サイコー君のくま父さん

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『ネクラだとなぜかモテるんです』 その5

  3 脱出

 ――目を覚ました。
 特にこの時間に起きようとか、携帯のタイマーを設定していたわけではない。自然に今、起きたのだ。
 真っ先にすることいえば、時刻の確認。
 ……六時。
 なかなかいい時間だった。
 これなら部活をしていない生徒は皆、帰っている。
 部活をしていても、もう帰り支度をしている頃だ。……ということは鬼門の奴もそろそろ帰るだろう。いや、もしかしたら帰っているかもしれない。
 予定では七時まで待つつもりだった。
 今、用具入れから出るか?
 大丈夫だろう、いや、大丈夫ではない。
 葛藤する。……結果、やはり七時まで待つことにした。

 そしてようやく七時になった。起きてから一時間たっているので、目も冴えている。
 よし、今から脱出だ。念のため、ゆっくりとドアを開けた。
 ……目の前に鬼門はいない。
 とりあえずホッとした。ずっと体を縮めていたので、体を伸ばすと気持ちがいい。
 用具入れに入るとき、すでに空は暗かったが今ではさらに暗くなってきている。
 ほとんど暗闇と言ってもいいぐらいだった。
 誰もいない校舎は怖いものだ。さっさとここから出よう。
 ここが暗いということは当然、二階も暗い。
 まさか、こんな時間になったらさすがにいないだろう。
 ボクは実験室を出て、忍び足で三階へと続く階段を下りた。
 三階……特に変わった様子はない。ここも静かだ。
 じゃあ、次は二階だ。ここはなるべく用心しよう。
 図書室の引き戸の取っ手に指をかける。そのままほとんど音がしないように、引き戸を開けた。
 いない……
 とりあえず入り口の付近に鬼門はいない。窓があるのは中央だ。ここから出るには中央まで移動しなければならない。
 ボクは慎重に進んだ。まだ鬼門がどこかに隠れていると思って……
 
 徐々に窓のある方に近づいた。
 いつも鬼門が座っていた椅子、そして机が目の前にある。
 机の上に鬼門の荷物がない。いつもなら、そこに鞄やら本やらいろいろあったが、それがなかった。
 これは鬼門が図書室から出た証拠。つまり旧校舎にはボクを除いて誰もいない。
 さすがに七時になれば奴も帰ったのだろう。
 安心したせいか、大きく息をついた。
 やれやれ、とんでもない一日だったな。
 ボクは窓から出ようと窓枠に足をかける。そして、外に出ようとした瞬間――
 何かがボクの背後から近づき、抱きつかれた。
 そのままボクは図書室にへと引き戻される。
「うわっ……!」
 安心しきっていたので、驚きが半端でない。一体、何者……?
 後ろに倒れながら、振り向いた。
 ――奴だ。虎松鬼門。
 あいつがまだ図書室に潜んでいたのだ。ずっと息を殺していたのか?
 最後の最後に油断してしまった。
 ボクの体は奴の両腕にがっちり捕まっている。
「くそ! 鬼門っ! お前、まだいたのかっ!」
「へへ、そうだよ。ずっと待ってたんだ……かわい子ちゃん」

