サイコー君のくま父さん

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『玉碁高校 アイラブ・シンブン』 その5

第二章 二大勢力

  1 報道部の東条文香

 この日は珍しく昼食を早食いせずに済んだ。今日は弁当ではなく、食堂で食事することになっている。春香の退院を祝うということで、ささやかながら小さな食事会を開くことになった。と言っても校内の食堂で新聞拡張部の部員が揃って食事するだけのことだったが。それには地味に俺の入部歓迎会も兼ねていた。
 ウチの食堂のメニューはどれもなかなか味がよく、昼食時には座席の争奪戦になっている。注文して品物を受け取るだけでも一苦労だ。ナッツなんか体が小さいのでかなり不利。人の間を縫うように進むこともできたが、品物を受け取って戻ってこなければならない。今度は人の波に逆らって歩くのだ。これもキツイぞ……。
「おばちゃん、カレーライスね!」
 身体能力と持ち前の図々しさを利用して、先に注文をしたのは春香だった。部員五人のメニューをまとめて注文するなんて洒落たことはできない。だってすでに人の波で皆の位置がバラバラになっているんだから。これは個人競技だ。
 積極性がなければいつまでたっても注文ができない。やがて周りが静かになり、普通に注文できるようになるまであと三十分はかかるだろう。それまで待っていたら昼休みが半分になってしまう。
 椎名さんはテーブルに座って場所を取っていた。オープンカフェになっているので、晴れた日は外で食べるのが気持ちいい。
 春香は自分の注文を受け取り、すぐに椎名さんの元に戻った。そして椎名さんの分も注文してくる。
「おばちゃん! カツ丼一つね!」
 早いなぁ、俺なんかまだ自分の注文ができていないのに。分速五センチぐらいしか進んでないや。位置取りがまずかったかな?
「おばちゃん、わたしオムライスね!」
 聞き覚えのある声。それはナッツ……。だが、ちょっとおかしいぞ。上のほうから聞こえた。あいつの身長からして声が聞こえるなら下からだろう。なにがどうなっている?
 声がするほうを向くと人混みからナッツの頭が一つ出ていた。……そういうことね。春香に肩車してもらってるのか。
 これでまだ注文が取れていないのは俺と部長だけか。部長も苦戦しているようだ。なんて思っていたら、いつの間にか一本の道が作られていた。誰かが通るのを避けている感じだ。まさか……。
「……ラーメン一丁!」
 部長かよ。そういう買い方もありなのか。でも、なんで他の皆が道を空けたんだろう。あとで聞いてみるか。

 結局、俺が注文できたのはそれから二十分後で、テーブルに着くと皆ほとんど食事を終えかけていた。
「おや、笹宮君。今からお食事会? わたしはもう終わったぜ」
 春香……早いな。こんなときぐらいゆっくり食べたらいいのに。毎日早食いしているからそれが体に染みついているんだろう。
「そういや部長。なんであんた、あんなに簡単に注文できたんだよ? 皆、道を譲るっていうか、避けてた感じだったぞ」
「ふん、あれはな、『近寄れば殺すぞオーラ』を使った」
「……はぁ? すまんが普通の人間にでもわかりやすく言ってくれないか?」
「近寄れば殺すぞ……と念じながら歩くのだ。簡単だろう? それによって人は皆道を開けてくれる。ま、修得するのはそれなりの根気が必要になるがな」
 ……あんた、どこの漫画の住人だよ。
 俺は祝いとして部から唐揚げ一個が進呈された。なんだよ、これ。あってないようなもんじゃん。せめて三個ぐらいくれよ。もしくはラーメンでもおごってくれ。なんだよ、唐揚げ一個って……。
 しかもその一個は部長が買った唐揚げ(三個で百円。けっこう安い)をひょいとつまんで、俺の天ぷらうどんの皿に投げ入れたものだ。危うくキャッチし損ねて、もう少しで落とすところだった。
