サイコー君のくま父さん

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『大泥棒』 その6

第二章 変化のモンキ

  1 生い立ち

 ノースデンと呼ばれるこの土地は国一番裕福で、自然にも恵まれた町だ。
 それはたった一人の男がもたらしたと言ってもいい。
 ノースデンに住む者なら誰もが知っているその男の名前はモンキ。
 ……つまり、わたしのことだ。今では市長の座に就いている。
 わたしは決して腕っぷしが強かったり、頭が良かったりしたというわけではない。
 ただ一つの能力がわたしにはあったのだ。わたしはそれを最大限に活用しただけに過ぎない。
 しかし、やれやれ。もうすぐ老いで死にそうだ。
 だから、わたしの秘密を話そう。これはもう五十年以上も前の話だ……。

 わたしはどうも孤児だったらしい。
 この国には捨て子を専門に収容する施設……ようするに修道会が運営する棄児院があった。毎年五千五百人前後の捨て子がそこに入れられた。
 捨て子の死亡率は五十五パーセントといわれる。

 引き取った赤ん坊を公共救済児童として養育費をつけて田舎の乳母に預けるもいた。
 わたしがちょうどそれである。だが、預けた先の人間もすぐにわたしを捨てた。
 気づけばわたしはある森の中にいた。
 この日、天候は晴れだったが、風が吹くたびにわたしは寒さで震えていた。
 季節は春だったか。まだ冬でなかっただけでせめての救いだ。わたしはその寒さに耐えることができた。
 そして、もう少し時間が経てば夏になった。そうなったら寒さに怯えることはない。もう少しの辛抱だった。
 今、着ている服はぼろ服だった。ところどころに穴があり、そこから入る風がとても寒い。それはもう服とは言えないぐらい機能していなかった。
 
 物心がついたとき、わたしの側にはいつも大柄な男が一人いた。……言い換えればわたしに彼がわたしの育ての親だった。
 その男の名前はジャック。
 ジャックは背が高く、丈夫な体をしていた。
 彼も決して身なりが良いものではなかった。
 彼が好んだのか、それとも金がなかったのかはわからないが彼はいつも裸足だった。だが、一度も寒がる様子はなかった。暑いとか、寒いとか、彼の口から聞いたことは一度もなかった。
 雨が降ったときでも、それを自然に受け入れた。雨に打たれることを喜んでいるようだった。それが理由で雨宿りをしようなど考えもしなかっただろう。
「……ジャックは何でぼくの世話をしてくれるんだい?」
 幼いわたしがそう言うと、ジャックはこう答えた。
「別に意味はない。お前を拾ったから、育ててやっただけだ。今の生活が嫌ならどこにでも行くがいい」
「ごめんっ! ジャック、そんなこと言わないで。今の生活、ぼくは全然嫌じゃないよ」
「ん? 別に怒っているわけではない。俺は仙人だが、お前はただの人間だ。俺と一緒に暮らしてどうして幸せな生活が送れるというんだ? 人間なら人間と一緒に暮せ」
「ぼくは何で仙人じゃないのかな……」
「だから、お前は捨て子だ。仙人の子ではないのだから、仙人でなく当然だろう」
「……なら、ジャックは何で仙人なの?」
「さあな。……俺も人間だったが、森に住んでいるうちに勝手に妙な術が使えるようになったんだ。人間たちが勝手に俺のことを仙人だと言っているのだから、俺もそう名乗っているだけだ」
「ぼくも仙人になりたい!」
「知らん! なりたいと思ってなれるものではない」
「ねえ、ジェダのお腹って何か入っているの?」
「はぁ? いきなり何を言っている?」
「ねえ、どうなの?」
「あるのは臓器だけだ。あとは血と肉と言ったところか」
「……いいや、そういうのじゃない。ジェダのお腹の辺りからこう……うまく説明できないんだけど、すごい力を感じるんだ」
「ふん。別に何もないがな。……しかし、大した奴だ。とだけは言っておこう」
「やっぱり! 何か秘密があるんだね! 何?」
「それはお前の知ることではない」
「じゃあさ、せめてちょっとだけジェダのお腹、触らせてよ」
「バカを言うな。何でお前なんかに……」
 ジェダはわたしに触られることを拒んだが、幼いわたしは彼の言うことをまるで聞かず、無邪気に彼に近づいた。
「ちょっと触るぐらい、いいじゃないか……うわ、すごい。触っていると、どんどん力がぼくの中に入っていくような感じだ。これがもしかして仙……」
「うるさいっ、もうこれ以上触るなっ! ……もう、好きにしろ。お前ももうある程度のことは理解できる歳になっただろう。これを受け取れ」
 そして、ジャックから渡されたのは百ゴルダーだった。
「このお金は……?」
「この金は俺の宝を奪おうと襲いかかって来た奴らが持っていたものだ。俺はいらん。お前が使え。ここでは何の価値もないものだ。人間がいる世界で使えば、これも有効なものとなるだろう。じゃあな」
「待って、ジャック! まだ一緒にいたいよ。ぼくを見捨てないでくれ!」

