ。わたしは少しジェダを見失ってしまった。
 次にジェダを見たときはもうジャックに捕まっていた。
 くそ、まさかジェダは本物を隠すタイミングを見逃した?
 いや、そんなことはあるまい。きっとどこかに隠しているはずだ。
 どこだ? 土の中か? 川の中か?
 わたしは必死にセント・ストーンを探した。
 もうジェダのことなんかどうでもいい。セント・ストーンさえ見つかればいいのだ!

 ――しかし二時間たっても石は見つからなかった。
 ……やっぱり隠す時間がなかったのか? となると、本物はジャックに回収されているだろう。
 あ、誰か来る。こんなときに。
 ……ジェダ?
 ジャックに殺されずにすんだか。
 意外だな。だが、悔しい顔は一切していない。むしろ、あれはやり遂げた顔だった。
 少し移動するか……。
 わたしが今の場所から離れると、ジェダがある木の根元を掘り出した。
 まさか?
 奴は掘り出したのはセント・ストーンだった。
 何だ、あんなところにあったのか。……もう少しで見つけられたのに!
 まあいいだろう。これで初めの予定を実行することができる。
 欲を言ってしまえば、わたしがセント・ストーンを掘り起こしたかったが仕方ない。
 ここからはスピードの勝負。
 ジェダはジャックに見つからないように、音を忍ばせて森から出るはずだ。つまり、森から出るのに時間がかかる。
 わたしは走ってジェダより少しでも早く森から出るぞ。もちろん、警戒心の強いジェダにわたしの存在がばれないように。
 わたしは走った。静かに、だが、できるだけ速く……。