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サイコー君のくま父さん

くま父さんがアニメ化されるまでアピールするぞ! オリジナル漫画・ラノベ作品を大量に公開中!

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『くま父さん』 その7

  3 萌え大会

 ――それから一週間がたった。
 大会当日。場所は三津屋公園で行われる。
 数年前、商店街でカラオケ大会に使っていたちょうどいい朝礼台がある。
 萌え大会の参加者は一人ずつそこに上がって、各自アピールタイムが設けられている。
 アピールタイムの時間は一分前後。そこらへんはけっこうアバウトだった。
 審査員はワシがそこらのおばはんとジジイに頼んだ。
 基本的にクマはノリがええからな。二つ返事で引き受けてくれたわ。
 次に宣伝や。ワシは印刷会社と新聞販売所に行って、スポンサーになってもらったで。
 ビラ、一万枚が無料。各住まいへの配達だって無料。
 朝礼台の正面には印刷会社と新聞販売所の名前を入れた。それだけでタダで働いてくれたで。ま、なんでも頭の使いようってことや。
 ワシのできるところはこれまでや。……あとは参加者として、堂々と優勝を狙うで。もちろん優勝賞金は一億円。

萌え大会
 出場者募集
優勝賞金 一億円
審査の内容
・萌えであれば何でもOK!

「賞金一億円や。やるやん、トモロー」
「ボクも参加するのー」
 三津屋公園はかつてない盛り上がりをみせていた。
 ワシも前に盆踊りとか見物に行ったことがあったけど、それどころやないほどの盛り上がりよう。周りを見渡すと人・人・人やった。
 ワシはすけちゃんとさつきの三人で一か所にまとまっていた。
 ビラを再確認し、改めて今大会の優勝賞金が豪華だということに感動する。
 さつきはマジで優勝賞金を狙っていて、目が血走っていた。……その邪気に満ちた様子やと、はっきり言って全然萌えへん。
 怒りコンテストやったら優勝するかもしれへんけどな。
 気が立って表情が固すぎるわ。こんなんワシの敵やないで。
 さつきは有力なライバルやと思っていたが……しめしめ。どうかこのままのテンションで突っ走ってもらいたいもんやで。
 一方、すけちゃんは一億がどれぐらいの金額かあまりわかっていない様子やった。
 お祭り気分で自然体で楽しんでいる。ニコニコしていてかわいい。
 ……すけちゃんも十分かわいいからな。子豚とか子グマフェチにはたまらんで。
 もしかしてワシのライバルはすけちゃんかも……。
 見物客がざっと三千人に対して、参加者は三十人ほど。
 ……ん~、少ないな。
 ワシ、もっと多いと思ってた。こんなリスクない大会になんで皆参加せえへんのやろ?
 まあ萌えを競う大会であって、マジで金にがめついおっさんとかおばさんとかは闘えるもん持ってへんからな。
 となると主力は子どもか……。
 確かに小学生ぐらいの男女の参加者も七、八人いてる。少なすぎるやろ。宝くじなんか買うよりはるかに割ええで。
 金額が金額なだけにビビってしまったんやろ、親が。
 前例のない大会やからな。なんや裏があるんか、警戒してるかもしれへん。もしくは優勝賞金の一億がウソやと思ってる可能性もある。……ウソちゃうのにな。
 ま、警戒すんのは別にいいよ。ワシの勝つチャンスが増えるだけや。ライバルは少ないほどいい。
 人間はチャンスの波に乗るんが苦手やで。
 人間とクマの参加割合はほぼ半分ずつ。
 チャンスに貪欲なクマは手がつけられへんで。ワシみたいなおっさんでも萌えの武器持ってるからな。人間はクマ好き……。
 でも、クマはそれを当たり前やと思ってるからな。
 クマが多すぎるねん。クマは基本的にクマに萌えへんやろ。
 人間もクマをある程度見飽きている。優勝するにはよっぽどのクマでないといかん。
 今、地元で一番クマの中で人気のあると言われている女子高生サクラが参加している。さらには人間でクマに圧倒的な支持を受けているさつき。
 この二人に誰が勝てると思うか?
 大会に参加するより、見物のほうが楽しめると思ったんか。
 採点式やからな。一点とか二点とか出たら確かに恥ずかしいもんはある。
 という、いろいろな要素が絡みあって参加者は三十人となった。

