サイコー君のくま父さん

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『くま父さん』 その2

  2 すけちゃんとデート

 ――すけちゃんとワシが知り合って、一年がたとうとした。
 今日は日曜日。バイトも休みや。
 あ、ワシ行ってるところ休みシフト制やねんけど、ワシの場合水曜と日曜が休みやから。
 すけちゃんと前から約束していたデートの日や。ま、公園でひなたぼっこするだけやけどな。
 さ、そろそろ行く準備しよか。
 この街、三津屋には商店街がある。しけた商店街やねんけどな。横幅も狭く、三人以上並んで歩かれへんぐらいの……。
 でも、長さだけはかなりあった。八百メートル? ほどあるみたい。
 街自体が廃れてるからなー。ここに住む人間は老人ばっかやで。
 だから商店街の店も古くて機能してないような店があったり、開けていない店が大半。いわゆるシャッター通りいうやつやな。
 まともに営業できてんのはほんの二割程度。
 花屋やろ。飲食店やろ? 飲食店はなかなか潰れへんな。小売とかやったら、スーパーの出現のせいでどこも苦しいみたいやけど。
 あと本屋が一軒。客が入っている光景を一度も見たことがない靴屋もあった。
 昆虫を一坪程度の広さで売ってる昆虫屋は去年潰れたかな。子どもが昆虫買って返品したことがあったそうや。そのとき、店主がキレたらしい。
 昆虫……カブトムシやな。そんなんチビッコに売ってるからこうなんねん。個人じゃ儲けたい気持ちが全面に出るから。やっぱり自営の店で買うんはよろしくない。ワシはそう思う。
 で、商店街の中でも一番売れ行きがいい店はやっぱりコンビニやろ。
 ワシもここのコンビニたまに利用したりするわ。店の隣にはポストあるしな。けっこう便利。
 近くの定食屋はその恩恵受けてるで。タバコ屋もそうや。
 確かタバコって売れる場所、土地に販売の規制があったと思う。だからコンビニはタバコ売ってない。
 バカ儲けやろな。あそこのタバコ屋は。

 ワシは公園に寄る前、コンビニに行こうと思った。
 まあちょっと暑かったし、おやつも買っていきたいなぁって思ったから。
 公園でひなたぼっこすんねや。それぐらいのアイテムは用意しときたいなぁー。
 でもな、その途中なんでかめっちゃお腹痛くなってきた。
 これ……あかん。我慢できるレベルやない。
 家に戻ろう思っても、そんな時間はない。たぶん途中で漏らすんがオチや。
 クマやから漏らしたらいいやんって思うかもしれへんけど、ワシは人間社会に適応したクマ。現代のクマなんや。
 そんな原始的なことしたら、クマの友達になんて言われるか……。
 この時代、クマがうんこ漏らすのも、人間がうんこ漏らすのも同じぐらいの恥ずかしさやと思うで。……かと言って、そこらの花屋とか靴屋にトイレ貸してって頼むのもな……。
 別にワシ、トイレ借りたいだけで店の商品とか全然興味にないし。
 ただ、トイレだけ借りに行っても迷惑やろ。
 ……トイレだけ気持よく貸してくれる店。それはどこや……?
 コンビニ? そう、コンビニしかないやろ!
 なるほど、ワシはこれまでコンビニでトイレとか借りたことなかってんやけど、こういう緊急事態にはめちゃくちゃ役立つ。借りよ! コンビニまで急ご!
 しかしもつやろか。
 コンビニまであと百メートルほどある。……なんて長い距離のある商店街なんや。
 一秒ごとにワシの腹の痛みは悪化。悲鳴を上げる。
 歩く速度も遅くなる。顔が真っ青に……。
 嫌な汗をかくで。早く……早く、コンビニ行かな!
 いや、例えコンビニに着いたとしても、もしトイレが使用中やったらどうすんねん。
 ……もたん。もたんような気がする。
 でも、ここでうんこぶちまかすよりはいいか。奇跡……奇跡を信じたい。
 ワシは無心になった。お腹のことを考えればよけいに痛くなる。
 無心や……。
 その効果も多少はあったのか、ようやくコンビニが視界に入った。
 あと五十メートルもないやろ。いける……これなら。かろうじて!
 通常の五分の一の歩くスピードでワシはコンビニを目指した。
 こういうとき、コンビニ見えたからって走ったりするもんとちゃう。……たぶん走ったらそれで終わり。
 あせってはいけない。ワシの経験上、あせったらあかんのや。こうときこそ、より慎重にならなあかん。
 ――必死の思いで、なんとかコンビニに到着。
 入り口に客が二人ほどワシを通せんぼする。まー実際のとこは普通に買い物して店から出てくるタイミングなんやろうけど。
 ワシは体勢を変えて、一歩下がるとかできへん。早く解放したい気持ちでいっぱいやった。
「のいて……のいてんかー?」
「ひっ? くま父さん……?」
 この街やとワシはけっこう有名やからな。だからこそ、うんこ漏らすとかあってはあかんことなんや。……もし漏らしたらすけちゃんにも嫌われるで。
 あとちょっとでトイレに到着する。
 ……長かった。
 店員さんにトイレ借りるよって一言断る余裕ももちろんない。そのまま直行。……トイレが使用中でないことを願って。
 ――ガチャ。
 ガチャンッ……。
 やった……。空いてる。トイレ、開いてる!
 鍵がかかってない。つまり誰も中にはおらんっちゅーことや。
 やった。やったで!
 ワシは勢いよくドアを開ける。
 もうここまで来たらゴールも寸前や。幸い、ワシは裸……。ズボンとかパンツを脱ぐ手間はない!
 ガララッ!
 勢いよくドアを開ける。――すると、中にはいないはずの人間……なんと、そこにはすけちゃんがいた。
「わああぁ――――っっ???」
 すけ……ちゃん?
「くま父さんっ?」
「え……すけちゃん? なんで……こんなとこに?」
 待ち合わせ、コンビニのトイレの中やったっけ? ……ちゃうやんな。公園やんな。
「あ……」
 おっと。なぜか、すけちゃんすっぽんぽんやった。上はTシャツ着てるけど、下は性器見えてるし。しかもまだ生えてないみたいやな。って、そんなんどうでもええねん。ワシ、腹痛いねん。限界やねん。
「あー、恥ずかしいのー」
「それよりトイレ、トイレ!」
 …………。
 ……。
 ――あかん。やってもうた。
 ブリブリ……。
「間に合わんかった……」
「くま父さん……も?」
「え、もしかしてすけちゃんも……?」

