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サイコー君のくま父さん

くま父さんがアニメ化されるまでアピールするぞ! オリジナル漫画・ラノベ作品を大量に公開中!

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『くま父さん』 その8

  3 奇跡の生還?

 ――ある日のこと。ワシは死んだはず(そう思っていた)の足刈から電話がかかってきた。
 ちなみにここはワシの住んでるマンション。
「……くま父さん?」
「ひっ……!!」
 ワシはすぐに電話を切ったで。だってもうあいつって、この世におらんと思っとったから。
 ……で、またすぐに電話がかかってきたんや。
 プルルルル、プルルルル……。
 履歴を見てもあいつの番号になってる。生きてたんか……。
 あんなに燃えとったのに。消防車が間に合ったんや。こら、奇跡やで……。
 で、とりあえず電話を切った。生きてるとわかったんはいいけど、またあいつの話に付き合うのも面倒やと思ったからや。
 次、かかってきたら取ろ。
 一般人でもまあ一度電話を切られても、もう一度かけてくる奴がおる。
 でも、三回目っていうのはなかなかない。
 三回連続で、短期間の間にかけてくる奴はストーカー予備軍や。こいつらのしつこさはハンパやない。
 三度目を切ったら次は四回目、五回目とキリがない。
 となったら三回目で取るのがベスト。……なるべくかかってくることのないように願うが相手は足利……もう結果はわかっているが一応待った。
 ワシが足利の二回目の電話を切って五秒後、
 プルルルル、プルルルル……。
「あかん、本物や。モノホンのストーカーや。怖いで」
 こうなったら出るしかない。マジで迷惑な奴。
「――おう、ワシや。……なんや、自分助かったんか?」
「くま父さん? ……なんで電話二回も切るんよ。ボク、くま父さんが出てくれるまでずっと電話する気やってんで」
「そやろな。そう思ってる思って三回目で電話に出たったわ。まだ死んでないねんな?」
「うん……ボクの生命力、意外に強かった」
 くそ、そういやそんな体質やったな。ワシがあいつの足を鎌で切ったのもダメージはほとんど残ってなかったし。
「で、何の用や?」
「別に何の用ってこともないけど……くま父さん? 今日、ボクのお見舞いに来てくれへん?」
「嫌に決まってるやろ。じゃあな……」
 ケータイを切ろうとすると、ものすごい声量で足利が呼びかけてきた。
「待って待って待って! まだ切らんとって!」
「……うざいなぁ。ワシ、お前のそういうとこ嫌いやねん」
「待って、くま父さん……ボク、これから十億円手にするねん」
「え……十億? ちょお待てや。お前、賞金は一億のはずやろ。なんで十億に増えてんねん?」
「へへっ、知りたい? ……ん~、どうしよっかなぁ~。言わんとこっかなぁ~?」
 うわ、めっちゃ殺したい。
「……おい、十億。マジでお前手に入んねんな?」
「うん! くま父さんにもあげる。一億!」
「ウソやん? マジ? マジ一億?」
「うん、お見舞いに来てくれたらあげる~」
 ……行くしかないやろ。行く、行かせて下さい!!
 足利まさる……なんや、めっちゃええ奴やんけ。こら、なにかと理由つけてすけちゃんにも一億払わせたる。
 さっそく電話や、すけちゃん、すけちゃんっと……。
 プルルルル、プルルルル……。
「――あ、すけちゃん? ちょっと聞いてぇや。足利知ってるやろ? あいつ、生きてたで!」
『うわぁー、ホントにぃ? しつこいのー』
「やろ? せやろ? ワシもそう思っててん。でもな、あいつ! めっちゃええことしてくれたんよ!」
『いいことぉ? それってなんなの?』
「ええか、ビックリして後ろに転んだらあかんで。危ないからな。……なんと、あいつ、ワシに一億くれるんやって!」
『え、それって賞金の? すごいの、くま父さん!』
「へへっ、それが賞金の一億やないねん。どういうわけか、あいつ十億円手にしたんやって。だからすけちゃんも一億もらえるかもしれへん。一緒に足利のおる病院行こ!」
 …………。
 ……。
 あれ、すけちゃん?
 もしかしてビックリしすぎて気を失った?
「あのぉ、すけちゃん? 大丈夫?」
『……お前、その話はホンマなんやろな?』
 ――さつき! この声、聞き間違えようがない。……なんであいつが?
『こら、いいタイミングでしんのすけと一緒にいたもんやで。ふふっ、たまにはしんのすけイジメんのもええなー』
「……お前、まさかすけちゃんイジメてるんちゃうやろな?」
『だからイジメてるって』
「お前……これ以上すけちゃんイジメてみぃ! お前の担任の先生言ったるからな」
『言いたかったら言えや。その代わり、わたしはまたお前のことで警察に訴えるからな。今度は胸と尻触られたって言ったろか? 無理やり服脱がされたなんて言ってみぃ。前のように一か月なんかやと出てこられへんぞ?』
「そんな……ワシ、なんもしてへんのに信じるわけないやん、警察……。逆にワシが名誉毀損で訴えたるからな!」
『ふっ、強気やのぅ。こんな短い間にわたしの恐ろしさ忘れるなんて。ええやろ。勝負や。お前が負けたら十年はムショ生活や。……その覚悟できてんねんやろな、おぉ?』
「…………」
『なんとか言えや、おっさん!』
「ごめん、なさい……」