 ――かわい子ちゃん?
 ボクの聞き間違いか?
 明らかに鬼門の様子がおかしかった。一体、この短時間の間に何があったのか?
「……どういうことだ、鬼門! ふざけるな!」
「ふざけてなんかないよ。俺、ようやく気づいたんだ」
「だからっ、何に?」
「俺、お前のこと好きだわ」
 何……?
 ボクのことが? ……何の冗談だ。こんなの笑えないぞ。
「お前に会ってからボクは自分の中で、何かが変わった。目覚めた……そう感じたよ。俺もな、初めは笑美ばかり見ていたんだ。どうしたら笑美と仲良くなれるだろうか。そう思って俺は笑美が喜ぶことばかりしていたさ。でも……何がネクラだ。ずっとそんなんだと息が詰まるよ」
 ボクは鬼門の話すことを一字一句聞き漏らさないように、ずっと耳を傾けていた。
「でもなぁ、お前が来たあの日。俺、好きになったんだわ。理屈じゃねえ。ずっとこんなところにいたからかな。俺、変になっちまったのかも。だって、男に欲情するなんて今までなかったもん」
 男に欲情だって? ……こいつ、マジもんじゃねえか。やめろ、この……触るな。
 鬼門はボクを抱きかかえたまま、背中を床につけている。ボクはこの状態から抜けられないままでいた。
「お前の顔、女みたいじゃん。だったらそれもありかなーって。お前のその小さな肩幅とか、細い首とか見てるとよー、ドキドキするんだよね」
「……くっ、バカにするなぁっ!」
 何とか繰り出した肘打ち。それが鬼門の脇に当たる。
「ぷぷっ、何それ? 全然痛くない。お前って非力だよね~、そういうところもかわいいなぁ~」
 非力なのも理由だが、体勢の問題もあった。背後から抱きしめられているんだ。これではまともに力なんて出せやしない。……となると、
 ガンッ! ガンッ!
 頭突きだ。どうた、このっ……!
「あははは、痛いなぁ~、もうやめてよ~。でも、それって逆効果。だって、お前のいい匂いのする髪が俺の顔に当たるんだぜ? これってむしろ体力回復する方だろ?」
 彼の精神はすでにおかしくなっている。
 長い間、こんなところにずっと引きこもっていただけのことはある。もう彼は普通の人間ではない。
「ふふ、ちょっと大人しくなってきたね。じゃあ……」
 ブチンッ! ブチンッ!
「なっ、何を?」
 制服のボタンがちぎられる。ボタンは数十センチほど床を転がった。
「見せてよ。お前の裸。全てを……」
「おい。いいか、鬼門。ボクは男だ。男同士で……変だろ!」
「いいや、変じゃないよ。もう、我慢できないんだ。お前が欲しい。陰見勇戸……勇戸」
 ボクは床に押しつけられ、鬼門がボクの上に乗った。……いわゆる馬乗り状態だ。
「このっ……!」
 ボクの両腕は手首のところで鬼門の片腕で掴まれている。
 それをボクの力で振りほどくことはできなかった。
「ね、身動きできないでしょ? くっく、これからどうしよっかなぁ、楽しみだなぁ」
 変態。そう、彼は変態だった。
 このままどうなるのだろう。考えるのが嫌だった。そんな想像しかできない。
「……めてくれ」
「ん?」
「やめてくれよォ、ボク、嫌だよ。男同士でこんな……」
「おほほっ! いい! いいねえ! その怯えた顔! ……も、萌える~」
 鬼門はよだれを垂らして、焦点が合っていない。もう何をするのかわからない状態だ。
 まるで獣だ。
 鬼門は素早く自分の上着を脱ぎ出した。さらにベルトをカチャカチャと外しだす。
 このままだとやばいんじゃないか、本当に……。
 でもボクは鬼門の重みに抵抗することができない。
 このままじゃあ本当に……嫌だ……嫌だ!
「ははぁ~、もう観念しなってぇ~。へへ、ウヘヘ」

 ……風の流れが変わった?
 突然、いい香りが図書室に漂ってきた。
 これは……何?
 どこかで嗅いだような香りだ。どこだ……
「……あーあ」
 女性の声。上から聞こえた。すぐそばだった。
 ――窓を見ると、ブロック塀のところに腰掛けている女性がいた。
 彼女は……高倉笑美!
「勇戸君……君の姿が五時間目から見なくなって、ちょっと胸騒ぎがしたの。で、一回帰宅して、また学校に来て……もしやと思ってここを覗いてみたら……何これ?」
 そんなのボクの方こそ説明してほしいよ。
「助けて!」
「……この状況、誰か説明してくんない? ねえ、鬼門……」
「うっ……、え、笑美か。これはその……」
「何であんた、パンツ一枚になってんの? ホモ? それにこんなのネクラでも何でもないじゃん。ただの変態だったらわたし、全く興味ないよ」
「むっ、むむむ……」
 おそらく三人が何一つ理解できない状況。……これからどうなるのか全くわからない。

