サイコー君のくま父さん

くま父さんがアニメ化されるまでアピールするぞ! オリジナル漫画・ラノベ作品を大量に公開中!

にほんブログ村 小説ブログ ライトノベル(小説)へ ゲーム・古本・DVD・CD・トレカ・フィギュア 通販ショップの駿河屋

『大泥棒』 その3

  3 少年時代

 俺は孤児だった。
 両親は俺が幼いときにコレラで死んだ。この頃、世界的なコレラの流行がこの国に波及し、人々を恐怖に陥れた。
 親戚は何人かいたが誰も俺を引き取ろうとはしなかった。
 この国は不衛生だった。コレラの広がった原因はそこにもあった。
 少しでも早く生活用水の水源の確保と上下水道網の確立。それに道路の舗装とゴミや、し尿などの廃棄物の処理等と、やらなければいけないことがたくさんあった。
 だが、それらは一向に進まない。国はなかなか動こうとはしなかった。
 糞尿は傾斜を伝わって鉛管の中に流れこんだ排泄物は地下のタンクの中にたまり、数か月に一度手桶と樽を持って汲み取りにくる人夫の大型馬車で、汚物捨て場に捨てられた。
 しかし、汲み取り馬車から糞尿が漏れたり、汲み取り人夫が汚物捨て場まで行くのを面倒がり、下水道に捨ててしまう場合もあった。
 その結果、町は汚れる一方だった。これでは悪循環だ。街の環境はますます悪化した。
 
 俺は一人ぽつんと道端で座っていた。
 腹が減ってはゴミの中をあさって残飯を食べていた。その他にもよくわからない虫や葉っぱを食べたこともある。
 体力がなくなり、倒れそうになる寸前だった。
 このまま、死んでいくのか。何のために俺は生まれきたのだろう。
 そう思うと腹が立って仕方がなかった。
 俺は公道にある街灯に石をぶつけて壊した。
 街灯は綱に吊るしたオイルランプで、綱は街灯の柱の溝を通して、柱の中ほどに取り付けられた鉄製の巻枠用小箱に収納されるようになっている。

 ガシャーン!
 ガシャーン!

 俺たち民衆……特に貧乏人は街灯というものが、自分たちの行動を監視されているようで、これがとても憎かった。
「そこで何をしている!」
 やばい……見つかった!
 俺は後ろから大きな声でどやされ、逃げようと思った――が、体に力が入らない。俺はその場で倒れてしまった。
「……街灯に石を投げて壊すなど……こんなところ、憲兵にでも見つかってみろ。子どもといえど、重い処罰になるぞ」
「うるせえっ、ブルジョワめ!」
 へ……へへ。もうどうだっていいんだ。いっそのこと殺してくれよ。そうすりゃ諦めもつくってもんだ。
 何の希望も見いだせねえこんな世の中にいたって、結局何も変わらないだろう。俺は一生、貧乏のまま暮らすのさ。それなら……もう。
 
 さっきの声の主が俺の正面にやってきて……膝を地面につけて俺の方をじっと見ている。
 ……俺はてっきりまた説教の続きをされるのかと思っていた。……でも、違う。温かい感じがした。
 顔を見上げて、声のする方を向くと一組の家族が俺の前にいた。
 ブルジョワらしい裕福そうな身なりをしていた。その中に俺とほとんど同じ年齢の男の子もいた。このとき俺は八歳か九歳ぐらいだった。
 その子が親に必死に何かを頼んでいた。
 しばらく親と子が話したあと、親の方が俺に声をかけてきた。
「君、名は何という?」
「ジェダ……」
「ジェダか……いい名前だな。お父ちゃんはどうした?」
「知らない。たぶん戦争で死んだんだと思う」
「お母ちゃんは?」
「体を壊して死んだ。母さんはほとんど何も口にせず、ずっと働きっぱなしだったから……なあ、ちょっとでも同情してくれるんなら恵んでくれよ。パンが食べたい……三ルー(百ルーは一ゴルダー)でいいから」
「……もしよかったらウチで暮らさないか?」
「え? 俺が……ですか?」
「そうだ。ウチには君と同じぐらいの息子がいる。こいつの遊び相手になってやってくれないか?」
 小さな子どもが俺の前にやってきた。
「……俺、ルーシーっていうんだ。いい名前だろ?」
「うん……」
「今日からジェダは俺たち家族の一員だよ。よろしく、ジェダ!」

