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サイコー君のくま父さん

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『神の子』 その7

  3 殺し合い

 ――飛行機から降りてロビーに着くと、見覚えのある女が近づいてきた。
「広造様、お待ちしておりました」
 ……あぁ、受付の女か。わざわざ来ることもなかったのに。
「荷物をお運びします」
「父は戻ったのか?」
「はい。研究所で広造様のことをお待ちです」
「そうか……」
 大学を卒業した俺は今日から研究所で、父たちと合同で神殺しのための研究開発を進めることになっている。計画まであと六年。徐々に近づいてきたな。
 受付の女……名前は中田とかいったかな。そいつの運転で研究所に辿り着いた。
「「お帰りなさいませ」」
 入り口には数人のスタッフが俺を迎えていた。その中に父もマーラもいなかった。
「うん……マーラを連れてきてくれ」
 四年ぶりの再会だ。さて、どう変わっているかな。
 一人の女がやってくる。研究スタッフではない。若い女だ。髪が長く、後ろで束ねている。肌に吸いつくような服の素材。これで運動能力が上がるのか。おそらく父の開発したものだろう。
 女は紛れもなくマーラだった。……大きくなった。六歳から十歳になると、まるで別人のように変わる。自信に満ちている目だ。それに引き締まった体をしている。訓練を怠っていない証拠だな。
「久しぶりだな。マーラ」
「お久しぶりでございます、広造様。大学卒業、おめでとうございます」
「そんなことはいい。お前がどれだけ強くなったのか見てみたい。誰か相手してやってくれないか?」
 とは言ったものの、研究所内で彼女とまともに闘える相手は竹上ぐらいか。お互い戦闘パターンを熟知しているはず。もっといろんなデータを取りたいのだが……。
「強い人間を集めろ。武器の使用も可能だ。殺し合え。最後まで勝ち残った者には十億出そう。この催しは十日後だ。俺は父に会いに行く。どこにいる?」
「あの……たぶん第二研究室かと」と中田が言った。
「そうか。催しの件はお前に任せた。幅広い人材を集めてくれ。百億でもいい。勝者には到底叶わないような願いでも聞き入れるとしよう。性や年齢、職業は問わない。強ければなんでもいい。集めてくれ」

 俺は父のいる第二研究室に行った。ここではレールガンの開発を進めている。
 これは物体を電磁誘導(ローレンツ力)により加速して撃ち出す装置のことだ。
 電磁気を使う投射様式全般の呼称としては、電磁投射砲やEMLなどがある。
 レールガンが撃ち出す弾体の最大速度は、入力した電流の量に正比例しない。摩擦や損失が無視できる間は、加速度は電流の大きさに比例する。
 普通の戦争なら役立つのかもしれないが、神相手に通用するとは思えない。さらに研究を進めなければ。
 真っ白い大理石の床。右には巨大な窓がある。部屋に入ると数人の研究スタッフがいた。その奥には父もいる。
「広造……帰ってきたか」
「あぁ。そっちは順調か、父さん」
「わからん。が、今できるだけのことはしている」
「俺たちの目的はなんだ?」
「神を殺すことだ。……決まりきったことを今さら聞くな」
「そうだったな。俺も今日から研究に加わる。今やっているデータをすべて渡してくれ。俺がこの研究所の副リーダーになる」

 研究を進め、同時に日本の大学で講師をすることになった。他人になにかを教えるなど無駄な時間を割きたくはなかったが、もしかしたらその中に神殺しに必要な人材がいるかもしれない。それが目的で俺はちょくちょく日本の大学にも顔を出すことにした。が、今のところ、めぼしい人材は見つかってはいない。
 日本に戻って十日がたったときだ。受付の中田が研究室に入ってきた。
「失礼します。……あの、広造様」
「なんだ? ここは研究室だ。お前の来るような場所ではない」
「いえ、その……人が集まりました。百人ほど集まっています」
 人? ……そうか、そういえば俺はそんなことを言っていた。思ったよりデータの採集に時間がかかってしまった。もうそんなになるのか。
「わかった。行くとしよう」
 俺は研究室を出て、ロビーに向かう。そこに近づくと複数の男たちの声が聞こえた。
 そこにはマーラの姿もあった。……集まった数は百か。その中で使えそうな人材は一割にも満たないのだろうな。
「――お、来たぜ。主催者がよぉっ!」
「ひゃはは、本当に優勝したら百億くれるんだろうなぁ?」
「ついてるぜ。俺ぁ、総合格闘の大会で優勝したことがあるんだ。それに武器の持ち込みもありなんだよなぁ? 暴れまくってやるぜ」
 男たちは威勢よくわめきちらしていた。……うるさい。筋肉隆々の男たちばかりだが、俺の求めていた人材はこのような奴らじゃない。もっと怪しげに、黙って人を殺すような奴だ。
「よく集まってくれた。礼を言う。約束の百億は用意してある。勝てば遠慮なく持っていくがいい。さっそく場所を移すぞ。ついてこい」
 まるで子どもの引率者だ。うるさい奴らが多すぎる。
「百億だァ――! 一生遊んで暮らせるぜぇ、ひゃっほー!」
 ――パッパッ、パパパッパッパパパッッ!!