「……じゃ、わたしは帰るから」
 高倉さんがそのまま踵を返そうとした。
「待って!」
 ……高倉さんがこの場から何も言わずに出て行ったら、ボクはいろいろと終わってしまう。
 こんな気持ち悪いデブに好き勝手にされるなんて死んでも嫌だ。
「お願い……助けて、高倉さん」
「……勇戸君」
「とっとと行きな、笑美! もうお前には興味がねえ。こっちから払い下げだ。……何だ、ネクラだぁ? 俺はな、そんなの自覚した覚えは全くねえぞ! お前のご機嫌を取ろうと思って演技したまでよ。お前は顔だけはいいからな。ちょっと変な性格ぐらい目をつむっててやろうと思ったよ。だが! もうそれも今日まで。お前には愛想が尽いた。これからはこのかわいい勇戸だ。ウシウシ、ウシシシシ……」
 鬼門がぶっちゃけた。
 これで高倉さんと鬼門が付き合うという心配はなくなった。
 高倉さん、ショックだろうな。だって、今までずっと騙されていたんだから。
 で、次に心配するのはもちろんボク自身のこと。鬼門、こいつをどうにかしてほしい。
 直接助けてくれなくてもいいが、せめて学校の先生を呼ぶなりしてほしい。そのまま立ち去るのだけはやめてほしかった。
 ……いや、っていうか、もう時間がない。鬼門がボクのベルトに手をかけた。
 訂正する、今すぐに助けてほしい。
「高倉さん……お願い……助け……」
 最後の頼みだ。ボクは泣いていた。枯れるような声で何度も懇願する。

