サイコー君のくま父さん

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『くま父さん』 その3

  3 さっちゃん登場

「――さ、公園でも行こか」
「なのー」
 コンビニから五分ぐらいで三津屋公園に行ける。ホンマはお菓子とかジュースとかコンビニで買っていくつもりやったけど、タイミング逃しちゃった。ま、手ぶらでいいか。
 喉渇いたらそのへんの自販機で買ったらええしな。
 公園に入ったらずんずん前に進むで。……で、日当たりのいい椅子のあるところまで行く。
 椅子って言っても石でできてるやつやけどな。ちょっと風情あるやろ? って、公園やとそれがデフォか……。
「あっ!」
 すけちゃんが大きな声を出す。……知り合いでもおったんかな。
 ここは小学校からけっこう近い公園で、すけちゃんの友達がいてもなんら不思議はない。
「……さっちゃんだ」

 さっちゃん――加藤さつき。
 すけちゃんと同じ小学五年生。
 ……ワシ、この子知ってる。だって有名やもん。クマの世界でも有名や。
「あの子はヤンキーっぽいけど、スタイル抜群でかわいくて有名なあのさつきちゃんやないか」
「好きなのっ?」
 と、すけちゃんからツッコミを受けるが、だって知ってるんやから仕方ない。
 クマの中で勝手にファンクラブまで作ってるほどやった。
 なんで彼女にそれほど人気があるのか?
 かわいいのはもちろん、それ以上にさっちゃんの性格に秘密があった。
 さっちゃんはS。それもとびっきりのSやった。

