読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

サイコー君のくま父さん

くま父さんがアニメ化されるまでアピールするぞ! オリジナル漫画・ラノベ作品を大量に公開中!

にほんブログ村 小説ブログ ライトノベル(小説)へ ゲーム・古本・DVD・CD・トレカ・フィギュア 通販ショップの駿河屋

『ネクラだとなぜかモテるんです』 その4

  2 逃亡

「待て、待ちやがれ~!」
 鬼門が追いかけてくる。
 はぁ、はぁ……階段を登るのがキツイ。
 どうやらそれは鬼門の方も同じようだ。後ろからあいつの苦しそうな呼吸音が聞こえる。
 三階に上がるとすぐ左手の方向に引き戸があった。
 そこは教室だ。入るか? それとも、もっと奥に行くか?
 ……もし奥に行っても他の教室、もしくは部屋があるとは限らない。本当は階段がこの先にあればよかった。そしたら階段を下りて、二階に行ける。
 さらには図書室から旧校舎の脱出ができた。
 だが、階段があるという保証はない。行き止まりというリスクを避けたければ、今は目の前にある引き戸を開けて教室に入ることが一番だった。
「……ええいっ!」
 考える時間も大してなかった。ボクは教室に入った。
 ……そこは大きな教室だった。
 たくさんの机と椅子が並べられてある。百人は余裕で入れる大きなスペース。
 普通の教室の三倍はあった。
 たぶん一つの学年が集まって使う教室だったのだろう。今時、ちょっと珍しいかもしれない。
 ボクは隠れる場所を探した。――が、隠れるような場所がない。
 広さだけはあったので逃げ回ることはできそうだが、奴を出し抜くことはできそうになかった。
 くそっ! ここじゃあない。ここにいても解決はしない。
 とりあえず奥へと移動し、屈んで様子を見ることにした。
 もし、鬼門がボクに気づかずに上の四階に行ったらチャンスだ。
 ボクは二階に下りる。それが最もいいパターン。一つの賭けだった。
 ……足音が聞こえてくる。鬼門だ。あいつが階段を登りきった。四階へは行かなかったようだな。
 ボクに気づくか……。
 じっと息を潜めて待った。奴が教室に入り、そして過ぎ去るのを。
 鬼門は教室の入り口で立ち止まり、大きな声でこう言った。
「……おい、いるか。陰見勇戸ー!」
 ……いても返事するわけないだろ。それとも揺さぶりをかけているのか?
 鬼門が教室に入る。そして辺りを見回した。
 すぐにボクには気づかないようだ。そのまま過ぎ去ってくれよ。
 だが、その願いも虚しく、鬼門はどんどんボクの方に近づいてきた。
 これはまずいぞ。これ以上先に進まれたら、ボクの逃げ場がなくなってしまう。
 ……もう移動するしかない。移動することは見つかるリスクを極端に上げてしまう。でもこのままでは見つかってしまうだけだ。
 仕方ない。ここは動かざるを得ない!
 ボクは屈んだ状態から移動した。
 ザザッ……!
 しまった! 物静かな教室。ちょっとの動きでさえ教室内にその音が響く。
 ボクは咄嗟に鬼門の方を見た。
 ……彼は笑っていた。獲物を見つけた捕食者のように。
「見つけたぁ……」
 不気味な笑み。捕まってはケータイを取り上げられるだけではなさそうだ。……命の危険さえ感じた。
 普通こういう場面では、恐怖のあまり身動きできないのではと思いがちだが、ボクの場合、そうではなかった。
 体は動いた。それもいつもより俊敏に。