「……仕方、ないね」
 それは天使が舞い降りたようだった。
 高倉さんが旧校舎の中に入る。
 ……きれいな髪の毛がその動きにわずかに遅れて、なびいた。
 トン、とコンパクトな音で片足ずつ着地する。
「笑美……来るなと言ったろう」
 鬼門は本気でもう高倉さんに興味がないようだ。これは望ましいことではあるんだが、この状況では素直に喜べない。
「あんた、ホモだったとは……とんだ計算違い。あんたに費やした時間、返してほしいぐらいだわ」
「お前は疲れるんだよ、ネクラが趣味だぁ? そんな奴にホモだとか言われたくないな」
 どっちもどっちだ、とボクは思った。
 わずかに高倉さんがこちらに近づいた。……一体、何をするつもりだ。
「がっ……!!」
 突然、鬼門がボクの上から退いた。……というより、吹っ飛ばされた感じだった。
 吹っ飛んだ? なぜ?
「何だ、これ……?」
 鬼門はわかっていないようだった。なぜ、彼が吹っ飛んだのか。
「大丈夫、勇戸君?」
「え、うん……はい」
 高倉さんが屈んで、ボクの腕を肩に回した。
「あ……ボタン」
 ボクは引きちぎられたボタンを拾った。
 その間、高倉さんと鬼門は二人して睨み合っている。
「――おい、さっきのあれ……お前の仕業か?」
「見えなかった? ま、そういうふうにしたから」
 なぜ吹っ飛ばされたのかわからない鬼門に対して、高倉さんはどこか余裕だった。
 でも、いくらスポーツ万能といっても高倉さんは女の子だ。
 こんな鬼門みたいに重量級、相手にできるはずがない。
「服……着なさいよ。みっともない。元彼ってことで、それぐらいの時間は与えてあげるわ。……だって見つかったとき、パンツ一枚じゃあ格好がつかないでしょ?」
「言ってくれる。ちょっと待ってろ……」
 鬼門が脱いだ服を着る。
 とりあえず、この場は助かった。ボクも着衣を正した。ちぎれたボタンはそのままポケットの中に入れた。
 二対一。それなら非力なボクと、女の高倉さんでも勝機があった。
 二人で鬼門を倒す。それほど自信はなかったが、やってのけるしかない。
「高倉さん、ありがとう。……ごめんね、こんなことに巻き込んで」
「いや、いいよ。元はと言えば、わたしが勇戸君にこの場所や彼を紹介したんだもの。わたしの方こそ、ごめん」
「高倉さん、二人なら勝てるよ。たぶんね……まず、ボクが鬼門の足に飛びかかる。下に注意がいった鬼門を高倉さんが……そうだね、目潰しでどうかな? 目は人体の急所の一つ。あ、でも向こうは眼鏡をかけている。だとしたら、あのでっかい鼻に拳骨の方がいいかも」
「……勇戸君、あなた何を言っているの?」
「え、何って……算段だよ。あいつはここから無事にボクらを逃がすなんて思ってないだろう。最悪、高倉さんも怪我することになるよ」
「で、あなたは貞操を奪われると……?」
「う、それは……」
「よく見るとかわいい顔してるもんね。あはは、今まで気づかなかった。見た目は全然、ネクラっぽくないじゃん!」
「う……かわいい?」
 普段、こんなこと言われて嬉しいはずはないのだが、今回は違う。高倉さんに褒めてもらっているようで嬉しかった。でも、ネクラっぽくないか……こういうとき、どんな顔したらいいんだろうか。
 いや、そんなことよりもっと大事なこと! 鬼門を倒す算段。今はどんなことよりこれが大切、最優先だ。
「ねえ、ボクの作戦……不満? じゃあ、どうすればいいと思うの?」
 ボクは小声で、高倉さんだけが聞こえるように言った。
「安心して。こう見えてもわたし、けっこう強いから……」
 強いだって? でも相手はあんなにデブな男なんだよ。
 きっと握力とか、ボクたちの三倍はある。後ろには逃げ場がない。どう見たってこっちの不利は明らかだ。
 高倉さんのその自信は一体どこから来るんだ?
 単なる強がり? それとも何か手があるのか?
「かかってこねえのか? ……じゃあ、こっちから行くぞ!」
 鬼門が高倉さんの方に向かって走った。
「ぐはっ!」
 なぜか後ろに上体を反らす鬼門。もう少しでそのまま後ろに転倒しそうだった。
「えっ……何?」
 ……たぶん高倉さんが何かやったんだ。でも、その何かはわからない。
「訳のわからん……てめぇっ、この!」
 また鬼門が高倉さんに近づいた。――だが、結果は変わらない。
「がっ、ぐほっ、でっ!」
 まるで高倉さんの周りにバリアが張っているようなそんな感覚。
 ある程度まで近づいたら、弾かれてしまう。
 鬼門が後ろに体を反らすたびに、高倉さんの髪がなびいた。
 ……よく見ると、鬼門の顔が血だらけになっていた。鼻や口からは血が垂れている。
「うっ、これって……血?」
 鬼門は自分の鼻や口から流れる血にようやく気づいた。……その場で動きが止まる。
「何だこりゃあ……魔法か? 呪いか?」
 ボクもそうだと思った。ボクは高倉さんのことを女神のように思っていたが、今では悪魔のように見えた。
「ふふ、わかんない? わかんないよね~。だって見えないんだから」
 高倉さんが自信ありげにそう言った。でも、見えない……一体、何が?
 続けて高倉さんはこう言った。
「最速の蹴り。普通の人では見えないよ」
 鬼門を攻撃していた正体、それは蹴りだった。しかし、本当に蹴りなのか? 全く見えなかった。人間の目で確認できない蹴り……どんなスピードだよ。
 今度は高倉さんが鬼門を追い詰める番だった。
 高倉さんが鬼門に近づく。鬼門はそれと同じ距離だけ後ろに後ずさる。
 ……だが、鬼門の背中が本棚にぶつかった。もう後ろはない。
「うっ、来るな……来るなよ!」
「わたしを騙していたんでしょ? ネクラじゃないのにネクラな真似して……それって何のため?」
「うう……もういいだろ? 俺はもうあんたに興味はない。それはあんたにも言えることだ。なら、もう話はナシにしようじゃないか。あんたが強いこともわかったよ。だからもういいだろ? 旧校舎にはもう来ない。いや、来るもんか。こんなところにいたって何の得もない。俺はもう普通の人間に戻るんだ。ネクラごっこはお前たち二人でやればいい。ついていけないよ。はっ、ちょっと顔がいいからってふざけるな。そこをどけ。どけったら!」
 ボクは高倉さんが本当に怒った顔を、今までに見たことなかった。
 その顔は到底女神とは思えない。……やっぱり悪魔だ。
「それだけ? 勝手なことばっかり言いやがって……死ねよ! てめえ!」
 うわ、言葉まで変わってるし……相当怒っているな。これはもう誰だって引く……
「ふっ、ふふ、へへへ……」
 突然、鬼門が笑い出した。……もしかして。
「危ない、高倉さん! あいつ、狙っている。この至近距離!」
 高倉さんの蹴りは本当に速い。でも弱点もある。
 それは威力が低いってことだ。
 よく考えてみれば、何度も相手の顔に蹴りを入れているのに、倒すことができない。せいぜい鼻や口から流血させる程度。
 だから距離が近ければ近いほど危険なんだ。
 鬼門はきっと多少のダメージを覚悟して高倉さんに襲いかかるぞ。彼女はそれを理解しているのか?
「ぐはは、覚悟しろ!」
 鬼門は両手をいっぱいに広げて、高倉さんに襲いかかった。……もうこれは変態行為そのものだ。
 対して、高倉さんは……

