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サイコー君のくま父さん

くま父さんがアニメ化されるまでアピールするぞ! オリジナル漫画・ラノベ作品を大量に公開中!

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『売るが屋』 その2

  2 彼女のお父さんがアレだった

 放課後になって、ぼくと日向はすぐ教室を出る。ぼくたちが二人一緒にいたのを不思議そうに見るクラスメートたち。まさか彼女の実家の店でぼくがアルバイトをするなんて、誰が思うだろうか。
「い、急ぐなぁ。日向」
「うん。お昼の間はわたしや妹たちがいないからお父さん一人なの。だから急いで行ってあげなきゃ」
 親思いのいい娘さんだなぁ。
「お母さんはどうしてるの? お父さんのことしか話に出てないけど」
「……お母さんはいないのよ。その、死んじゃって」
 まずいこと聞いちゃったな。なんて無神経なんだろう、ぼくは。
「ごめんな……辛いこと、思い出させてしまったな」
「お父さんも死んじゃったのよ」
「えっ? どういうこと?」
「両親は死んだ。だから新しいお父さんが家計を支えてくれてる。いろいろやったわ。初めは玩具屋でしょ。次にトレカショップ。で、今は総合リサイクルショップをしてるの。漫画やゲームがメインなんだけど」
 それでぼくが漫画の話を出したとき、あんなことを聞いたんだ。
 しかし、複雑な家庭なんだな。そんなことを学校で彼女はおくびにも出さない。
 ぼくたちは自転車をこぎながら会話を続ける。
「お父さん、ちょっと変わってるけど驚かないでね」
「変わってるって……もしかしてけっこう怖い感じの人とか?」
「わたしたちには優しいわ。時には厳しいときもあるけど。でも、けっこうかわいいのよ。あれで」
 かわいい? 義理とはいえ、自分の父親だぞ? そんな人をかわいいなんて思えるなんて……。
 ぼくにはよくわからなかった。そして、彼女が次に言った言葉がさらにわからない。
「彼、クマなのよ」
 あぁ、クマね。あの野生の……えええぇっ??
「クマぁっ?」
「そう、クマ!」
 日向の表情から嘘偽りなどは感じられない。だからわかる。それが本当だってことが。
 でも、クマだぞ? 自分の父親がクマだと言って、それを素直に信じられるか
「もう一度確認したいんだけど、あのクマ? 動物の? なんで?」
「さあ……両親とはFX友達だったんだって。FX……わかる? 円とかドルとかを取引する博打みたいなこと。まだ言ってなかったよね、わたしの親が死んだ理由。……自殺なのよ。FXで借金抱えて。そのままビルから飛び降りちゃって」
 とんでもないことを淡々と言う日向。ぼくはこれになんと答えたらいいのだろうか。
「ごめんね、いきなりこんな話聞かせて。でも、できたら聞いてほしい。当時わたし小学生だったから。それに親同士よくケンカしていたから、親にいい印象は持っていなかったの。むしろ、今のお父さんのほうが本当の父親と思えるぐらい」
「そ、そうなんだ。よくわかったよ、日向の家庭の事情が。クマなんだよね、クマ……。だったらかわいいかも」
 日向はその言葉を聞いて、少しはにかむ。
「ホントに嬉しい。やっぱり水科君を選んでよかった。だってわたしの話、信じてくれるんだもん。……ありがとう」
 その笑顔は女神のようだった。誰がなんと言おうとも女神。これで決心がついた。彼女の親がクマだろうがライオンだろうが、ぼくは言うだろう。……娘さんをくださいと。いや、まだ早いか。

 ――自転車を走らせて十五分ほどたつと、ぼくたちはある商店街の中に入った。
「ここの商店街でお店を出してるの。住んでいるところも近くよ」
「へぇ、ここかぁ……なんかシャッターの閉まってるお店が多いね」
「入り口を出口はほとんどシャッター通りよ。真ん中にコンビニがあって、そこを中心にまだ営業しているお店が点々とある感じ。幅は狭いけど縦に長く続いていて、その距離は約八百メートルだとか」
 八百メートルだとけっこう長いな。……あ、和菓子屋さん発見。日向の言う通り、商店街を進むにつれて、ポツポツと営業しているお店が目に入ってきた。
 昔ふうの本屋。花屋。小さな面積の靴屋。豆腐屋。お米屋。
 なんかタイムスリップしたような感じだな。こんなレトロ感のあるところ、なかなか残ってないよ。
 交差点になっているところでコンビニがあった。角地。外から日が差し込んでいる。
 自転車置き場にはいくつか自転車が止められていた。店の中もよく見えて、明るい感じがあった。
 ただのコンビニでも、ここだけやたらと時代の最先端を進んでいるように見える。
 この近くに日向の店がある。
「もうすぐ見えるわ。ここよ」
 定食屋とクリーニング屋の間で彼女は止まった。狭い幅だけど、それは店だった。
 店の入り口で一頭のクマさんが忙しそうに動いている。
 茶色くて、丸くて、まるで巨大のボールのようだった。ぼくが思っていたクマとはだいぶ違う。
「――ん? 天音か。お帰り。んー、そいつは?」
 クマがしゃべった。クマが……クマがだよ?