 静かにさせるのはこれが一番だ。俺は男たちの頭上の壁に、義手に仕込んである銃をぶっ放した。
「……静かになったな。ここは研究所だ。幼稚園でも保育所でもない。静かにできないのなら出ていってもらってけっこう」
 男たちの目つきが真剣なものに変わった。……そうだ、少しは緊張感を持て。勝てば金は手に入るが、負ければ死ぬ可能性は高い。
 向かった先はマーラの訓練室。例の畳のある場所だ。
 部屋に入るとあの二人がいた。羽賀、百々山。
「お帰りなさい、広造さん……」と言ったのは羽賀だった。
「お前たちが四年の間にどれだけマーラを強化したか見せてもらうぞ」
「大丈夫ですよ。あなたが思っているより今の彼女は強い」
 それは期待できるな。ん……羽賀がいないのはどうしてだ?
「あいつはどうしている、羽賀は?」
「あぁ、女遊びですぜ。ここ毎日デリヘル呼んで遊んでるんっすよ」
 ……どうしようもない奴だな。飼い主が戻ってきたというのに。
 まあいい。要はマーラが強くなっていればそれでいい。わざわざ呼びつけるほどの男でもない。では、殺し合いを始めるとしようか。
「土足のままでいい。このまま上がれ。そして二人になるまで殺し合え。残った二人で決勝戦を行う。ルールはなにもない。勝つか負けるかだ。それで納得できない奴はすぐにここから出ていけ」
 ザワザワ、ザワザワ……。
 この催しは本気の殺し合いだ。武術大会などではない。
「ひッ、そんな……聞いてねぇぜ、俺ぁよぉ! 殺し合うなんて、あんたらマジでそんなこと言ってんのか?」
「イカれてやがる。とてもついていけねぇよ!」
「さっさとずらかろうぜ、こんなところ。金は欲しいが命を懸けてまで欲しくはねぇよ!」
 八、九、十……ポツポツと去っていくな。しかし部屋に入ってくる奴がまだ一人もいないとはどういうことだ? 集まった奴らは全員腰抜けだというのか?
 そんな中、一歩部屋に足を踏み入れる者がいた。そいつはマーラだ。
「なんだ、マーラが一番乗りか。どいつも欲がないな。百億だぞ。これだけの金をもらえるチャンスはおそらく生涯に一度しかない。勇気のある者はいないのか?」
 すると一人、二人と部屋に入ってくる者が続いた。いきなり殺し合うことはせず、とりあえずは中に入るだけ。
 二十人程度か。闘いを前にして、だいぶ絞れたな。欲しい人材は量より質だ。願いたいものだな、この中に本物がいることを。
「お前らは覚悟のできた人間のようだな。よろしい。他の者は失格だ。早々に帰れ。そして開始の合図などはない。もう始まっている。殺し合え! 勝った者に細かいことは言わない。百億、ポンとくれてやろう」
 それでも動きはない。……マーラはどうしてる?
 彼女は一人一人を観察していた。自分を除いて十九人。頭の中ですでに闘うシュミレーションをしているな。……もうすぐ始まる。
 ――そのとき、黒い影がものすごいスピードで動いた。……それはマーラだ。
 ブシュッ!! バシュッ!!
 速い! なにかを使って斬っている? 速すぎてそれが見えない。
 次々に男たちが血を流しながら倒れた。その数すでに五。
 だが、マーラの快進撃もこれまで。大柄な男がマーラの攻撃を腕で受ける。……マーラの手にはなんの武器も持っていなかった。とすると、手刀で切っていたというのか?
