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サイコー君のくま父さん

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『くま父さん』 その5

第二章 足利がやってきた

  1 三十歳の元絵かき志望

「あー……。今日、だるいわー」
 今日はあいつが大阪にやってくる。普段は栃木でしゃぶしゃぶ屋やってんねんやけど、三連休もらったみたいで、ワシの家に遊びに来んねんて。
 まったく迷惑な話や。
 ワシと足利の出会いは数年前にさかのぼる。
 あいつがワシにクマハラ(クマにセクハラすること)してきたことがきっかけやったかなー。
 ホンマは会いたくないんやけど、会わなストーキングされそうやからな。
 会うことがたぶん一番被害少ないやろ。
 んー、今日の日が嫌すぎてめっちゃ早く起きてしまった。……まだ七時か。
 あいつに会うのは昼の二時やったかな。
 確かあいつのミクシィに好物、ヤギって書いてあったな。ヤギが好きなんて珍しいやつ。
 ちょっと狩ってきたるか。

 ――なんでワシが足利のためにヤギを狩ってきてやるのか。それはあいつのご機嫌を取るため。
 なにか収穫があったらあいつはさっさと栃木に帰るやろ。
 わざわざ大阪まで来て、何の収穫もないっていうのが一番あかんからな。そうなったら未練がましく、ずっと大阪おるかもしれへん。
 栃木のしゃぶしゃぶ屋から大阪のしゃぶしゃぶ屋に移りましたってな。
 そうなったら目も当てられへんで。
 それにあいつの両親は金持ちや。すでに三百万以上もの金を借りているという噂。だからちょっとおだてたら、金が舞い込んでくる。いわば、プチ打ち出の小槌のような存在。それがまああいつと付き合っている唯一のメリットとも言える。
 さて、あいつのご機嫌取りのためにちょっくら森にでも行くかな。
 ワシの住んでる三津屋には徒歩十五分圏内に大きな森があった。人間もクマも出入りは自由。
 野良のクマもよく住んでる。
 ここの森は食料が豊富や。誰かがペットとして飼っていた動物を捨てて繁殖したのか、本来ならいない鹿やヤギがたくさんいてる。狩り放題や。
 ま、あんまり狩り過ぎると一応、森を巡回している専門のクマに叱られるけどな。
 そこそこの自給自足をするには最適な土地ってわけや。
 さ、狩ってくんで。久々の狩りや。
 ――ワシは森に着いて、さっそく獲物を探した。
 時刻はまだ早朝。静かな朝やった。
 まだ寝ている動物も多いんかな。クマやったらかなりの確率で寝てる。
 こんな朝早くから起きて何かしようっていうクマは聞いたことがない。基本、皆のらりくらりとしてるからな。
 でもワシは金のために狩りにいくで。とうっ!

 普通、クマが獲物を狩るっていったらごつい牙と爪が武器になるわな。
 でも、ワシ両方持ってない。
 毒屁を使えば動物を麻痺させることもできるけど、前のようにムショに行かされる可能性もある。
 思った以上にワシの屁は危険や。これはいざというときのためのとっておきにしておこう。
 となると、武器はなしか? ……いや、石を使う。原始的やろ。
 石をヤギ目がけてぶつけんねんや。
 ヤギのほうはワシのことなめきってるから、近づいてもあんまり警戒せえへんで。
 ワシ、体がごつくないし、クマっぽくない体型してるからヤギは警戒を怠る。
 ニコニコ人畜無害な顔して近づいたら一発や。
 中にはアホなヤギもおってな。完全に密着してんのに、まだ逃げへんいう平和なヤギがおる。
 そういうやつには直接石で殴るんが一番や。
 まず頭部に一撃。これでたいていはよろめく。足取りがふらつくで。
 で、もう一発。目、辺りを狙ったら逃げることもできん。その場で脚をばたつかせ、やがて体力がなくなる。
 ま、ワシはそこまで待つほど気が長いほうやないからとどめの三撃目をきっちり入れるで。
 ヤギもずっと苦しんでたらかわいそうやろ。
 ……で、さっそく一頭仕留めた。
 家に持って帰るのも面倒やからその場で焼いて一部は食べるで。
 仕留めたヤギはまだ子どものようやな。ワシ一人で食べるにはちょうどいいサイズ。
 体毛ポケットにライター持ってきてるからな。それに肉を切り分ける石包丁を作るのも得意分野や。
 石は薄めであまり大きくないものを選ぶのがコツ。表面に筋のないものを選んだほうがいいで。
 薄すぎると加工時に割れやすい。逆に厚すぎても加工に苦労するし、重くて使いにくいからな。