 今の体勢で逃げるのはあまりにも不利だ。
 奴は立っている。ボクは屈んでいる。この状態のままだと、ほんの数秒で捕まってしまうだろう。ボクはその場で、できるだけ速く立ち上がり教卓へと走った。
 教室の前の方から出ようとした。だが……
 ガチャガチャ……!
「あっ、……開かない?」
 まさかの出来事。
 何で教室の後ろの引き戸が開いていて、前が開いていないんだよ。
「わはははは、閉まってるのか。ついてないな!」
 鬼門が近づいてくる。その距離、五メートルもない。しかも奴は加速していた。
 逃げるなら教室の後ろ側。……でもそこに行くまでに追いつかれそうだった。
 万事休すか。
 ボクはほとんど無意識に次の行動を取った。
「あ……何してんだ?」
 ボクは机の上に乗っていた。
 鬼門を見下ろす位置にいた。
「……そこからどうする気だ。あ?」
 鬼門が立ち止まる。
 ボクの行動の意味がわからなくて少し戸惑っているように見えた。
 もちろん何の意味もなく、ボクは机の上に乗ったわけではない。それはおそらくボクにできて、彼にはできないこと。
 机の上から、別の机の上への移動だ。
 教室の中、縦と横に移動することは容易だった。でも斜めは?
 規則正しく配置されている机と椅子の間を移動するのは難しい。どうしても移動スピードは落ちてしまう。
 ボクは義経の八艘飛びのごとく、机から机の移動を行った。
「おっ、お……?」
 ボクの動きは鬼門を翻弄した。もはや絶対に捕まらない鬼ごっこだ。
 だが少しでも着地にミスが生じれば、そのまま転落。あとは鬼門に捕まるだけだった。
 机から机の移動なんてもちろん初めて。でもボクは自分でも驚くぐらいに冷静だった。
 やがて、鬼門に疲労の表情が見てとれた。
 ……教室から出るチャンスだった。
 ボクはもう一度、教室の前に移動して、そこから一気に後ろへと移動した。これでかなり時間を稼いだはずだ。

 逃げてばかりではいけない。闘おう。
 ボクは逃げることから闘うことに考えを変えた。そのためには武器が必要だ。
 最後の頼みは四階。そこに何があるのか。
 掃除に使う箒は武器に使えるか?
 ……いや、弱い。せめてボクに腕力があれば話は別だが、期待できるほどの攻撃力アップにはつながらない。
 じゃあトイレのモップはどうだ? ……これも却下。理由は箒と同様。
 殺傷能力を求めるのであればカッターやはさみ、家庭科で使う包丁か。……包丁は脅しに使えそうだな。
 だったら美術室か調理室だな。四階にそれらの部屋があることを願った。
 ボクは四階に向かって階段を駆け上がる。
「ま、待て~……」
 鬼門もそれについてくる。……ここで返り討ちだ、お前を倒してやる。
 