 最後にビビってしまったで。
 でも、さつきも一億足利からもらえると、もうすけちゃんのことイジメへんって約束してくれた。
 まあー、たぶんいけるやろ。だって足利は十億持ってんねんで。
 ワシとすけちゃんの分、合わせても三億や。いけるいけるー!
 ってわけで、ワシら三人は足利が入院してる病院に行った。
 ――なかなか大きい病院。ワシの住んでる最寄り駅から五駅目やった。
 さらにタクシーで十分ってとこにあったで。
 ……病院行きのバスもあったけど、待つんだるかったからタクシー使ったった。
 本当やったら運賃ケチんねんやけど、今日は一億もらえるからな。そんな千円とか二千円の話すんのも今日までやで。
「……ほう! なかなかええ病院におるな。さすが億万長者や!」
 大きくてきれいな外観。駐車場が広く、バス停まである。周りにはコンビニや、ドラッグストアもある。病院の売店も広く、レストランまであった。
「まー、贅沢なとこやな。足利が入院するにはもったいないで」
「でも足利、億万長者ー♪」
「へへっ、そやったな。で、ワシらも億万長者?」
「億万長者なのー♪」
「へっへ、ほら。すけちゃん、ここは病院やで。もうちょっと静かにせなな」
 一人冷静なさつきが、
「早く。早く行こ! 十億、十億……」
 さすがさつきや。足利に会うんやなく、十億に会うみたいな感じ。まあ、ワシらも同じようなもんやけどな。
 受付を済ませ、さっそく足利のいる病室を目指す。
 ――生意気に個室だった。しかもけっこう広い。
 さすが金持ちは違うなーとイラッとしたが、ワシらももうすぐ金持ちになる。これも足利君のおかげやで。
 足利がワシのために役に立つってのは今回が最初で最後やろ。
 一億いただいて、あとは無視や。金さえ手に入ったらもうこいつに会う必要はないからな。
 ガチャッ――。
 ノックをしてやる相手でもない。ワシはいきなりドアを開けた。
「あ……あ! くま父さんっ?」
「……元気にしてたか? 足利」
 足利の手には図鑑が。……それも動物のやつで、クマのページ開けてるわ。くそっ! 気持ち悪い……。
 こんなん見て妄想しとったんや。涎が垂れているのが本当に気持ち悪かった。
 足利は包帯でグルグル巻にされている。
 こんなん漫画でしか見たことない。唯一、目のところだけが包帯に覆われていなかった。
 一番不思議に思ったんが足利ヘヤーや。
 なんであんなに燃えたのに髪の毛だけ無事なんやろ。それとも燃えて、すぐ生えてきたんか?
 生命力が異常に強いことは知っていたが、髪の生命力はそれ以上やった。
 ミイラ男が右の髪の毛だけ横に伸びている姿を想像してほしい。……不気味なこと、この上ない。
「くま父さんや、くま父さん……嬉しぃ……しばらく会われへんかったからホントに嬉しい」
「お前、栃木おったときワシなんかとずっと会ってへんかったやんけ。……しゃぶ屋はクビか? もうずっとここで入院してんねやろ?」
「へへ、クビー♪ でもええねん。ボク、十億持ってるから。これでずっと遊んで暮らすー」
「……ま、それが普通の考えやろな。ワシもこれから遊ぶ人生や。さっそく一億くれ」
「うん、ちょっと待って……なんでくま父さん以外にも二人おんのー?」
「ああ、すけちゃんとさつきか。すけちゃんはワシの友達。さつきは……まあ、ライバルみたいなもんかな……それより早くくれって」
「ごめん、くま父さん……実はまだここにはないねん」
「何っ? ウソか? お前、ここまできて……ウソ?」
「いや、ちゃうって。ちゃうちゃう! そんなに殺気立たんとってぇや。確かに! ボク! 十億持ってんで。でも、今はないねや」
 どうやらこいつの話を聞かなあかんようやな。……でも、嫌な予感しかせえへんのは考えすぎか。