 しかし、ジャックはもういない。
「ジャック、ううぅ。ジャック……」
 泣いて解決する問題はない。それから一時間この場所にいても、ジャックはわたしの前には現われなかった。
 ジャックはわたしにとっては親だった。
 わたしはまだ十三歳。
 まだ一人で生活するには不安な年齢だった。
 これからは誰を頼って生きていこう?
 森の中に人はジャックしかない。つまり、これからは自分でどうにかするしかなかったのである。
 幼かったわたしは百ゴルダーを手に持って、山を下りることにした。だが、道もよくわからない。下りようにも下りられなかった。
 あるときはジャックを恨みすらした。
 ……だが、そんなことを考えてもまるっきり意味がなかったので、わたしはすぐにその考えは捨てた。
 必要なのは食べるものだった。それに防寒具。昼はいいが、夜になると冷え込んだ。わたしは葉っぱを集めてそれをベッドのようにした。こんなものでも少しは暖かく感じた。
 初めての一人。それは全てが恐怖だった。毎日が不安との闘いだった。
 食べ物はそこらへんに生えている葉っぱや木の実を食べた。どの葉っぱが食べられるかは前にジャックに教えてもらっていた。
 
 ――それから数か月が過ぎた。
「いーい、風だなぁ~」
 陽の光は日増しに強くなってきて、寒い中にも春の訪れを感じる。
 わたしは十三歳にしてある程度のサバイバルする力が身に付いていた。
 わたしはまだ、ジャックがいるこの森の中にいた。
 今では人間のいる町まで下りようと思えば下りることはできたが、そうする必要性はあまり感じなかった。
 森の中で生活することは楽しく、このまま森の中で暮らすことも考えていた。
 ジャックからもらった百ゴルダーは、お守りのようにずっと肌身離さず持っていた。
 そんなある日、二人の男たちがわたしを見つけた。
「おい、お前。そこで何をしている?」
 ジャック以外の人間に会ったことは初めてだった。
 二人は三十歳から三十五歳ぐらいに見えた。
 このとき、わたしはいつもより興奮していた。
 どんなことを話そうか? どんな態度をとったらいいのだろうか?
 幼いわたしはこの男たちがとても特別な存在に思えた。
「……こんにちは。おじさんたち、人間だよね。ぼくも人間だよ」
「何を言ってるんだ、このガキは……いいからその木から下りて来い! 親とはぐれたのか?」
「……はぐれたっていうか、ぼく、捨てられたみたいなんだ。だから、ずっと一人なんだよ」
「親に捨てられてずっとこの森で生活していたのか? 変なガキだぜ。お、何だそれ?」
 一人の男がわたしの持っていた布袋に興味を示した。
「ああ、これ? お金なんだって」
「金? いくら入っている?」
「えっとぉ、よくわかんないけど、ジャックが百ゴルダー入っているって言っていたよ」
「五百! ……その、ジャックっていうのはガキの保護者か?」
「ほごしゃあ? 何それ? よくわかんないや……」
「そのお金、おじさんたちに渡しなさい」
「えー、やだよぉ。これはジャックがくれた大切なものなんだ」
「ものじゃねえ。金だ。金は使ってこそ価値があるものなんだ。お前みたいなガキに百ゴルダーなんて大金もったいねえ!」
 男が乱暴にわたしのお金を奪おうとするので、わたしは木に登って男たちから逃げた。
「くそ! 猿みたいな奴だ。この……モンキーめ!」
 男がピストルを取り出す。
「おら! 下りて来ねえと撃つぞ!」
 怖い……! わたしは木に捕まって目をつむった。
 
 ドォーン!
 
 男が撃った弾がわたしの鼻を吹き飛ばした。
 木から落ち、鼻腔からは大量の血がボタボタと流れ出す。
 そのとき、わたしはショックと大量の出血のせいで意識がもうろうとしていた。
「へへ、これで百ゴルダーだ」
「いいのかよ? そんなガキ撃ち殺してよ」
「いいんだ。こんな森の奥、誰も気づきやしねえ。セント・ストーンを探しに来たのに、いい小遣い稼ぎになったな。……ん? このガキまだ息がありやがる。さっさと死ねよ」
 男がピストルをわたしに向けた途端、空から大きな男が降って来る。
「う……ジャック?」
 大きな男はジャックだった。
 久しぶりの再会だった。こんな状況にも関わらず、わたしは彼に会えたことがとても嬉しかった。
 そして、ジャックはとても怒っているようだった。
「何だ、お前……? どこから降って来た?」
 男たちが大きな男を見てそう言った。
 並んで見ると、背丈がまるで違う。体の大きさは二倍ほどあった。もちろん、大きい方がジャックだ。
 男たちはそのことに少し怯えた様子だった。突然、空から降ってきたことにも驚いただろう。だが、ピストルを持つ手に力を込めると、男たちはまた強気な態度を取った。
「てめえは誰だって聞いてんだよ!」
「お前ら、こんな小さい子どもを撃ったのか?」
「へっ! お前も殺してやるよ、くらいな!」
 男がピストルをジャックに向けるが、どこからか木の枝が飛び出して、男のピストルをはじき飛ばした。
「いってえ……!」
「子どもの方はもっと痛かったと思うぞ。……鼻が飛んでしまっているじゃないか。むごいことを……」
「おまっ、お前のピストルで撃て!」
「おおよっ!」
 もう一人の男もジャックに向かってピストルを撃つが、先の男と同様、木の枝が邪魔をする。
「いてえっ! 何だ、これ……何で木の枝が?」
「お前たちは死ぬ必要があるな。どうせ生きていても何の役にも立たないだろう。争いを好む愚かな人間よ」
 木の枝が男たちの首を巻きついた。それがじわじわと首に食い込んだ。男たちの表情は一瞬にして、苦悶の表情を浮かべた。
 ほとんど声を出すこともなく、男たちは死んでしまった。
 ジャックはわたしの方を見て、ゆっくりと歩いてきた。
「……生きているか? すまなかったな。俺が渡した金が争いの原因だったんだろう?」
「ジャックのせいじゃ……痛い!」
「まだ出血している。大人しくしていろ」
「助かるのかな……死んだら、太陽のよく当たるとこに埋めてくれよな。じめじめしたところは嫌いだぜ」
「お前は死にはしない。自然の力を信じろ。この森全体を全身で感じるんだ」
「うん……」
 やがて、わたしは眠りについた。
 側にジャックがいるというだけで安心した。

