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サイコー君のくま父さん

くま父さんがアニメ化されるまでアピールするぞ! オリジナル漫画・ラノベ作品を大量に公開中!

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『売るが屋』 その5

  2 大量の在庫

 ぼくが『うるが屋』で働いて五日目のことだった。
 もうだいぶ仕事に慣れてきた。検品・買取査定のスピードは千佳ちゃんと由美子ちゃんと比べてそんなに変わらない。遅延した分も追いついてきた。そんなとき運送会社のドライバーさんが、店を訪ねてやってきた。
「こんにちはー。くま父さんという方はいますか?」
「くま父さんですか。いますよ、奥に。ちょっと待って下さい」
 くま父さんは珍しく検品をしていて、ダンボールとダンボールに挟まっていた。
「お、おうっ……これ、身動き取れへんわ。無理やり動いたら、商品バラバラなるし。中身はカードやから大変やで。何万枚もあるカード、ぐちゃぐちゃになったら泣くわ。ちょっ、助けて。水科っ!」
「ちょっとそこ動かないで。……よっと、狭いところはぼくが行くからさぁ」
「めんご。ちょっと調子乗った。少しスリムなったかなと思ったけど、デブのままやったわ」
 ぼくがダンボールをのけると、くま父さんは体をぷにゅぷにゅさせて移動した。動きがぷよぷよみたいだな。
「えっと、ドライバーさん、なんでっしゃろ? 買取のダンボールやったらいつもの業者とちゃうな。なんの用や?」
「お荷物が届いてますね。ダンボール箱で八十個ほど。中身は本のようですが」
「あっ、あれか。あれが来たんか。ごめん、忘れてた。運んで」
「ここに……ですか?」
「そや、ここや。……なんやねん、こんな物ギッシリ置いてる店なんか入るわけないやんとか思ってんのか? 入るよ。ええから持ってきて」
「はい……少々お待ちを」
 空耳じゃないよね? ダンボール八十個? ちょっと待ってよ。まだ全然買取の査定は終わっていないし、検品作業だってまだあるんだ。そんなダンボール、どこに置くっていうのさ。
「くま父さん、八十個ってなんだよ? もしかして大口のお客さん? 古本屋やめたとかの……」
「惜しいな。まあ、そんなもんや。出版社が潰れるって電話が入ってな。タダでええから引き取ってくれへんかって。送料はこっち持ちやねんけど、店で売れるやろ。だから全部もらってん」
「タダはいいんだけどね、でもそんなに商品、お店の中に入るの? さっきはドライバーさんに強気で入るって言ってたけど」
「ごめん、ぶっちゃけ考えてない。入りきれへん分は家に持って帰ろ。すぐ近くやし。手伝ってな」
 遅延の分がなくなって、ようやくスッキリしたと思ったけど……まあ仕方ないか。
 ドライバーさんは一人だけで、八十個のダンボールを運ぶのに八十往復もした。なんと気の毒な。
 三十個あたりから明らかにペースダウンして、目が死んでいた。ふらふらでいつ倒れるのかと心配しちゃったよ。かわいそうに……。
 約一時間半をかけて、八十個のダンボールがなんとか店の中に収納された。とにかく入れるだけ入れたって感じで、まだまともに整頓されていない。
「これ……さい……ご……です。ハンコ……か、サイン……おねが……しまっ! す……」
「なに言ってるかわからへん。大体は予想できるけど。めっちゃ疲れてるやん。お前んとこの会社も難儀やなー。もう一人ぐらい一緒にきたらよかったのに。どこも景気は悪いってか。アベノミクスで儲かってる層なんかごく一部やからな。……はい、サインしといた。くま父さんって。ご苦労様」
 くま父さんは送料の四万円をドライバーさんに渡した。さすが八十箱だと、送料だけでけっこういくな。
 ドライバーさんは店の前から立ち去ったが、すぐになにかが倒れる音がした。……たぶん、筋肉痛なんかで倒れたんだろうな。ダンボールのサイズがどれも百六十サイズだ。ぼくなんか持ち上げるだけで精一杯。
「開けて、開けて!」
 くま父さんがそう言うのは、自分でガムテープを剥がすと体毛も一緒に抜けることが多いからだ。こういう甘え方はかわいい。開けるか……。
 中は本がビッシリ詰まっていた。しかもどれも新品だ。中古じゃないからな。これはお客さんも喜びそう。
「いいじゃん、くま父さん。本当にこれがタダなの?」
「そやで、タダやで。水科、お前にも個人的にやるわ。欲しいやつあったら持っていき……あ」
 あることに気づく。それは一つのダンボール箱に同じタイトルの本しか入っていなかった。
「あ、あれ? これ、全部同じ本やん。どないなっとんねん?」
「その潰れるっていう出版社、どういう内容のものを送ってくるって言ってたの?」
「いや、それがな。タダでもいいんで引き取ってもらえますかって。内容のことはほとんど聞いてない。新品やいうことだけ言っとったけど。でもまさかダンボール一箱が全部同じ作品やとは思わんかったわ。……まあ、でも捌けんこともないやろ」
 楽観的だなぁ。……待てよ。ぼくたちは肝心なことを忘れているじゃないか。まだ梱包を解いたのは一箱だけだ。誰が同じ作品は一箱までだと決めた?
 嫌な予感がするな。
「くま父さん、違うダンボールを開けてみよう。もしかしてだけど……」
「もぉーしかしてだけどぉー♪」
 いや、そういうネタはいいから。そんなの言っていられなくなるかもしれない。
「「うお……」」