 足利の話によると、トモローから優勝賞金の一億円はもらったらしい。そしてその金でこの病院に入院し、手術も受けている。かなりの金がかかったやろう。
 後日、足利は目を覚ました。手術が成功したんや。
 兄の命に別状がないとわかると、妹のアカネはその日から普通に学校に行った。
 親とは同居していないらしい。ちょっと複雑な家庭のようやった。
 しばらくして、足利を訪ね、生命保険会社の人間が来たらしい。
 その人いわく、今から生命保険をかけて全身大火傷をした――とすることで多額な金が入る。
 事故のあとでも書類の書き方次第で保険が下りるとのことらしい。
 ワシはその話を聞いてすぐにあやしいと思ったで。
 だってその保険会社の人間の言うことが本当やったら、事前に保険に入る必要はない。
 誰もがケガしてから保険に入ればいいことやないか。
 掛け金は百万円から。
 保険金は掛け金の十倍が支払われるという。
 ……どう考えてもおかしい。
 足利はそこまでずっと笑顔でワシらに説明した。
 でも、ワシもすけちゃんもさつも……、「ああ、騙されたってオチやろな」ってもう予想がついとったよ。

「でな、でな……今日、生命保険会社の人がお金持ってきてくれるねん! 十億やで。すごいやろ!」
「……ああ、すごいな(すごい冷めた声で)」
「ホント、すごいの……」
「すごいな、確かに。お前のバカさ加減が」
 それぞれ足利の話を聞いた感想を述べてみた。
 でも足利はまだ騙されていることに気づかず、笑顔だった。
「もうー、すけちゃんにも一億あげる! すけちゃんってちょっとクマさんみたいでかわいいやん。ボク、タイプかもー」
「うわぁっ! 気持ち悪いこと言うななのっ!」
 すけちゃんは折りたたみの椅子を足利に投げた。……けっこう力持ちやってんな。
「うわっ、こら……! 危ないっ! ボク、病人やで、病人! 一億あげる言ってるやん。なにキレてるん……?」
 お前はもう一億も持ってないねんで。たぶん所持金もほとんどないんやろな。
 おっと、さつきがちょっとヤバイか……ワシ、とばっちり受けへんやろな……。
「足刈……お前はその生命保険会社……おそらくそうじゃない。詐欺に、遭った」
 さつき……ストレートや。ストレートすぎる。
 足利は目をきょとんとさせ、三秒ほどでまた笑顔に戻った。
「はは、あはは……! なに言ってんねや、この子? なあ、くま父さん、この子誰?」
「さつきや……加藤さつき。お前、口には気をつけとけや。さつきの一言でお前もムショ送りにされるで」
「ボクが? はは、なんで?」
 こいつは女好きでもホモでもない。クマ好きの人間や。それも性的な意味で。
 ワシらクマにとったらこんな迷惑なことはない。だけど、多くのクマがそのことを認知している。
 つまり、足刈がさつきにセクハラしたと言っても、信じてはもらえない。
 足利だけが唯一、さつきの訴えから逃れる男!
「これは……珍しい。貴重な存在や……」
 さつきもワシと同じことを考えたんやろう。少し目をつむって、何かを決意したように一歩前に出た。
「もうお前には何の金銭価値もない。でもな……まだあるやろ。お前には強い生命力を持っている……臓器とか、売れ!」
 ……なにをこの子は言ってるんやろ。
 しかも本気な目で。
 さつき、あかんて。お前じゃあ足利を奴隷化することはできん。
「……さつき? 自分さっきから何言ってんのかわからへんで。もう帰ってくれるか?」
「くっ……!」
 こないに、女に興味がないとはな。……ああ、ワシも帰りたくなってきた。
 こんなんやったらタクシーとか乗らんかったらよかった。