『――では、今から萌え大会を始めます。実況はわたし、トモローでお送りします。雑貨屋トモロー、よろしく……』
「……ちょっと泣いてるやん」
 トモローの目から涙が。
 たぶん一日たって、自分のこの行動が間違いやと気づいたんやろ。なんというもったいない一億円の使い方。でも、もう遅いで。一億は萌え大会の賞金に使ってもらうからな。今さら後悔しても遅い……。
 アピールタイムを行う順は完全にランダム。くじやった。
『エントリナンバー一番、天野しんのすけ君』
「のわわわぁー!! いきなりボクなのっ?」
 ……いきなりすけちゃんか。こらしょっぱなから荒れるで。ワシの予想では八十点を超す感じになる。さて、実際にはどうなるか……。
 あと、すけちゃんのアピールタイムに何をするのかってのも気になるな。すけちゃんの可愛らしさをアピールする何か。さあ、どう攻めていく? すけちゃん……。
 すけちゃんは小走りで朝礼台に向かっていく。その後姿だけでもけっこうかわいい。
『……えー、いませんか? 天野しんのすけ君?』
「いるの! ここにいるのぉー!」
 小さくて丸い手を高く上げるが、それでも人混みに紛れてすけちゃんの姿は目立たない。
『えっと……どこ? どこにいるの?』
「ここっ! ここにいるから……! 失格にしないでぇー!」
 あかん! すでにかわいい!
 くっ……! ワシも迂闊に萌えてしまった。
 こら、八十点どころじゃないな。たぶんもっといくわ。
 うんしょ、と朝礼台に上がるすけちゃん。その手にはビニール袋を持っていた。
『あ、君がすけちゃんですね。……ええっと、じゃあアピールタイムをどうぞ』
「の!」
 すけちゃんがビニール袋からガサガサと何かを取り出す……それはみかん。そして……、
「みかん食べるのー」
 むきむきと可愛らしい仕草でみかんの皮をむくすけちゃん。
 このすけちゃんの笑顔にグッと人間やクマも多いはず。
 ……皮をむき終わってすけちゃんはそのままみかんにかぶりついて……、
「おいしー♪ みかん、おいしー♪」
 もりもり、もしゃもしゃと食べだした。
 ――約一分。すけちゃんはみかんを堪能し、満足げに朝礼台を下りていった。
 シンプル。ただ、みかんを食べているだけでも食べるという行為は特別なもので、例えば犬が食べているところを見て萌えた人間も多いんやないか。……それと同じ。
 食べる仕草とは萌えを意識させてしまう仕草。
 それをすけちゃんは知らずのうちにやってのけた。
 しかしこれがもしさつきがカニを食べているシーンやったらあまり効果はない。
 しんちゃん、そして好物がみかんだったからこそ、これほどまでの萌えを生んだんや。

 審査員の採点時間に入る。
 カズオ――ワシのスカウトした審査員。渋いシルクハット以外は全裸のクマ。ステッキをついて、紳士ふうの男。年金暮らしで悠々自適な生活を送っている。
 マサコ――耳が垂れていて、服は一応上下着ている。かなりの巨乳やけど、おばはんやから一部のコアなファンを除いてほとんど色気は感じない。定年を迎えたが、そのあと、パート扱いで職場復帰している。仕事の内容は小学校で給食を作っている。
 二人の審査員は各持ち点の最高が五十点。二人合わせての点数で百点満点となる。
 男と女とでは萌える要素も変わってくるからな。
 審査を公平にするなら人間の審査員も入れといたほうがよかったんやろうがな、これには狙いがあった。
 ……クマの萌えるツボをワシは知っている。
 ワシが優勝したいだけの都合やった。