 二人で同じような声が漏れてしまった。はずれを掴まされた感じだ。
「くま父さん。これ、もしかして最悪なんじゃないの?」
「もしかしてじゃなくて普通に最悪やな。あのクソ出版社……」
 二箱目もさっき開けたのと同じ本だった。まさか八十箱が全部そうなんじゃないよね?
「開ける、くま父さん? それともこのまま出版社に送り返す?」
「いや、送り返すもなにも……着払いで送ったとしても受け取り拒否されたら、結局送料支払うんはこっちや。こんなクソ、元払いで送りたないしな。返品は不可能や。店で売り切るしかない。もしくは廃棄や」
 廃棄と言ってもこの量だ。一度には捨てられらない。廃品回収に来てもらうか?
 それなら引き取ってくれるかもしれないけど、送料片道まるまる損。八十箱のダンボールが店の中を圧迫する。
 この日、日向の三姉妹は珍しく休みだった。というか、子どもの日。この日ぐらいは店の手伝いはお休みにしようという、くま父さんの粋なはからいだった。ぼくは暇だから手伝っているんだけど……。
「日向たちが帰ってきたらビックリするだろうな。『お父さんったらなにやってんのよ!』って感じで」
「あぁ、あかんな……父親失格や。威厳がなくなってまう」
 たまたま開封した二箱が同じ本だった、ということもある。まだ絶望するのは早い。もう少し知っておくべきだ。三箱目を開けるか。絶望を希望に変えてほしい。頼む、くま父さんと日向たちのためにも……。
 ――三箱目開封。中身はまたまた同じ本だった。
「ワシ、なんか悪いことやったかな? なんでこうワシの周りには敵が多いんや。商店街とか町内会仕切ってる奴やろ。薬屋やろ。警察やろ。酔っぱらいやろ。……さらに出版社からもか。こらたまらんわ」
 すっかり落ち込んでしまった。ぼくはきっとなんとかなるさ、とくま父さんの肩を叩いた。
 四箱目を開けたとき、奇跡が起きる。同じ本ではない。初めて見る本が入っていた。
「ほら! ね! 人生、最悪なことばっかじゃないんだよ。違う本が出てきた!」
「おぉっ! やった! やっとまともな本や!」
 よかったよかった。これで一安――ん? あれ、また嫌な予感がするな。
 さっきまでの本がAだとしたら、今回箱に入っていたのがBなわけで。このBが箱いっぱいに詰められているのだ。
「また絶望に逆戻りや。これはその、あれか? ダンボール三箱分が同じ内容やっちゅうことか。だから八十箱で二十種類ちょっとのタイトルしかないってことやな。これをどうやって捌けっちゅうねん」
 さらに災難は続く。これも相当な致命的だ。
「くま父さん、この本……全部十八禁の表示がついてるんだけど?」
「ウソやん。……それウソやって。だってワシ、この漫画知ってるもん。ジャンプのやつやろ? ジャンプで連載してるやん」
「確かにジャンプに連載してる作品だよ。でもね、同人の本なんだよ。パロディー本さ」
「なにっ? パロディー? ……あ、そういやよく見たら絵のタッチとか微妙に違うわ。まさかのパロディーとか」
 いろんな作家さんの同人作品を集めて本にしたってわけね。もちろん原作と比べてほとんど売れない。それに非常に売りにくい。
 まだ男性向けなら売れるのかもしれないけど、これ女性向きだよ。やおいってやつか。
『売るが屋』の客層って男女の比率どうなっているんだろ。そういうのは由美子ちゃんが詳しそうだけど。
「……さて。電話でもするか」
 くま父さんが体毛から電話を取り出す。どこに電話するつもりなの?
「やっぱり出版社に電話?」
「いや、廃品や。こんなクソ、一刻も早く持っていってもらったほうがええやろ?」
「ちょっと待って。売れるかもしれない……そうだ、セット販売すればいいんだよ。それも激安にしてね」
 五十作をまとめて一セットにする。ダンボール一箱に約百冊が入っているから八十箱で八千冊。百六十セット売れば完売ってことだ。
「ほぉー、それはいいアイディアやな。なんや新人とばかり思ってたが、この柔軟な発想、さすが高校生といったところか」
「いや、高校生はあんまり関係ないでしょ。値段はそうだね……千円でどう?」
「千円か……それやと百六十セット売れても十六万円か。けっこうおいしいな。よっしゃあ! これでなんとか父親の威厳保つことができる! さっそく商品の写真撮って販売するでぇ! ……あ、それは由美子に任せるか。あいつのほうが新商品の登録作業、慣れてるし」
 なんとかフォローできたかな。しかし、危ないところだった。ちょっとした閃きが、意外な利益と繋がった。この同人セット、販売して約一週間で半分の八十セットが売れた。
 世界は広いものだ。そしてぼくたちはこれから知恵を絞るようになる。ただ買い取ったものを売るだけではお客さんはいずれ飽きてしまう。
 扱うジャンルが幅広いといっても、他のネットショップと大きく差別化することはできなかった。
 そこでぼくは提案する。同人セットで成功したのは、まとめて売ることにお客さんが新鮮感を覚えたからだ。まるで福袋を買うような感覚。
 そう、福袋だ!
 福袋を作ればいい。別に正月限定で販売するわけじゃない。春も夏も、秋も……。
 ぼくはずっと気にかかっていたんだ。〇円買取で廃棄する商品の品々を。あれをうまく利用することができないだろうか。
 毎日、廃棄する本やゲームは多い。それは強い日焼けや、ページの破け。商品の不備があるから捨てられるものだった。こいつらはまだ死んでやいない。ぼくたちがまた蘇らせてあげる。福袋という名に変えて……。