「新米はこれで十分だ。いや、唐揚げよりお前は米粒一つのほうがよかったかな?」
 なんてことを言う。イジメのようないびりに耐えられるのは春香や椎名さんが優しくしてくれるからだ。
 ちなみに部長が唐揚げにラーメン(二百三十円)。春香がカレーライス(三百円)。椎名さんがカツ丼(三百五十円)。ナッツがオムライス(三百五十円)。俺は天ぷらうどん(二百三十円)を注文した。見事にバラけたな。
 美女四人の中に俺一人……ちょっと居心地悪いな。嫌ってわけじゃないけど、こんなハーレム状態でいいんだろうか。周りの男の視線が気になる。
 すでに女の子四人、話が盛り上がっているので俺は傍で聞いておくことにした。どんなことを話しているんだろう。
 初めはテストのあるある話とかなんかで、「職員室が生徒でごちゃごちゃしてる」「出ると思っていたところが見事に出ない」「徹夜すると妙に自信がつく」「カンニングがないように見張っておくと豪語した先生がすぐ寝る」とか、それはもう女子高生としてごくある話の内容だった。……だが、そんな時間は五分ももたない。話はごく自然の流れのように新聞になるのだ。
「ところで春香。お前のとこの販売店は騒音問題などにはなっていないか? 販売店には必ず騒音の問題があると聞いたことがあるのだが……」
 春香の実家は新聞の販売店だからな。リアルな答えが期待できる。新聞拡張部としてはちょっと気になるところだな。
「そうだねー、新聞を運んできたトラックのエンジン音や積み下ろしのときなんか、けっこう音がするもんね。バイクの発進音とか配達員の外でのおしゃべりとか。ウチにも以前そういうクレームがあったけど今はほとんどないなぁ」
「ほう、それはどうやって解決したのだ?」
「バイクのエンジンをかけるのは大きな通りに入ってからするようになったし、トラックの急停車と急発進はしないように徹底したかな。あとは基本だけど外でのおしゃべりは絶対にしない。こういうのだけでも騒音問題はたいぶ解決できると思うよ」
 なるほど、そうなのか。勉強になる。さすが販売店の娘だ。
 部長が上機嫌でほうほうと頷いていると、突然顔をしかめて「チッ!」と舌打ちをした。……どうしたんだろう。春香がなにかまずいことでも言ったのか?
 その態度の急変ぶりを見て、ここにいる誰もが不思議に思った。辺りを見回すと五、六人の女子がカレーライスやらラーメンを持って立ち止まっている。
 もしかして部長の知り合いか? もし彼女たちが部長の舌打ちの原因なら相当毛嫌いしているんだな。そんな人たちってまるで……報道部の人たちか?
 春香とみゆきの表情も一瞬でこわばる。ナッツはまだ反応が薄い。彼女だけこの人たちとあまり接点がなかったように思える。
「珍しいじゃない。あんたが食堂にいるなんて」
 一人の女の子が部長にそう言った。彼女は長い髪を後ろで一つに束ねている。そして横に長いおしゃれな眼鏡。目つきがどことなく鋭い。なかなかのプロポーションだ。すらりとした長い手足が色気を感じる。部長たちにも劣らずかなりの美人だった。
「……お前と話すことはない。さっさとわたしの周りから消えろ」
 部長はいきなり喧嘩腰だった。もうこれでほぼ確定だな。彼女が報道部部長、東条文香だ。
「そうは言っても……」
 東条が周りをきょろきょろ見て、部長の後ろの席に座った。背中同士を合わせる感じになった。
「こら、勝手に人の後ろに座るんじゃない!」
「でも他に席は空いていないようだし……ここに置いてあるテーブルや椅子ってあんたのもんなの?」
 部長はなにも言い返せないままこちらに向きを戻す。……うわ、この空気たまんねぇ。できればすぐここから離れたいよ。
「おい、笹宮。お前にわたしのラーメンをやろう。ありがたく思え」
 そう言ってなぜか部長が食べかけのラーメンをずいっと俺の前に置いた。でも、なんで食べかけのラーメンを?