 ガヤガヤ、ガヤガヤ……。
 いよいよ点数が発表される。初めての採点に誰もがドキドキしてそれを待っていた。
 すけちゃんがワシのところに戻ってきた。
「くま父さん、どうだった?」
「ああ、かわいかったで。ワシ、めっちゃ萌えたわ」
「やったー!」
 隣でさつきが、「男同士で気持ち悪いっ……」とセリフを吐き捨てた。
『さあ、点数の発表です。点数プレートを出して下さい』
 点数プレート……アイスの棒の先に丸いメンコがついているような安い作り。そこに審査員は点数を書く。なお、プレートは特殊な素材でできているので、何度でも書き直しが可能。エコなプレートやった。
『カズオ、四十点。マサコ、四十五点。……ということは、八十五点だァァ――――!!』
「「オオオオオオオォ――――――!!!」」
「ちょっと、待て……! 点数高すぎるやろ! あいつ、みかん食っただけやで!」
 さつきは動揺の色を隠し切れない。
 ワシもこの得点には少し驚いた。いきなりの高得点や。
 ワシが優勝するには八十六点以上出さなあかん。……もしかしたらこのまま、すけちゃんが優勝する可能性も十分にあった。
 今から優勝したらいくらか分けてもらうみたいな約束しとったほうがええかもな。
『――続いてエントリナンバー二番。リカちゃん!』
「リカだって? ……リカといえば中学生モデルをしているというあのリカか……。ルックスよし、スタイルよし、性格がキツイと、人間の男から圧倒的な支持を誇る。中学生とは思えないようなあの巨乳。かといって太っているわけでもなく、くびれた腰。露出の多いファッションセンス。……背中が丸見えで、肩も露出された服は男たちの間では伝説となっている。長い黒髪は今時のちょいヤンキー女子中学生としては珍しいか? かつて、金髪にしていたか不評だったため、黒く染め直しての登場か。白髪のツケマを付けるという斬新な発想も持っている。誰もが振り向くほどの魅力を持つ女、それがリカ! ……優勝は彼女以外には考えられない」
 ……と、近くのおっさんが言っていた。

 ――でもな、甘いねん。
 確かにリカはかわいい。ワシも知ってる。スーパー中学生がおるいう噂を聞いて、実際に本人の写真を見たこともある。
 でもな、人間の審査員はここにはおらへんねん!
 リカがさっそくアピールタイムで、ファッションショーのように自慢のナイスボディをアピールした。
 その豊満な胸や尻に皆の目が集中する。……人間の男だけがな。
「……やっばい、さすがスーパー中学生リカや。めっちゃ色気ある」
「あ? なんや、ビビってんのか? ……安心せい。確かにあの子はかわいいけど、クマ的にはパンチが効いてない。たぶんお前のほうが得点高いで」
「どういうこと、それ?」
「まあ、心配すんなって。すぐにわかる。……見ろ、審査員のカズオとマサコを。二人とも渋った顔してるやろ? すけちゃんのときはもっといい顔してたで」
「あ……本当」
『――さあ、点数の発表です。どうぞ……!』
 カズオ、十三点。
 マサコ、十七点。
 ――計三十点。

「人間の普通に魅力ある女に対してはかなり辛口やんけ。……めっちゃクマに有利な展開やな」
 さすがさつき。気づいたようやな。
 そう、これはクマに有利な大会や。どうやってクマの萌えに対する欲望を満たしてやるか。それがポイントになるで。
 ワシはクマの萌えに関しては熟知してる。
「……おい、一億取ったら山分けやぞ」
 さっそくさつきがすけちゃんに賞金の山分けの話。……でも、さつきやとすけちゃん以上の点数出せると思うねんけどな。
 クマは何に萌えるか、その点を考えれば九十点を出すことも可能やろ。ただ、それをアドバイスするほどワシは甘くはないで。……お前には五十万詐欺られてるしな。
 ――大会は次々と進行していく。
『エントリナンバー三番……三十五点!』
『エントリナンバー四番……二十二点!』
『エントリナンバー五番……二十七点!』
『エントリナンバー六番……八十八点!』