 クマは目を細めて……いや、元々細いのかもしれない。特に嬉しいわけでもなく、怒っているわけでもなく、自然体だった。
「ただ今。こちらの男の子、水科君よ。今日からお店を手伝ってくれるの!」
 明るく日向がぼくを紹介してくれた。
「どうも、初めまして。天音さんのクラスメートで、水科弁慶と言います。あの、ここでバイトさせて下さい」
 すると、クマは何度も頷き、「ほぉ~」とか「へぇ~」なんて言っている。ぼくのことを上から下までじっくり観察した。
「なるほどな。こいつか、お人好しで頼んだら断りきれんような奴ってのは」
「なに言ってるのよ、お父さん! わたし、そんな言い方してないでしょ!」
 ペシーンと頭をはたく日向。……うん、いい音が鳴った。
「冗談や、冗談。へっへ、しかしまあようこんなボロい店手伝ってくれる気になったもんや。時給は五百円しか出せんぞ。それでもいいか?」
 えっ、五百円なの?
 お金のことについては日向から聞いていなかったな。
「お父さん? この前は八百円だって言ったじゃない。わたし、そのつもりで水科君を連れてきたのよ?」
「あー、それ前の経営状況な。今は前よりもっと危ないから。ほら、買取多い割に、販売のほうが全然追いついてないねや。めちゃめちゃ安くしてんねんやけどな。だから時給八百円なんて無理や。それであかんのやったら帰ってもらい」
「そんな大事なこと、なんですぐに言わないのよ」
 また、スパーンといういい音が聞こえた。クマの表情は変わらない。相変わらず渋った顔をしている。
「水科くぅん……ごめん、こんなことになるなんて思ってなかった」
 申し訳なさそうに眉をひそめる日向。
 それだけで十分だよ。その表情でぼくの心にはガツンと来た。お金では得られないものがここにはある。
「時給が五百円でもここで働きたいんです。お願いします」
「ふっ……さよか。じゃあ一つだけ聞こ。なんで時給五百円でこの店手伝おう思ったんか。その理由を聞かせてくれ。今の時代、時給五百円で人働かせたら、法律違反とか言われるぐらいの売り手市場。特に飲食系なんて引っ張りだこや。場合によっては高校生でも時給千円いくかもしれん。……まさか、天音が狙いなんちゃうやろなぁ?」
「はい、もちろんそれもあります」
 横で、「水科君……」と目を大きくさせる日向。
「でも、それだけじゃないんです。聞いたところによると、リサイクルショップなんですよね? それも個人でされている。お客さんから物を買い取って売る。とてもエコですし、どういう経営をしているのか知りたくて。ここでお仕事をするのは将来の勉強のため、自分のためです。お願いします!」
 ぼくは頭を下げた。するとクマは……。
「そうか。わかった、わかったで。頭、上げてくれ……ワシ、イジメてるみたいやんけ。採用や。時給五百円で採用言うのもおこがましいけど、採用、させて下さい」
 クマも頭を下げた。彼は決して傲慢ではなく、驕ってもいなかった。素直で純真な心を持ったクマだということがわかる。
「ちょっと冷たい態度取ったんは、君を試すためや。勘弁したってくれ」
「えっ? ってことは時給五百円っていうのも?」と日向。
「いや、それはマジ。マジで今月家賃ヤバイ」
 スパーンとまたクマを叩く。いい音で響くんだよ。本当。
「ほな、お前も来たことやし、ワシちょっと休憩してくる。三十分ぐらい。検品の続きやっとってくれんか?」
「わかった。水科君と一緒にやっていいんでしょ?」
「いや、彼にはまずワシが経営の方針を聞いてもらう。実際に仕事をするのはそれからや」