 お腹いっぱいヤギの肉を堪能したワシ。残った脚一本を足利の土産にすればいいか。
 はい、これでヤギ狩り終了。
 まだ一時間しかたってないわ。帰って寝よ……。
 ワシは家に帰って約束の時間の三十分前まで寝た。
 目覚ましが鳴って、重い腰を上げ、マジで嫌々公園……足利との待ち合わせ場所まで向かったで。
 もちろんヤギの肉は忘れんとな。
 これ、五千円ぐらいでふっかけよかな。
 相場がいまいちわからんけど、金持ちでヤギが好物なんやったらそれぐらい払うやろ。
 というわけで公園に着いた。
 公園に着くとちょうど真ん中に足利が立っていた。
 三津屋公園は人気の公園や。普段やったら二時やいうても、それなりに人はおるはずやのに。なんで、足利だけなんやろ……。
 その理由も少し考えたらわかることか。
 足利はキモさが爆裂している。顔はもちろんのこと、性格とかファッションとか生き方とか考え方……つまりあらゆる面でキモかった。
 キモイ選手権があったら確実に優勝しそうなぐらいやった。
 特徴的なのがなぜか右に一メートルほど伸びている髪。
 どういう力が作用してあの髪型を維持しているのか未だにわからへん。
 本人は整髪料的なものをつけていないって言うんやけど……うーん、謎やな。
 垂れた目(決してかわいくない)、丸い鼻、しゃくれた口、絶対剃り残しがある無精髭。
 ファッションも最悪やで。レンコン模様のTシャツをいつも着てるからな。いつもやで?
 他に服持ってないねん。レンコンの服ばっかり二十着以上持ってんねんて。変態やろ?
 疑いようもない変態。ザ・変態。
 変態のスペシャリスト。もう、ホントどうしようもない変態。
 それが足利まさる……三十歳。それやのになぜか彼女はいてる。足利と引けをとらないほどの不気味な女やけどな。
 結婚するとかしないとかマジでどうでもええ話やし。
 そんな奴がくるくる回っていた。
 ……何がしたいんや?
 たぶん待っている間に体操とかストレッチとかしてる感覚なんやろな。でも、なんでその場で回転してんねん。回転回転回転回転ライブドアオート♪ か。……古いな。
「……あ、くま父さん」
 見つかった。……まあしゃあないか。会うつもりでここに来たんやしな。
「くま父さんや! くま父さん、くま父さん、くま父さん、くま父さん!」
 うぜっ! めっちゃうざい。
「フヒヒヒ、くま父さん! 今日もラブリーやなー。ぷりんぷりんな体型してるやん。もう、ぷりんぷりんっ!」
「……うるさい、黙って」
「嫌や! プリンみたいなくま父さんにようやく会えたんや。久しぶりや! 一年ぶりぐらいかな? 元気にしとった? メールしても全然返事してくれへんやん? ボクのこと嫌いなん? ……なぁーんて、そんなはずあるわけないやんな。はは、あははー!」
 ボボボボボ……。
「あ、あれ……熱い? 暑いやなくて熱い? ……なんで?」
 うるさい奴おったらこうするのが一番やで。ただし、相手は足利に限る。
「ボク……燃えてる? ウソやん? 火……あかんっ!」
 すぐに手ではたいて全身に燃え広がるのだけは阻止したか。……ちっ、惜しい。
「くま父さん、なに火つけてるん? 意味わからんねんけど?」
「あ、いや……ちょっとうるさかったからな」
 今日はライターが活躍する日やな。
