読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

サイコー君のくま父さん

くま父さんがアニメ化されるまでアピールするぞ! オリジナル漫画・ラノベ作品を大量に公開中!

にほんブログ村 小説ブログ ライトノベル(小説)へ ゲーム・古本・DVD・CD・トレカ・フィギュア 通販ショップの駿河屋

『売るが屋』 その4

第二章 利益を出そう

  1 買取業務

 翌日。学校の授業が終わると日向と一緒にお店に向かった。日向は夕飯の支度。そして家事。くま父さんは千佳ちゃんとの三者懇談に行っていた。
 三者懇談って……もう普通にお父さんしてるじゃん。クマとかそういうの関係ないのかな。
 スーツなんか着ることなく、やっぱり裸で行ってるんだろうか。
 というわけで、ぼくと由美子ちゃんはお店にいた。日向には由美子ちゃんから買取の手順を教わるように言われている。
 昨日は検品をしたからなぁ。今日は買取か。
「由美子ちゃん、よろしくね」
「…………」
 うっ……愛想よくしたつもりだが、それなりの反応は見られなかった。この子、ちょっと気まずいかも。食事のときも口数が少なかったかな。
 よし、ちょっと距離を縮めてみるか。
 ぼくは由美子ちゃんに近寄った。
「ねぇ、由美子ちゃん。買取のやり方教えてよ。ね?」
 すると、そっけなく指でハンドスキャナーをさした。バーコードでピッとするやつね。
「……それでスキャンして」
「スキャン? なにを? 商品を?」
 由美子ちゃんが机の上に漫画を一冊乗せた。ぼくはそれをスキャンすることに。
 ――ピッ。
「あっ、モニターに表示された……百五十円?」
「そう。本の状態が悪くなければその値段で買取よ。中に書き込みがされていないか、ページの破け、折れ、異物の混入……それらを全部チェックしてからね」
「けっこう注意して見なくちゃいけないことってあるんだな。査定のほうも大変だ」
「お客さんへの振込はわたしが手続きするから。水科は査定だけやって。商品の状態や点数のチェックもお願いね。そこにあるダンボール、全部が買取のやつだから」
 全部って……マジで全部なの?
 買取で送られてきたダンボールは五十箱を超える。それは天井まで届きそうだった。
「ゲームとか玩具の箱……潰れてないかな?」
「買取は正確さとスピードが命よ。ま、検品にも同じことが言えるけど。ちなみにお父さんは朝に届くダンボールを夕方までに全部査定してるわ。……とは言っても二日前に届いたやつからやってるけど」
「検品も買取も遅れてるってことね。確かに人手不足だ。よし、じゃあやっていこうか」
「わたしはここのパソコン使うから、あなたは向こうのね。なにかわからないことがあったら聞いて」
 店にパソコンは二台ある。……仕事をするか。由美子ちゃん、真面目だよな。偉いよ。
 さて、一箱目のダンボールを開けよう。――なんだ? 特撮系のフィギュアばっかだな。しかも全部箱なしじゃんよ。奥のほうにはゲームソフトがあった。こっちはバーコードで検索できるな。
 ――ピッ。
 千五百円買取。えっと、ゲームだと箱とディスクのチェックだな。……うん、問題ないと思う。千五百円で買取だな。とりあえずメモに書いておくか。
 問題は裸のフィギュアだぞ。どうやって値段を調べる? 特撮の玩具の画像を一つ一つチェックするわけにもいかないだろう。
 そうだ、買取申込書だ。それを見ればいい。
「――あ、あれ? ない……っていうか、なにも書かれてないや」
「買取申込書に商品名が書かれていないのね。それはかんたん買取」
 おっと、いつの間に?? 静かな子だから移動も静かなのか。ちょっぴりビクついてしまったよ。
「かんたん買取って……あー、そうだ。確か昨日日向が言ってたかも。あんしん買取とかんたん買取の二パターンの売り方があるんだよね?」
「かんたん買取なら裸フィギュアの査定はテキトーでいいわ。わたしが査定してあげる……〇円ね」
「えっ、〇円? でもこんなに大きいんだよ?」
 二十センチほどあるフィギュア。緑のなんとかレンジャーだ。ぼくは別に興味ないが子どもには人気っぽい。
「大きいってことはそれだけスペースを取られるってことよ。それにそのフィギュア、よく見たの? ところどころに傷がついているじゃない。買い取ったあとは販売するの。傷はクレームの元よ。戦隊ものは五人揃って初めて価値が出てくるわ。緑だけ買うお客さんなんていると思う?」