「経営方針って……そんな大げさな」
 日向は表情をプリプリさせる。
「ほな、水科君。ワシについておいで。今から実家に行くから」
「実家ですか……はい、わかりました」
「なぁに、ちょっと小腹でも空いてるやろ。なんか食べさせたるわ。歩いてすぐのところやさかい。自転車押して、ついておいで」
 ぼくはクマについていくことにした。……日向はぼくに向かって両手を合わせる。
 ごめんね、ありがとう。そう言っているように思えた。リサイクルショップの経営に興味があると言ったのはウソではない。本当にあるんだ。
 お店の運営を勉強できて、バイト代ももらえる。しかも気心の知れた日向のお父さんだ。……クマだけど。
 今もこうして食事をいただこうとしている。すごくいい待遇じゃないか。
 クマはコンビニと薬屋の間を通って突き当りを右に曲がった。その五軒先に日向の家がある。これもレトロな感じの家だった。
「木造の二階建てや。天音の親が中古で買った物件やけど、その時点でだいぶ年数たってたからな。だから地震なんか起きたら崩れるかもしれへん。そんな家ですけどどうぞ……」
「はい……お邪魔します」
 クマは家に上がると、ぼくを居間に案内した。そして、ここで待っておくようにとぼくに言った。
 ここが日向の家か。彼女がここで日常の生活をしていると想像したら緊張するな。彼女の部屋もあるのだろう。
 ぼくは座布団に座って正座していた。周りを見ると、そこら中に学校の教科書やプリントが無造作さに置かれていた。
 小学生向きか。日向の妹のものだろう。次女が中学生で、末っ子が小学生って言ってたっけ。
 味噌汁のいい匂いがして、クマも居間にやってくる。
「お待っとさん! これ、カニの味噌汁やからおいしいで。スーパーで売ってあってん。八袋入りで九十八円」
 安い。しっかり節約している。顔に似合わず細かいな。
「お味噌汁、いただきます」
「こりゃ。そろそろその他人行儀なしゃべり方はやめたらどないや?」
「じゃあクマプー、お味噌汁もらうね」
「早っ! 適応するん早っ! ……でも、クマプーのプーってなんや? プー太郎のこと言ってんのか、それともディズニーのあの黄色いクマのこと言ってんのか?」
「えっ、なに? プー太郎? プー太郎ってなに?」
「おっと、これは死語やったか。まあいい。じゃ、消去法で黄色のほうやな。ワシな、あいつあんまり好きちゃうねん。なんか誰にでも好かれてるって感じするやん。ワシ、流行とかに乗りたくないんよ。だから今でもガラケーや。スマホなんて持ってる奴って、流行に遅れまいとする奴らやで。あいつらがスマホでやることって言ったらラインとゲームぐらいやろ? そのためだけにスマホ持つかと? ……あ、ごめん。脱線したな。クマの話やったな。ワシはな、どっちかと言うとパディントン派。知ってる、パディントン?」
「え、ごめん。あんまり……」
「イギリス生まれのクマな。黒いハット帽かぶってる奴。あいつの言うギャグとかめっちゃ面白いからな。今度観てみ、ワシDVDBOX持ってるから貸したろか? ヨドバシ・ドット・コムで買ったから十パーセントポイント付いたで」
「あの、カニの味噌汁……冷えるよ」
「おっと、そうやった。あかんなー、ワシ、クマの話なったらつい夢中になってしまうから。ま、クマやからそれはしゃあないか。ハッハ!」
 なんとも豪快なクマだ。店にいるときのクマはぶすっとしていたが、こんな素敵な笑顔もするんだね。