「待てぃっ!! ただのクマコンテストなってるやんけ!」
 声を上げたのはさつきやった。
 この高得点を上げたエントリナンバー六十七番はクマのサクラ。
 一位のすけちゃんの八十五点を抜いて、一気にトップに躍り出た。
「の~……一位じゃなくなったのぉ……」
「すけちゃん。大丈夫。サクラがもし九十点を超えてたらワシもちょっとあせったけど、八十点台や。これぐらいやったらなんとかなるで」
 すると、横からさつきが、
「大した自信やのぉ、おっさん。お前にどこにそんな萌え要素があんのか、わたしはさっぱりわからんけどな」
 ふふ、嫌味で言ったつもりなんやろうけど、さつきはワシの魅力に全然気づいてないみたいやな。
 ワシの体型はほぼ球体。丸いものにかわいいと感じるのは人間もクマも同じ。
 ワシのこの体型とプリンのようなプルプルさに、ファンは多い……と思う。
『エントリナンバー二十二番。くま父さん!』
 ニヤリ……!
 とうとう呼ばれたか。
 ワシを除くとあと、八人。その中にさつきも入ってるからな。
 まー、今のところ、最後の懸念としてはさつきだけや。でも、九十点超はなかなかない。
 ……ワシなら九十点台は可能や。
 この日のために特訓してきた。ワシにぬかりはない!
「ほら、さっさと行けや、くま父!」
「うおっ!」
 出る前に勝った気になってしまって、つい妄想してしまった。
 あかんあかん。まずは紹介とアピールせなな。そやないと、なんも始まらんから。
「しかし、お前も参加するとはな。三十八歳のおっさんのくせして」
「あのなー、萌えに年齢は関係ないねん。クマなんてプリプリしとったら何歳なっても人気者やねんで」
「お前、自分で人気者やと思ってんのか? 言うとくけど全然、人気なんてないで?」
「ま、常にクマハラされてるワシの気持ちなんか、さつきにはわからんよ」
「……なんやねん? クマハラって」
「勝負やで、さつき。一億はワシのもんやからな」
「なっ……こいつ! ええで! かかってこいや! お前みたいなおっさんに負けるはずはないけどなー」
『……えーと、くま父さん? いないの? ……トイレ?』
「あ、ハイハイ。いますよー。はーい、行きます!」

 身長は高くないが、一般のクマと比べて倍近くのウエストを持っていると言われているワシ。のしのしと歩くその存在感は他を圧倒する。
「……うお、プルプルしてる」
「波打ってるわぁ~」
 へへ、今日のためにヨーグルト食べまくったからな。あと、野菜もたくさんとった。
 今のワシは最高の健康状態。便通もいい。それによってお肌もプルプルや。
 これが便秘とか下痢してたらそうはいかん。
 コンディションはベスト!
 最高のワシの魅力を見せるときがきた。
 歌詞とダンスはマスター済み。……いくで!
「ブルーベリーの歌、歌います。……ブルブルブルブルベリアイ、ブルベーリアイ♪ ワカツ製薬のブルーベーリアイ♪ ブルブルブルブルベリアイ、ブルベーリアイ♪」
 ぷるんっ♪ ぷりりんっ。ぷるぷるんっ。
 波打つ皮膚。それはプリンとかスライムのようやで。
 ……ビビってる。こっからやと客席がよう見えるわ。
 皆、ワシのこと食い入るように見てる。めっちゃ静かや。……照れるで。そんな夢中なるほどかわいいかなー?
 すけちゃんは最初に、「えっ?」って感じになってたけど、途中から、「かわいー♪」って声を上げていた。
 さつきに関しては常にドン引き! ……あいつは完全に犬派やからな。クマに興味持ってへんねん。「意味わからん……」って小さく呟いたん聞こえたで。
「プルプル具合がいい!」
「プルプルしてるわー」
 ……よし! 二人の審査員にもええ感触や。……さて、そろそろ歌とダンスを止めるか。ダンスっていってもプルプルしてただけやけど。
「――えー、終わり。以上です」
 パチパチパチパチパチパチパチパチパチパチ!!
 へへ、客は正直やで。クマ限定で。
 こんな拍手もらえるん、たぶん大会で初めてやとちゃうか。……つまり九十点台。
『さて、審査に移ります。くま父さんの点数……何点か?』

 ――九十五点。
 思ってた以上や!
『九十五点ですっ!!』
「やったぁ!」
 思わずガッツポーズ。……だが、人間は不思議そうな顔をしている。なんでこいつが九十五点で、リカが三十点だったのか、そう言いたいんやろな。
 すけちゃんのところに戻ると、さつきは、「審査員、頭イッてるやろ?」なんて言う始末。
 クマの特性を掴んでないと勝たれへんからな。こら、ワシの優勝で決まりかな……。