 ――四階に上がると、やはりそこには一つの部屋があった。
 五階はなかった。つまりここが最上階。最後の頼みの綱だ。
 何の教室だろう。
 後ろの引き戸は開いていた。……これで開いていなかったら最悪だったな。
 引き戸を開けて入ると、そこがどういう用途で使われていたのかがすぐにわかった。
 ……ここは実験室だ。
 武器となりそうなものはあるか?
 ……すぐには思いつかない。
 塩酸? 硝酸? そんな危なっかしいもの、置いているはずもないだろうけど。
 考えている時間はあまりない。武器は……武器は何かないか。
 椅子……どうだろうか? 椅子ならそこらへんにたくさんある。だが向こうにも武器になる。となれば、これでアドバンテージを得ることは不可能。
 フラスコ、試験管、リトマス紙、ガーゼ、何かを飼っていたであろう水槽。
 使えないものばっかだ。
 どこかのアニメで実験室をガス爆発させるというのがあったがどうだろうか。
 ……これはアニメじゃない。爆発したら普通に死ぬ。それに旧校舎だ。ガスが通っていない可能性の方が高い。電気さえ通っていないんだからな。
となると、もちろん水道もか。
 そういや鬼門の奴、トイレはどうしていたんだろう……まさか、そのたびに旧校舎から出ていたのか。
 そうするとかなりの手間。あいつもあいつで苦労していたんだな。
 なんて、奴のことを心配している場合ではない。今は敵なんだ。
 武器は……もっとマシな武器はないのか?
 辺りは不気味なほど静かだった。きっと鬼門が足音を消して、こちらに向かっているのだろう。となると、たぶんいきなりこの実験室に入ってくるはず。不意を突かれたボクはすぐに捕まってしまう。
 まずいな、もう奴は実験室の前にいると考えた方がいい。様子を見ている? もしくは呼吸が落ち着くまで待っている?
 どのみちボクが危険であることには変わりない。
 何で武器が一つもないんだよ。もう泣けてきた。
 ついていない。最後の頼みと思って上がったこの四階。とんだハズレだ。
 これなら素直に二階に降りていれば、まだ助かる見込みはあった。ボクはバカだった。判断を間違えたのである。
 ……仕方ない。隠れよう。
 今はそれしかない。
 机……と言えばいいのだろうか、実験に使うテーブル。それが部屋には九つあった。
 一つの机に対して六つの椅子がある。ということは五十四人が入れる部屋だ。けっこう広い。
 ボクはその机の下、つまり用具入れのところに隠れようと思った。
 中に入っているものを全部取り出せば、ボクぐらいの大きさだったら入れそうだった。
 よし、この中に隠れるぞ。
 外に出した用具は隣の机の用具入れにしまった。これですぐにどこの机の下に隠れているのかはわからないだろう。
 あとは天を運に任せるしかない。
 かなりリスクは高かったが、これぐらいしか考えられなかった。
 三階で見せた机から机の移動は無理だ。今回、その机との間が非常に離れている。
 バレたら終わりだった。逃げ場がない。
 心臓は高鳴っていた。
 来るなよ……来るな。
 
 ――ボクが用具入れに隠れて一分はたっただろう。
 何も物音がしない。実験室に誰かが入ってきた様子さえなかった。
 なぜ……?
 確かにボクが四階に上がろうとしたとき、後ろから鬼門が追いかけてきたのを確認している。
 来ないのか?
 用具入れの中から扉を開けるのが怖い。開けたら鬼門の顔が、ワッと出てきたらどうだろう。
 ボクは驚きのあまり心臓が止まってしまうかもしれない。
 扉は開けられない。開けられるはずがなかった。

 ――ボクはそのままずっと用具入れの中にいた。
 どれぐらい時間がたったのだろう。
 ケータイを見ると、時刻は十三時半ちょうど。もう五時間目が始まっている。
 教室では皆、ビックリしているだろうな。突然、ボクがいなくなったんだから。それとも早退したと思っているのかな。……どっちでもいいや。
 今は旧校舎から逃げることだけ。それだけを考えよう。
 それにしてもこんなに静かだとは……もしかして鬼門は四階に上がってきていない?
 ボクを追いかけるのを諦めたのか?
 そうなるとこれから取るべき行動も変わるというもんだ。
 奴はおそらく二階にいる。二階の窓からでないと旧校舎の出入りはできないからな。
 つまり、追うのではなく、待ち伏せする作戦できたか。
 ……なるほど、それは賢明だ。
 だが、それだったらボクにも考えがある。
 いくら鬼門が授業中、ずっとこの旧校舎にいるといっても、時間がくれば奴も家に帰る。
 我慢比べだ。ボクもここから出ようとしない。
 鬼門が旧校舎から出るのを確認してから、ボクもここから出る。
 そうだ、これしかない。
 学校の授業が終わるのは三時。ちょうどの時間に鬼門がここから出るとは少々考えにくい。安全を重視するなら七時ぐらいまで待った方がいいか?
 今から五時間半……それぐらいだったら待てる。
 ちなみにトイレはここに来る前にしてきたばかりだ。
 待ってやる……根比べだ、鬼門!
 高倉さん……できるなら今、君に鬼門を撮った動画を送りたいよ。でも、ボクたちそういう仲じゃなかったよね。
 長丁場になりそうだった。よく体を動かしたので疲れもたまっていた。
 このまま少し寝よう。辺りは暗闇だ。眠気がボクを襲う。
 ……スー、スー。
 ボクは次の作戦に向けて寝た。