 ――しばらくたって起きると鼻の出血は止まっていた。だが、鼻は吹き飛ばされたので、なかった。
 ジャックはもうわたしの側にはいなかった。
 ……また一人に戻ってしまった。
 わたしはそれからすぐに、死んだ男二人から荷物をあさった。
 その中からナイフが出てきた。
 わたしはそのナイフで男の鼻を削ぎ取った。
 そして、それを自分の鼻につけてみたのだが、当然くっつくはずはない。切り取った鼻はそのまま地面に落ちた。
 そして次にもう一人の男の鼻を削ぎ落す。今度は男の皮全体をはぎ取った。自分の顔につけようとするが、なかなかくっつかない。
 そこでわたしは粘着性のある植物を探した。それは葉っぱをぐちゃぐちゃに握りつぶすと粘着液が出るのだ。
 わたしはそれを切り取った顔の皮に塗りつけ、自分の顔に貼ってみた。
 そうすると、ぴったりフィットするのだ。
 これで自分の鼻が治ったかのように思った。
 これが後々、変装術として活かされることになる。
 
 わたしは森の中で死んでいる死体の顔の皮を集めた。どういうわけか、この森には死体がたくさんあった。
 そして五年でその数は三百を越した。
 そのとき、わたしは気づく。葉っぱを金の形にする力が身に付いていたことに。
 人間にはない特殊な力。わたしも仙人になれた気がした。
 ジャックとしばらく一緒に暮らしていたことが、わたしにも特殊な力が使えるきっかけになったのだろうか。
 わたしは葉っぱを金以外に変化させようと試みたが無理だった。
 人間が金に執着する醜い姿を何度も見ているうちに、このような力がついたのだろう。それは自分を守る防衛本能だったのかもしれない。
 金を作り出すこと。それを人間に渡すことで注意を金に引きつけることができた。

 ――わたしの歳は二十二になった。もう体つきも立派な大人だ。
 服は死体から奪ってやった。今では上等な上着に、艶のいいズボンを履いている。
 そんなある日、ジャックがわたしの前にやって来た。
 ……約十年ぶりの再会だった。
「――やはり、この騒ぎはお前だったか。遠くで声が聞こえたものだからな、またセント・ストーンを奪いに来た人間かと思ったが……」
「わたしが代わりに殺してやった。……ジャックか、久しぶりだな。そのセント・ストーンってのは何だ?」
「いや、お前が知っていても意味はない。それより……変わったな。すっかり悪い人相になったな。悪人のようなツラをしているぜ」
「ツラは変えられるんだよ……ほら!」
 わたしは磨き上げた変装術で一瞬のうちに女の顔になった。
 ジャックは狐につままれたような顔をしている。
「何だ、貴様。それは?」
「死体の顔をちょっとな」
「悪趣味な奴め。もうお前はこの森から立ち去れ」
「おう、そろそろ頃合いだと思っていたところだ。金も三千ゴルダーまで貯めたしな」
「死人から奪っただけの金を集めて、貯めたなど言うな。ガキが……」
「わたしの名前はモンキ。人がそうわたしを呼ぶ。そう、モンキだ! モンキと呼べ!」
「……去れ、モンキよ。そして二度とこの森に近づくな」
「ああ、こんなところもう来ることもない。ジャック、お前はここでずっと仙人でもやっておけ。わたしは人間のいるところに行く!」
 わたしはそのまま森を出た。
 ……そこには初めて見る風景の連続だった。
 人間の住む世界とは実に面白そうだった。
 さて、何をしようか。
 どうせなら人間世界の頂点を目指したい。
 幼いときに森に捨てられた最低のスタートを切ったわたしだが、人間の世界でとことんのし上がってやる。この葉っぱを金に変える力と変装術でな。