「おい、こら。お嬢ちゃん……痛ぇじゃねぇか?」
 男は二メートル近くある。それに対してマーラは百四十センチあるかだ。この体格の大差は一見すると絶望。正面から倒すのは困難だ。見たところ武器を隠せそうなところもない。
 マーラはなぜ武器を持たなかった? 武器を使った暗殺術なら習得しているはずだ。もしかして……武器など使う必要がない? この程度の相手たちでは。
「はぁぁー、ハッ! せやぁっ!」
 マーラが男に打撃を与える。だが、そんなか細い腕ではなんの効果もない。
「なんっ、この……うっとうしいんだよっ!!」
 男がマーラを掴まえよう前のめりになった。……なるほど、そういうことか。
 マーラはできるだけ男を引きつけ、寸前で逆に前に出る。男はそのスピードに追いつかない。
 身長差を逆手に取ったな。視界が上部に集中する男は地面スレスレのところで素早く走るマーラが見えなかった。
「……ぐっ! ……うぅ……あ、あへ……」
 マーラは後ろから男の首を両足で挟む。両耳に刺したのは長い針。だいぶ深く刺さったみたいだな。男は死んだか。
「こうも静かに人を殺せるようになったか……」
 さすが俺の見込んだ三人だ。教え方が並じゃない。その技術を吸収できるマーラも並じゃないがな。さすがは神の子といったところか。彼女には限界がない。鍛えれば鍛えるほど伸びるぞ。
 他の人間も動き始める。動かなければ殺される。だったら先に殺すべきだ。
 ようやく皆が本気になった。いい緊張感だ。ピリピリする。
 マーラ以外にも女がいる。……三人か。一人は刃物を両手に持っているな。しかし懐に銃など仕込んでいる可能性もある。金があれば裏のルートでなんでも手に入るご時世だ。
 もう一人は片手に拳銃のみ。堂々としている。サングラスをかけた若い女だ。いくらマーラといえど、急所に銃弾を浴びれば死ぬだろう。要注意だな。
 デザートイーグル……最強の自動拳銃か。銃身が六インチのタイプで重さは約二キロ。動作は安定。命中精度も高く、世界的にも評価が高い。いいものを持っているな。
 最後の女は強引に力で押しきるタイプだろう。体つきが陸上の投擲選手のようだ。マーラとは真逆のタイプだな。しかし、こういうタイプは打撃に強い。攻撃をくらいながらも攻めてくる。……いい感じにいろんなタイプに分かれたじゃないか。面白い。
 殺し合いが始まる。これは格闘技の大会ではない。武器を持つ者、それが飛び道具なら断然有利だ。……もうこれだけになったか。早かったな。残った人間はわずか六名。
 マーラ、銃使いの女、野生動物のような雰囲気を感じる筋肉質の男、武道家、二メートルを超す大男、剣術使いの男。
 ここからどう動く気だ? わずかな時間、それぞれ動きが止まる。部屋の中は血生臭く、床は大量の血で真っ赤に染まっている。
「いいぞ、これぞ殺し合いだ。一瞬の判断のミスで生き死にが分かれる。真剣勝負とはこうでなくてはな。せっかくだ、お前たちの名前や生い立ちを聞いてもいいかな?」
 一瞬、場が固まる。ほとんどの者がなにをこんな最中に言うか……そういう嫌悪した目で俺を見た。
「あなた……今、それを言う? 見ての通りわたしたちは殺し合っているの。そんな神経を研ぎませているところで……」
 女が言った。確かにそうだ。だが、これも一興。主催者は俺だ。
「ちょうどいい、今俺に意見を言った女。お前から先に話してくれ。そしたら他の者も話す気になるだろう」
「自分から手の内を見せなきゃいけないってこと?」
「そうか、言い方が悪かった。なにも不利になることまで言わなくていい。話せる範囲でいい」
 一時休戦だ。女は観念したかのようにしゃべりだす。
「……わたしは身寄りのない、ただの殺し屋。お金が必要なの。それも大金がね」
「殺し屋か。いい職業だな。女なら相手も油断する。殺し屋は男より女のほうが向いているからな。なぜ金が必要なのだ?」
「それも言うの? ……あんたのことだから、言うまでずっと粘りそうね」
 俺は腕を組みながら頷いた。
「いいわ、教えてあげる。自由になりたいのよ。職業柄、いろんな奴らに追われる立場だからね。逃亡を続けるにはお金がいる。返り討ちにするのだってお金がいる。わたしは一人で闘ってるの。組織には属さない。それゆえ、わたしを警戒する人物は多いわ」
「その言い方だと例え大金を手にしたとしても、殺し屋はやめないようだな。お前にとって殺しは快感になっている。ごく当たり前のように、生活の一部として……」
「よくわかってるじゃないの。あんたもそっちの人ね。壊れている。自分で気づいていてもどうしようもならない。……あんた、わたしを雇う気はないの?」
 そうきたか。だが、この女は信用できない。彼女は何度も人を裏切っている目だ。
 そんなのに引っかかるほど、俺が愚かに見えるか?
「もしお前が生き残れば考えてやらんこともない。俺が求めるものは強さだ! そこそこ強いだけではダメだ。名前は? 覚えておいてやる」
「夏未。季節の夏に、未完結の未」
 夏未ね。銃を使う殺し屋。金を手にし、自由に殺しを楽しもうとする女か。
「――夏未の右にいる男。……身を屈めているお前だ。簡単な自己紹介をしてくれ」
「う……おぉ」
 言葉がうまく話せないのか? 国籍がわからない。日本人ではないようだ。
「お前は? どこから来た? なぜ今回の件のことを知った?」
「お……俺、ワカラナイ。ずっと前から……キオクをなくした。でも、食べていくにはお金が必要。だから、ここにキタ! ここの話は山に登ってきた人間に聞いた。ここで殺し合いがある。それに勝テバ、お金いっぱいもらえる!」
「名は……? なぜ記憶を失った? 国はどこだ? 山に住んでいるのか?」
「ワカラナインダ……気づいたら山にいた。国……わからない。今の生活は嫌だ。とても孤独。変わりたい。人として、やり直したい」
 バカな男だ。どうやら記憶をなくしたのは事実のようだ。しかし、人としてやり直せしたいだと? 殺人を犯し、そういうことが実現するほどこの世は乱れてはいない。
 お前はもう山奥にしか生きることができないのだ。それをのこのこ、こんなところまで来たのか?
