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サイコー君のくま父さん

くま父さんがアニメ化されるまでアピールするぞ! オリジナル漫画・ラノベ作品を大量に公開中!

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『くま父さん』 その6

  2 トモロー登場

 これはある日、ワシのケータイに電話がかかってきたときのことやった。
 ま、ケータイはけっこうかかってきよんで。友達多いからな。でもな、ワシ、まさかこんな自慢話されるとは思わんかった。
 かかってきた相手はトモロー……ワシより年上のクマや。
「――ああ、そう……自慢か?」
「いや、だから違うって。別に自慢とかじゃなくて……」
「自慢かって聞いてんねん?」
 ワシ、自慢されることってめっちゃ嫌い。
 だってトモローのやつ、ワシが借金五十万してて大変やっていうのを知ってるのに自慢してくんねんやから。
「もう切るで? ……株とか買って破産してろ。レバレッジかけて」
「ちょっとそれって……宝くじに当たったって言っただけじゃん。キレすぎ……」

 トモローは宝くじを当てた。それも一億円という大金を。
 そんなこと一緒に喜んでやれるほど、ワシの精神は安定してない。
「なぁ、パーッと使えや。そう、道に一億ばらまくとかな。それやったらワシも得するし、お前のこと尊敬する。なぁ、そうしろ」
「とりあえず家に来てよ。こんな大金手にするなんて初めてだ。相談に乗って、ね? くま父さん」
 ……仕方ないな。面倒やけど行ったるか。
 トモローは近所で小さい雑貨屋を営んでいる。一日の売上とかせいぜいよくて千円ぐらい。ほとんど客が入らずに今でも潰れそうやった。
 雑貨屋なんて今時はやるはずもない。商品はどっかから拾ってきたような薄汚れたキャラクターもののぬいぐるみとか、靴とかベビーカーとか……。
 値段書いてないからいくらなんかわからへん。まったく商売っけがなかった。
 店の入口がトタン板やからな。マジで意味わからん。
 ……これ、店やないな。どっちかつーと、ゴミ屋敷に近いもんがある。
 このあやしい雰囲気が好きで、ワシはたまにトモローの店に顔を出すわけやけど……。
 あいつは普通のクマとちょっとちゃうからな。それでワシしか友達おらんのかもしれへん。
 マンションを出て、トモローの店を目指す。
 徒歩で三分もすれば着くという近さ。――だが、その道中に思いがけない人物と出会ってしまう。
「――おっ、くま父?」
「……さつき?」
 やばい。さつきや。
 ……またセクハラとかなんか理由つけられて金、せびられてしまう。
 見た目がかわいいからな。こいつの味方する奴の多いこと。なるべくやったら関わらんほうがいい。もうこれ以上借金を増やすのは嫌やった。
「……ちょっと、急ぐから」
「ちょー待てぇーい!」
 そのまま過ぎ去ろうとしたが、後ろの首の皮を掴まれてしまう。
「おっと! 何すんねや? ワシのことはもうほうっといてくれ! 毎月の金はちゃんと振り込んでるやろ? まだそれ以上の金をせびるか?」
「……あんた、わたしのこと金の亡者のように思ってないか?」
「え……ちゃうんか?」
「まあ、亡者だけど。……そんな態度取るんやったら、もっとそれらしくしたろか? ん? スーパーのバイト代まで取られたくないやろ?」
 ……観念するしかなかった。ワシはさつきに絶対勝たれへん。勝たれへん……。
「なあ、どこ行くつもりやってん? バイト?」
「いや、ちょっと友達の家にな……それがお前に関係あんのか?」
「友達と遊ぼうと思ってたんやけどな、どの子も塾や習い事で忙しいねんて。退屈で死にそうやったから公園にでも行こかなって思っててんやけど……」
「……そんなとき、ワシに会った?」
「そう。暇やから付き合ったるわ。お前、友達んち行くんやろ? さつきも行く」
「え、でも……」
「行くって……な?」
 断れるわけないやん……。
 ワシはさつきと二人で、トモローの店に行くことにしたで。