 二千五百円……けっこう高くついたな。帰りはもちろんバスや。これやったら三人六百円でいける。
「お前にはもう会う価値すらない。……ケータイ、電話もメールもせんとってな。じゃ……」
 ワシら三人は病室から出ようとした。すると足利が、
「ちょっと……待ってって! くま父さん、一億いらんの? すけちゃん、一億あげるで? 大好きなみかん、たくさん買えるで?」
「……なんでお前がすけちゃんの好物知ってんねん、気持ち悪い……。ええか、この際言っとくぞ。お前は騙されてん!」
「……ウソやん。ははっ、何言ってるん、くま父さん。そんなん言われてもボク全然驚かへんで」
「幸せな奴やな……このままずっと気づかんかったらええな。そしたら永遠に億万長者や」「だから億万長者やって! ……なあ、待つんが嫌なん? 今日中には生命保険の人、来るって行ってたからもうちょっとしたら来るよ。……確かにちょっと遅いけど」
「お前、その会社の連絡先はわかるのか? お前の担当者でもええで。すぐに電話かけたれや」
「電話……そうか、その手があったか! さすがくま父さん! 今から電話してすぐに持ってきてもらうー。十億持ってきてもらうー」
「……かわいそうな男やの、足利まさる……」
「へへ、退院したら今まで欲しかったもんたくさん買うねん。もうお金に困ることはない。好きなもん買って、好きなところに住める。仕事もせんでええし、したかったらすればいい……自由や! これこそボクの求めていたもんや!」
 プルルルル、プルルルル……。
『……この電話は現在使われておりません。もう一度電話番号をご確認下さい』
「……え?」
 気づくの、遅すぎるやろ……。
「あ、あれ? ……なんで電話つながらんの? もしかして通話中とか?」
「おい……もうお前も気づいてんのやろ? その知らんふりすんのええ加減にやめぇや。おもんないで?」
「えっ、何……何言ってるん? ボク、十億もらうねんで? 今日……」
「だから、無理やって……」
「はは、もらえんねんで? もらえるで……くま父さん。もらえるで?」
「狂ってるわ……すけちゃん、さつきもう帰るで」
「もらえるねんで? もう一度電話するで? もらえん、ねんで……?」

 これはワシがあとから噂で聞いたことやけど、この日夜中になってもずっと独り言を呟き続ける患者がいたそうや。
 彼はこう言った。「なんで来うへんねや、なんで……十億。ボクの十億」
 その男は所持金ゼロやった。手術代っていうか、入院費も払らわれへんかったみたいやで。
 で、その男は退院の前日、窓を破って逃走した。……病室は五階やったらしいで。そこから飛び降りたんや。
 自殺しようと思ったんやない。
 男は着地に失敗し、地面に叩きつけられてぺちゃんこになった。……でも、男は生きていた。
 また入院するわけでもなく。自力で這いつくばり、病院を去っていった……。
 っていうか、こんなんするより、普通に一階から逃げ出したほうがよかったやろ。誰が止める?
 あえて、ケガして病院出るとかどんな奴やねん。……まあ、足利なんやろうけどな。
 それ以来、足利がワシのマンション来たり、電話・メールの類はなくなったで。ま、これはいいことやな。
 しかし、トモローにはよう言えん。
 まさか賞金が全額騙されて持っていかれたなんて……。
 こんなんやったら萌え大会とかせんほうがよかったかも。
 トモロー、ワシに宝くじ当たったことを相談したんが間違いやったな。ま、雑貨屋のアピールは十分したからこれから繁盛するかもしれへんで。
 やっぱりあぶく銭はあかんて。そんなお金使っても自分のためにはならん。
 ワシら金のない者同士……共にきばろうや。な?