『エントリナンバー二十三番。加藤さつきちゃん』
「よっしゃあー! わたしの出番や!」
 さつきの気合は十分。でも、わかってんのか? 萌え大会やで。一体どんなアピールすんねや?
 まあ素材は超一流やと思う。あとはネタだけや……。
 さつきは朝礼台に堂々と立ち上がった。そこにはトモローもいる。
『や、やぁ……さつきちゃん? 自信のほうはどう?』
「自信あるに決まってるやんけ。だからこうやって大会にも参加してんねやろ。一億はわたしがもらうで」
『…………』
 ……さつき、それ皆に聞こえてるんやけど。
 全然、萌えちゃうし。逆になんかキレてるから、すんませんって謝りたくなるし。
 ごめんなさい、もう許してみたいな……あれ?
 それって……Sとちゃうん?
 しまった、Sか!
 さつきは着ている服を豪快に脱ぎ、それら衣類を高々と投げやった。
 裸……んなわけはない。いくら金に執着のあるさつきでも、自分のプライドを捨てることは今までになかった。
 色仕掛け……誘惑……そういう方向で勝負をする女やない。
 さつきはわかっとった。それは本能やろか。今、ワシはさつきに恐怖を感じている。
 萌えイコールかわいい、とワシは浅い考えをしとった。決めつけとったんや。
 萌えとはグッとくる何か。魅力的なもの。それはかわいさだけではない。とにかくグッときたらなんでも萌えなんや。
 さつきはS……あんなに堂々とした態度されたらそれは逆に……応援したくなる。
 さつきは服の下に水着を着ていた。それもスクール水着やった。
「おらっ、水着や! これで萌えろ! 変態が! 百点にしろや!」
 これは……効く。
 ワシはSの耐性を持ってる。すけちゃんなんか耐性持ちすぎてるぐらいや。
 Sの耐性を持っている者ほど、さつきのアピールに、「はぁ?」なわけだが、一方Sの耐性を持っていない者は……瞬殺!
 Sの虜になる。
 普通、キレた顔して百点にしろと言われても、誰もそうしようとは思わへん。
 さつきやからこそできる。あの堂々さ、あのかわいさを持ってしてできる業なんや。
「……Sぶりがいい」
「いいSね」
 やばい……審査員とかめっちゃうっとりしてるわ。
 あかん。Sがクマのツボやったとは……。
 確かにクマはS好きが多い。迂闊やった。
 つい、ワシとかマオサを基準にして考えてしまった。……ワシの狙いが甘かった。
『さて……ゴホン! 審査のほうに、移りましょうか……』
 くそっ! 進行役のトモローでさえ萌えまくってるわ。
 ジジイのくせに赤面すんな。
 ……こりゃ、かなりの高得点になる。もしかしたらワシの九十五点も……追い抜かれる?
『さて、点数プレートを掲げて下さい。……おお、これは……九十六点!!』
「やったぁ――――――!!!」
 さつきのガッツポーズ。グッと腰を落とし、両手は力強く拳を作った。
 ワシは発表を聞くと同時に前に倒れた……Sがポイントやったんや。ワシの完敗やった。
「くま父さん! 大丈夫?」
「あ、ああ……すけちゃん、ありがとう。大丈夫やから……」
 これでワシに一億の可能性はなくなった。
 こんなことやったら二位とか三位にも、賞金割り振ってたらよかったな。
 今からやろう思っても無理やろなー。優勝はさつき……まあ間違いないやろな。番狂わせはないわ。