 ワシら、似たもん同士やな。
 まさか二人して公園に行く前にお腹痛くなって、同じ時間、同じトイレでうんこ漏らすはめになるとは……。
「――くま父さん、パンツどうしよ……?」
「そうか。洗っちゃったか」
 すけちゃんが持っているのは自分のパンツ。それもびしょびしょ。
 想像は容易につく。トイレに間に合わんかったすけちゃんは汚れたパンツを洗った。――が、その濡れたパンツを履くわけにはいかない。乾かす道具……ドライヤーなどこんなところにあるわけがなかった。
「うーん、乾かす機械とかあればええんやけど……」
 コンビニやいうても、そういう細かいフォローはない。パンツも女性用やったらあったような気もするけど、男用……それも子どものパンツは売ってない。
「あ、待って! いけるかも!」
 乾かすっていう発想やなくて、温めてみてはどうやろか?
 コンビニで温める機械。それは電子レンジ。
 ま、機械いうか電化製品な。……これ、ドライヤーの役目果たさへんかな?
 ダメ元でやってみる価値はある。
 びしょびしょのパンツをすけちゃんに履かせることはできへん。
「すけちゃん。ワシに任せとき。ちょっとパンツ借りるで」
 ボトボトになったパンツを手にして、ワシはトイレを出る。
 こういうときはワシがクマであったことをよかったと思う。裸体、最高。

 さあ、カウンターまで行って店員さんに電子レンジ使用の許可を取るで。……たぶん本当のこと言ったら無理なん確実やけど自然なノリでやったらいけるかもしれへん。
 なんでもチャレンジが必要やと思う。少しでも可能性のあることは試したい。それがワシ、くま父さんの信念や。
「あのー、店員さん? ちょっとレンジ借りるで」
「はい、どうぞ……って、勝手にカウンターの中に入って来ないで下さい」
 チッ! やっぱり普通の対応してきたか。しかしここまできたらもう強引にいくしかない。
 もうパンツはレンジの中に入れた。あとは時間との勝負やった。
「それでお客さん、何入れたの?」
「え? パンツ……やなくてぇ! ……パン」
「パンツ?」
「いや、パンやって。パン」
「ダメだって、そういうの入れたら! ってか、なんでそんなもん入れたの?」
「こらっ、ちょっ……さわんな! レンジ途中で開けんなや! まだ温めてんねんぞ」
「パンツ乾かすな!」
「何っ? ワシ、客やぞ?」
 もう取っ組み合いや。
 でも、店員のほうはまだ力を加減してるな。こんなワケのわからん行動取ってるワシでも一応は客……。
 本部にクレーム入れられることとか気にしてんねやろ。逆にワシは全力でレンジを死守できる。そう、立場的にはワシのほうが断然有利。……警察とか通りかからん限りはな。
「ちょっ! おい……! 店員! おまっ、客! 接客しろや。客並んでんぞ!」
「くっ……! いらっしゃいませ、こんにちは」
 へへ、やっぱりワシのほうが有利や。これでレンジはしばらく使えるやろ。まだ一分しかたってないけど開けてみよ。
 レンジを開けて、パンツの乾き具合を確認するがまだまだだった。
「しまった。入れるときに絞っとけばよかったな。こらやり直しや」
 とりあえず五分で再始動。さて、それまでどうして時間を稼ぐべきか。