 ガタイがいいのは認めてやる。その格闘スタイルがわからない独特な動き。野生の動きと言えばいいのか。そいつを武器にどこまで通用するか、この目で見ておいてやろう。
 もし使いものになりそうなら俺が拾ってやる。
「名前は? それも忘れたか……」
「サン……太陽のように大きい、そんな人間になりたい」
 サン。お前にはもったいない名前だな。野生の男よ。

「――道着を着ている男。お前は?」
 金髪の男。若いな。顔立ちは日本人だが。
「凪沢春馬だ。見ての通り、空手を使う」
「見た感じ、真面目そうだ。もっと普通の道もあったろうに。なぜ道を間違えた?」
「……この世界では、もはや俺と同等に闘える者はいない」
 そんなこと口にする人間がいるとはな。ただの自信過剰か? それとも……。
「お前の求めるものはなんだ? 金か?」
「そんなのではない。……だが、金でもっと強い奴と闘えるのなら、俺は金を欲する」
 バカだ。それも相当のな。お前は世間を知らないだけだ。例え、人間の中で一番強くなったとしても、お前は神の強さを知らない。
「いいだろう、凪沢春馬。俺と共にいれば強い相手などいくらでも紹介してやる。お前の目的は闘うこと、それがよくわかった」
 俺の場合、強さを求めている。だが、この男は強い相手を求めている。似たようだが全然違う。
「――一番背の高い男。お前の名前を聞こう」
「うっせぇ!! 黙っとけよぉ! 俺に殺されたくないんだったらなぁ!!」
 こいつ……?
「とっととこんな闘い終わらせて、俺ぁ金だけもらって帰りてぇんだよぉ!!」
 典型的な体力バカだな。図体だけはここの中で一番大きいが。
「さっさとやれよぉ!! 俺ぁな、ウズウズしてんだ。どうやったらこんな奴らに負けるんだ? あぁ? お前も気をつけておけよ。ちょっとしたとばっちりで死んじまうかもしれねぇからよぉ!」
「少し落ち着け。俺と話をすることがそれほど嫌か? なら出ていけ。多少の話もできない者など使いものにならん」
 男は体を震わせ、渋々おのれの名を名乗った。
「ギルフだ。俺の体の半分はロシアの血が流れてる。あの巨大な……ロシアだ!!」
「並外れた体の大きさだな。普段なにを食っている?」
「お前は栄養士か? ……下らねぇ! 肉だよ、肉ぅ! 肉をたんと食えば、おのずとこのような肉体になっていくのだ! ハッハー! 見ろ! この……肉体、美ッ!」
 男はポーズを取る。確かにいい筋肉をしている。刀で斬られたり、銃弾で撃たれようと、まだ生きていそうだな。
 力も強いだろう。しかし、小回りが利かないのが致命的になる。
 目や口の中、それに臓器など人間には絶対鍛えられない部分がある。そんなこと、この男は少しも考えてはいないだろうがな。
「いいだろう。ここに残った者は皆、猛者揃いだ。好きなだけ暴れるがいい。……あぁ、もう少し待て。最後にもう一人、いたな。そこの剣を持った男、自己紹介をしてくれ」
 先ほどこいつの動きを見ていたが素人の動きではなかった。ただの剣道の達人というわけでもないだろう。
 あれほどの血を見て、冷静でいられるのはだいぶ人を斬り慣れている。まるであいつを思い出すな。
「浪川七雄人だ。ここに来た理由はただ一つ。一度手合わせをしたい相手がいてね。金なんていらねぇ。奴と闘うことさえできれば、俺はなんだってする」
 珍しい奴。やはり、ここに来るような奴は変わった者が多い。
 しかし、手合わせをしたい者? ……もしかして俺がさっき思い浮かべたあいつのことか?
「浪川と言ったな? ここは研究所だ。手合わせしたい相手がいると言ったが、なにかの間違いではないか?」
「はは……っ」
 なんだ、鼻につく笑い方だな。なにがおかしい?