 ウソ? 何も動かない?
 逃げて! もしくは全力で蹴って! 何か、しないと……
 飛び上がった鬼門はそのまま垂直に落ちた。だから結果的には垂直跳びをして着地に失敗し、受け身の一つも取らずに落っこちた感じだった。
 鬼門が立ち上げる様子はない。そのままダウンだ。気を失ったのだろう。
 体はビクビク動いていたので、死んではいないようだ。
「あの、これって……」
 何が起こったのかわからない。きっとそれを知るのは高倉さんだけだ。また彼女が何かやったのだろう。その、目にも止まらない早業で……。
「……顔面。左右で六発。さらに八回の蹴り。――その時点でもう気絶していたんだけど、ムカついたからオマケにキン○マを十回ほど蹴ってやった」
 それを……全部、あの空中で?
 だからどんな速さなんだよ。
「さ、行くわよ、勇戸君。もうここには用はないわ」
「う、うん……」
 ボクの方に手を差し出した高倉さん。でも、その手にボクが触れることはなかった。
「手、貸さなくていいか。もう一人で動けるもんね……それともわたしが怖い?」
 ……どっちだろう。もう一人で歩くことはできた。怖いと聞かれると、そうかもしれない。
 でも、怖いっていう気持ちより、正直高倉さんを不気味とさえ感じた。
 だって、そうだろ? ネクラ好きってだけで変な子だったんだ。
 それなのに、さらにこんな……空手の達人なのかな? それともテコンドー? 訳わかんないや。一体、高倉さんって本当は何者なの?
「あの……高倉さん、本当はあなたって誰なの? 何でこう……ぶっ飛んでるの?」
「……いいよ。それ、言われるの慣れてるから。自分でも思う。わたし、変な奴だよね。一体何がわたしをこんな女にしたんだろう。……もうわたしのことは忘れて。自分で帰れるわよね? 鬼門も気絶してるから、もう君を襲うこともないわ。わたしはこれで……」
「あ、待って……」
 忍者のように高倉さんは窓からブロック塀へ、そしてそのまま学校の外へ移動した。
そっか、わざわざ校門をくぐらなくてもこうして帰れるのか。じゃあ、ボクも……
 鬼門が気絶しているうちにさっさと退散しよう。
 ボクも……彼女への興味は薄れていた。
「女神だと思っていたんだけどな……」
 気分はそれほど悪くない。今まで無理してネクラを演じてきた。でも、明日からもうそれもしなくていいんだ。
 不思議な気持ちだった。
 引きこもる理由もない。たぶん、明日から普通にまた学校に行くだろう。
 結局は今まで高倉さんに接した男たちと同様の結果になってしまった。
 ボクも普通の人間になったんだ。高倉さんを見ていたらわかる。普通が一番なんだと。
 ボクは普通だ……