「――お……」
 さっちゃんがワシらのことに気がついたみたいや。ワシやなくて、すけちゃんのほうを見とった。
「ちょうどよかった。しんのすけー」
「わわっ、見つかったの」
「なぁー、あそこにあるチャリ持ってきて」
「え? え? ……なんでボクが?」
「いいから……持ってきて?」
 ……笑顔だったが、言うことを聞かなければイジメる。そういう意味も含まれている笑顔やったような気がする。
 持ってきてではなく、持ってこい。ワシにはそう聞こえた。
「……わぁーん。わぁーん」
 すけちゃんは自分の倍ほどある自転車を不器用ながら押して移動させた。
 ……まったく。すけちゃんをパシリに使うとは何事や。……ワシもパシられたい。
 ……おっと、あかん。ついワシの心の中に隠れているMの精神が解放されかかった。
 さすがさっちゃん。あんなかわいい顔して頼み事されたら、そら従うしかないで。いや、従いたい。
 何度も転びそうになって、ようやくすけちゃんはさっちゃんの前まで自転車を移動した。
「ありがとう。もう、どっか行っていいで」
 近くでさっちゃんを見た。やっぱりかわいかった。白のTシャツに茶色っぽい羽織り。黒のハーフパンツ。
 履物はサンダルのようなものやったけど、ちょっとかっこいいやつやった。何か所か脚を固定するベルトのようなものがついていた。
 まあ今ふうの小学生のファッションなんかな。
 でも、スタイルええからめっちゃ色気あんねん。身長も高いし、大人っぽい顔してるからな。スレンダーで手足がすらりと長い。それで性格はSやろ。こら、人気出んのも当然やって。
 ワシらはさっちゃんから離れた。で、ワシが感想を一言。
「……かわいかった」
「そう?」
「すけちゃんはわかってないな。あれをいい女って言うんやで」
「――殺すぞ!!」
 ……え?
「デブグマが!」
 ワシのこと……?
 この声、もちろんすけちゃんやない。後ろのほうから聞こえる。
 さっちゃんの声や……。
 しかもめちゃめちゃ怒ってるし。ワシの言ったこと聞こえたんかな? めっちゃ地獄耳やん。でも、ワシさっちゃんが嫌がることなんて言ってへん。むしろめっちゃ褒めてんやけど。
「人間の世界に来んな!!」
 ワシ……なん? やっぱり……。
 後ろを振り返ると白くて体の大きいクマが、さっちゃんと対峙していた。
「でかいねん! 肩、ぶつかったやろ!!」
「あれ? ……ヨシオ? あれ、白クマのヨシオやん」
 ヨシオは身長が三メートル近くある。まさしくクマ! しかも二足歩行。この時代、この世界はほとんどのクマがそうであった。
「なんとか言えや。しゃべれるん知ってんねんぞ!」
 さっちゃんの蹴り――それがヨシオのお腹に突き刺さる。
 ヨシオも、「えぇっ?」って感じや。
 ヨシオはS。つまり、ワシのようなM体質を持ってないから、さっちゃんの打撃は普通にムカつくはず。
 ダメージは大したことないけど、蹴られたっていうことが屈辱なんや。
 ヨシオはちょっと怒りやすいクマやで。このままケンカなったらどうしよ。考えるまでもなく、ヨシオが勝つやろ。相手は小学生の女の子や。
 さすがにヨシオが女の子に手ぇ出すとは思わんけど相手はあのさっちゃん……。
 何をしてくるのか、ワシにもまったく見当がつかへん。
 はっきり言ってヤバイ。
 クマに本気でケンカを売るなんて考えられんことや。しかもよりによってヨシオとは……。
 ワシは小走りでヨシオの傍まで移動した。そして――、
「……ヨシオ」
「ん? ああ、くま父さんか」
「ヨシオも大人やねんやから、小五の女の子に腹立てたらあかんで」
「んー……そういやそうかな」
「やろ? 大人げない真似したらあかんって。ワシ、ヨシオの強さ知ってるもん」
 さりげなく、ヨシオをさっちゃんから離すワシ。
「だよな。ちょっと大人げなかったかな」
 ふぅ、だいぶ表情もノーマルのヨシオに戻った。ワシ、けっこうケンカの仲介とかうまいんかも。
「――ってわけでな、さっちゃんも……」
 振り返ると同時にさっちゃんの見事な投球フォームが視界に入った。
 ……ビュッ!!
 そして……、
 カーンッ!!
「がふっ」
 ……信じられへん。その距離十メートル。
 さっちゃんが投げた空き缶はヨシオの額に直撃した。
 ……あかん。ちょっと額から血ぃ出てるし。
「…………」
 ヨシオもその傷に気づいた。額を触ってみると手には少量の血がついていた。
「やっぱり……ちょっと行ってくる。世間の厳しさとか、クマの強さとかあの小娘にちょっとわからしたる」
「ちょっ、ヨシオ……ヨシオって!」
 振りかぶった拳をピタリと止め、ヨシオはワシのほうを見た。
「……何?」
 ……言うか? 言うべきか?
 ヨシオが怒るのも無理はない。ヨシオは子どもやからとか、女の子やからとかそんなん一切考えへん。平等って言えばまあそうやねんけど……。
 キレたら殴る。口より手が出るタイプやから。確か今まで何人もの人間を病人送りにしてきた。……そのときは全員おっさんで、向こうから意地悪なことしてきたって話やけど。
 ワシはな、ヨシオに腕っぷしで勝てるとは思ってない。
 体重だってワシなんか、ヨシオの十分の一ぐらいしかないやろ。
 はっきり言って、本気でヨシオと闘うことになったら怖い。まず、負けるのは確実や。
 でもな……それでも守るべきタイミングっていうのがあんねん。
 ワシは誰や? どんなチビッコでも人気者のくま父さんとちゃうんか?
 相手がでかいクマやからって、そんな理由で一人の小学生、見捨ててええんか?
 ……ワシにはそんなことできん。できんねや!!
「どうしてもさっちゃん、殴るいうんならなー、ワシを倒してからにしろや! ヨシオー!」
「え、お前……ケンカできんの?」
 すけちゃんが、「……くま父さん、どうやって勝つの?」と呟く声が聞こえた。
 ま、普通はそう思うやろ。でも、すけちゃん。ワシのことよく思い出してみ? ワシにはある秘密兵器があるんや。それをいつも持参……っていうかいつでも出せる状態にしてる。
 ワシの体調によって技の威力は変わる。今日は……それほど悪くない。胃腸もケツもそこそこ順調や。
「こんなこともあろうかと……体毛に隠していた必殺アイテム!」
「えっ……まさかアレを使うの?」
 すけちゃんは一度見たことがあったな。そう、あれは二人一緒にヤンキーに囲まれたときやった。
 そのとき、ワシは今回と同様、必殺アイテムを使って危機を乗り越えた。っていうか、絡んできたヤンキーたち病院送りにしたし。
 この技の効果は実に広範囲。しかし、ワシらがいるところは公園! ……周りに人はいない。たぶんさっちゃんの怒号で皆、さっさと避難したんやろ。これなら二次被害の心配もない!
 ……難しいのはさじ加減や。この技は本当に強力。
 ある程度、耐性を持っているすけちゃんはそれほど影響がないはず。……問題はさっちゃんやな。ま、なんとかコースを狙ったら問題ないやろ。それほどワシのこの技は危険やねん。
 体毛(体毛ポケット)から取り出したのは――おいもさん!
「なっ……おいもさんだと?」
「ワシの屁の臭さは知ってるやんなぁ、ヨシオ。でもな、全力で嗅いだことはないやろ」
 ワシはモリモリとさつまいもを食べる。クマやからな。生でも食べれんねん。
 っていうか、生やないと腐ってしまうから。
 長期保存のためには熱を加えない。
 ちょっと固いけど、食べれんこともない。たぶんしばらくして下痢になるやろうけど、そのときには目的果たしてるから。
「すけちゃん! さっちゃんを安全なところまで!」
「はいなのっ!」
「え、何? しんのすけ……危険って何?」
 ヨシオも今の雰囲気にあせりを感じたんやろ。じりじりと後退してんのがわかる。でも! ワシの屁の射程距離は二十メートル!
 もちろん近ければ近いほど威力は増す!
「う、うわぁぁ――――っ!!」
「逃げるか……? もう遅いっ! いくで……毒・屁!!」
 ブモモモモモモモモモモモモモ…………!!!!!!!!!!