「お前の言う、闘い相手は誰だ? まさか研究者だと言うつもりじゃないだろうな?」
「俺は知ってるぜ。この研究所には竹上小太郎がいる」
 やはり……奴のことだったか。
「隠す必要もない。確かにその男はこの研究所にいる。大した情報収集力だな」
「当たり前だ。俺はな、六年前に妹を奴に斬られた。竹上の強さは知っている。当時の俺ではまるで刃が立たなかっただろう。それから俺は剣の道を目指した。竹刀でペシペシ打つスポーツなどではなく、真剣を使った殺し合い……」
「妹は……死んだのか?」
「あぁ、かわいそうに。ちょっと夜の時間に自販機に行ったんだ。そのとき、竹上に会ってしまった」
「それは気の毒だな。とても他人とは思えん」
「なにを? お前に俺の妹が殺された気持ちなんてわかるはずがないッ!」
「わかる……俺も小さい頃に妹を殺されているからな」
「……本当、か?」
「こんなウソをついて俺になんの得があるというのだ?」
 妹を殺され、復讐者となって生きる道を選んだか。だが、その先にはあるのは充実感などではない。どのような結果になろうとも自分に幸せは必ずやってこない。
「それでも、その道を進むのか」
「あんたも復讐者か。なるほど、気が合うな」
「今のお前なら竹上に勝てるのか?」
「あぁ。闘わせてくれよ、なぁ。いるんだろ? 知ってるんだよ。お前だったら俺の気持ちがわかるだろ? だったらすぐに闘わせろよ!」
「お前と竹上との殺し合い、興味がないわけでもない。だが、そこまで言うのなら自分の力でどうにかしろ。この中でお前一人が残れば、なにも言わず竹上を出してやろう」
 浪川は苛立った様子から落ち着きを取り戻したようだ。
「いい感じにクールダウンしちまったな。あんたの言う通りだ。俺は俺の力で進むべき道を切り開く! 約束、守ってくれよ」
 なんとも面白い奴らが集まったものだな。
 そして数人かの視線がマーラに集まる。俺としては今さら彼女の話など聞くまでもないのだが。この場面で彼女だけなにも話さないのも不自然か。
「マーラ、お前も言いたいことがあれば言うといい」
 そう告げると、彼女は少しも動じずにこう言った。
「わたしの名前はマーラ……幼少期から殺人マシーンとして育てられた。年齢は一番若いけど、誰よりも過酷な訓練を受けてきたと自負している。このまま闘い合えば、確実にあなたたちは死ぬわよ。それが嫌ならさっさとここを出ることね」
 このタイミングで優勝宣言か。お前がこんなことを言うなんてな。
 おそらく全員の力量は計りきっている。マーラがそう言うなら、彼女の相手になる奴は一人もいないというわけか。
 これがただの人間と神の子の差……。
「ハッタリかますなよ、女ぁ……」
 マーラに絡むのはギルフだ。
 闘いとは体の大きさだけで決まるものではない。それに気づくのはお前が死んだあとだ。
「――いろいろと聞かせてもらってありがとう。なかなかいい時間を過ごしたと思う。さあ、再開だ。存分に己の力を発揮し、敵を粉砕するのだ」
 とは言うものの、あまりにもこの雑談で全員の士気が下がってしまった。
 いかんせん、やはり途中で止めたのは失敗だったか。
「遠慮するな、さあ闘え!」
 ざわざわとどよめきが走る。次第にそれがピリピリした空気になっていく。……感じるぞ。それぞれの殺意が。
 しばらくの膠着状態。それを破ったのは野生の男――サンだ。ギルフに襲いかかった。
 ギルフはサンの両腕ごと体を掴む。その際、顔に一発くらったが強引にいった。
 やはりでかい奴はタフだな。そのまま体を締めあげ、倒す気か? 向こうもそれなりの力を持っている。
 ……ふむ、似た者同士の闘いも一興だ。さて、他にもやり始めているな。
 武道家――凪沢春馬と剣術使い――浪川七雄人か。
 普通に考えると、浪川のほうが圧倒的に有利。だが凪沢は怯むことなしだ。
 正々堂々といくのか? よほど自分の技に自信があるのだろう。これもまた面白い。
 そしてマーラと対峙するのは銃使いの女――夏未か……。
 闘わないのか? ずっとお互いの様子を窺っているな。別に一対一で闘う必要はない。最後に生き残ればいいのだ。
 マーラは気を集中している。夏未はむしろ他の相手を気にしているようだ。
 マーラが子どもだからといって油断しているのか? 彼女の闘いぶりを見ていなかったのだろうか。
 ――パンパン、パンッ!
 撃ったのは夏未だ。弾丸はマーラのいる方向ではない。闘っている男たちに向けて撃った。
「ぐっ……!」
 ギルフがサンをかばったような形になる。いきなりの発泡。それも女はギルフの視界に入っていなかった。当たるのは必然だ。だが、数発の銃弾ではギルフは倒れない。
「く……くそ、卑怯だぞ。後ろから」
 甘いな。ここの闘いはなんでもありだ。卑怯だという言葉は通用しない。
 ギルフが後ろを向いたそのときを狙って、サンがギルフの首を噛み切る。
 鋭い牙。人体の急所である首を狙われたら、例え相手がどんな強靭であっても死ぬ。……そう、神でもないかぎり。
 ブシュウゥゥーッ!