 そうそう、今朝狩ってきたヤギの肉でもやるか。
 さっそく体毛ポケットからヤギの骨つき肉を足利の目の前に落としてやった。
「ほれ、食っとけ。ヤギの肉や。朝一番に狩ってきた」
「え……」
「ブログとかに書いてあったやろ? 今日、お前来る思ってわざわざ狩ってきてやってんや。ほれ、食べろや。お前の好物やろ」
 すると足利は苦い顔をして……、
「いや……別にボク、ヤギの肉好きとちゃうねん。意外性持たせたかったから書いただけやねん」
「へ……? じゃあ、ウソ? と……?」
「ウソ……」
「……じゃあ、お前。養命酒好きとか書いとったのもウソ?」
「うん……でも、皆には言わんとってや。キャラ作ってると思われるん嫌やから。だから内緒やで」
 ……内緒も何もないやんけ。
 詐欺でウソなだけやんけ。……第一、ヤギとか養命酒が好きってことで、不思議キャラ狙ってるってことが本当に腹ただしい……。
 こいつぁ、許されん! こういう世間知らずのキモメンにはお仕置きが必要や……。
「それよりなぁ! 聞いて聞いて! ボク、今日、亀持ってきたから! ほら、前に何度も言ってたやろ? ブログにもアップしてたやん。ボクの亀……ヨシマツ! ヨシマツ持ってきた!」
 足利の髪の毛から小さいミドリガメが一匹出てきた。
 ……キモイのー。亀を髪の毛に入れるってどんな発想と感覚してんねん。マジ、信じられへん。ワシ、こういう奴めっちゃ嫌い。体毛ポケットのパクリやし。
 しかもめっちゃドヤ顔やん……。
「ほら、見て! ほらほら! かわいいやろ? ヨシマツ! あ、ヨシマツって名前な。ヨシマツっていうねん!」
「……えーと、確か体毛ポケットに鎌入れてたかな」
 たまに偽善で公園の雑草を刈り取るために持っている鎌。今日はそれが護身用として役に立つ。鎌を足利の足を目がけて上から……一気に振り落とす!
「とわっ! 刈り足!」
 ズバッ! ……ブシュー!
「刈り足、刈り足!」
「ちょっと意味わからんて? なんでボクの足刈るん? 血、出てるし!」
 逃げる足利。……これはウソついた罰や。
 しばらくの間、ワシは足利と遊んであげた。捕まったら、足を刈られる鬼ごっこ。……足利は必死になって逃げた。

「――ひどいって、くま父さん。ボクが何したって言うん……?」
 両足が血だらけの足利はうつ伏せになっている。
 出血のせいか、足の筋を切ってしまったせいか、もう無駄な抵抗はしていない。逃走を諦めたようやった。
「いや、ウソついたやん、お前。しかもキモイウソ。わし、そういう奴一番嫌いやから。……お前の返り血で汚れた体毛は銭湯代として有り金、全部もらっておくからな」
「銭湯代って……? 普通、クリーニング代やろ? 裸! くま父さん裸やから銭湯代! 裸ー!」
 ……なんであいつはあんなにキモイんやろ……。
 おっ! でもお金だけはリッチやな。三万入ってた。……これはヤギの肉代と侮辱罪の和解金としてもらってったろ。安いもんや……。
「これでさつきの借金(賠償金)五十万が早く返せそうや。サンキュー、足利」
「くま父さん待って……待って! これ犯罪! せめて、救急車呼んでー!」
 足利の体力は人間のそれをはるかに超えている。
 たかが足を鎌で切ったぐらいで死ぬことはない。
 生命力はゴキブリ以上のタフさ。どーせ明日になったら治ってるやろ。