 さつきのあとの参加者は次々にリタイア。
 九十六点を超える自信がないというのが理由やった。
「純粋にルックス勝負やと、人間のリカ……。クマのアイドルやとサクラ……。かわいい好きやったらワシ……。S好きやったらさつき……もうタマは全部出尽くした。もうこれ以上のもんは出ぇへんやろ。リタイアも頷ける」
 さつきも勝った気満々。凄まじいドヤ顔で一億が手に入るのを待っている。
『――では、次が最後になります。エントリナンバー三十番。足利兄妹』
 ……はぁ?
 兄妹? なんや、二人で出場かいな。別々に参加したらええのに……。
 ん? いや、ちゃう。そこに引っかかったんやない。足利……?
 どっかで聞いたことがある。そう、最近聞いた。足利……いや、しかしどこで聞いたかまでは思い出されへんな。
 カツン、カツン……。
 変な髪をした男が……中年が、ゆっくりと朝礼台に上がった。
 髪で一発でわかった。あんな特徴のある髪をした奴、世界広しと言えどもあいつしかおらんやないけ。
 続いて小学生らしき女の子も台の上に上がる。
 顔を見たらわかる……まあ、兄妹ってトモローの紹介があったけど。
 死ぬほど似てるわ。足利を小さくして女の子にした……まあ、そのまんまやな。まさにあいつの妹やった。ちょっと歳の差のある兄妹。
 公園内はシーンと静まる。
 それも仕方ない。まずはルックス……最悪やった。これにどう萌えを求めようとしているのか……考えれば謎は深まるばかり。
 こいつらも一応、一億を目指しているんやから何か武器――アピールするものを用意してきたはずや。ルックスでなければどうする? さつきみたいにSで勝負するのか?
 さつきが成功したんは元々ルックスがよかったからや。さらにSという属性が付加したことにより、その相乗効果はとんでもないものとなった。
 ワシも自身のかわいさにプルプルさ、それに歌やダンスも組み入れた。
 それほど点を取るってことは難しいもんやねんで。
 それを……あの二人はマジで優勝を狙ってるんか? もしくは単なる記念参加か?
 辺りが静まっているということは、誰もがワシが思ったんと同じような疑問を、繰り返し自分に問いかけていたんやろな。
「……えーと、もうアピールしていい? ね、司会のクマさん?」
『あっ、ああ……すまない。ついアッチの世界に行っていたよ。その……あまりにもインパクトがありすぎて』
「へへっ、そうやろ。優勝できそうやろ?」
『……あの、一つ聞いてもいいかな?』
「ん? 別にええよ。なに?」
 さすがトモロー。ワシら観客は質問できへんからな。今のところは基本、お前しか足利に質問できんってわけや。
 たぶん聞きたいことは山のようにあったやろうが、トモローはまず根本的なことを聞いた。
『優勝は……狙ってる?』
「うん、当たり前やん。借金あるからな。一億はマジで狙ってんで」
『萌え大会というのはご存知? ……キモイ大会じゃないよ』
「知ってるがな。ボク、皆のこと萌えさせる自信がある」
『では、最後に……どうやってあなたが皆を萌えさせるの?』
 ……うん。トモローの聞いたことは間違いやない。
 ワシも知りたい。こいつはなにを武器に闘うのか……。
「それ言ったらこれからするアピールタイムも無駄になるやん。……じゃあそろそろアピールしていいかなぁ……?」
「はい……ゴクリ。どうぞ」
 まず妹が服を脱ごうと上着に手をかける。……それだけでワシとか、審査員は、
「ゲボるっ!」
 ……吐いた。
 全てを見てはいけない。全てを見てしまったら……一生、ワシらはトラウマで苦しむことになってしまう。
 視線を下げろ。――だが、下げたところには、
「下、下……ほら、ボクの生足。ほら」
 足利まさるのスネ毛……。
 上と下とのコンボ。
 ワシら観客側はまだいい。二人から完全に視線をはずせば、一時的な精神障害の程度で済む。
 だけど、進行役のトモローや審査員は、二人を見続ける必要があった。
 審査員の二人はまだ足利兄妹のアピールタイムが終わる前に点数プレートを掲げた。その驚くべき点数とは、
「頼む……満点出すからもうやめて……」
「ワタシも……もう限界」
 二人は床に倒れていた。気を失いかけていた。
 しかし、アピールタイムを終わらそうとして出したまさかの満点。二人が各五十点を出したから、トータル百点やった。先ほどまでトップを走っていたさつきの九十六点を楽に超す。
 足利兄妹はニヤリと笑い、妹は上着を着衣を直し、まさるはめくったズボンを元に戻した。
『……終わったのか?』
 二人の審査員はすでに気絶していた。さっきまで倒れていた進行役のトモローが膝をガクガクとさせ、立ち上がろうとする。
 そして審査員二人を見た。……見間違うことはない。点数プレートには急いで書いたんやろう。荒い字で走り書きしたような文字が残されていた。
 これは証拠や。足利兄妹が百点を出した証拠……。
『百点……最後は萌え関係なし。百点……これにて、優勝は……足利? 兄妹?』
 疑問形やった。
 トモローは司会やったけど、本人でさえもよくわからない。これほど盛り上がらない大会はなかった。
 やり直そうと思ったかもしれへん。しかし、それではまた足利兄妹のアピールタイムを見なくてはならなかった。
 せめて足利兄妹が最後の参加者でなかったら、次の参加者に百十点でも与えて、優勝者を変更させることもできたのに。
 今から追加点をさつきにでも出すか? ……いや、それでは足利兄妹が納得しないやろう。
 兄妹の武器は萌えではなかった。Sでもない。……キモさだった。
 見るだけでも相当な精神的負荷がかかった。その結果、半強制的に満点を出させたんや。
 なんとした荒業! 普通の思考ではこんなことはまず考えない。
 兄妹はこの結果を狙ってやったんやろうか?
「そんな……バカな!」
 さつきが吠える。――だが、もう点数が表示されたんや。
 暴力で脅したりしたんやったら、まだ大会のやり直しもあったやろう。まさかこんな方法で……!
 落ち着けば次第に、この結果に不満を感じる。
 今、一番プレッシャーを感じているのはトモローだろう。
 足利が優勝したことに対し、観客の誰かが無効を望めば足利兄妹は何をするか……。また脱ぐかもしれない。
 それだけはもう勘弁してほしい。……だからトモローは急ぐはずや。賞金の授与を。

