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サイコー君のくま父さん

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『神の子』 その4

  4 神の子

 ぼくはあの火の海からなんとか一命を取り留めた。記憶喪失というわけではなかったが、記憶が曖昧だった。
 意識が戻ってもしばらくはなにがどうなったのか状況が理解できない。喉は焼かれ、声が出せなかった。体もほとんど動かない。顔を少し動かすことも困難だった。
 首を動かすのに一週間。言葉を発するのに一か月かかった。それに全身の火傷。本当に奇跡的と言ってもいい。我ながらよく生き延びられたものである。
 千依が亡くなったことを父から聞かされ、ぼくは絶望した。
 あのとき助けてやることができなかったのだ。ぼくの力不足。力があれば千依は死なずに済んだのかもしれない。
 ぼくは神を恨んだ。あの顔だけは忘れられない。いつか復讐してやろうと思った。
 手足の感覚に違和感を覚えたのは入院してから二か月ほどたったときだった。なんとか体を起こせるようになった。だが、どうしても左手の感覚がない。右足もだ。……当たり前だ。なにせ左手も右足もないのだ。ぼくは左手と右足を失ってしまった。
 義足をつけてもらい、たった半年のリハビリで歩けるようになったのは奇跡だと医者は言った。
 奇跡の生還……そんなこと言われても少しも嬉しくない。ぼくはこれからどうやって生きていけばいいのだろうか。
義足は、下肢切断者が装着する人工の足のことである。
主に歩行能力を得るための「機能的義足」と、外観を取り戻すための「装飾用義足」の二つに大別される。
機能的義足は、「殻構造義足」と「骨格構造義足」の2つに分類できる。骨格構造義足にはピラミッドアダプターと呼ばれる世界共通の規格があり、交換が容易で高機能なパーツが多数存在することから、近年主流になっていた。
 
 隣のお姉さん――茜さんが生きているという情報を父から聞いたので、さっそくぼくは行くことにした。でも、どんな顔をして会えばいいのだろうか。
 ぼくの顔や体にはまだ火傷の痕が残っている。きっと茜さんも全身が火傷だらけのはず。行くことを少し躊躇ってしまう。女性なら特にそういうのを気にするだろう。
 初めは電話で容態を聞いた。
 彼女は元気だと言った。ぼくのように片手、片足がなくなることもなかったらしい。それを聞いて少し安心した。
 だが、途中で彼女は泣き声に変わった。我慢して気丈に振舞ったのだろう。でもやがて辛くなり、彼女は泣き出した。
 ぼくは彼女の辛さが少しわかる気がした。あのときの悔しさはそこにいた人間にしかわからない。ぼくも千依を亡くし、どれほど悲しんだか。
 茜さんは一つの不安があると言った。火傷のことではない。お腹に違和感があると言ったのだ。
 そこから考えられることは胎児。神は茜さんに性行為をした。それも無理矢理に。そのときに授かってしまったのだ。
 彼女はひどく混乱していた。ぼくにはどう声をかけたらいいのかわからなかった。いっそのこと彼女はあの火事の中で死んでしまったほうが楽だったのかもしれない。なぜ今になっても苦しまなければならないのか。
 二人は沈黙していたが、心の中で会話をした。二人で慰め合う。ぼくも心の中で泣いていた。
 後悔しても前には進めない。ぼくは茜さんに会いたいと言うと、彼女はこれを承諾してくれた。
 彼女はまだ入院していたのでぼくから会いに行くことにした。
 ――コンコン!
「はい」
「……お姉さん? 入るよ」
 約七か月ぶりの茜さんだ。全身に火傷の痕があっても茜さんはきれいだった。ぼくに優しく微笑みかけてくれる。
 ぼくは茜さんの傍に寄った。
「どう? 気分は」
「今日はまだいいほうかな。広造君が来てくれるって言うんだもん。朝から気分がいいわ」
「それはよかった。痛いところとかない?」
「うん、大丈夫。ありがとう。……広造君も辛かったね」
 茜さんはぼくの手と足を見ていた。さっきまでの優しい笑顔はなくなっている。
「なくなったものはしょうがないよ」
「千依ちゃんのことも……」
「千依とはまた会える。今度会うときは天国だ。だからもうあまり悲しくはないよ」
「天国……そうね。わたしも天国で千依ちゃんと遊びたいな」
「お腹の具合は?」
「お腹? ……ふふ、あはは」
「なに、どうしたの?」
「ごめん。いるよ、赤ちゃん。動いているのもわかる。感じるのよ。ここまで育ったら産むしかないわ。堕ろせないの」
「でも、相手はあいつなんでしょ?」
「……広造君、一つお願いしてもいいかな?」
「なに? ぼくができることだったらなんでもするよ」
「なんでも~? ホントになんでもしてくれるの?」
「当たり前じゃないか。なんでも言ってよ」
「じゃあね。わたしがこの子を産んだら……あいつと闘ってちょうだい」
「え?」
 理解できなかった。彼女は一体なんのことを言っているのだろう。闘う? 誰とだ?
「もちろん、あのクサレ外道とよ」
 思わず俯いてしまう。神と闘うのか? 警官もそのときいたんだ。でも、ほとんど抵抗すらできなかった。それは茜さんも知っているだろう。
 茜さん自身もあいつの首を包丁で切り飛ばしたんだ。胴体が離れてもあいつはまだ生きていた。あいつは不死身なんだよ。それでもまだ闘おうっていうのか? 勝算は? どうして闘おうと思う?
「わたしの子を使って」
「お姉さんの子?」
「そう。お腹の子ね、女の子なんだって。これが理想の人との子どもだったらどんなに嬉しいことか……。彼女は神の子よ。あいつの血が流れている。それは間違いない。だとしたら、この子にも持っているんじゃないかしら。神に対抗できる向こうの世界の力を」
 確信は持てなかった。でも茜さんの言う通り、その可能性は高い。
 もしかして子どもを堕ろさなかったのは復讐のため? 復讐のために自分の子を利用するのか?
「それは……間違っていると思うよ」
「うん、わたしもそう思う。でもやってほしいの。だって今わたしたちが動かなければ第二、第三の被害者が出るかもしれない。神は自分に関わったすべての人間を殺そうとしたわ。わたしたちが生きているのは奇跡。わたしたちが最初の被害者じゃなかったのかもしれないのよ。過去にこういったことが何度もあったのかもしれない」
「もし……もしだよ? 子どもに不思議な力があった。神に対抗できる。でも子どもにそんなことを押し付けても……平気なの?」
「これは誰かがやらなくちゃいけないのよ。わたしは運命を感じる。広造君はそうは思わない? これはわたしたちにしかできないのよ。このまま奴の行動を無視しろって言うの? そんなの耐えられない。そんなの千依ちゃんが喜ぶと思う? チャンスなの! あいつを倒す、チャンっ、ごほっ! ……ごほごほっ!」
「お姉さん……」
「やって、くれるわよね?」
 ぼくはその迫力に頷くしかなかった。
 だが神に復讐できると考えると胸が熱くなった。あいつはゴミのようにぼくや千依、茜さんを殺そうとしたんだ。妹はまだ小学五年生だった。
 茜さんの言うことは間違っていない。誰かがやらなければ……。
 このときぼくは決心した。茜さんの子どもを神に対抗できるまで鍛え、そして神に復讐することを。