 俺はルーシーの家族に引き取られた。
 彼は軍人だった。俺とルーシーはこの人に格闘を教えてもらった。
 ルーシーの父は軍人の中でもかなり優秀だった。階級は大佐だった。
 俺にはナイフを、ルーシーには棒術を教えくれた。
 ルーシーの父は俺が十六歳のときに戦争で戦死した。ルーシーの母も後を追うように病気で亡くなってしまった。
 ルーシーの親は俺たちに多額の資産を残してくれたが、それを狙う悪党どもによって、ほとんど失ってしまった。
 その結果、生活は一気に悪化する。周りには誰も頼れる者がいなかった。
 それからは俺とルーシーは二人で力を合わせて暮らした。

 ――ある日、強盗が町に現われた。
 どうも店に押し入り、数十品の装飾品を強引に奪っていったそうだ。
 それがなかなか手ごわい強盗だったようで、憲兵も捕えることに四苦八苦していた。
 俺がこの強盗を見たときにはすでに一般人、四名が負傷した。……憲兵も二人負傷している。
 このままでは強盗に逃げられそうだった。
 そのとき、ルーシーが強盗の前に立ちはだかった。ちょうど強盗の行く手を阻む形となった。
「おい、ルーシー何している? 逃げるぞ」
 憲兵でさえ、捕まえるのが困難な相手だ。俺たちではどうしようもない。どうしようもできたとしても、こういう厄介事には首を突っ込みたくはなかった。だが、俺がこう言っても、ルーシーは強盗から逃げようとはしなかった。
 相手は大男一人だった。武器はピストル、その他にもサーベルを持っていた。
 大男がルーシーに気づき、こう言った。
「何だ、このちっこいのは? 撃つぞ?」
 ルーシーは真剣な表情で大男を見ている。
 俺は離れたところでその様子を見ていた。……正直、俺にこの大男を倒せる自信はなかった。
 このときから俺はルーシーの強さを知っていたが、まさかこんな奴に勝てるとまでは思っていなかった。ましてや、相手はピストルを持っている。どうやって闘う気だ?
 ルーシーの手には棒が持たれていた。
「どけと言っているだろうが、この野郎!」
 みるみるうちに大男の眉間に険しく皺が刻まれた。
 大男がルーシーに蹴りかかろうとしたところ、ルーシーはその足に棒で一突きした。
「いってえぇぇ~! てめえ、やりやがったな」
 大男が尻餅をついた。
 それに続いて、あとから憲兵二人が大男を抑え込んだ。
 これで大男は捕まってこの傷害事件も終わるかと思ったら、大男が憲兵二人を撃ってしまった。
 憲兵たち二人は大量の血を流し、崩れるように倒れた。……もう、死んだのかもしれない。
 俺は呆然と立ちすくんでいた。憲兵の力を頼っていたからだ。憲兵の持つサーベルの力を。
 当然、ルーシーも逃げの体勢かと思ったが、現実はそれとは全然違った。
 ルーシーは棒術の構えをとった。
 相手がピストルを持っていても一歩も引こうとしない。あくまで自分の棒術で大男を倒す気だ。
 周りの市民は皆、血相を変えて逃げ出した。
 憲兵の応援が来るのもまだしばらくは時間がかかるだろう。
 負傷した憲兵二人以外に、この場にいるのは大男とルーシー、俺だけになってしまった。
 もうダメだ。そんな弱気になった俺にルーシーが口を開いた。
「大丈夫だ、ジェダ。ここは俺がしとめる」
「死ねえっ!」
 大男がピストルを撃った。……だが、ルーシーがこれを華麗にかわした。
「……ピストルの弾をかわすのは、一般に考えられているほど難しいものではない」
 ルーシーのその台詞を聞いて、俺は昔のあることを思い出した。
 ……これはルーシーの父が俺たちに教えてくれたことだ。
 ピストルというのは撃つまでに三つの動作が必要になる。構える、狙う、引き金を引く、の三動作だ。
 短距離であれば、三つの動作を完了する前に攻撃すればよい。
 長距離であればかわすのは容易である。
 相手が自分を狙うところから、引き金を引く動作の間に素早く身をよじるだけである。相手はたいていの場合、相手の回避を予測して撃ったりしない。
 中距離の場合だと人間の反射神経でピストル弾をかわすのはなかなか容易ではない。
 かわすコツは目を閉じることだ。目を閉じて神経を集中させるのである。
 一流の達人は相手の腕の筋肉の動きを感じてピストル口の向き、弾道までもがはっきりと捕えることができるらしい。
 だが、そう理屈通りにいくのか?
 ルーシーはわずかに身をよじった。弾は空を切って、地面に穴を開けた。
 大男が弾を補充する瞬間、ルーシーが飛び出す。ルーシーの棒がピストルをはじいた。
 次に大男の顔面を二、三回強打する。大男の鼻から、口から血が噴き出す。弾かれたピストルは十メートルほど飛んだ。
 大男がそれを取りにいくかと俺は思ったが、そんな余裕をルーシーが与えてくれるはずもない。
 もし、大男がピストルを取りに行ったら、背後からルーシーの攻撃が待っていた。ルーシーはむしろそっちの方を待っていたぐらいだった。
 大男はそれに気づき、ピストルを取りに行こうとはしない。……行けなかった。
 大男は黙って、サーベルを抜いた。
 ――勝負は一瞬だった。
 気づいたときはルーシーが大男のサーベルを弾き飛ばしていた。
 大男が叫び、青筋を立ててルーシーに襲いかかる。
「くっそおぉぉー! お前さえっ! お前さえー!」
「……自分を見失ったら終わりだぜ」
 ルーシーは大男の腕を弾いて、接近する。
 そして顔面を一気に叩いた。
 相手は見るからにタフそうだった。一度捕まると、形勢を逆転されかねない。
 二度とその場で立ち上がれないように、ルーシーは大男をめった打ちにする。
 その光景があまりにもむごかったため、俺は自分の目を手で覆うほどだった。
 