『足利兄妹に……一億が授与されます』
 一億の小切手が足利まさるの手に渡る。……それほど、早くこの大会を終わらせたいか、トモロー!
 トモローの顔色は明らかに悪かったし、目の焦点が合っていなかった。倒れる寸前っぽい。
 彼の気持ちから考えると真っ先にこの二人から遠ざかりたい、そう思っているに違いなかった。
「やったー! 一億やー! やったでー! もう働かんでええわー! 自由人やー! ボク、自由人になったー!」
 歓喜する足利。それを面白く思わないワシとさつき。あと、その他多数。
「……このまま終わってしまうんやろか。さつき……どうする?」
「……奪う、か?」
 奪ってもええと思う。相手はあの足利や。
 パワーでは絶対に勝つ自信があった。さつきもおることやし。
 どうせこいつが一億手に入れてもまともな使い方はせえへんやろう。
 誰かに騙されてすぐに一文無しになるんやろな。でも、誰かって誰や?
 騙す奴なんて皆、悪いもんや。
 トモローの一億は悪の資金源になるんや。そんなことトモローは望んでない。
 だったら……ワシらが取り返すべきやないやろか。多少荒くなってもいい。絶対ワシらのほうが有効に金を使える!
「よし……行くで。覚悟はええか、さつき?」
「うん……ぶん取る!」

 ――そのとき、事件が起きた。
 マサコが公園に来る前に、スーパーで買った油を落としてしまったんや。マサコはどういうわけか、油のキャップを開けていた。
 もしかしたら大会が始まる前に、キャップを取っていたのかもしれない。そうしていれば、家に帰ったときにすぐ使えるからや。……ほんの一秒ぐらいの効率化やったけど。
 さらにカズオが吸っていたタバコを落としてしまう。
 油とタバコ……それが引火してしまった。
 初めに燃えてしまったのは足利まさるやった。
「えっ……?」
 妹がすぐ離れる。トモローは意外にも機転が利き、すぐにマサコとカズオを担いで、朝礼台を駆け下りた。
「ボク……燃えてる?」
 火は早いスピードで燃え広がる。足利まさるは全身が火に包まれてしまう。
「ちょっと……誰か……火、消して……」
 力弱く足利は助けを求めるが、誰も助けようとしない。
 公園に消火器はなかった。水道ぐらいはあったが、長いホースもなく、バケツもない。……ワシたちはずっと足利が力尽きるのを待った。
 中には消防車を呼んだ優しい人間・クマもいた。――だが、たぶん助からないだろう。
「お兄ちゃーん!!」
「ア、 アカネ……助け……て」
 とうとう足利がその場に倒れてしまった。火はまだ足利を燃やしていた。
「芦刈の存在が消えていく……」
「くま父さんっ! 芦刈を助けるの……!」
「あかんて、すけちゃん。もう遅い。……もう、遅いんや」
 誰もが諦めムード。次第に公園を出る者が増える。
 萌え大会は終わったんや。ここにいる理由ももうない。
「小切手……燃えてしまったな」
「ああ……」
 さつきは悔しそうに、公園を出た。
 小切手が燃えたんや。これやと奪いようがないもんな。
 一億の行方はどうなるんやろ……。ああ、そういや足刈の妹も参加しとったな。アカネ……? やったっけ。でも、兄貴が死んでしまったからな。葬式の墓代にでもなるんやろ。
 ワシらも、帰るか……。
 バイバイ、足刈。最初からうざい存在やったけど、最後の花火は……まあまあきれいやったで。
 これであいつはもうしゃぶしゃぶ屋の薄給に悩まされることもなくなるやろ。案外、あの世でホッとしているんかもな。