「うわぁーん! 店員さんがクマさんの財布、売ってくれないのー!」
 おっと、この声はすけちゃん? ……なんや、店内に出てきたってことは今、ノーパンかいな。ノーパンに慣れてへんかったら気持ち悪いやろな。
 いや、そんなことよりすけちゃん、なんで泣いてるんやろ?
 クマさんの財布、売ってくれない? ……そう言ったやんな。
 あの子、学校の友達だけやなくて、コンビニの店員にまでイジメられてんのか?
 これは差別。すけちゃんが子グマで子豚みたいな体型してるからって、そら差別やわ。
 同じ大人としてこの店員に言ってやらなあかん。……ワシの出番やな。
「――おう。なんやなんや。お前んとこの店は客、選んでんのか? 本部訴えんぞ」
「あんた、さっきの……お客様を選んでいるわけではありません。財布を買うにはお金が足りないんですよ」
「足りないぃー……?」
 お金が足りへんからって売らんもんなんか? そんなんあかんやろ。売ったらな。売ったらな……あれ?
「いや、そら無理やろ。すけちゃん……無理やわ」
 そしたらすけちゃんは目を潤わせてこう言うねん。
「……それ、くま父さんにプレゼントしようと思っていたの。でも、お金足りなくて……店員さんに何度もまけてって言ったんだけど、それはできないって言われて……うわぁーん!」
「えっ! これ、ワシにプレゼントしてくれるやつやったん?」
 クマさん財布……それはクマの顔がデザインされた財布。顔の周りはなぜかライオンのように白いフカフカの毛で覆われていた。すごい触り心地よさそう。
 こんないいアイテムをすけちゃんはワシにプレゼントしてくれようとしたんか。
 お母さんにもらったお小遣い。それはジュースでもお菓子でも買うことができた。だが、あえてワシのプレゼントを買うために使ってくれるという……。
「優しい……なんてすけちゃんは優しいんやろ……」
 思わず涙が出てくる。そして思わず店員にこう言った。
「すけちゃんの言葉聞いたやろ? 感動したやろ? まだチビッコやねんで? ……ってわけでタダにしたって」
「できません!」
 くそっ、融通のきかん店員やのぉー。こんなん、クマが店員やったらノリでタダにしてくれるっていうのに。
 さらに店員はワシらに強い口調で言った。
「あとつっかえているんでもう帰って下さい」
 ……客に向かって帰れはないやろ。……おっと、ちょっと後ろを振り返ればマジに人が並んでるわ。その長さ五メートル以上。明らかにワシらが邪魔になってる。
 店員はこいつだけなんやろか? 隣のレジには誰も立っていない。
 ここで退いたら負け――ワシはそう思った。
 でも、暴力とかで解決するつもりはないで。あくまでも話し合いで交渉すべきや。
 八百屋とか魚屋とかそうやん。値段の駆け引きがあるやろ? コンビニでも交渉していいと思うねん。
「……またもよおしてきたわ。いいんかなぁ~?」
 ワシは体をブルブルさせて言った。
「ワシのうんこ、めっちゃ臭いでぇ~。掃除、大変やで~。なぁ……そんなことなっても……お前はええねんなっ???」
 ドンッ!!
 テーブルを叩いた。いや、これ確認やで。ワシのうんこが臭いって自分で感想言っただけやで。全然脅したりしてへん。
 店員は泣きながら、クマの財布をすけちゃんに渡した。もちろんタダでな。

「はい、くま父さん。クマさん財布。プレゼント♪」
「……ありがとう、すけちゃん。大事に使うわな」
 そしてワシらは店を出た。
 ……レンジで温めたパンツの回収を忘れたまま。