「――そういや、お前、トモローのことをワシの友達やって言ったやんなぁ?」
「ん? ……誰、トモローって?」
「あ、今から会いに行く奴……って、ワシが言ってんな。友達って……」
「……それがどうしてん?」
「ああ、言い直すわ。正確には友達やったと、過去形にしとこか」
「はぁ? じゃあ今から友達やないクマの店に行くん? ……なんか意味わからへんねやけど」
「ワシな、自慢されてん。普通、そんなことされたらムカつくやろ? 相談乗るフリして、実は店壊すーいうみたいな……」
 トモローの店の前にはいろんな植木鉢が並べられている。
 そこに生えているものはいずれも巨大であり、店のトタン板の大半を隠す。
 隠れた迷店。謎の店。不思議な店。そもそも本当に店なんか。……トモローの店はそんな感じやった。
「――おう、ここや。トモローの店は」
「店なん? これが……?」
「そや。すごいセンスやろ? こんなセンスある店そう簡単に見つかるもんやないで」
 ゴミ屋敷……お化け屋敷……うまく例えようがない。
 まず入り口がなんでトタン板やねんって毎回来るたびに思うわ。悔しかったけど、ワシにはこんな狂ったセンスはなかった。
「おう、トモロー! 出てこいや!!」
 ワシは店の前で怒鳴った。
「そや……ほら、さつき。お前には日本刀貸したる」
 ワシは体毛ポケットから日本刀を取り出した。
「日本……刀?」
「Sのお前にはピッタリの武器やろ。……ちなみにワシの武器はチェーンソーやから」
 ギュイーン!
 おおっと……振動すごい。さすがにこれは体毛ポケットに収まるわけもなく、マンションから持ってきたわけやけど、思ったより音がうるさい。
 ギュイーン!
「ちょっとくま父! うるさいって! 何しようと思ってんねん?」
「切るんや。トモローの店をな。……まずはこのトタン板からいったろか」
 ギュイーン……ガリガリ、ガリガリ……。
 よし、いい感じに切れてる。さすがチェーンソーや。安物の割にこの仕事ぶり。ちょっと高かったけど無理して買ってよかった。破壊してるって感じがする。
「……くま父って人の幸せ、妬むタイプ?」
「ああ? そんなんとちゃうと思うけど……トモローはな、宝くじで一億当ててんねんで? で、ワシに自慢してるわけや。そんなんワシが欲しいって。こらぁー、トモロォォー!!!」
 ガガガガガガガ、ギリギリ……!!
「……妬みじゃん」

 トタン板を一枚切り終わるそうなタイミングでトモローが小走りで中からやってきた。
「すまん、遅れた! 待った? って、うぉぉーい?」
 チェーンソーの迫力に圧倒されるトモロー。それ以上近づこうとはしなかった。
「おう、待っとったぞ。まあ、もうちょい待てや。せっかくやからトタン板一枚切らせろ!」
「ちょっと、やめてくれって! それ店の入り口!」
「はぁ? ふざけんな。こんなビックリハウス、どうなってもええやろ。趣味でやってますってレベルやなく、もはや無駄で謎なレベルやんけ。ちゃんと営業の許可取ってんのか、この店」
「やめてやめて! 切らないでって!」
 ……板を一枚切り落とし、ようやく落ち着いてきた。
 トモローが普通のクマとちょっと違うというのは、まずその外見から。
 ワシみたいに野生のクマから、人間の言葉を話せるようになり、人間社会に適応したクマを単純に進化型という。
 トモローの場合はさらに進化したヒューマンタイプ(もしくは人型とも呼ばれる)やった。
 体型が人間とほとんど同じ。顔、体、手足……その対比が人間のものと大差がない。
 だからトモローは服を着ている。
 これでさらに髪の毛が生えていたら神タイプだった。
 神タイプのクマとなると、変化能力やその他の特殊能力を持つという。……ま、こっちのタイプのクマはワシもまだ一度もお目にかかったことがないけどな。
 クマの人口でいうと、百万人に一人ぐらいの割合やねんて。
「――どうせ、店の奥で札束数えてたんやろ? はっきり言えや」
「違うって。パスタ作ってたの……もうキレすぎ。……それよりそっちの子は誰? 人間みたいだけど」
「そら人間ってすぐわかるやろ。加藤さつきや。知らんか?」
「うん……ほとんど家出ないからね。有名な女の子なんだ?」
 一般的にはかわいい子として有名。……本当はドス黒いけどな。
「おい、さつき。お前もなんとか言えや。それとも変な店で開いた口がふさがらんか?」
「……トモローさん、ちょっとキモイんですけど……」
 ……ま、初めてヒューマンタイプのクマ見るんやったらそうかもな。でも、まあこれは慣れてもらうしかない。
 しかし初対面でいきなりキモイとか言うか? やっぱりS女やで、こいつは。
 トモローの身長は百八十五センチぐらいの長身。白い髭が顎まであって、ジジイとおっさんの中間らへんやった。
 黒のタンクトップにステテコパンツ。足元はサンダル。……まあ商売っけゼロなファッションっていうのは言うまでもないわ。オヤジファッションってやつやな。気が抜けてるとか、そんな感じの。
 ヒューマンタイプで裸はさすがになかった。
 進化型の裸で街中を歩くことは法律で認められているが、ヒューマンタイプではそれが犯罪となった。
 ……進化型とヒューマン型。一概にどちらのタイプが良いとは言えない。
 ワシのように丸くてぷりんぷりんとして体毛ふわふわを目指すんやったら進化型。
 より人間社会に適応したいのならヒューマン型。……とはいえ、それは先天的なものであとから型を変えることはできなかった。
 初めてヒューマン型のクマを見たさつきには、少なからずショックを受けたのだろう。
「おい、さつき。大丈夫か? トモローは確かにあやしいが、別に害を及ぼす存在やないから。そないにビビらんでええって。……そや、いっそのこと付き合ったらええねん。こいつ、一億持ってんで。お前、お金好きやろ?」
「……いっ、一億?」
「そや。さっき言わんかったっけ? こいつ宝くじで一億当ててんや。で、それをワシに自慢してきた……」
 すると、トモローが、
「いや、自慢じゃないって」
「……一億。一億かぁ」と、さつき。
 ……ああ、これは真剣に考えてる感じやな。
 けっこう冗談で言ったのにな。この女は金のためやったら彼氏がクマのジジイでもええんかいな……。
「決めた。決めたで!」
 マジ? ……こいつ、まさかホンマに金だけのためにトモローと付き合う気か?
「金だけ、くれ!」
 ……ああ、それでこそさつきや。