 ……大男が動かなくなったとき、ルーシーはやっと手を止めた。
 そして、俺の方に近づいてこう言った。
「よう、待たせたな」
「待たせたって……大丈夫か、ルーシー?」
「ん、何が? 弱かったよ、こいつ。動きが鈍い奴って闘うの楽だよなぁ?」
 涼しい顔して、この余裕な言葉……。
 俺はこのときのルーシーの強さに心底驚いていた。
 
 そう長くない将来、この出来事がきっかけでルーシーは警官や憲兵に格闘を教える先生になった。
 あとからルーシーに聞くと、これが狙いで本人は大男と戦ったらしい。もしくは何かの報酬金を期待していた。
 彼は棒術以外に体術も優れていたので、警察からは先生としてとても重宝された。
 しかし、なぜ彼はこんなに強かったのだろう。
 俺が思うには彼は戦闘の天才で、これは生まれ持っての才能だった。それに父の適正な訓練を受け、誰にも負けない男に成長した。……俺はそう考える。
 その後、ルーシーは格闘の大会に参加したらしいが、見事に優勝している。
 やがて彼はもう金に不自由しなくなった。

 俺はどうしようか……。
 俺はルーシーのような天才的な格闘センスはできない。
 彼も俺に自分と同じ道に行くより、他の道を探した方がいいと言っている。
 俺は自分が器用なことを知っていたので骨董品を作ることにした。
 シャレで自分が真似て作ったものをある鑑定に出すと、それが本物だと勘違いされて、自分が思った以上の才能があることに気づく。
 俺は贋作作りをした。
 ――が、しばらくしてそのことがばれてしまった。その代償として死にそうな目に遭ってしまい、俺は贋作作りで食っていくのは難しいと思った。
 そして次に考えたのが、泥棒だった。
 器用で、すばしっこい俺はたいていの物なら盗めるようになった。
 ルーシーはこれを笑って見ていた。
 そして、お互いに金銭面で自立できるようになったら、俺はルーシーの家を飛び出した。
 
 のちに、ルーシーは珍品屋を始めることになった。
 本人いわく、格闘の先生は飽きた、疲れるということらしい。
 なぜ珍品屋になったのかは、おそらく俺の泥棒のサポートをしてくれるつもりだったのだろう。
 俺とルーシーは血がつながっていないものの、兄弟のような存在だった。歳はわずかに俺の方が上だったが、ルーシーの方がいろいろ知っていた。
 ……そんな生活が今まで続いている。