「あ……あひ」
 ギルフが天を仰ぐ。手足にはもう力が入っていない。
 彼はこの中では間違いなく一番頑強な男だった。だが、そいつが一番初めに死んだ……。これだから闘いというのはわからないもんだ。まったく予想できない。
 全体を見て、闘いの流れを掴んでいるのは夏未だった。やはり飛び道具は強い。だが……。
 ――キン、キンッ!
 浪川が弾丸を刀で弾き落とす。いい腕をしているな。
「よぉ、横槍を入れねぇでくれねぇかな? お嬢さん」
「ふん、闘いの最中に後ろを向いていいの? お侍さん」
「なにっ?」
 浪川が後ろを向いた。だが、凪沢のほうは不意打ちなどする気はない。
 凪沢は警告した。前を向けよ。夏未がお前を狙っているぞ、と。
 パンッ、パンッ!
「うっ、ぐぉ……ッ!」
 一流の剣術使いでも、後ろを向いていてはダメだな。死角を狙うのも戦闘では常套手段。サバイバルでは総合的に戦闘能力の高い者が生き残るのだ。
 夏未が強いのは単に銃を持っているからではない。タイミングを計るのがうまい。不意打ち、騙し合い、利用できるものならなんでも利用する。
 ただ……こいつは銃以外に攻める手段を持っているのか? もしなければ武器を失えば終わりだ。一対一だと相手も油断することはない。いくら強くても探せば弱点はある。どんな奴でもな。
 これで残りは四人。そしてわかったはずだ。夏未を野放しにすることはできない。サンと凪沢は二人がかりで夏未に向かう。
 ――パンパンパンパンッ!!
 使っている銃は小型のものだ。連射しては弾切れになる。弾を補充する隙をこいつらが見逃すとは思えない。
 サンと凪沢は弾をよけつつ、接近する。残りほんの数メートル。捕まる――。
 そのとき上から降ってきたのはマーラだった。
 なんという跳躍力! 明らかに人間離れした業だ。なんらかの強化によってそれを可能にしたはず。パワードスーツ、それとも百々山の術による強化……その両方か?
 マーラが狙った人物、それはサンだった。
 完全な死角である真上からマーラが襲う。サンの首に着地し、右の脇で男の頭を挟む。そのまま体重をかけて一回転。
 男はなにが起こったのかわからないまま地面に倒れる。そして彼女は男の目に突き刺した。浪川が持っていた刀を……。
 一瞬の出来事。だが、マーラはそれを的確に行った。少しの迷いもない。よくここまで動けたものだ。
 マーラは刀を引き抜き、構えた。彼女に一番近いのは夏未。銃を構えようとするが、マーラの動作と比べるとあまりにも遅い。
 マーラが剣を横に振った。ギリギリで届く間合い。銃は音を立てて落ちた。……夏未の両手首も飛ぶ。
「ひっ、ひィィィ――ッッ!!!」
 終わったな。トドメを刺す必要はない。その隙を凪沢に狙われることもあるからな。これで二人が決まった。
「――よし、とりあえずそこまでだ。生きている人間がいるならすぐにここから出ろ。研究所内には医務室がある。それに救急車も何台か外で待機させている。命が惜しいのなら、助けを乞うんだな」
 かろうじて生きている人間がこの部屋を出ていく。残った者は俺たちと死体だけだ。
「マーラ、まだ油断はするなよ。ここからが本番だ」
「はい」
 凪沢春馬か……まだ若いな。俺と同じぐらいか。
 ここでマーラと殺し合うのは少しもったいない気がする。体術だけに関しては竹上以上だ。マーラの指導者として生き残らすか? それとも……。
「こいつの技を身につけたいか、マーラ」
「わたしより強ければ……ですけど、もう見切りました」
 見切った? 相手はお前の倍以上生きている。格闘経験も長いはずだ。そんな彼に向かって見切っただと?