 そう言われてみればそうか。でもマジで〇円なわけ?
「十円もつけないの?」
「……はぁーっ、水科は十円の価値がわかってないのね。買取の最低単価が十円だって言うつもりなら、やってごらん。それだけで資金が足りなくなるわよ。一円でも高いぐらいよ。いらないならいらないで〇円! わかった?」
「は、はい……わかりました」
 ちょっと厳しい気もするけど、向こうのほうが先輩だ。それに俺の言うことなんて根拠がない。彼女は今までの経験から言っているんだ。ぼくも早くその域に達しないとな……あ。
 これ、なんだよ? 二百円ガチャだと思うんだけど、なんとも出来の悪いフィギュアだ。
 こんなの十円でも売れねーや。
 ……ん? さっき、ぼくが自分で言ったことと矛盾するぞ。十円でも出して買い取ったらいいとか言ったけど、十円でも売れないと思っている自分がいる。
 緑の戦隊フィギュア、ぼくは大きさだけで十円で買い取る価値があると判断した。今回は小さいだけで十円の価値もないって……。
 大きいから価値があるなんて間違ってるよな。買取では自分の価値観なんて関係ない。売れるか、売れないかだ。
 そして店の在庫スペース。いつか売れるとわかっていても、それが遅ければ意味はない。店に置いているだけでもスペースのリスクが伴う。販売価格を下げたら売れるスピードも早くなるが、そうするなら買取価格をできるだけ下げるべき。
 それらの判断を短い間に何度もする必要がある。……買取の査定、ハンパじゃねぇな。検品より難しいってことがわかった。
 そうか、だから千佳ちゃんは検品。年上の由美子ちゃんは買取の査定をしているんだな。買取は奥が深いや。
「……水科。手が止まっているようだけど、どうしたの? わからないことがあったら聞いて。それとも単にさぼってるわけ? 時給は安いと思うけど、ちゃんと仕事してよね」
「ご、ごめん。もうちょっと待って。すぐに査定するから……」
「あせりも禁物だからね。中にはレアなものも普通に混じってることがあるから。そういうの〇円で買い取って捨てるのってもったいないから」
「〇円で買い取ったのって捨てるの……?」
「当たり前でしょ? どこにこの狭いお店で、売れないもん置いとくスペースがあるのよ?」
 ってことは、緑のフィギュアと二百円ガチャは捨てられるってわけか。ちょっとかわいそうだな。
 でも、店のスペースの問題がある。ここはドライにならないと。
 ダンボールに入っていたもので値段をつけたのが十点。残りの五十七点は値段をつけられなかった。売れないと判断した。
 ぼくはその査定結果を由美子ちゃんに報告する。
「……ふむ、なるほど。まあいいじゃん。たぶんわたしがやっても同じような結果になると思うわ。この調子でどんどん査定してちょうだい」
「おう、スピードアップしていくぜ!」
 次にとりかかったのは重たいダンボール。……持った感覚からして本だな。
 なんだこれ? 着払い伝票に六個口中一個目って書いてある。ダンボール箱には『買取申込書在中』の文字が。
 まさかこんな大きいダンボール箱が六箱も? しかも送り主は一人?
 なんてことだ。この人、一人だけでも査定に三十分はかかるぞ。しかし、大手リサイクルショップのブックオフなんかはこんなことザラだ。スタッフ一人で処理することもあるだろう。だからぼくもできるはず。自信を持て!
 ――ビィィイッ!(ガムテープを剥がす音)
 あ、やっべ。これかなり古い漫画だ。後ろにバーコード載ってないのばっかりだな。
 本の状態はなかなかいい。しかし、こんなの売れないだろう。
 一応、手元のパソコンでタイトルを手打ち。確認するだけしてみるか。――ん?
「買取価格千五百円だって? 恐ろしい……」
 あと少しのところで〇円の査定をするところだった。買取で千五百円だったら売値は三千円以上はするだろう。そんな本を捨てそうになっただなんて……。こりゃ、本気でやらないとダメだな。面倒だけど一品一品調べるか。
 時間はかかるかもしれない。でもそれはぼくの問題だ。もっともっと買取のスピードを上げたらいい。うおぉ~、がんばるぜぇ~。
 ――そして、ようやく十五分かけて一箱分の査定が終了した。