「あのぉ、部長? 意味がまったくわかんないんだけど。おごってくれるんならメロンパンでもおごってくれよ。なんでお前の食べかけなんだよ」
「まずくなった! 後ろの女が食べてるのもラーメンだからな」
 そういや東条もラーメンを食べている。食べ物の好みは似てるんだな。でもたったそれだけで……。子どもっぽいなぁとは口が裂けても言えない。
「じゃ、じゃあいただくよ。天ぷらうどんだから、けっこう最悪な組み合わせになるけど……」
 俺の位置からだと東条の背中が見える。まっすぐできれいな姿勢でラーメンをすすっていた。だが、その彼女が部長の嫌味を聞いて、ピタリと箸を止める。彼女はゆっくりこちらを振り返り、美しい髪がなびく。
「あら、熱い」
「はっ! ラーメン食って火傷するとはバカ丸出しだな」
 部長は後ろを向かず、そのまま嫌味を言う。しかし「はんっ!」とか「ふんっ!」とか口癖になってんな。
「バカはあなたでしょう。……付き合ってるの、彼と?」
 彼? ここに男は俺しかいないわけで……でもなんで付き合ってるとかになるんだ?
「おい、こら。それはどういうことだ。クソ女」
「一組の男女が一杯のラーメンを分け合って食べる。どこからどう見ても二人は付き合ってるとしか見えないでしょ?」
「よ、よこせっ! 笹宮っ、ラーメン!」
 部長はさっき俺に渡したラーメンをひったくるようにしてぶん取った。
「か、帰るぞ。皆」
 部長はさっそうとその場を立ち上がった。東条のことが嫌いというよりは苦手にしている感じだった。
「神高……あなた戻ってこないの? 新聞部に。今は報道部という名になっているけど」
「誰が! わたしは部長と一緒に新聞を広めるんだから」
「部長……部長ねぇ。北大路は部長の器じゃないのよ。彼女はいつもナンバー二。わたしの下で働いているほうがずっと能力を発揮できるのに」
「なにっ? 部長はね……」
 やばい。春香の感情が高ぶってきた。こんなとこで新聞拳法なんてやってみろ。停学、最悪な場合は退学だ。
「よせ、春香。行くぞ」
 部長はそのままここを離れてしまった。あとを続くように春香、椎名さん、ナッツが行ってしまう。
 まだ半分も天ぷらうどんを食べていない俺は一人その場にポツンと残された。おい、待てよ。これほど空気扱いされた覚えはない。俺はこれから一人、もそもそとうどんをすするのかよ。
「――あなたが笹宮君ね。噂は聞いているわ」
「あ……ども」
「なぜ新聞拡張部になんか入ったの? 新聞に興味があるの?」
「いや、今はあるけど別にそれが理由で入部したわけじゃあ……」
 きっかけは部長に弱みを握られて。気持ちが揺らいだのは春香がかわいくて……なんて言いたかねぇ。答えづらい質問だ。だったらこっちから話題を変えてやる。
「こっちもあんたたちの噂は聞いているぜ、東条さん。春香が怒るようなつまんない新聞作ってんだってな?」
「わたしが部の権力を握ってから、新聞部の方針を変えたわ。広告枠を増やし、政治や経済の記事を増やした。一言で言えばお固い新聞になった、ってことかしら? それがあの子たちは気に入らないのよ」
「半数の読者は学生だろ。広告っていっても学生は金を持っていないし、政治とか経済に興味を持ってる学生がどれだけいると思ってんだよ」
「わたしは自分の作る新聞をもっと世の中に広めたいわ。だから学生向けの新聞なんて正直どうでもいいのよ。将来的には一部二百円とか三百円にしてお客に読んでもらいたい。そのためにはどうしても固い内容になってしまう。いわゆる高級志向の新聞を目指してるわけ。わかる?」
「それはあんたが大人になってからしたらいいだろう」
「今しかできないのよ。……笹宮君、あなた新聞業界についてなにもわかってないのね。新聞会社に就職することができても、自分が思う新聞作りなんてできると思う? 社会では個性が潰されるの。常に古いルールに縛られるのよ。だったら! 学生の間にわたしの新聞を世の中に定着させる。大学に入っても新聞作りはやめない。大学を卒業と同時に本気で起業してやるわ。それがなぜあの子たちにはわからないの? もっと先のことを考えれば今、学生向けの新聞なんて作ってる暇ないじゃない。富裕層ウケするネタとかどんどん記事にしないと! そして、多くのお客を掴むには彼女たちの力が必要なのよ」