 これが本当ならマーラは世界で一番強い女になれる。それもあと数年の間で。
「大した自信だな。凪沢、君は彼女を見てどう思う? 勝てそうか?」
「……確かに大した動きだ。スピード、跳躍力……彼女の軽さがそれを可能にしているのだろう。だが一度でも攻撃が入れば、彼女はきっと耐えられない。彼女の的確に急所を狙った攻めは何度か見ている。つまり先に攻撃を当てたほうが勝ちだ」
 さすがだな。この男もよく見ている。
 その通りだ。彼女の身体能力の高さから、単純に年齢が低いというだけではハンデにならない。むしろその軽量さが武器になる。
 柔軟性、瞬発力、ともに長けている。視界の広さも脅威だ。周りをよく見ている。これも大きな武器になった。
 全身が闘うためにフル機能していた。
 やはり鍛えるのは若いうちからに限る。子どもは才能の塊だな。まさかこんなに早く化けるとは思っていなかった。これはいい誤算だ。
「試合をするか、凪沢。これで勝てば百億だ。気前よくくれてやる」
 マーラと凪沢の闘いが始まる。

 マーラは刀を持っていなかった。だが、どこかに針やナイフを隠しているはず。他にも武器を持っているかもしれない。
 なまじ見えるほどの大きな武器を持っていないから、闘う相手にしてみればこの上厄介なことはないだろう。
 さらにマーラの動きは変則的だ。彼女のペースに合わせるわけにもいかない。
 マーラが六で凪沢が四というところか。足りない分はこれまで培った経験でカバーするしかないな。
 マーラが凪沢に突っ込む。そのスピードで? ぶつかるぞ。
 寸前でマーラが横に飛ぶ。その動きを予想していたのか、凪沢も同じように飛んだ。
 だが飛距離が違う。マーラは手を地面について跳ね、さらに跳躍する。しかも今度は上にだ。
 凪沢は体勢を整え、上を向いた。頭上からの針の雨。マーラが一斉に降らした。
 針は細長く見えにくい。頭部は頭蓋骨で、ある程度の強度を誇る。針が脳まで達することはないだろう。
 凪沢は屈んで針が目に入らないようにした。
 ……マーラの術中にはまったな。見上げることができなくなった凪沢は反撃できないも同然だ。
 彼女はどこから来る? 頭上か? それとも着地して攻撃するか? そのときはどこから来る? 右か? 左か? もう一度飛ぶかもしれない。彼女を見たらまた針が飛んでくるのではないか?
 針を恐れてはなにもできなくなる。それで負け決定だ。
 凪沢は意を決して顔を上げる。だが、そこにマーラはいない。彼女は空中で方向転換していた。人間という生物はこれだけ空中で動けるものなのだろうか。その動きは華麗で美しい。
 マーラはまだ宙にいた。凪沢の背面。すでに蹴りが彼の後頭部に当たるところだ。
 ――ドガッ!!
 背面からの攻撃。それも破壊力のある蹴りだ。脳を揺さぶられる負担は大きい。
「ぐっ……むむっ!」
 距離を取ったようだが、頭がふらついている。しばらくはまともに動けそうにないな。降参するなら今のうちだ。
「やはり……あなたじゃわたしには勝てない」
 マーラが取り出したのは銃だった。
 銃……? そうか、夏未! あいつが落とした銃を拾っていたのか。いつの間に……。
 もう勝負はついていた。それでもマーラが銃の存在を明かした理由は、まだ奥の手があっる、それでもわたしはお前を圧倒している。そう言いたいわけだな。
 ――パンパンパンパンッ!!
 おまけに非道な精神も持ち合わせている。暗殺を任せるには完璧な条件だった。
「お前の勝ちだ。どうだ? 賞金の百億は欲しいか?」
「いえ、すべては神を殺すためです。少しはいい運動になりました。ありがとうございました!」
 マーラが頭を下げる。それにしても……少しはいい運動になった、か。基本的な体作りと暗殺術のいろはは完璧だ。
「――お、俺と勝負させてくれっ!」
 ん……? あぁ、こいつか。名前は浪川だったかな。覚えているぞ。
「俺は負けちまった……だけど、せっかくここまで来たんだ! あいつと……竹上の野郎と勝負させてくれよぉっ!!」
 くく、そう言えばそうだったな。一つ、面白そうなイベントまだ残っていた。
「いいだろう。しかし、俺が出した条件はお前が勝ち残ることだった。だからその代償として、お前が竹上に勝とうが負けようが、死ぬということでどうだ? それなら奴と闘わせてやろう」
「なんで……そんなことを言う? お前は竹上を守りたいのかよ?」
「守る? ……笑わせるなよ。俺にとって竹上など、今になってはなんの存在価値もない。奴がここで死んだとしても、俺はなにも思わないだろう。お前に死ねと言ったのは、それほどの覚悟があるのなら、仕方なく闘わせてやろうということだ。俺のほうが立場が上なことを忘れるな」
 浪川は俯いて少し考えた。……その結果がこれだ。
「わかったよ。俺はこれまで妹の仇討ちをしたいと決意し、ここまで来たんだ。死んでも悔いはない」
「そうか。わかった。お前のその決意、評価しよう。――羽賀、竹上の部屋に行け。そしてすぐにここへ来させろ。……もし来なければ、俺自ら出向いて殺してやると脅しておけ。場所がわからなければ受付の女にでも聞くんだな」
「ちょっと待ってくれ……なんで俺が? あいつが俺の言うことを素直に聞くとは思わんですって! 広造さん、行くならあんたが行くべきだ!」
