サイコー君のくま父さん

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『売るが屋』 その1

第一章 水科弁慶

  1 屋上の告白

 男なら誰だってそう思うはずだ。ぼくは今、ある女の子と屋上で会うことになった。
 学校の屋上。現実だとそんなところ、生徒が入れるはずもない。自由に入れるなんてアニメや漫画だけの世界だよ。
 でも! 奇跡的に!
 ぼくの学校では屋上を自由に出入りすることができる。しかも暗黙の了解というべきか、屋上に入るのは男女が告白するときだけ……という、なんともロマンチック溢れる学校なのさ。
 カツーン、カツーン。
 一歩一歩を踏みしめる。確実に近づいている。
 もう彼女はすでに屋上にいるだろうか。ぼくを待っているだろうか。
 しかし、あまりに突然のこと。ぼくはまだ彼女と数回しか話したことがない。彼女はぼくのどこを気に入ったのか?
 イタズラ? いや、そんなことをするような子には見えない。
 真面目で清楚で。男なら誰だって彼女に憧れるはずだ。だから信じられない。あ……もう、階段は登りきったようだ。目の前には屋上へ続くドアがあるだけ。
 奥にはまだ踏み込んでいない未知の領域が広がっている。ドアノブを回す手に汗がたぎる。
 えぇいっ、ままよ。期待と不安に胸をドキドキさせて、ぼくは新たな一歩を踏み出す!
「……あ。ありがとう、来てくれたのね。水科(みずしな)君」
 彼女の名前は日向天音(ひなたあまね)。クラスの中でも成績はいいし、スポーツもできるし、優しいし。友達付き合いだっていいはずだ。
 なんでもこなす彼女を完璧人間と呼ぶ人も少なくはない。
 上品に振るまい、微笑みも優雅。彼女と目が合ったときにはそりゃあもう、学校の授業どころじゃない。一日中、彼女のことを思いふけるのさ。そんな彼女がなんで?
 屋上に呼び出し、それってつまり告白だよな? 告白以外になにがある? いや、なにもないはずだ。彼女を見ろ。あの恥じらう、うぶな反応を。ほんのりと頬を赤く染まらせ、水に濡れたようなプリプリの唇。日向、最高!
「あの、日向。よ、用事ってなに?」
「うん、実はね。あなたに頼みたいことがあるんだけど」
 頼み? えっ? 告白じゃないの? まさか告白を手伝ってくれとかかな?
ある。そのパターンはある。
 彼女だったら男なんてよりどりみどりだ。誰が彼女の誘いを断る男がいる?
 そうだよ。彼女はきっとこういうのさ、「クラスの誰々君にわたしの思いを伝えてくれないかしら? 人の良さそうな水科君にしか頼めないの」……なんて。
 さっきまでのテンションが半減する。しかし、屋上で二人きり。憧れの日向とおしゃべりができて嫌なワケがない。ぼくはこの時間を楽しんでいる。あぁ、しかしそれはほんの一瞬で過ぎ去る青春さ。さあ、言っておくれ。この際だ、君の幸せを願おう。ぼくでいいのなら協力しよう!
「……バイト、してくれない?」
 はい? え、なに? 予想もしないことだった。バイト? バイトしてくれって言ったの? 代わってくれって言ったのかな。シフトの交代?
「バイト……代わってくれって?」
「ううん、違う。ウチのお店でバイトしてくれないかってお願いしているの。水科君は優しいし、頼りになるから。それで……」
 あ、もしかしてこの前のこと言ってるのかな。隣の女子が朝食を抜いたからって、授業中、気持ち悪くなってゲロを吐いたんだ。そのときの処理で初めに行動したのがぼくで、それに続いて何名かの女子が手伝ってくれた。
 あれを見てそう言ったのかな。まあ、あれは好感度アップとか狙っていなくて、マジで隣だったって理由だけで手伝ったんだが。でもぼく以外の男子はなにもしなかったな。あれか……。
「日向のウチ、お店してるんだ。知らなかったよ。人手不足なの?」
「うん、お父さんと妹二人でやっているお店なんだけどね。どうしても人手が足りなくて。お父さんはよくクレーム処理や警察に行くし」
 クレーム処理はわかるが、警察ってどういうことだろう。万引きとかかな?
 バイトね。そういうことか。告白じゃなかったんだ。ちょっとガッカリ。でも、好きな男に告白を手伝ってもらうよう頼まれるよりは千倍マシだ。
「水科君はクラブに入ってる? それか入る予定とか?」
「いや、ないよ。体験入部には行ったけど、どれもしっくりくるものがなくて。アルバイトか、ちょうどいいかもしれない。最近、学校から帰っても漫画を読んだりゲームするだけだからさ。アルバイト大歓迎だよ。むしろこっちがお願いしたいぐらい」
 これで日向と毎日おしゃべりができるな。一緒の仕事だったら体が触れ合うこともあったりして……いけない、いけない! 彼女はぼくのことを信用してくれてるんだぞ。こんなエロ妄想でニヤニヤした顔を見せられるかっての!
 ビシッと引き締めた顔にぼくは戻る。現実はどんな顔になっているのかはわからないが。
「漫画読むの? ゲームも?」
「あ……うん。そうだよ」
 まずかった。これじゃあオタクですよと言っているようだ。彼女、驚いた顔してるし。もしかして、「やっぱりこの話はなかったことね」なんて言われるのだろうか。あぁ、ぼくのバカ!
「同人は? 同人誌なんかには詳しくない?」
「同人……はちょっと。まだ、ハハ」
「そうよね。まだ十八歳になっていないんだもの。購入できるはずがないわ。高校生ならクレジットカードもまだ使っていないだろうし」
 え、なに? 彼女、なんで同人とか言ったんだ? どんなバイトなの?
「水科君、今日から来てくれないかしら? お父さんには話を通してある。わたしが連れてくる子なら、誰でも即日から採用するって。……いい、かな?」
 その上目遣い! やばい。大きな瞳に吸い込まれるようだ。悩むことはなにもない。二つ返事でOKだ。
「よろしくお願いします」
 し・あ・わ・せ……。
「よかったぁ。本当に助かるわ。じゃあ、放課後は一緒に帰ろうね。忘れちゃダメだよ。じゃ!」
 そう言って彼女は足取り軽く、屋上から去ってしまった。風でなびくスカートがもう少しのところでめくれそうだったのに。
 ん? そういやどんな仕事なのか聞いてないぞ。飲食? 小売? ……なんだろう。