「東条。あんたのほうこそ周りが見えてないよ。拡張部の皆は新聞が好きなんだ。好きな新聞をもっと多くの人に読んでもらいたい。そういう純真な気持ちなんだ。でも、あんたの行き着く先は金儲けだ。就職だ? 起業するだ? 学生ならもっと学生にしかできないことがあるだろう。だから部長たちはあんたの作る新聞に嫌気が差したんだ」
「……言うねぇ。ひよっこのくせして」
「ひよこでも新聞の一読者だ。読者をなめるなよ」
 東条はまた余裕の表情を見せる。
「この調子だと報道部との部数勝負の件は知っているんでしょう? ……潰れるから。拡張部は必ず」
「それってどういう……?」
「どうもこうもないわ。あの子たちは必ずわたしに泣きつく。新聞が作れないようじゃあね。ふふふ……ズズゥーッ!!」
 ラーメンをすする音がでけぇな、おい。クールキャラの雰囲気出してんだからもっと上品に食えよ。
 彼女たちは食事を続けた。俺もちょっとぬるくなったうどんを口に入れる。小さなエビを纏うてんぷらの衣がふやけて食感が台無しだった。

 部室に戻るとやはり部長が不機嫌そうに座っていた。
「……笹宮、遅かったじゃないか」
「ちょっと東条と話をしていたからな。彼女の新聞がウチの新聞と考えが全然違うってことがわかったよ」
「敵は手強いぞ。腕力こそないが、とんでもない策士だ。金持ち部とノリ部というのがあってな。そこで新聞部も加わり、ある計画を――」
「待て! ……お前な、いきなり言うな。金……あ? なんだぁ? ノリ部って海苔でも売ってんのかよ?」
「話の腰を折るな。金持ち部だ! 意味はそのまんまだろう。金持ち部がスポンサーになって、ノリ部がノリで企画を立てた」
 部長の話によると、去年の秋頃に一般の新聞と新聞部の新聞がシェア争いをすることになったらしい。ノリで。
 シェアの割合は夜見裏(よみうら)、麻姫(あさひめ)、煮京(にけい)各社が半分。その他の新聞が残り半分だ。
 そこで新聞部は東北神ニ(とうほくじんじ)という新聞を発刊。これは東条、北大路、神高、二階堂の頭文字を一字取って並べたものだ。別に東北の新聞というわけではない。
二階堂というのは印刷部の現部長のことだ。当時、この四人は最強の新聞四と呼ばれ、新聞会社から恐れられていたらしい。……なんのこっちゃ。
 結果は新聞部の圧勝。といっても勝手に業界に参入しただけなんだが。シェアは三か月で六割も占めてしまった。そのときは金持ち部のバックアップで景品やおまけなんかを付けまくったそうだ。
 やがてスポンサーがいなくなると東北神ニはなくなった。この指揮をしたのが東条文香だった。
 その強引な売り込みと戦略はもはや伝説。勝つためならなんの躊躇もしない。勝つ女。それが……。
「――東条だ! しかし、わたしたちには勝たなければならない。楽しい校内新聞を心待ちにしてる読者は多い。だから報道部と部数勝負をしている今は多少強引でも部数を伸ばさないといかんのだ。わたしはどちらかと言えば編集向きの人間だ。だから春香の働きが今後のカギを握る」
 ウチが有利な点は今のところ春香の拡張だけだからな。厳しい闘いになるな……。
「お前にも期待しているからな、笹宮」
「えっ?」
「当然だろう。春香の拡張をこんなに近くで見ているんだ。自然と拡張力はアップするはずだ」
 拡張力……新聞を売り込む力ってわけか。確かに春香の拡張を知る前と比べたら、俺の拡張力のレベルは上がっているはずだ。
「甘えるなよ。死ぬ気になってがんばれ、いいな?」
「わかったよ。俺ももう新聞拡張部の一人だ。部のため、自分のためにがんばるよ」
「……よし。じゃあ作業に取りかかれ。これからどのポイントを回るのか春香とじっくり相談しておけ」
 勝たせてやりたいな。部長に、春香に、椎名さんやナッツにだって。勝ちたい……!