 ワシがげんなりしてると、横からトモローが不気味な笑い声を上げる。
「ふっ、ふふ……ははは!」
「なんやねん、トモロー。狂ったか?」
「いや、そうじゃない。いいなぁ~と思ってね」
「いいなぁ? 一体何がやねん」
「くま父さんにはこんなかわいい女の子がいるんだからね。羨ましいよ」
「……さつき、ロリコンや。110番して」
「ちょっと待って……ウソぉん?」
 ――と普通こんなノリで警察を呼ぶ人間なんかまずはいいへん。
 でもな、さつきは別や。この女は恐ろしい。警察を私物化していると言ってもいい。
 プルルルル、プルルルル……。
「――あの、加藤さつきですけど、変なクマがセクハラを……はい。名前はトモ……」
「ちょっと待って!」
 トモローがあせってさつきからケータイを取ろうとするが、さつきはそれをひらりと軽やかにかわす。
「くま父っ! 動画録れ! 今のやり取り録っとけば後々いい証拠になる! 早く! 録れ!」
 ……ワシはとても協力する気にはなられへんかった。
 トモローがワシにかぶって見えた。あまりにもかわいそうやった……。
「う……やめて、くれぃ……う、うぅ」
「トモロー……泣きそうやん」
「一億くれや! トモロー! じゃないと、また電話すんぞ! 今度は本気やからな」
 さっき、ホンマにかけとったやんけ……。
「やめて、やめてくれぇぇい……」
 こら、トモローが一億持ってる限り収まることはないな。
 だからワシ言ったやろ? 人には自慢すんなって。誰も一億なんて大金欲しいに決まってんねん。だからもし、一億当てたとしても黙っておくことが暗黙のルールなんや。
 それを破ったトモローは自業自得だった。
 さつきに目ぇつけられるんなんて、もう(人生)終わったようなもんやで、ワシみたいに……。
「くれや!」
「やめてくれ!」
 ――しかし、これやといくらたってもキリがない。なんかいい方法はないやろか。
 トモローが一億持ってたらさつきがずっと付きまとうやろ。ということは、それを阻止するためにトモローは一億を手放さなあかん。
 ま、純粋に付きまとうだけやったらロリコンのトモローは喜ぶが、さつきは金のためやったらけっこうぶっ飛んだこともするからなぁ。それやとお互いにデメリットが生まれてしまう。
 寄付……いや、寄付はあかん。さつきが納得せぇへんし、ワシ的にも全然おもしろくない。
 いっそ、誰かに一億をあげたほうがいいかもしれんな。でも誰にあげる……?
 ワシ? なんてことはないやろ。
 それに誰にあげてもさつきは納得せん。ワシも……。
 せやったら、誰にでも一億がチャンスがあったらどうやろか。くじ引き……じゃんけん……あかん。そんなん地味すぎる。
 トモローにも少なからずメリットがないと、かわいそうや。
 トモローが喜びそうな……トーナメント的な……ロリコン……美少女……かわいい……萌え……萌え?
 萌え……やったらワシにもチャンスあるで。トモローも喜ぶやろ。
 いける! 萌え大会! 萌え大会しよ!
「トモロー、萌え大会やろって!」
「萌え……はぁ?」
「いいやろ。一億賞金にすんねん。かわいい子いっぱい来るって。お前にもメリットあるやろ? それが正しい。そんな太っ腹なことするトモローは皆に尊敬される。なに、審査員とか大会の段取りとかワシに任せたらいい! お前は金を用意しとくだけでいいから。な! 解決や! これで解決や!!」
「え……普通に、嫌なんだが」
 あかんか? ……まあ普通あかんやろ。でも、ワシには最強の援護者がおるで。
「さつき!」
 さつきはゆっくり一歩前に出る。そして……、
「大会せな警察呼ぶぞ」
 最強の呪文。ワシがブタ箱に入れられた呪文やった。術者、さつき限定。
 トモローは膝をついて、力尽きしたように言った。
「お金って……怖いな」