 よく考えると査定している間にも人件費がかかるんだよな。こんなに時間かかってちゃあ、給料もらうのも気が引けちゃうぞ。夕食のときだって肩身が狭いよ。それらを解決するにはやっぱりスピード。
 そのためにはどの商品がいくらで売れるのかを把握しておく必要があった。
 一度買い取った品物はできるだけ覚えておこう。次に同じ商品が出てきても、検索することなく買取価格がわかる。それが理想のパターンだった。
 とにかく数だ。数をこなせ。
 残りの五箱分は四十分で査定が終わった。セットものが多く、状態も問題ないものが多く、値段をつけるのは比較的簡単だった。……でも、気になることがある。
 査定額が二万を超えてしまった。『売るが屋』にお金がないことは知っている。果たして正規の値段で買い取っていいものだろうか。
「由美子ちゃん……これ、査定できたんだけど二万円以上になっちゃった。いいのかな?」
「いいわよ。もし全部売れたら十万円近くになる。売れないクズなもん買い取るより、よっぽどいいよ」
「そうか……なるほど」
 彼女は冷静だった。そういや、十円買取の品だってそれが一万個揃えば十万円になる。
 だったら売れないものを買い取るより、確実に売れるものを買い取るべきだ。全部、彼女の言ったことは正しかった。ぼくは自分の浅はかさが恥ずかしくなった。
「なに落ち込んでるのよ? 見てたけど、後半かなり査定のスピードが上がっていたわね。この調子でお願いね」
「う、うん……。ありがとう」
 彼女の微笑み。ぼくは初めて見たような気がする。……ってことは、ぼくを同じ仕事仲間だと認めてくれたのかな。だったら嬉しい。
 もっと彼女や皆に認めてもらえるようにがんばらなくちゃ。