「あ、ごめん。違うな。ワシ、別にパディントンがどうこう言いたいんじゃなかったわ。ワシのことを呼ぶんやったら『くま父さん』とでも呼びなさい。それとも天音みたいに、お父さんって呼ぶほうがいいか? 店長なんて言われんのも嫌やで。役職で呼ばれるとか、そんなんある意味イジメやわ」
「じゃあ、くま父さんで……」
「そや。子どもは素直が一番やで。……ズズ、熱っ! これ熱すぎるやろ。ご飯に味噌汁かけて食べるんがワシ好きやねん。お前も食うか、えーと水科君?」
「ううん、いらない。くま父さんが食べて。あんまりお金ないんでしょ?」
「そういうとこ気にするか? あんまり物分かりの良すぎる子どもも、大人からしたら変に目ぇつけられんでー。この世界はそういう狂った世界やからな。ワシはまあ、そんなこと気にせぇへん。思ったこと言ったらいいんや。ワシだってそうするから」
 面白い、このクマ。ってか、よく見るとかわいいし。体がまるっこいからかなぁ。
「ねぇ、くま父さん」
「なんや、やっぱりねこまんま食べたいとか? ……ご飯あるかな?」
「いや、そうじゃないんだけど。……触っても、いいかな?」
「え? ウソん? クマハラ(クマに対して性的な嫌がらせをすること)? おまっ、そっち系の奴やったんか? ……なんでや。なんでワシのこと触りたいとか思ったんや?」
「フカフカしてるからだけど……」
「ふっ、さよか。わかった。正直に言ったから触らせたる」
「やったー、じゃあお腹触っちゃえ」
 ぼくはクマのお腹に手を入れてまさぐった。
「うひ、うひひひひ……っ! もうあかん。十分モフったやろ。それぐらいで満足してくれ」
「ちぇっ、まだモフりたかったのに」
「子どもの純真なモフりたいっていうのは正常な感情やと思うよ。ワシが嫌なんは大人のやらしい触り方する奴や。ホンマにキモい。おっさんとかおばはんに触られたないわ」
 プルルルル、プルルルル……。
 電話だ。でもぼくのケータイじゃない。くま父さんの体から聞こえる。
「おっと、ブルった! これ、ワシのガラケーやな。食事中すまんな、誰や……? 天音か。あいつどないしてん? ――天音ー、どないしたんやー? 薬屋のババアでも来たか?」
『違うわよ。もう店を出てから四十分たってるじゃない。もしかしたら寝てるかと思って』
「アホ。寝るわけないやろ。ワシはなー、水科と経営の話してんねん。大事なことやー。ついでや、あと二十分でちょうど一時間になるやろ。もうちょっと待っとけ。トイレ行きたいんやったらシャッター閉めろ。どうせ客なんか来うへん」
『もう……お父さんが水科君になに吹き込んでるか心配なのよ。じゃあ、二十分後にちゃんと来てよ?』
「わかったー、じゃあ切るでー。……もう、細かいんやから、あいつは。天音もガラケーやから電話代めっちゃかかるっちゅうねん。一分三十秒も電話してきてからに。……さ、そろそろ本題に入とか。経営の話やったな。なんでワシらパディントンとか、クマハラとかの話しとったんやろ?」
 話は無駄ではなかった。このうやりとりで、ぼくはくま父さんがどんなクマなのか、どんな性格をしたクマなのかを知った。なんとフレンドリーで親しみやすいクマなのだろう。天音が彼を慕う気持ちもわかるよ。
「えーと、まあなんというか……店の名前は『売るが屋』。実店舗はない。つまり、オンラインショップや。店は倉庫として使ってる。天音に聞いたかもしれんが前はトレカ屋やってん。いろんなことがあって撤退したわ。やっぱな、生身の人間相手に商売するんは大変やで」
 そうなんだ。いろいろ苦労してるんだな、このクマは。