「……なにが起こるかわからないだろう? いいから、お前がいけ。少しは役に立て。貴様もだいぶぬるま湯につかっていたようだな。以前のような迫力がまるでなくなっている。まるで牙を抜かれた狼のような……」
「ちっ、わかった。呼んでくりゃーいいんだろ? ……ったく、相変わらずの人使いの荒さだ」
「――というわけだ。しばらく待て。……マーラも見ていけ。殺人鬼と復讐者の闘いなどめったに見られるものではない。復讐者がどれほどの怒りを持って相手にするかよく見ておくんだな」
「はいっ」
 思いがけないところでいい教材になるな。二人の勝敗には興味がない。怒りに狂った人間の姿を彼女に見せておきたかった。
「ところで、浪川。お前は夏未に二発の銃弾を受けたはずだ。そのハンデは感じるのか?」
「これぐらいなんともない。ただ、思ったより血が多く出ただけだ。それであせっちまった。情けねぇ……でも、あんたのとこの医療スタッフがちゃんと手当してくれたからな。血ももうほとんど止まりかけている。……感謝するよ。復讐する機会を与えてくれて」
 感謝だと? お前は返り討ちに遭う可能性があるんだぜ。しかも俺の見立てでは、まだ竹上のほうが実力は上だ。しかし、ここ数年の間に奴がどれだけ稽古をさぼっていたか。付け入る隙はそこにある。

 ――約十五分がたち、羽賀が戻ってくる。後ろには竹上もしっかりついてきた。
「広造さんか……あんた、帰ってきてたんですね」
「そうだ。俺が帰ってくる日ぐらいちゃんと出迎えろ。もう済んだことだから別に気にはしないがな。それより、お前とぜひ闘いたいという男が現れた。この申し出、お前は受けるか?」
「俺に? 誰が……?」
 竹上は浪川を見るが、これといって見覚えはない様子だった。
「誰です……奴は?」
 そうだ。人を殺すのになんの躊躇いもない奴が、殺した相手をいちいち覚えているわけがない。
 お前と闘いたい者がいる――それだけでなぜ復讐に来たと思わないのだろうか。
「男の名前は浪川だ。妹をお前に殺されたらしい。復讐に来たんだと」
「あぁ……」
 まるで悪びれた様子はない。この男にとって人を殺すというのはそういうことだ。
「……殺した妹のことなんて、お前はこれっぽっちも覚えてねぇんだろうなぁ。安心したぜ、思った通りのクズ野郎で!」
「竹上……刀は持っているか?」
「それは……この通り。刀は体の一部なんでね。手元にないと落ちかないんで」
「じゃあ殺し合えるな。勝負は相手が死ぬまで。参ったはない。始めろ」
 周りの人間が二人から距離を取る。とばっちりを受けたくないからだ。どんなに激しい闘いになるのだろうか。それとも勝負は一瞬でつくのか?
 竹上が刀を構える。そして浪川も……。
「……しゃあああぁっっ!!」
 仕掛けたのは浪川。だが、第一撃目を捌き、浪川の体は大きく崩れた。
「おっ……と」
 ――ズバッ!!
「こんなんで……いいですかね。広造さん」
 さすがは殺人鬼。どんなに腑抜けになろうと……強い。
 しかし、それは相手が人間である場合。このスピード、マーラはすでに見切っているのだろうか。
「マーラ、竹上の剣捌きについてどう思う? お前も武器を持ち、マジで命をやり取りをするというのなら、お前はあいつに勝てそうか?」
「今なら勝てるわ。間違いなくね」
 いずれお前に竹上を殺す機会を与えてやろう。そのとき、お前は地球上で一番強い女となるのだ。
 では次のステップに移るとしようか。

「――百々山」
「……なんだ? 儂に用か?」
 体術が完成した今、あと必要なのは術だけだ。これからマーラの訓練の割合を大幅に変える。
「マーラの訓練について、これからはお前の術指導に多く時間を割くことになるだろう。……マーラの体術。あれは俺の目から見ても異常なほど向上していた。あれはお前が教えた術の効果か?」
「ふふ、術というものでもない。一種の催眠だ。自己暗示だよ」
「それであの結果か……なるほど。それだけマーラと術の相性がよかったのだろう。例え偶然だろうが、この結果を生み出したのはお前の指導のおかげだ。あと六年、マーラに集中して術を教えろ。お前も見たことがない術をだ。お前では不可能でも彼女なら可能だ。ぜひ考えてやってくれ。マーラはまだ幼い。術の開発を一人でするというのは酷というものだ。どの分野にも優秀な指導者が必要だ」
「よくしゃべる……それほどまだマーラの闘いぶりが気に入ったのか?」
「そうだ、悪いか?」
「いや、素晴らしい作品になったと思う」
「だが仕上げがまだだ。それ次第では出来損ないにもなることだってある。それをお前に任せたい。やってくれるか?」
「わかった。できる限りのことはやってみよう」
「引っかかる言い方だな。はっきり言え」
「儂の寿命はあとわずか。自分のことだ、感覚でわかる。だからあと六年ももたないだろう。だからできるだけのことはやる。そう言ったまでだ」
「そうか……だったら仕方ないな。できる限りマーラに教えろ。お前の持つ、ありとあらゆる術と可能性をだ」
 マーラの訓練は続く。神に対抗できる手段。それは向こうの世界の術だ。
 もう少しでようやく勝ち目が見えてくる。具体的な計画と作戦を立てるには、もうあとほんの少しだ。