 数多くの買取をこなしていった結果、『売るが屋』の圧倒的な買取ジャンルの多さには脱帽する他ない。
 セル画が送られてきたのだ。
「由美子ちゃん、セル画入ってんだけど……これも買取の対象なの?」
「そうよ。あんまりないけどね。でも、需要はけっこうあるのよ」
 こんなの一点ものじゃないか。どうやって値段をつけたらいいんだろう。
 由美子ちゃんいわく、人気のあるキャラクターか、そしてかっこいいか(かわいいか)どうかで値段を決めるらしい。なんという曖昧な。
 昔はセル画が大流行したらしい。今ではセル画を使わないアニメ制作の手法が主流になり、ブームの火は鎮火したのだが。
 それでも昔からのファンの間では今でも活発化している。今回大量にセル画が送られてきたのは、コレクションをやめた人だろうな。その数、五十点以上。
 一体いくらかけてこれだけ集めたんだろう。パッと見、かっこいいのもあるが、キャラクターが小さく映っているだけのものもある。テキトーに値段決めていいのかな。いや、でも初めてだから聞いておこう。
 由美子ちゃんは的確なアドバイスをぼくに授けた。
「売値の十分の一ぐらいでどうかしら? 在庫を抱えるのが一番嫌だからすぐに売れそうな値段を設定するの。……五百円ぐらいがいいかな。値段を決めたらそれを十分の一にして。つまり五十円ね。見栄えのいいものを五十円にして、悪いのは十円とかでどうかしら?」
「うん。それでいいかな……ありがと」
 さすがに手馴れてるな。一つの法則ができたらあとは簡単だ。ぼくはリズミカルにセル画を仕分けした。
 これは五十円買取。こっちは十円。こっちも十円。こっちは……三十円にしておこうか。真ん中だ。
 セル画の査定が終わるとまた難しいのが出てくる。非売品というやつだ。
「由美子ちゃん、たびたびごめんよ。非売品についてはどうするの? こういうのってバーコードついてないじゃん。それらしいキーワードで検索したらいいの?」
「あんしん買取だったらお客さんが登録してくれるんだけどね。かんたん買取だと、そういう手間がどうしてもかかっちゃうんだよねー。どれ、見せて……あ、これ。DVD全巻購入の特典ね」
「え、なんでわかるの? これって見た目、ただの塗り絵だよね?」
「過去に同じものを買い取ったことがあるの。そのときは様子見で百円で買い取って五百円で売ったけど、商品化して五分ぐらいで売れちゃったわ。安すぎたみたいね。それから『入荷待ちリスト』にもたくさんのお客さんが登録してるし……三百円買取にでもしましょうか。で、売値は千五百円。どう?」
「すごいね、買取の経験がなかったら見過ごしていたところだよ。こんな塗り絵、千五百円でも売れるんだ」
「もしかしたらそれ以上かも。値段をつけるのはわたしたち店の人間だけど、最終的に値段を決定するのはお客さんだからね。需要と供給の関係を常に意識しておけばいいわ」
 なるほど……中学生に教えられてばっかりだ。しっかりしすぎだろ。日向の姉妹は全員。
「――ところで、さっき言った入荷待ちリストってなんのことだかわかる?」
「ごめん……わかんないや」
「もぉー。検品と査定する前にまずはウチのサイトを知ってもらわなくちゃー。ま、千佳だったらそこまで気が回らないかぁ。これ、見てくれる?」
「どれ……うわぁ、すごい。ちゃんとしたネットショップじゃん」
「ちゃんとって……当たり前じゃない。これ、ほとんどわたしが作ったのよ」
「へぇ、すごいな……って、ウソ? マジで? こんなにちゃんとしてるのに?」
 この驚き方は由美子ちゃんに失礼だったかな。だって思った以上にちゃんとした作りになってるんだもん。
 画像をクリックしたら個別ページに飛ぶし、商品説明もちゃんとある。購入ボタンを押せば、たぶん買えるんだよな。これを中学生が作るのか?
 ぼくを基準にして考えてはダメだ。海外だと小学生や中学生でも起業してるって話を聞いたことがあるぞ。彼女はまさにそれだった。
「由美子ちゃん。商品数って何点ぐらいあるの?」
「五万点ぐらいあるわよ。日に日に増えていくけどね。お父さんや天音ねえも商品の登録作業をしたけど、わたしが一番早いみたい。だからサイトの管理と更新はわたしがメインでやってるわ」
 五万点って……サラッと言うけど、一点の登録に一分かかるとして五万分か。一日が二十四時間、千四百四十分として……計算機だ、計算機。(ポチポチ)
 三十六万分か。学校に行く時間や寝る時間、食事の時間だってある。一体いつから登録を始めたんだ? 最近までトレカ屋だったんだろう。驚異的なスピードだな。
「なに、どうした? じっとこっちを見て……わたしに惚れた?」
「いや、すごいなぁって……心からそう思うよ」
 彼女の言った通り、あとでショップサイトを確認しておこう。買取の注意事項なんか細かく載っていたから勉強になる。