「トレカ屋の前は玩具屋な。駄菓子的な玩具を売っとったけど、収入の核となるもんはゲームソフトやった。まだ在庫がたっぷりと残ってるからな。あと漫画本。これらをネットで売るようになってな。調子乗って買取も始めた。ここの地域はジジババがメインやからな。時代も三十年ぐらい遅れてるような実感あるし。こないなとこだけで買取やってても品物が集まってこうへん。今の時代はネット買取やろ、やっぱ」
「お店の中ってダンボールでいっぱいだったけど、あれって買取?」
「そや。世の中には売りたい人らがいっぱいおるもんやな。宅配買取って、外に一歩も出んでも買い取ってもらうことができるやろ。だからニートとかの需要がめちゃくちゃ多いねん。それにあいつらってやたらと物欲あるから、よく買ってくれんで。ゲーム、漫画。それに同人誌もそうやな」
 同人誌。というと、やっぱりエロいやつだろう。
「あ、お前……同人って聞いてエロいん想像したやろ?」
「うん」
「かーっ! 正直な奴やで。ホント、正直すぎるわ」
 どうしてだろう。ぼくはこのクマの前でウソやごまかしなど、一切言う気にはなれない。恥ずかしさもない。ありのままの自分をさらけ出せるような気した。
「買い取って売る……それが経営の基本となる。っていうか、ぶっちゃけこれしかないから。とにかく買取のダンボールが毎日五十箱ぐらい来るからな。軍資金、二十万ぐらいしかないって。こんなんでどうやって買取せなあかんねんって状況や」
「実際どうしてるの? あるでしょ、ゲーム機本体の買取なんか」
「傷で減額する方法もあるけど、やらしいから普通に減額してるよ。他のショップで二万で売れるけど、ウチでは一万五千円ですって。それでもいいですかって……。ま、それでも半数は売ってくれるけどな。返送やと送料相手持ちやからな。どこぞの誰が考えたんか知らんけど、店側にしてみたら有利な条件やで。しかしあまりに露骨やと二度と利用してくれへんかったり、口コミで悪い評判が広まるけどな。そこらの駆け引きが難しいところかなー」
「たくさん送ってくるけど、発送の送料は誰持ちなの?」
「おっ、ええとこに気がつくやんけ。発送は店負担やで。ただし、条件付きやけどな。ワシの店やと、かんたん買取とあんしん買取っていうのがあんねん。かんたん買取ってのは商品が三十点以上やと送料が無料になる。あんしん買取っていうのは事前にお客さんがウチの店の買取金額調べてから発送するってやつ。それやと見積もり三千円から無料かな。ゆうパックは個人契約で一件につき、大体五百円ぐらいまで下がる。その分、数をこなさんといかんけどな。でもまあ毎日五十件ぐらい届いてるから。ノルマは達成やで」
「かんたん買取とあんしん買取ね……。じゃあ、かんたん買取の場合、ゴミみたいなの送られることだってあるんじゃない?」
「そや。またええとこに気がつくな。そこらは博打みたいなもんかな。ゴミだらけやったら送料分、ワシらのとこがまるまる損や。でもあんしん買取だけっていうのもあかんねん。売りたいもんが百個とかあったら、お客も全部登録するんめんどいやろ?」
「両方あるほうがお客さんから喜ばれるってことかぁ……。ふーん、買取ってけっこう奥が深いね」
「そやろ? あ、スコールのマンゴー味、飲みたくなってきた。買い置きしてたのがあんねん。水科も飲むか?」
「うん……ありがとう。いただくよ」
 くま父さんはここを離れた。たぶん台所に行ったのだろう。
 クマだから鮭食べてハチミツをすすってるイメージがあったけど、そうでもないんだな。食生活は人間とほとんど変わりない。クマなのは姿形だけか……。