 ――毒屁。
 毒のように有害な屁をかますこと。……そのままやけどな。
 特徴としては無色であること。屁の臭さが広範囲に至るまで、そのスピードは意外に早い。
 見えない毒が相手に襲いかかるんや。
 それを回避するには毒マスクをつけること。それしか方法はない。
 鼻をつまんで嗅覚をシャットダウンするのも、ある意味効果があるように思えるが実はそうではない。
 その場合、屁は口から体内に入り、脳や心臓に渡る。
 ワシの屁は臭さだけが武器やない。体内に入ると、瞬時にその者は全身に痺れを感じる。やがて目眩を起こし、吐き気をもよおす。
 意識を失い、倒れる。それがワシの毒屁の威力。
 嗅覚から攻めた場合は効果が出るのは一瞬。例え、象でも倒れるほどやった。
 これを一度くらった者は稀に体に抗体ができる。――が、それは今のところ、すけちゃんしかいない。
 ワシの毒屁をくらったヨシオはあっという間に地面に倒れた。
「……やったで。どや、さっちゃん。ワシ、勝ったで」
 振り返ると顔をしかめるすけちゃんと、なぜか地面に突っ伏しているさっちゃんがいた。
「え、なんでさっちゃん倒れてるん? ……あ! まさか、さっちゃんも毒屁くらっ……たん?」
 ……失敗や。もうちょっと待ってからこぐべきやった。
 ワシの胃は思ってたより進化してたみたいやな。予想以上の屁が放出――つまり放屁されたため、逃げたはずのさっちゃんだったが、効果は軽くそこまで届いていた。
「ちょっと、こらまずいな……」
 ワシは急いでさっちゃんところに駆け寄った。
「さっちゃん! 大丈夫? さっちゃん……」
「く……お前、絶対……許さへんからな」
「ごめん……まさかこんなにワシの屁に威力があったんなんて……完全に読み違いや」
「まるで他人ごとやな……わたし、あんたみたいな奴、一番うっとうしいわ……」
「えっ……」
「覚えとけや、くま父……絶対、復讐してや……る……」
 さっちゃんはそのまま気を失ってしまった。
 でも、ワシ、さっちゃんを助けようと思ってやってんで?
 さっちゃん、守りたかった……。それやのに、なんでこんなことになるん?

 ワシとすけちゃんは救急車を呼んで、その場でじっと待っていた。
 すると、一人の警官がここへ近づいてくる。
「ああ、警察の人? いや、ちょうどよかった。ヨシオのことやろ? ヨシオやったらワシが倒したから……」
 よく見ると、この警官、毒マスクをつけている。
「お、お前……なんや? 一体誰なんや?」
 体勢を整え、身構える。
 ……新手の変態か。すけちゃんは戦力にならんと考えたほうがええな。となると、ワシが二人を助けてやらなあかん。骨が折れるで。
 でも、こいつなんで毒マスクなんてつけてんねや?
 これやったらワシの毒屁は無効化される。っていうか、おいもさん一つしか持ってきてないからもう毒屁を放つことは無理や。
 どうする……? けっこうピンチやぞ。
「お前……誰や?」
「警察です。あなたを逮捕しに来ました」
 え……? 何? この人なに言ってるん? 逮捕するんはヨシオのほうやろ?
 ワシはヨシオからさっちゃんを助けてんで。……なんでワシが逮捕されなあかんの?
「ワシ……何も悪いことしてへんよ!」
「悪いこと……? してます。わかりますよ、そのうちに……」
 あ……あ。ワシ、捕まる。手錠……ああ、手錠される。
「すけちゃん……助けて! この人……ワシが悪いことしてないって言って!」
「なのぉっ、警察の人やめてほしいの! くま父さんは……さっちゃんを守ったの! なんで逮捕するの?」
「……周り、見えますか? なぜ君だけ無事なのかわからない。ほら、倒れている人がたくさんいるでしょ? それに救急車……少なくとも三十人は痺れや体調不良、気を失ったりしているのです。原因は……」
「くま……父さん?」
 警官は静かに頷く。
 ……ワシの屁ってそんなに広範囲に影響が及ぶんや。そういや、最近乳酸菌とかビフィズス菌入りのヨーグルト食べてたからな。気づかんうちにめっちゃパワーアップしてたわけか……。
 でも、これ、諸刃の剣やで。現にこうして捕まってんもんな。
 ワシ、無差別テロみたいな、そんな扱い受けんのかな。
「すけちゃん……」
「くま父さん……」
「大丈夫。すぐに戻ってくる。救急車もすぐこっち来ると思うわ。さっちゃんをよろしくやで。……さっちゃんが目を覚ましたら言っといて。ごめんって。ワシ、悪気はなかったって」
「うん……」
「じゃ、警官の人……行きましょか」
 近くに停めているパトカーまでワシは連行された。そこまで行くのに、何人もの倒れている人やクマを見た。
 皆、毒屁くらいすぎやろ……。
 こんなに威力あるってことは、それだけワシの屁が臭いってことやんな。ちょっと複雑な気分やな……。